■略称

※まず“■アンチミステリーとは？”をお読みいただいて、竜騎士０７さんが考えるアンチミステリーを理解してからご覧頂くようにお願いします。“赤文字システムはアンチミステリーなんです。(真相2)”という竜騎士０７さんの発言がありますが、はたしてこれは正しいのでしょうか？　『アンチミステリーとアンチファンタジーについて』に以下の内容があります。

この世の全ては完全証明不能！　常に我々の想定しない未知のＸが想定しうる。そしてそれは誰にも否定できない！　推理ぃ？　ミステリー？　本格ゥ？　あっひゃははははははははははは！！　ばァかばかしいぃいいぃ！！　ボクちゃんはミステリー文庫で新刊を買ったら、まず先にママに読んでもらうといいさ。そして「この本はボクにも解ける？」と聞いて、ママが頷いてくれたのだけ読めばいいさ！　ママに咀嚼（そしゃく）してもらった離乳食だけくってりゃあいいんだよゥ、うっひぇっひゃっひゃっひゃっひゃぁぁぁ！！(ベアト)　──だからお嬢様、そういうのが品がないと申しています。ベアトリーチェさまが使われる「赤き真実」は、それに対するひとつのアンチテーゼと申せましょう。(ロノウェ)

※ロノウェの発言における“それ”は文脈から“この世の全ては完全証明不能！　常に我々の想定しない未知のＸが想定しうる。そしてそれは誰にも否定できない！”という内容を指すと読み取れます。そして“「後期クイーン問題」とは非常に簡単に説明すると、探偵（読者）の知り得てる情報が“全て”であるとの証明が自身には不可能である、というものです。”“「後期クイーン問題」を語る限り、ミステリーはパズルたり得ないというジレンマに陥るのです。”という内容があるため「赤字は(後期クイーン問題を内包する)ミステリーへのアンチテーゼである」と竜騎士０７さんが考えていることが解ります。しかし、ミステリーは本当に後期クイーン問題を内包しているのでしょうか？　竜騎士０７さん本人が『アンチミステリーとアンチファンタジーについて』で、以下のように書いています。「ミステリーとは“筆者と読者の知恵比べ”である」と。また、このようにも書いています“本格ミステリーとは、作中で説明された情報によって、劇中の解答を待たずに読者が正答可能なものを指します。”と。つまりミステリーとは“筆者が作品中で提示した情報を手掛かりにして、読者は筆者が用意した正解に辿り着けるか？”というゲームなのです。ということは、筆者が作品中で提示しなかった情報以外の情報を想定する後期クイーン問題は、もはやミステリーのルールから外れています。EP5で以下の内容があります。“「推理小説で探偵が、犯人がわかったと宣言するシーンがあるでしょう。……あれはつまり、そこまでの文章で、手掛かりは全て記したから、読者諸君、どうぞ推理をして下さい、という合図なのですよ。」(ドラ)”この時点で筆者による出題は終了です。それ以降に情報を追加することなど許されるわけがないのです。また、筆者の出題に不備があり、筆者が用意した正解以外の正解を示された時点で、それは筆者の敗北となります。皮肉なことに、これを説明するのに相応しい例がEP6に登場します。物語冒頭のクイズ大会におけるチーズの問題です。本に書かれていた正解は３回でしたが、戦人は１回で切る方法を提示しました。もし、この問題が「直径１０センチ、高さ５センチの円柱状のチーズの塊があります。普通のナイフを使って、チーズを変形させないで同じ形、同じ大きさの８個の塊に切り分けるには、最低何回、切ればいいでしょう。」だったなら３回が正解です。提示する必要があった情報(あらかじめ用意した正解に至るための情報)を提示出来ていなかったわけですから、この場合は問題を作った人の負けです。同じことがミステリーにも言えるでしょう。ですから「全てのミステリーは後期クイーン問題を内包している」という竜騎士０７さんの考えは間違っていることになります。次に、赤字が作品の中ではたしている役割について考えてみます。これはEP5で説明されています。“赤き真実とはつまり、俺に推理合戦に応じるよう、ベアトが与えたヒント。……飴玉だ。ヒントが与えられたってことはつまり、解いてみろ、解けるから、……という意味だ。……解けることが保証された謎は、……本当の意味で、“謎”とは呼ばない。(EP5)”そして“ノックスの十戒”の説明が以下です“ノックス十戒は、堅苦しい制限や傲慢ではなく。……推理に挑む者たちへの、必ず解けるから頑張れという、応援だとも受け取れるのだ…。(EP5)”つまり、この両者の役割は同じなのです。『うみねこ』の読者がノックスを知っているとは限りませんし、そもそも竜騎士０７さんは『うみねこ』がミステリーだとは明言していません。そのような状況下で竜騎士０７さんが『うみねこ』読者のために考えた『うみねこ』独自のノックス。それが赤字なのです。そしてノックスがミステリーにおいてどのような意味を持つかということは、以下のようにEP5で説明されています。

「では、戦人。……その第３条を、なかったことにしまショウ。そうなったら、密室ミステリーは、どうなるでショウカ…？」(ドラ)

……ノックス第３条、隠し扉を禁ずが、なしになったら…？

「………つまり、密室トリックのオチに、隠し扉がＯＫになるってことか。」(戦人)

「手掛かりや伏線のある隠し扉ではありマセン。…隠しなのですから無論、探偵にも発見できない隠し扉デス。」(ドラ)

「戦人くんはよく、悪魔の証明により、発見できないＸの存在を仮定して戦いますね。……つまりはそういうことですよ。」(ワルギ)

「最悪だな。密室ミステリーが、読み物として破綻しちまう。」(戦人)

破綻するというのはつまり、……成立しなくなるということだ。

※ノックスとは“ミステリーをミステリーとして成立させるためのルール”です。ということは、赤字も同じようにミステリーのルールであることになります。つまり“「赤文字システムはアンチミステリーなんです。(真相2)」”という竜騎士０７さんの主張は間違っているわけです。

■アンチミステリーとは？

『うみねこ』はユーザーの心の拠り所を冷静にサーチして、そこを切り崩すような作品なんです。『うみねこ』は虚飾に彩られた世界なので、ファンタジーの一面もあればアンチファンタジーの一面もある。ミステリーもあれば、アンチミステリーの一面もある。赤文字システムはアンチミステリーなんです。(真相2)

(聞き手)今回、新キャラクターがかなり出てきますが、その意図するところは？(真相3)

トータル的な意図からいうと、クローズドサークルへの挑戦です。クローズドサークルって、登場人物が固定されたら絶対増えないじゃないですか。それが『うみねこ』では、毎回新キャラが出てくる。アンチ・ミステリーの一環ですね。

メタ世界の戦人がファンタジーを目撃するようになったというのは、『うみねこ』世界のアンチファンタジーＶＳアンチミステリーという構造を説明する上で、戦人がファンタジーを否定し、議論するために必要だったからです。『Ｅｐ２』ではファンタジー寄りだった秤を、『Ｅｐ３』では人間の側に戻しました。今はちょうど中間の状態ですね。続く『Ｅｐ４』ではこの秤をもっと鎮めて静止させ、最終的には「はい、釣り合いました」という風にしたいと思っています。(真相3)

(聞き手)『虚無への供物』はどうですか？(真相8)

名前は知っていましたけど、参考にはしませんでした。あの作品と『うみねこ』では、アンチミステリーという言葉の捉え方が大きく異なりますので。

(聞き手)竜騎士０７さんにとってのアンチミステリーとは、どういうものでしょう？(真相8)

抽象的ですが、まず「考えると解くことが可能であるもの」がミステリーなんです。これの対義語で「挑んでも解けない、だから挑まない」というのが私の定義するアンチミステリーですね。(中略)書き手が「ここまでで答えが出ているから、答えが分かります」といっても、読み手が「情報が足りないから、解けるわけがない」と感じてしまったら、それはアンチミステリーなんです。

(聞き手)読者の在り方によって、ミステリーかアンチミステリーか変わるということですか。そういう意味では、『うみねこ』も読む人にとってミステリーかアンチミステリーか変わってくるんでしょうか？

読む人によって見方は変わるでしょうね。私の作品をミステリーとして読んでくれている人がいる一方で、「ミステリーとしては解けない」「ミステリーとして読む必要はない」と考えている人がいる。「一なる真実」を推理することが重要でないとも読み取れるでしょうから、そういう方にとってはこの作品はアンチミステリーになると思いますよ。『Ｅｐ８』の終わりは、「一なる真実」に辿り着かないのが正義であると読み取れた方もいるでしょうからね。特に縁寿に対して、ミステリーの本来の目的である推理を「するな」と言っているようにも見えますし。

(聞き手)ご自身では『うみねこ』をどちらの部類に入ると思っていますか？

エンターテイメントだと思っています(笑)。ミステリーであるとも保証できないし、保証しても答えを伏せている以上証明の方法もないし、信じない人もいるでしょうから。

(聞き手)例えば『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』はどちらだと思われますか？

あれは考察を楽しむものだから、エンターテイメントじゃないですか。『瓶詰地獄』も、その意味においてはエンターテイメントですよ。推理小説家である夢野久作氏の代表作なのでミステリーだと言われていますけど、推理で可能性が高そうな答えには行き着くけど、それが正解だとは保証されてませんから。それをいったら『うみねこ』もミステリーではありません。私は「ミステリーとして挑戦してください」とは言っていますが、それを否定する楽しみ方もありますしね。ただ、ミステリーとして勧めておきながら、作品の中で犯人と殺人のトリックに固執するのを皮肉っている部分もあって、自己矛盾しており恐縮なんですが……。僕としては動機の部分、ウィルが語っているように「心」に踏み込んで欲しいと思っています。そこでさっきの話に戻って、愛がなければ動機が見えないということになるんでしょうけど。

(聞き手)アンチミステリー作品であろうとして犯人を伏せたというわけではないんですか？

そういうことではありません。「一なる真実」を分かってもらうためのヒントは十分に込めているので、私なりのミステリーになっています。ただ、世間では答えが書いていないとミステリーとは言わないようですね。

『うみねこ』というのは、“アンチ”ミステリーという側面があって、ミステリーでは本来やってはいけない作法をいくつもやりながらも、でも同時に“アンチ”アンチミステリーという側面もあります。ミステリーとしての作法を無視した世界をミステリー足らしめるという、不思議な世界観。それらの融合が化学反応を起こしたらおもしろいなと。(EP4対談)

ＥＰ５は「ミステリーＶＳアンチミステリー」という要素も強く出てきます。(中略)実は「アンチミステリー」要素はまだ登場させていませんでした。(中略)今度は明らかに「ミステリー」という刃があり、そしてそれに対する明白な「アンチミステリー」という刃が登場します。(最考)

※以上が“インタビュー及び対談”で竜騎士０７さんによって語られた“アンチミステリー”です。ここで解ることはまず“世間一般で言われているアンチミステリー＝竜騎士０７さんが考えているアンチミステリー”ではないということです。世間一般で言われているアンチミステリーは“ミステリーへのアンチテーゼ、もしくはミステリーのルールやお約束を否定したり皮肉ったりするもの”であるようですが、竜騎士０７さんの言うアンチミステリーはそれとは違うもののようです。読み手による「この作品はミステリーではない」「この作品はミステリーとしては解けない」という判断が、竜騎士０７さんにとってのアンチミステリーなのです。ところで“赤文字システムはアンチミステリーなんです。”という発言がありつつ、一方で“ＥＰ５は「ミステリーＶＳアンチミステリー」という要素も強く出てきます。(中略)実は「アンチミステリー」要素はまだ登場させていませんでした。”という発言があります。竜騎士０７さん自身の中でも“アンチミステリーの定義”は揺らぎがあるようです(赤字はEP2から出ているわけですから)。“クローズドサークルって、登場人物が固定されたら絶対増えないじゃないですか。それが『うみねこ』では、毎回新キャラが出てくる。アンチ・ミステリーの一環ですね。”この発言での“アンチ・ミステリー”は、一般的に用いられる“ミステリーへのアンチテーゼ”としてのアンチミステリーでしょうし。ちょっと長いのですが以下に『アンチミステリーとアンチファンタジーについて』を途中から最後まで引用します。

『アンチミステリーとアンチファンタジーについて』

(前略)まず、アンチミステリーを語る前に、ミステリーについて語らなければなりません。ミステリーとは何ぞや、を語るには、このような薄い冊子ではとてもページが足りません。ですので、ここでは非常にシンプルに話を進めたいと思います。

基本的に“ミステリー”と語った場合、これは“本格ミステリー”のことを指します。乱暴なまでに簡単に説明すれば、本格ミステリーとは、作中で説明された情報によって、劇中の解答を待たずに読者が正答可能なものを指します。これこそがミステリーの本流であり、まさに“本格”と冠するに相応しいでしょう。それは読み物であると同時に、筆者と読者の知恵比べでもあるわけです。その意味において、本格ミステリーとは、あらゆる小説ジャンルの中でもっともゲーム性が高いものであることが理解できると思います。つまり、高度な本格ミステリーとは徹底的に算数的なパズルゲームであるべきなのです。そしてそれは著名な作家の数々の名作によって、高度に昇華されていったはずでした。しかし、昇華された本格ミステリーは、やがてある問題に行き当たります。それが有名な難問、「後期クイーン問題」というものです。

「後期クイーン問題」とは非常に簡単に説明すると、探偵（読者）の知り得てる情報が“全て”であるとの証明が自身には不可能である、というものです。優れた探偵は、与えられた証拠・ヒント全てをふんだんに使い、非常に優れた推理や合理的見解を導き出すでしょう。しかし、その推理が正解であるためにはひとつの前提が必要となります。それは、探偵が吟味した証拠・ヒントが“全て揃って”いなければならないということです。多くの場合、探偵は現場を徹底的に吟味し、あらゆる証拠・ヒントを見つけ出して列挙します。しかしです。“探偵が未だ見つけていない決定的な証拠Ｘ”の存在を否定することはできません。つまり、名探偵がどのような優れた推理を見せたとしても、それは“その時点での証拠・ヒントからの構築”に過ぎません。つまり、もしも未発見の決定的な証拠Ｘが加味されたなら、探偵が導き出した推理が根底から引っ繰り返る可能性が常に否定できないのです。つまり探偵は、数々の証拠から推理を捻出することに加え、“未発見の証拠が存在しない”ことを立証する義務が生じたのです。そして言うまでもなく、これを証明することはまさに“悪魔の証明”。 ……つまり、探偵には自らの推理が正しいことを証明できないことが発覚してしまったわけです。徹底的な合理的なパズルであるべき本格ミステリーはこの時、にもかかわらず、解答を合理的に示すことができないというジレンマに陥ったのです。作中でいくら“マスターキーは１本”と説明したところで、マスターキーの複製がある可能性は否定できません。仮にそれが不可能であることを説明したとしても、“その人物の与り知れないところで複製が作られていた可能性”は常に否定できません。複製不能な形状であると説明したところで、“それでもなお複製する未知の技術”の存在を否定することには至りません。第一発見者がウソをついているかもしれないし、警察の鑑識結果が誤っているかもしれない。あるいは犯人に買収されていて、あるいは探偵を誤推理に誘導するために何かを偽装しているのかも…。それら、全ての“想定外の可能性”を完全否定し切らなければ、問題の提示にすら至れなくなってしまったのです。しかし、言うまでもなくそれは不可能です。究極的にまで言ってしまえば、仮に探偵（読者）が、非常に合理的な推理に辿り着き、それを犯人が認めて降参するシーンがあったとしても。……未発見の致命的証拠Ｘが残っており、さらに、真犯人を庇う為に共犯者がウソの告白をして罪を被っている可能性を否定できないのです。

実際、『ひぐらしのなく頃に』の「綿流し編」でも、このジレンマをモチーフにしている箇所があります。実際、「目明し編」を発表するまで、「綿流し編」の犯人をほぼ全ての読者が誤解していたはずです。なぜなら「綿流し編」単体では、レナの推理を犯人が認めたと描かれているのですから、その推理は“完結”しています。つまり、○○が犯人で“その時点の推理は正しい”のです。にもかかわらず「目明し編」では、「綿流し編」の時点では知り得ない数々の新情報が明かされ、その結果、別の人物が本当の犯人であったことが明かされます。「目明し編」までを終えた読者には納得の行く答えでしょうが、「綿流し編」の時点ではそれは推理不可能です。しかしだからといって「綿流し編」の時点での推理構築は“誤りではない”。誤った犯人に至ったとしても、その推理は“その時点”では正しいのです。その時点で存在する材料を全て構築して至った“本格的な”答えなのだから。でも、紛れもなく。「綿流し編」の段階での犯人特定は間違えているのです。これこそが「後期クイーン問題」です。そして読者は「目明し編」を読み終え、一定の解答を得て、ある程度の納得はできたはずなのです。しかしそれでもなお。「目明し編」を終えてなお、それが正しい真相であるという保障はないのです。「後期クイーン問題」がある限り。

極端な暴論の一例ですが、後年に竜騎士０７が『ひぐらしのなく頃に真』なる真相解明編を執筆し、「綿流し編」「目明し編」の真相は偽装で、実は犯人は意外な人物○○だった！　と“未知の新情報を後付けで追加”して発表したならば、それは正しい真相として“上書きされ”「目明し編」の真相すら、捻じ曲がり得るのだ、ということになります。（恐ろしいことに、このアンフェアすらも、「綿流し編」「目明し編」「真相解明編」の３つを１つの作品だと見なした場合、フェアであることになります。どのような後付け情報であったとしても、それが後付けであるか否かは証明不能です。そして「後期クイーン問題」がある限り、新情報がいくら後付けされたとしても許されるのです。未発見情報の存在は否定不能なのですから）言い訳っぽく書きますが、もちろん「綿流し編」と「目明し編」は表裏一体のシナリオです。後付け設定は一切ありません。……もっとも私がそれをここで語ったところでその真偽は証明不能なわけですが。つまり何が言いたいのかというと、どんな解答も、筆者（神）による真相（神託）でさえも！　それは絶対ではないということ。筆者という作品中の最高神でさえ、未来の自分という、より上層のメタ存在によって、いくらでも真相は改竄され得るのです。つまり、非常に乱暴な極論ですが、「後期クイーン問題」を語る限り、ミステリーはパズルたり得ないというジレンマに陥るのです。ミステリーがミステリーとして高潔であろうとした結果、自らの存在を否定するに至ったことの何と皮肉か…。これを私は皮肉な意味を込めて“アンチミステリー”と呼んでいます。

※「後期クイーン問題のことを考えると、ミステリーはフェアなゲームにはなりえない」これも竜騎士０７さんにとってはアンチミステリーとなるようです。

“悪魔の証明”がある限り、私たちも探偵も、常に未発見の証拠Ｘを否定できません。“悪魔の証明”を破らない限り、私たちは推理に挑む資格すら、得られないのです。目の前で人が死に、密室が構築され、不審な証拠品が転がっているにもかかわらず、私たちは推理を始めることができないのです。犯行現場の調査よりも、証拠の吟味よりも、第一発見者の証言よりも！　私たちはまず最初に“それ”を確認しなければならない。“それ”はつまり、……“今この場にある全ての証拠で推理が可能なのか否か”！　歴史的名探偵が犯行現場で天を見上げ、全能の神（筆者）に、まず問い掛けるのです。「この世界（作品）は、本格ミステリー（推理可能）ですか？！」すると神様はこう答えます。「ええ、この作品は本格ミステリーですよ。だから絶対に貴方にも解けると、安心して推理をしてください。」そして探偵は、あぁ良かった、なら安心して推理に挑戦できると胸を撫で下ろし、ようやく犯行現場の調査を始めるのです。現実の殺人事件でも、きっとそういう光景なんでしょうね。警察が現場周辺を封鎖しマスコミを遠ざけた後、刑事たちが拍手を打って天を仰ぐのです。「あぁ、神様！この事件は解決可能でしょうか？！それを教えてもらわなければ、私たちは捜査も推理もできません…！！　だって変格ミステリーや社会派ミステリーだったなら、増してや今流行りの伝奇ファンタジーだったなら推理しても無駄なわけですし！」しかし、現実問題として神様がそれに答えることはありません。すると、神託があるまで拍手は続くのでしょうか？　神託がなければ捜査は打ち切りに？　この状況を思い浮かべ、あぁ何と間抜けなのか馬鹿馬鹿しいッ！！　と滑稽に思った時、私は初めて、“アンチミステリー”という概念があり得ることを知りました。全ての謎に算数的解答を合理的に求めようとするニンゲンたち。それは一見とても知的に見えますが、実はそれは大きな誤り。“その謎が、合理的な解答が得られるものであるという前提がない限り”、ニンゲンたちは謎に挑むことすらかなわないのです。そしてそんな前提が与えられることは絶対にない。つまり、ニンゲンは知的を威張り散らし、ミステリーを推理できると豪語しながら、実際は神様からのお墨付きがなければ、「灰色の脳細胞」の一欠片も使うことは出来ない無知無能無教養の脳ナシ思考ナシ考えナシ。ゾウリムシと同じ程度の知性しかないわけです。

『うみねこのなく頃に』の中でベアトリーチェが嘲笑っているのは、まさにそのこと。全てに算数的解答を求めようと意気込みながら、そのくせ、それが可能であることを保障されなければ挑戦もできない。ボクシングなどに例えたなら、勝てると保証された相手以外とは戦いたくないと言っているボクサーのようなものです。魔女ベアトリーチェには、魔女を否定すると意気込み、合理的に真実を暴こうと意気込むニンゲンたちが、こんな風に滑稽に見えるのです。あなたは、『うみねこのなく頃に』のEP1を終えたとき、本当に推理に挑戦できましたか？　本格か否かの宣言がないからと、挑戦を渋ったのではありませんか？　全ての証拠が提示されているという証明がないからと、挑戦を渋ったのではありませんか？

………くっくっくっく！！　ばァか。そんな証明、貴様らの人生のいつどこにあったというのか？　貴様らは高校受験の時、神様に、ここを受験して受かりますか？と聞いて、受かると神託が受けられなければ受験も出来ないのかァ？　くっひっひゃっははははははは…！　ママが、ボクちゃんならきっと受かるわよ！と言ってくれなきゃ、受験も出来なかったって言うのかよォぉおお？？　くっひっひひひひひひひひ！　ニンゲンの語るミステリーが何と下らないものなのかと理解できたそなた。そして妾の笑いたい気持ちが理解できたそなたはようこそ“アンチミステリー”の世界へ。「この世には科学では説明できないことが多々ある」ってよく言うだろォ？　そういうことなんだよ。この世の全ては完全証明不能！　常に我々の想定しない未知のＸが想定しうる。そしてそれは誰にも否定できない！　推理ぃ？　ミステリー？　本格ゥ？　あっひゃははははははははははは！！　ばァかばかしいぃいいぃ！！　ボクちゃんはミステリー文庫で新刊を買ったら、まず先にママに読んでもらうといいさ。そして「この本はボクにも解ける？」と聞いて、ママが頷いてくれたのだけ読めばいいさ！　ママに咀嚼（そしゃく）してもらった離乳食だけくってりゃあいいんだよゥ、うっひぇっひゃっひゃっひゃっひゃぁぁぁ！！

──だからお嬢様、そういうのが品がないと申しています。ベアトリーチェさまが使われる「赤き真実」は、それに対するひとつのアンチテーゼと申せましょう。「赤き真実」で語ったことは、まさに神の言葉。何の証拠も証明もなく、それは真実になる。赤き真実で、“扉はマスターキー以外では開錠できない”と言ったならば、それ以外の想定は一切必要なくなります。ピッキングも釣り糸で内側から引っ張るも想定不要です。さらに重ねて赤にて“マスターキーの個数は５本でそれ以外では開錠不能。複製は不可能。”と続ければ、なお完璧となりましょう。ただ、敢えて最後に一粒、山椒を残していきましょう。真実であると自称する「赤き真実」が、本当の本当に“真実”であるのかは、たとえお嬢様であっても証明不可能です。皆様の中にも、お嬢様の「赤き真実」が、本当に信用できるのかと、未だに疑っておられる方々もおられるでしょう。そう。この世に、真実であることが証明できる真実など、存在したりはしないのです。だから、もしもその真実を信じることができるかどうかを問うならば、こういう問い掛けになるでしょう。“貴方は、彼女のことを信じることができますか？”愛する人を、やがてはあなたも伴侶に迎えるでしょう。そして約束の日、神父にきっとそう問い掛けられるはずですよ。まさかあなたはその時にも、彼女が口にする真実が真実であると証明することはできないと仰られるつもりで……？　…ぷっくくくくくく。魔女を否定する為には、魔女とニンゲンの戦うゲームに挑まなければならない。しかしそれに臨むには、魔女の「赤き真実」が、確かに真実であることを信じなければならない。魔女を信じないが為に挑むゲームなのに、魔女の発言を信じなければならないとは、何と滑稽な矛盾か。あなたが初めて「赤き真実」のルールを聞き、それが信用できるのかと聞いた時、お嬢様はこう仰られましたね。“妾はそなたとゲームをしている。ゲームのルールは神聖！！　それを軽んじる者に参加の資格はないッ！！”　ぷっくっくっく…！　あなたとお嬢様はつまり、神聖な信頼で結ばれた関係、ということになりますね。悪魔も妬こうというもの。ぷっくっく…！

この世には真実など何もありません。この世の一なる元素であると謳われる「愛」すらも、所詮は幻想。ファンタジー。全てをミステリーで説明し、ファンタジーを否定しようとする人間には、愛する資格も、愛される資格もないということかもしれませんね。あなた様は“アンチファンタジー”ですか？　“アンチミステリー”ですか？　ほほぅ？　都合が良いように、物事によって使い分けている？　それが一番お利口でしょうな。友人の誇張し過ぎた武勇伝にはアンチファンタジーを。分不相応な夢に酔いたい時にはアンチミステリーを。眠れない夜にはやさしい音色のアンチモニーオルゴールを。それではお休みなさいませ、皆様方…。

※以上の内容から、竜騎士０７さんが考えるアンチミステリーは２つあることが解ります。１つ目は“「ミステリーではない」あるいは「ミステリーとしては解けない」という読み手の判断”。２つ目は“後期クイーン問題を内包することによりミステリーたり得ないという、ミステリーが抱えるジレンマ”。

■『うみねこ』の歩き方　その①「ある使用人のタイムスケジュール」

※長くなってしまった為、これは別ページにおくことにします。

■『うみねこ』の歩き方　その②「右代宮家の物語」

※長くなってしまった為、これは別ページにおくことにします。

■『うみねこ』の歩き方　その③「魔女のベアトの物語」

※長くなってしまった為、これは別ページにおくことにします。

■『うみねこのなく頃に　完全版』

※僕は『うみねこのなく頃に』は素晴らしい作品であると同時に、いくつかの問題も抱えていると考えています。そこで「僕ならこうする」ということで、僕なりに問題を解決した『うみねこのなく頃に　完全版』を考えてみました。まず、小さなところでは“楼座が六軒島に住み始めた時期”と“南條が金蔵と知り合った時期”の訂正です。

「そ、そんな話、楼座の口からは一度も聞いたことがないわ。…楼座、いつよ？　あなたは一体、いつベアトリーチェに会ったのよ?!」(絵羽)(EP3)

「昔よ！　ずっとずっと昔よ！！　まだこの島に引っ越してきたばかりで私は幼かった！！　私は悪くないの、私が殺したわけじゃ…！！　うううぅうううぅ！！」(楼座)

※このやり取りを以下に訂正します。

「そ、そんな話、楼座の口からは一度も聞いたことがないわ。…楼座、いつよ？　あなたは一体、いつベアトリーチェに会ったのよ?!」(絵羽)

「昔よ！　ずっとずっと昔よ！！　あの頃の私はまだ子どもだった！！　私は悪くないの、私が殺したわけじゃ…！！　うううぅうううぅ！！」(楼座)

※そしてEP5における南條です。

金蔵が右代宮家の当主に突然抜擢され、右往左往していた頃のことを覚えている南條は、蔵臼のその姿に金蔵の当時を懐かしむ。

※これを以下に訂正します。

金蔵から右代宮家の当主に突然抜擢され、右往左往した頃の苦労話を聞かされたことのある南條は、蔵臼のその姿に当時の金蔵を見る思いだった。

※あとは、世界観をもっと解りやすく、明確なものにします。メッセージボトル及び偽書は台風が到来し、その前触れとしての一陣の突風が吹き、薔薇庭園にいた真里亞が、思わず目を瞑った瞬間から始まるようにします(目を瞑ることで魔法抵抗力がゼロになるわけですから)。この場面はEP1～4全てに共通で登場させます。そして、それまでの空港から始まる場面は全て、現実の１９８６年の１０月４日に起きた出来事を、場面と視点を変えてバラバラにして配置します。こうしておけばEP1～4における突風の場面より前(ようはメッセージボトル及び偽書の内容以前の場面)の出来事を全て合わせることによって、現実の１９８６年の１０月４日に起きた出来事をプレイヤーが知ることが出来ますし、現実とメッセージボトル及び偽書の内容との境界がハッキリします。それからゲームマスターのベアトと駒のベアトの一人称を“私”と“妾”に分けて、違いが明確に解るようにします(ちょっとあからさま過ぎる気もしますが…)。また、魔女関係の設定が無茶苦茶すぎるので、徹底的に改修します。ベルンが魔女になったのは『ひぐらしのなく頃に礼　賽殺し編』において“肉を喰らう選択”が出来なかったため。ラムダが魔女になったのは鷹野三四の努力が報われない世界があったため。そしてフェザリーヌが魔女になったのは、八城幾子が十八と出会わない世界があったため。そしてフェザリーヌと八城幾子の設定に変更を加えた上で、完全に分離させてしまいます。幾子の飼い猫のベルンは抹消。ベルンカステルがフェザリーヌの巫女であった過去は抹消(“フェザリーヌ＝羽入”という設定をなくすということ)。幾子が赤字を使うのはなし。フェザリーヌから幾子に変身するのはなし(フェザリーヌが幾子に化けるのはあり)。幾子がフェザリーヌのことを語るのはなし。分厚い原稿の偽書を縁寿に見せるのはフェザリーヌ。次に、現実世界における絵羽の日記の所在が最後まで不明瞭なままでしたが、これは寿ゆかりに面会する際、八城幾子が手土産に持って来ることにします。そして、どのようにして日記と鍵を入手したか説明した後「これは貴方の為に書かれたものだから」と寿ゆかりに渡そうとしますが「私にはもう必要ありません」と、受け取らない。最後に、事件の真相を変えてしまいます。現実の六軒島において、紗音は誰かが碑文の謎を解かない限り、島もろとも、全てを吹き飛ばすつもりでした。これは、はっきり言ってやり過ぎです。この作品が多くのプレイヤーから否定された一番の理由がここにあると思います。物事には限度というものがあります。これでは純愛ではなく、ただの身勝手なキチ○イです。自己犠牲だけならいくらでも純愛に昇華出来ますが、他人を巻き込んでしまうと、とたんに純愛が色褪せてしまいます。僕自身、理解は出来ますが、完全に共感は出来ません。僕ならば、真相はこうします。“紗音は戦人に自分との約束を思い出して欲しくて、二人が親しくなるきっかけとなったミステリーでドッキリをしようと考えた。その為、１９８６年１０月４日、他の使用人や右代宮家親族に協力してもらって狂言殺人のミステリーを戦人に仕掛けようとした。しかし、ミステリーの進行に合わせて順々に買収していく予定だった親族が、絵羽を中心に碑文の謎を解いてしまった。その結果、血みどろの殺戮劇が繰り広げられ、最終的に絵羽と戦人だけが生き残った”。冗談が取り返しのつかない事態を招いてしまう。こちらのほうがより悲劇性が高まると思います。具体例を挙げましょう。２０１１年８月２７日に石川県かほく市大崎の大崎海岸において、テレビ番組の企画を真似して、妻が夫の誕生日のサプライズとして作った落とし穴に、夫婦共々落ちてしまいました。その結果、二人とも死んでしまいました。この事故において妻はまったく悪意はありませんでした。ただ「夫を驚かせたい、夫に楽しんでもらいたい」それだけの思いで２．５メートルもの落とし穴を掘ったのです。それがこのような事故を起こしてしまいました。これは僕が知る中でもっとも悲しい事故です。事故の２日前にテレビ番組で落とし穴の企画が放送されたそうですから、きっと夫婦でこのテレビ番組を視たのでしょう。そして夫がそれを非常に面白がっていたのかもしれません。下手をすれば「俺もこんな落とし穴に落ちてみてー」くらい言ったのかもしれません。ちなみにこの変更は非常に簡単に出来ます。縁寿たちに送られた“貸し金庫のカードと鍵、そして暗証番号”これを抹消するだけです。

■『うみねこ』は恋愛経験のない人には理解出来ない？

※数々の物議を醸してきた『うみねこ』に関する竜騎士０７さんの発言の中でも、最も多くの敵を作ったのが、以下の発言であると考えられます。

『うみねこ』は恋人を作ったことがない人には読めない作品なんですよ。恋愛経験のない人が理解するのはつらい作品です。「恋愛が人の生き死にを司るほどの動機になり得る」ということを、恋愛経験がない人に説明することはできないですよ。きっと「よくある動機」程度にしか思われないので。でも恋を経験して恋愛に苦しんだことがある人なら、恋愛によって世界が引っくり返るくらい変化することが分かるはずです。「また会いに来るぜ」と言われたのに六年も来てくれなかったら頭がおかしくなりますし、少しでも恋に苦しんだことがある人なら「六年はきついね」と言ってくれると思います。(最考散)

(ＫＥＩＹＡ)恋愛は十分、殺人の動機になるんですよね。

それが分からない人は、恐らく『うみねこ』を理解できないと思います。『うみねこ』は「一人の少女が恋と狂気であれだけの事件を妄想するに至るまでの物語」なので、これをいくら描いても共感できない人には共感できないんですよ。(最考散)

※この作品で紗音が計画していたのは“無関係な人間を大量に巻き込んだ壮大な無理心中”な訳なのですが、この動機に納得出来ない人に向かって、竜騎士０７さんは言ってしまったわけです。「恋人イナイ歴○○年のテメーらには理解出来ねーよ！」(超訳)「これが理解出来ないテメーらがしてきたのは恋愛じゃなくて恋愛モドキだよ！」(激訳)まあ、言われたほうは怒り狂って当然の暴言かと思いますが、僕はそもそも、この発言はおかしいと思います。真面目な紗音ですから「３つの恋のうち、どれか１つを選ぶなんてとても出来ない」ここまでは問題ないでしょう。しかし、だからと言って“無関係な人間を大量に巻き込んだ壮大な無理心中”というのは無茶苦茶です。これはもはや“恋に狂っている”と言っても過言ではない状況です。ですから、紗音の動機を理解するのに必要なのは“恋愛の経験値”ではなく“狂気の受容値(どれだけ狂気を受け入れられるか？)”なのです。おそらく竜騎士０７さんは狂気の受容値が高いのです。ですから、狂気の受容値が低い人がこの動機に納得出来なかった理由が理解出来ず、誤解してしまったのです。この人たちは恋の切なさを知らないのだな、と。そして、例の発言が出てくるわけです。これは「パンがないのなら、ケーキを食べれば良いじゃない」クラスの妄言です。問題はそこじゃないんだ、と。これは恋愛の経験値ではなく、狂気の受容値の問題なのだ、と。もし、僕が竜騎士０７さんだったなら『うみねこ』の理解しづらさについて、以下のように説明します。

紗音の動機を理解するのは難しいと思います。何故なら“愛ゆえの狂気”が彼女の行動原理だからです。この“愛ゆえの狂気”を非常に解り易く描いた『八百屋お七』という作品があるのですが、ご存知でしょうか？　簡単に内容を説明しますと、江戸時代に火事で焼け出され、寺に一時避難していた少女(お七)が寺の小姓(庄之介)と恋仲になるのですが、家が再建されたことによって庄之介と会えなくなってしまいます。そこで「もう一度火事が起これば、また庄之介に会える」と考え、放火します。その結果、捕縛され、火あぶりに処されるという話です。当時、江戸は木と紙で出来た長屋が密集していましたから、一旦、燃え広がるとその被害は半端なく“明暦の大火”と呼ばれる火事では町の大半が焼失し、死者は最大１０万人とも言われています(Wiki調べ)。ですから放火は重罪で、そんなことをすれば、死罪になることはお七だって理解していたでしょうし、その結果、多くの人命や財産が失われるかもしれないことも理解していたはずです。それでもお七は庄之介に会いたい一心で放火したわけです。このような“愛ゆえの狂気”にどこまで共感出来、どこまで受け入れられるかで、紗音という少女の捉え方は随分変わってくると思います。人によっては「キモいキ○ガイ」としか思えない場合もあるでしょうし、あるいは「この気持ち解る！」という人もいるかもしれません。どうしようもなく追い詰められた結果、狂気を宿さざるを得なかった１人の少女の苦悩にどこまで寄り添い、どこまで受け入れられるか。それによって『うみねこ』という作品の評価は大きく変わるでしょうね。

■『うみねこ』はファンタジー？

※この作品のキャッチコピーにこんなのがあります。“挑めばミステリー。屈せばファンタジー。”この言葉をそのまま受け取れば、この作品をファンタジーだと認めると、屈服したことになります。しかし、僕は「この作品はファンタジーである」と認識しています。この考察の柱では、何故、そのように考えているのか説明しようと思います。ちなみに『最考考』の様々な考察の柱でチョコチョコ触れた世界観の総まとめになりますので『最考考』を一通り読んでからご覧頂くよう、お願いします。また「これ『最考考』に書いてあったじゃん！」という内容も出てくるかと思いますが、大事なことなので２回書きます。僕は『うみねこ』という作品において各EPの創作者(＝執筆者)を想定していません。何故かというと、赤字を“絶対の真実”と信じるならば、この解釈しかありえないからです。

「この、九羽鳥庵の庭でくつろいでるベアトと、…さっきの祖父さまとの会話は、真実なのか？」(戦人)(EP3)

「はい。真実です。かつて、《赤：実際にこの場所で、お二人はこのような会話をなされました》。」(ロノウェ)

※このロノウェの発言をそのまま受け取ると、この場面で戦人が見た、九羽鳥庵において金蔵とベアトリーチェが会話する場面は、過去の実際の出来事ということになります。つまり、戦人は過去の出来事を実際に見ているのです。これは楼座が語ったベアトリーチェの最期の場面も同じです。

子ども時代の楼座叔母さんが、泣きながらベアトリーチェの体を揺さぶっている。俺もその顔を覗き込むが、……………目は見開かれたままで、本当に死体そのもの。…仮死状態に違いないなんて曖昧なことで誤魔化したいが、……どう見ても、仮どころか、…本当に死んでいるようにしか見えない…。ベアトリーチェは、岩壁のあの高さから真っ逆さまに落ち、……あの尖った岩の先端で頭部を強打した。…………死ぬだろ、……あの高さで、……こんな岩じゃ……。(EP3)

「……そう簡単には騙されねぇぞ。赤で復唱できるか?!　確かに死んだと！！　どうせ生きてるんだろ?!　見え見えだぜ！！」(戦人)(EP3)

「それのどこが生きているように見えるというのか。《赤：間違いなく死んでいる》！」(ベアト)

※この場面でも、戦人とベアトは過去の実際の出来事を見ながら話をしています。はたしてこんなことが人間が書いた小説で可能でしょうか？

「苦しむことはない。妾は遊ばぬ。……これにてチェックメイトだ。《赤：そなたは、右代宮明日夢の息子ではない》。」(ベアト)(EP4)

※赤字が絶対の真実であるならば、何故、ベアトは現実世界の事実を赤字で保証できるのでしょう。これは魔女が現実世界の出来事を時間軸に関係なく実際に見ることが出来るからです。そして、それをゲーム盤に仕込むことも出来るのです。ですから、メタ世界の戦人がゲーム盤で見ている１９８６年１０月４日と５日以外の描写は全て、魔女が現実の出来事を見せていると考えられるのです。そして各EPは魔女のゲームがカケラに記録されたものであり、特に誰が書いたというものではないと考えられます。ということを前置きにして、僕が考えている『うみねこ』の世界観は、既存のファンタジー作品で言いますと、コミックなら『犬夜叉』(これは一応、戦国時代という設定ですが…)『BLEACH』『幽☆遊☆白書』『ふしぎ遊戯』『魔法騎士レイアース』アニメなら『聖戦士ダンバイン』(ちょっと古い？)『天空のエスカフローネ』『千と千尋の神隠し』小説なら『ナルニア国物語』『はてしない物語』『ハリー・ポッター』『十二国記』『ゼロの使い魔』などの、現実世界の他に異世界があって、何らかの行き来が出来るタイプの世界観です。そして魔女は“虚無の海”と呼ばれる異世界の住人です。ベルンカステルとラムダデルタは『ひぐらしのなく頃に』の“古手梨花”と“鷹野三四”が“虚無の海”に魔女として転生した存在、ベアトリーチェとフェザリーヌは『うみねこ』の現実世界の人間“安田紗音”と“八城幾子”が同じく転生した存在と認識しています。そして魔女であるベアトが行った“戦人復活の儀式”がゲーム盤におけるベアトと戦人の戦いで、ベルンカステルとラムダデルタは「何か面白そうなことをやっている」と見物しに来た感じです。ちなみにこの解釈だと、天界大法院アイゼルネ・ユングフラウの一等大司教であるドラノールが、ベルンカステルの駒に過ぎないヱリカなんぞの手下になっているのは不思議なことですが、EP5における以下の内容から、ある解釈が出来ます。

「……お噂には聞いておりマシタ。……残虐で知られた無限の魔女、ベアトリーチェも、こうなっては寂しいものデス。」(ドラ)(EP5)

「こいつはもう、ゲームには参加してねぇよ。……ゲーム盤のこいつを操ってるのは、ラムダデルタだ。」(戦人)

「存じておりマス。……ですが、本来のこの世界の主デス。そしてあなたは、その主に招かれた、正当な客人デス。ですからこうして、ご挨拶に参じマシタ。」(ドラ)

ゲーム盤の上では、俺もベアトもドラノールに会っている。しかしそれは、あの魔女たちの、ゲームの駒としてだ。俺とベアト自身にじゃない。

「だからわざわざ、ここまで戦人くんとベアトに挨拶に来てくれたのですか…？　…相変わらず、律儀な子ですね。」(ワルギ)

「私の流儀デス。………初めまして、ミスター・戦人。ドラノール・Ａ・ノックスと申しマス。…敵対する役ではありますが、よろしくお願いいたしマス。」(ドラ)
「……あのような邪悪の手先を務めることになろうトハ。………どうして私は、この世界に呼ばれたノカ。」(ドラ)(EP5)

ドラノールは小さく溜め息を漏らす。“駒”は、自分に与えられた役目をこなすことしか出来ない。そしてその役目は、自分を操る者が与える。……彼女はおそらく、“自分”のプレイヤーである、ベルンカステルに逆らえないのだ。
※ゲーム盤のドラノールは実際のドラノールではなく、分身だか分体だか良く解りませんが、何か“仮の存在”なのです。これは『Fate/stay night』の英霊のようなもの、と例えるのが一番解りやすいと思うのですが、これでご理解いただけるでしょうか？　そして“魔女のベアト”とゲーム盤で戦人と戦った“駒のベアト”は別人です。魔女のベアトがゲーム盤の戦人(駒戦人)の対戦相手として用意したのが“駒のベアト”だからです。“駒のベアト”は位置付け的には“ロノウェ”“ガァプ”などと同じようなものです。僕は駒戦人とは、魔女のベアトが“紗音との約束を忘れた戦人”という設定で作り出した駒だと思います。何故なら、僕は現実の戦人は約束を忘れていなかったと考えているからです。EP6において、魔術師となった戦人はベアトを蘇らせたつもりでしたが、失敗して“雛ベアト”が出来てしまいました。
そして、戦人が思うように作ったベアトは、戦人の操り人形のようなベアトでした。最終的に雛ベアトはもう１人の魔女のベアトとして復活しましたが、別に戦人はこれを計画していたわけではありません。逆にこれを計画的に行おうとしたのが、魔女のベアトだという解釈です。しかしEP1～4まで魔女のベアトが頑張っても戦人が約束を思い出す気配がなかったため、魔女のベアトはあきらめてしまったのです。EP5においてようやく、魔女のベアトが願っていた“自分を愛してくれた戦人の復活”が実現した訳ですが、その時には既に手遅れで、魔女のベアトは消えてしまいました。これは『ひぐらし』において、圭一が何周もしてようやく過去のカケラの記憶を取り戻せたのに、レナは罪滅し編１つで過去のカケラの記憶を取り戻せたのと同様だと思います(女性には優しい竜騎士０７さん)。駒戦人と雛ベアトの違いは、前者が“意図して用意された依り代”であったのに対し、後者は“意図されずして用意された依り代”だったことです。しかし実質的に両者は同じものなのです。つまりプレイヤーの戦人と雛ベアトは“復活のための依り代”という同じ立場でありながら、前者がEP1～4までかかって復活出来なかったに対し、後者はEP6だけで復活出来た訳です。というのが僕がこの考察の柱で主張する“ファンタジー説”の概略です。以下、もう少し詳しく説明していきます。

まず、この作品における事件の舞台となるのは１９８６年１０月４日と5日の六軒島です。ところが、作品中にはそれ以外の場面が多数登場します。EP2における譲治と紗音の沖縄デート、朱志香と嘉音の文化祭でのエピソード(そもそもEP2のテキストは636KBなのですが、そのうち130KBが過去の話です)。EP3における若き日の蔵臼と絵羽のやり取り、九羽鳥庵における金蔵とベアトリーチェの会話、そして楼座とベアトリーチェの出会い。EP4における楼座と真里亞の日常。EP5における蔵臼と夏妃による金蔵の死の隠蔽、そして夏妃による赤子の殺害。EP7における若き金蔵とビーチェのロマンス、ヤスと呼ばれる少女の六軒島での使用人としての日々。そして複数のEPでそれぞれ違う展開となる１９９８年の縁寿の物語。EP8における六軒島爆破事故から生き延びた戦人とそれを拾った幾子の物語、さらには現在である２０１３年よりも未来の出来事である、縁寿と戦人の再会(１９９８年の数十年後ですから最低でも２０１８年くらいです。そもそも、２０１８年でも縁寿は３８歳ですから“彼女がもう２０歳、いや、せめて１０歳若かったら、……２１世紀に名を残す大作家になっただろうと惜しむ人間もいる。”という内容にそぐいません)。これらは一体何なのでしょう？　そして、これらの出来事が事実なのだとしたら“EPの書き手”はどのようにしてそれを知ったのでしょう？　この作品の現実世界において、紗音が書いた２つのメッセージボトル、そして幾子が書いた4つの偽書の存在が確認されています。それらが各EPの核になっていると考えられるのですが、『最考考』の“■メッセージボトルとはどのようなもの？”そして『続･最考考』の“■メッセージボトル中のノート片の枚数は？”で考察していますが、メッセージボトル及び偽書はそれほど長いものとは考えられず、分量から考えると、これらの出来事が書かれていたはずがありません。また、人間である紗音と幾子には、知りえない情報が含まれているため、内容の面でもやはり、この２人に書くことは不可能です。この問題について考えたとき、僕が導き出した結論は1つです「この物語の書き手は人間ではありえない」。では書き手は魔女なのかと言いますと、それもまた違うと思います。そもそも「書き手などいない」のです。では書き手がいないのだとしたら、プレイヤーの戦人はどのようにしてこれらの出来事を認識しているのでしょう？　そのヒントはEP7にあります。

“「わかってる。ゲームマスターとして、あんたに力を与えるわ。金蔵から真実を得られるようにね。」(ベルン)

ベルンカステルは土足のまま、棺の中に踏み込むと、献花されている薔薇の一本を拾い、……たんぽぽの綿毛を散らすように、強く息を吹きかける。すると一枚の花びらが千切れ飛び、それは黄金色ではなく、透き通った水晶の輝きを帯びながらウィルの方へ舞って来た…。

「“探偵権限”か。」(ウィル)

「ふっ、なぁに、その間抜けな能力。……違うわ。それは観覧席への招待状よ。」(ベルン)

「……“観劇者権限”か。………それを元老院の許可なく与えることは禁じられてるはず。」(ウィル)

「私を。私のゲーム盤で。誰が禁止すると……？」(ベルン)”

“「ここへ嘉音を呼べ。……俺は拷問も観劇も嫌ェだ。」(ウィル)

ウィルはゆっくりと、……ポケットから右手を引き抜く。その右手の拳をゆっくり開くと、………そこには、小さく眩しい輝きが放たれている。ベルンカステルが与えた、あの花びらが光る痣となって、輝いている……。その手を紗音にかざし、……ゆっくりと近付いていく。

「嘉音を呼べ。お前たちに確かめたいことがある。」(ウィル)

「オ呼ビデキマセン。ソレデモナオ、ソレヲゴ希望デスカ……？」(紗音)

「呼ばねぇなら、お前を“観劇”する。」(ウィル)”

“金蔵はゆっくりと立ち上がり、右手を突き出す。それは、握手を求めるものだった。金蔵なりの、感謝の気持ちを伝えるものだったに違いない…。ウィルは、それに応える。そして二人の手が、静かに力強く握られた。すると、……二人の握手の隙間から、眩い光が漏れ出す。

「………………ん、」(ウィル)

ウィルは手の平に、一粒の火傷のような刺激を感じる。……それは、ベルンカステルの与えた、あの力。その光はどんどん眩しさを増してくる。しかしそれは金蔵たちには見えていないようだった。

「……今こそ、語ろう。私が、ベアトリーチェに、………ベアトリーチェ・カスティリオーニに出会ったのは、終戦間際。彼女は、海の向こうからやって来た……。」(金蔵)”

“真里亞の小さな手に、不意に握手を求められ、ウィルも咄嗟にそれに応じてしまう。すると、……二人の握り合う手の隙間から、眩い光が漏れ出すのを感じた。ベルンカステルの与えた、観劇者の力が真里亞に働いているのだ。

「ベアトリーチェはね、六軒島の魔女なの…！　いつもね、真里亞が六軒島に来る度に、一緒に遊んでくれるの！　真里亞のね、一番のお友達で、マリアージュ・ソルシエールの仲間なの！　うー！！」(真里亞)

光がどんどん強くなっていく……。今度は、真里亞の世界に引き込まれていくのを感じていた…。”

“「お前の知っている、ベアトリーチェの話が聞きたい。……………ん。」(ウィル)

朱志香の手を取る、ウィルの右手から輝きが漏れる。観劇者の力が、朱志香に働いてしまったようだ。……そんなつもりはなかったんだが。まぁ、いいか…。”

※おそらく、この“観劇者権限”というものは、触れた相手が体験した過去の出来事を、あたかもその場にいるかのよう観ることができる力なのだと思われます。しかもある程度任意に操ることが出来(あるいは魔女が予め指定した人物に対してだけ発動する？)、観劇される側はそれを拒めないようです。この作品におけるゲームマスターは魔女ですから、この力をゲーム盤に仕込むことが出来るのでしょう。魔女が過去の実際の出来事を任意に見せることが出来るのは、EP3における九羽鳥庵のベアトの場面で証明されています。何せ以下のやり取りがありますから。

「この、九羽鳥庵の庭でくつろいでるベアトと、…さっきの祖父さまとの会話は、真実なのか？」(戦人)

「はい。真実です。かつて、《赤：実際にこの場所で、お二人はこのような会話をなされました》。」(ロノウェ)

そして、これがどのような仕組みかは理解出来ませんが(これも魔女の力なのでしょう)、プレイヤーがゲーム盤を用いて行ったゲームは、以下のように１つのカケラとしてまとめられています。

“「……この書庫には、これまでのそなたのゲームの物語のカケラが、全て書物として収められている。それを読むことで、そなたはこれまで何があったかの全てを知ることが出来るだろう…。」(フェザ)(EP6)”

“「いいえ。あなたに頼みたいのよ。この事件を。……送った“物語”は読んでくれたかしら…？」(ベルン)(EP7)

「……斜め読み程度にはな。」(ウィル)”

“ウィルが右代宮家のことを詳しいのは、ベルンカステルがこれまでのカケラを全て見せてくれたからだ。(EP7)”

※“読む”とは表現されていますが、これは実際に本を読んでいるわけではなく、観劇者権限のように手で触れるとそのカケラの出来事が映像として観えるのでしょう。我々の感覚で例えるならば“虚無の海”の至るところに監視カメラがあって、“虚無の海”の全ての事象を記録している。ベルンとフェザリーヌはその監視カメラの記録を自在に検索し、必要な内容(ゲーム盤でのゲーム)が記録された記録メディア(カケラ)を取り出せる、という感じです。そしてEP8において以下の内容があります。

図書の都。そう言われれば、そうにも見える。この峡谷のようにそびえ立つ本棚は、高層ビル。眼下に流れるエメラルドグリーンの光の軌跡を、高速道路に列なす車の灯りと考えたなら、確かにここは、図書の都だった。

「ただの本じゃないんでしょう。これらは。」(縁寿)

「えぇ。これら一冊一冊が、重厚な群集劇をまとめたもの。……ここでは本に見えますが、本を開けば、そこには本当に世界があるのです。」(ヱリカ)

「………私たちの長い物語も、この中の一冊でしかないのね。」(縁寿)

※ちなみにこれはEP6において縁寿がフェザリーヌに見せられた“偽書”も同じ仕組みだと考えられます。証拠がコミック版EP6にあります。八城幾子が縁寿に見せているのはともかく、フェザリーヌが縁寿に見せているのは文章ではなさそうです(まさかこれ“紙芝居”ではないでしょうし)。ただ、カケラに関しては、以下のように覗き込むことによって観るのかもしれません。

ベルンカステルは、右手の手の平を上に向ける。…するとそこに青白い光が集まり、……青く光る何かの結晶が現れる。

……その鋭利な表面には景色が映っているのだが、…それは自分たちが今いるこの景色ではない。その結晶を、……カケラを、じっと食い入るように見つめたなら、そこに何が映っているのか、知ることが出来ただろう。じっと見つめたなら、縁寿が………最愛の兄に１２年の歳月を経て、全てを捧げてようやく辿り着き、……生きながらにして全身を引き千切られて死にゆく、その断末魔の光景が、きっと。(EP5)

※しかし同じEP5において以下の場面があります。

いくつかの強く輝くカケラが、光の尾を引きながら、……ベルンカステルを中心に渦を巻くように取り込まれていく。それはまるで、彼女が太陽で自らの太陽系を生み出すようにさえ見えた。その、ベルンカステルを中心にした太陽系は、俺たちを飲み込むほどに大きな半径となる。そして時折、その衛星であるカケラが俺のすぐ近くを駆け抜けた。そのカケラが、俺のすぐ近くを駆け抜けると、……何かの記憶が蘇るような気持ちになる。だから直感する。……多分、このカケラというものは、記憶の結晶のようなものなのだ。

「記憶じゃないわ。世界のカケラよ。……まぁ、あんたには記憶のように感じられるだろうけどね。」(ラムダ)

「…………では、始めるわ。…まずは、このカケラから。」(ベルン)

※ですからおそらくカケラに触れると、記憶が蘇るような感じで映像が頭の中に浮かぶのでしょう。これはEP7において以下のように理御がウィルからカケラを見せてもらっています。

ウィルが手の平を開くと、……そこに青白く光る、水晶片のようなものが現れる。これまでのゲームの、全ての記憶、……いや、棋譜だ。

「……こいつに触れろ。異なる世界での、お前の運命が見える。」(ウィル)

理御はゆっくりと……、カケラに触れる。すると猛烈な眩暈を起こし、操り人形の糸が切れたかのように、その場に無言でしゃがみ込む。無理もない。平行世界について理解のない人間が、異なる運命を無理やり理解させられたら、脳が膨張して自我を失うような錯覚を味わうだろう。

※覗き込んで映像が見えるのはプレビューのような感じでしょうか？　そして、我々プレイヤーがプレイしている各EPもウィルや雛ベアトが“読んだ”カケラと同じものなのでしょう。これらの内容を前提として、僕が想定している『うみねこ』の１番外側の物語は“魔女ベアトリーチェによる戦人復活計画”です。しかし、これを語る前に、そもそも魔女とは何なのか？　について考えを述べようと思います。まず、EP8において以下の内容があります。

“人は、望んで魔女になりはしない。生きることが出来るなら、人は誰だって、ニンゲンとしての生を全うしたいのだ。

……それが、何かの事情で躓くから、……魔女として生きる道が、開かれる。”

※つまり、魔女とはニンゲンとして生きられなくなった人が為る存在です。では、この作品における４人の魔女、ベルンカステル、ラムダデルタ、フェザリーヌ、ベアトリーチェはそれぞれ、どのような事情で魔女になったのでしょう。

“「その無力な魔女殿が、何人たりとも寄せ付けぬ力をお持ちなのだから恐れ入る。かの大魔女、ラムダデルタ卿を単騎にて退けられたのだから。」(ベアト)(EP1)

「……根競べに勝っただけよ。あの子が飽きただけのこと。」(ベルン)”

“………ひどいことになったわね。私もラムダとのゲームで、だいぶ悲惨な末路というのを経験してきたつもりでいるけど、………今回のは、……群を抜いて酷いわ。…あなたが膝を抱いて心を閉ざしてしまう気持ちもわからなくない。こんな末路を、あと何度もやられたら、百年を待たずに心が殺されてしまうわ。……ベアトに看破されてしまったから白状する。今のあなたは、かつてラムダの世界に囚われていた頃の私にそっくりなの。過酷な運命の迷路に閉じ込められ、魔女にいいようにいたぶられている。…私はそこから生まれた魔女。(EP2)”

“それにしても。相変わらずベルンが選ぶ駒はショボイわねぇ。チェスだってそうでしょ？　駒が全部ポーンだったら勝ち目ゼロでしょう？　駒が全部ルークやビショップだったら絶対負けやしないわ。……ま、まぁ、前回は私がついつい哀れになって好きな場所から駒を進めていいわよって言ったら、ベルンのヤツ、お情けの空気も読めずに手持ちのポーンをぜーんぶ入城させた状態から始めて！！　何よあれ、あんなの負けでも何でもないんだからぁ！！　あぁ、思い出しただけでもむかむかするわ。(EP2)”

“「ラムダデルタ卿も、………かつて、どこかの大魔女のゲーム盤で、駒と弄ばれ、無間地獄に閉じ込められた経験がおありとか…。」(エリカ)(EP6)

ヱリカはまるで、相手の恥ずかしい思い出を穿り出したかのような、いやらしい勝ち誇りの表情を見せる。しかし、一方のラムダデルタはうろたえもせず、……しかし、相槌さえも打たず、バルコニーより眼下を見下ろしていた。

「………あるわ。……私は何年閉じ込められたかしら。……ベルンみたいに、私も律儀に数えていればよかったかしら…。………うぅん、多分、数えなくて正解だったわ。数えてしまったから、………ベルンは壊れてしまったのよ。」(ラムダ)

「我が主も、………ロジックエラーの地獄に落ちたことがあるというのですか…？」(エリカ)

「あるわ。ロジックエラーを起こしたのはあの子ではないけれど。」(ラムダ)

「……主がゲームマスターではない…？」(エリカ)

「そうよ。……当時、あの子はまだ、自覚さえしていない小さな駒だったわ。ロジックエラーを起こしたのは、ベルンの主であるゲームマスターだった。」(ラムダ)

「……我が主も、……魔女の駒だったのですか。」(エリカ)

「えぇ。………あの子の主、……これがまた酷いヤツでねぇ。……自分で作ったゲームのはずなのに、途中でゴールがわからなくなっちゃって。……スタートとゴールがつながった、ドーナツみたいな、壊れたすごろくを作ってしまったのよ。」(ラムダ)

「ゴールをなくしたとは……？」(エリカ)

「ロジックエラーってことね。……どうやれば自分の望むゴールに辿り着けるか、そいつは自分のすごろくを、ロジックを描けなかった。だからいつまでも、すごろくは壊れたままで、ゴールがなかった。」(ラムダ)

「……ならば自分一人で、静かにそれを悩んで考え出せばいいのに。……そいつはあろうことか、その考えることさえも、駒であるベルンに任せっきりにしたのよ。………“無限の猿の定理”って、知ってる？」(ラムダ)”

“「そう。……もはや、……無限にも等しい時間よ。………それほどの、気の遠くなる時間を、……あの子はずっと、……“奇跡”を打ち出すまで、タイプライターを叩かせ続けられたのよ。」(ラムダ)(EP6)

「それが、“奇跡”の、……魔女…？」(エリカ)

「あの子が魔女じゃなかったら、いえ、魔女になれなかったら。……多分、今も永遠に、タイプライターの前に括りつけられた黒猫のままだったわ。……あの子は、奇跡に愛され、……見事に“奇跡”を打ち出し、…魔女となって、あの地獄を生還したの。」(ラムダ)

「その地獄があまりに長過ぎて、過酷過ぎて、……あの子の心は、すっかり壊れてしまった。だから、あんなにも意地悪で残酷な魔女に。………あんたも、選べるならあんな主は嫌だったでしょ？」(ラムダ)”

“「……肉を喰らい、選ぶ道もあることを学んだ猫よ。……久しぶりであるな……。」(フェザ)(EP6)

「あんたが教えなきゃ、気付かずに済んだ道よ。……肉の味を教えたバケモノ。………生き返ったのね。………フェザリーヌ・アウアウローラ…。」

「……アウグストゥス・アウローラであると…。そなたには、何度教えても覚えぬな…。

…良い。それもまた、懐かしい……。噂は聞き及んでいるぞ…？　………奇跡の魔女、ベルンカステルを名乗り、………あまり褒められぬカケラ遊びをして回っているとな……。」

「あんたの真似をしてるだけよ。到底、及びやしないけれど。……もし私の噂が良からぬものならば、あんたはそれに百を掛けるべきだわ。」”

※これらの内容からまず、気がつくことは「どうもおかしい」ということです。ベルンは『ひぐらしのなく頃に』の古手梨花が魔女化した存在と考えられます(“その１”“その２”)。ところがその原因がハッキリしません。EP2においてベルンは「ラムダに囚われていたぶられた結果、自分は魔女になった」というようなことを言っています。ところが逆にラムダは「情けをかけたからベルンに負けた」と言っています。それならばベルンはラムダに勝って囚われの身から抜け出したわけですから“ニンゲンとして生きられなくなった”のではなく、魔女にはなりません。そしてEP6においてラムダは「ベルンは主によって地獄に送り込まれたが、魔女になったことによってそこから抜け出した」と言っています。しかも“奇跡”を打ち出したことによって魔女になったということですから、やはり“ニンゲンとして生きられなくなった”わけではありません。そしてフェザリーヌはベルンのことを“肉を喰らい、選ぶ道もあることを学んだ猫”と呼んでいます。ラムダがベルンに負けたのは『ひぐらしのなく頃に解　祭囃し編』のことであると考えられますし、勝ったはずのベルンが魔女になってしまったのは『ひぐらしのなく頃に礼　賽殺し編』が原因であると考えられます。しかし“賽殺し編”において肉を喰らって道を選んだ梨花は、人間として現実世界に復帰しているはずです。やはり魔女にはなりません。ぶっちゃけてしまうと、おそらく竜騎士０７さんはファンタジー設定に関してはきちんと設定を詰めていないのでしょう。結構、適当に書いてしまっていると思われます。これは他の魔女も同様です。

“そんな退屈なニンゲンたちの中で、少しは骨があると思う少女にあったことがある。彼女はじっと悩んだ挙句、私にこう言ったわ。

「私の努力が、絶対に叶うという保証を下さい。」”

“「教えなさいよ。貴女の本当の願いは何？　貴女が絶対に叶えるという、約束された運命とは何…？」(ラムダ)

「私は、神になります。」

その一言で。私の心は決まったわ。私は彼女の願いを叶えた。彼女の努力が絶対に叶うという保証を与えた。”

“その少女は、よく頑張ったと思うわ。ただ、私も少し買いかぶっていたところがあったかもしれない。残念ながら、私の期待した世界へは遥かに及ばなかった。でも、それでもいいの。だって彼女が新たな魔女を生み出し、私のもとに送り届けてくれたのだから。”

※上記は『ラムダデルタ卿による回想記』からの抜粋ですが、鷹野三四とラムダが別人になっています。そしてやはり鷹野三四がベルンを生み出したことになっています。

“「えぇ、そうよ。あんたのゲーム盤は実に見事よ。ベルンカステルが、百年は愚か、千年を費やそうとも絶対に勝つことのできない、実に見事で完璧なゲーム盤よ。……だから私はそれを借りることの引き換えに、あんたを魔女にしてやったのよ。………私があんたの後見人を辞めれば、あんたはすぐにニンゲンに逆戻り。…どんなにすごい魔力を持っていても、…あんたは仮初の魔女でしかないことを、……決して忘れないことよ。」(ラムダ)(EP3)”

“「異議提出！！　戦人はプレイヤーを追放されただけでなく、魔女の地位を持たない…！　上告する資格を持たない…！」(エリカ)(EP5)

「異議却下！！　もうね、あるのよ、彼には。……絶対の魔女、ラムダデルタの名において認めるわ…。……右代宮戦人…！　あなたを、新たな黄金の魔女、……いえ、………無限の魔術師、右代宮戦人と認めるわ…ッ！！！」(ラムダ)

「……な、…何ですって……。……ば、……戦人が、………魔女の位を……?!」(ヱリカ)

念願だった魔女の位を、戦人はあっさりと認められる。しかもそれは、仮初のものではない。……ラムダデルタの名による、正式、正当な認定だ。”

※ベアトはラムダに認められたことによって魔女になっていますし、戦人も同じくです。ならば、ラムダとベルンは誰にどのようにして認められた魔女になったというのでしょう？　フェザリーヌの設定がおかしいことは『最考考』の“■フェザリーヌ・アウグストゥス・アウローラ”で取り上げていますし“■フェザリーヌの秘密”でも取り上げます。これだけ無茶苦茶なものをまともに考えていてもどうしようもありませんので、僕は“魔女とはニンゲンとして生きられなくなった人が為る存在”と定義し、『ひぐらしのなく頃に』の古手梨花が魔女化した存在がベルンカステル、同じく鷹野三四が魔女化した存在がラムダデルタ。そして『うみねこのなく頃に』の安田紗音が魔女化した存在がベアトリーチェ、同じく八城幾子が魔女化した存在がフェザリーヌということにしてしまいます(フェザリーヌは『ひぐらし』の羽入の設定を引き継いでいる部分がありますが、無視します)。梨花と鷹野が何故、魔女化したかは上記の内容で大体説明がつくと思いますし、紗音も『うみねこ』の物語が理解出来ていれば、特に説明はいらないかと思います。問題はフェザリーヌです。何故、八城幾子は“ニンゲンとして生きられなくなった”のでしょう。これは完全な推測になるのですが、もしかすると“十八を拾わない幾子”がいる世界があったのではないでしょうか？　その世界の幾子は蟄居したまま、理解者を得ることもなく、ただ孤独に生き、年老い、死んでいくしかなかったのです。そのため魔女になったのではないでしょうか？　そして“魔女になる”と言っても、人がそのまま魔女になるのか、死んだ時に魔女になるのか、あるいは想念のようなものが本体から抜け出て魔女になるのか、解りませんが、とにかく“魔女になった”魔女は“虚無の海”と呼ばれる異世界の住人となります。この“虚無の海”の設定も竜騎士０７さんはきちんと詰めていないでしょうが、元老院があり、天界大法院がある完全なファンタジー世界です。この部分の設定が適当であることは、以下のように竜騎士０７さん本人が語っています。

(聞き手)『Ｅｐ８』ではファンタジックな描写が沢山出てきましたが、今回登場した幻想世界の描写についてお聞かせ願えますか？(真相８)

広大な虚無の海の中に、可能性や幻想、妄想の数だけかけらが浮いていて、そのかけらが島や領地と呼ばれている。『ＯＮＥ　ＰＥＡＣＥ』で言うところのグランドラインみたいな感じですか(笑)。なんともいえない不思議な空気感がありますね。そこに世界政府ならぬ元老院と呼ばれる組織が存在する。組織に関しては、謎めいた雰囲気を楽しんでもらえるだけでいいかなと思いました。

※“虚無の海”において、魔女は絶大な力を持ちます(魔女によっては自分の領地限定？)。しかし、それはEP6において戦人が苦しんだような世界でもあります。何でも出来る代わりに、自分が生み出す存在は全てが駒であり、自分の思い通りにしかならないのです。そんな世界において魔女のベアトは“戦人の復活”を目論見ます。そのためにベアトが用意したのがゲーム盤です。そしてベアトが戦人復活の依り代として用意したのが、自由意思を持つ代わりに、ベアトの思い通りにはならない“プレイヤーの戦人”です。魔女のベアトはそんなプレイヤーの戦人の対戦相手として“駒のベアト”を作ります。このベアトは自分を黄金の魔女と信じ、戦人に勝つことで魔女として復活出来ると信じているという設定です。魔女のベアトはある奇跡に願いを託し、ゲーム盤、プレイヤーの戦人、駒のベアトを使ったゲームを始めます。その奇跡とは、紗音との約束を忘れたという設定のプレイヤーの戦人が、ゲーム盤における“黄金の魔女(駒のベアト)”との戦いの中で紗音との約束を思い出したなら、自分を愛してくれた戦人が復活するという奇跡です。そのためにゲーム盤の核として現実世界に存在するメッセージボトル及び偽書を採用します。もともとメッセージボトルは、魔女のベアトの前身である現実世界の紗音が、真実の語り手を生み出すために書いたミステリーですし、現実世界でも同じようなことをしようとしたわけで、これほどこのゲームの核に相応しいものはないでしょう。これは真実を知る戦人の監修を受けたであろう幾子の偽書も同じくです。そして魔女の力によって過去の現実世界での実際の出来事をちりばめた上で、メッセージボトル及び偽書を幻想修飾し、ゲーム盤として仕上げます。そうしてゲームを始めるわけですが、EP4まで至っても戦人は約束を思い出しません。失望した魔女のベアトはゲームを降りてしまいます。そしてEP5においては抜け殻だけが残り、駒のベアトは魔女のベアトの干渉なしに、初期設定されたＡＩで自律行動しています。しかし、EP5のラストにおいて、とうとうその抜け殻さえも消えてしまいます。その結果、駒のベアトも消えてしまいます。この関係性はEP6における以下の内容で理解出来ると思います。

「でも、……どうかしら。…魔女のゲームの駒なら、簡単に生き返らせることが出来るんでしょ。……でも、お姉ちゃんの世界では、さくたろうは蘇ることが出来なかった。」(縁寿)

「……世界でたった一つのぬいぐるみという依り代が失われたからだ。だから、駒の存在条件が崩れ、真里亞のゲーム盤では復活することが出来なかった。……そなたが、その存在条件を再び満たしてやったからこそ、さくたろうはゲーム盤に蘇ることが出来たのではないか。」(フェザ)

「………確かに。」(縁寿)

真里亞お姉ちゃんは、ぬいぐるみという依り代を失ったから蘇らせられなかっただけ。……ベアトのゲーム盤における私の家族みたいに、“依り代”が必要なかったなら、いくらでも蘇らせることは出来たのだ。

「そうね。……確かに、さくたろうはお姉ちゃんの駒かもしれないわ。少なくとも、依り代が無事である限り、何度でも蘇れる存在だわ。」(縁寿)

「そう。依り代が無事である限り、何度でも蘇ることが出来る。それが駒の命というものだ…。」(フェザ)

「……それが、この世界での死における１つ目。……もう１つは？」(縁寿)

「ゲーム盤の外の存在の死だ。さくたろうの話で続けるなら、この場合は、真里亞の死だ。」(フェザ)

「駒じゃなく、……本当のお姉ちゃんの死、ね。」(縁寿)

「死だけではない。興味や関心の喪失でも同じだ。……真里亞がぬいぐるみ遊びを卒業すれば、ゲームのプレイヤーとしての真里亞は死ぬ。さながら、テレビに飽きてスイッチを切るかのように、簡単にあっさりと。」(フェザ)

「………なるほど。つまりプレイヤーとしてのベアトは、前回までのゲームで、勝利を完全に諦めたので、……死んで消え去ったわけね。…ならつまり、ベアトが再び、お兄ちゃんに勝てるつもりになって戻ってきたら、生き返るってことだわ。」(縁寿)

※縁寿は「ベアトが戻ってきたら生き返る」と話していますが、抜け殻が消えた時点で、魔女のベアトは完全に死んでしまいました。これは以下のようにフェザリーヌが赤字で宣言しています。

「ベアトは、勝てる道理も希望も全て失った。……それを知りつつ気付かぬふりをし、あれだけのゲームを戦ってきたのだ。だからもう、ベアトは戻らない。彼女の希望は潰えた。気を取り直して再び戦う気力の全てを、もう費やしている。だから。……《赤：あのベアトリーチェが蘇ることは、二度とない。》」(フェザ)(EP6)

※ＥＰ５のラストにおいてプレイヤーの戦人は紗音との約束を思い出し、魔術師に昇格します。しかし、もう魔女のベアトは消えてしまっています。そこで戦人はEP6において、かつて魔女のベアトがしたことと同じことをしようとします。そのための依り代として生み出したのが雛ベアトです。そして戦人の目論見どおり、雛ベアトは魔女のベアトとして復活します。しかし、それでも元の魔女のベアトは消えてしまったわけで、EP7における冒頭での以下の場面は“消えてしまった魔女のベアト”の為のものです。

ワルギリアは魔女の祈祷を終えると、たくさんの美しい薔薇に飾られた祭壇の、棺の前を退く。代わって、領主のマントを羽織った戦人が棺の前に立った……。マントは威厳と貫禄を示しているはずなのに、むしろ戦人を、一際、小さく見せた。戦人は手に、厳かな装丁の本を持っていた。それは、……記されたばかりの、棋譜。あるいは物語。あるいはゲーム。あるいはカケラ。彼女にとって、……もっとも楽しい、“夢”が、描かれている……。戦人はその本を自らの額に当て、ほんのしばらくの間、静かに瞑想した。

「……………………………。」(戦人)

そして、それに口付けをしてから、……そっと、棺の中に置く。それは彼女の胸の上に置かれる。それはまるで、幼い少女が寝入り端に抱いた、大切なぬいぐるみのように見えた……。

「……これは、俺からお前に捧げる、……唯一の物語だ。」(戦人)

この物語は、お前と一緒に、永遠に棺に閉ざされる。だから棺の中のお前以外、誰にも読むことを、許されない。

「猫箱に閉ざされた、唯一、不変、不可侵の、……永遠の物語。」(戦人)

「だから、……誰にも物語を汚せない。……否定できない、反論できない。……俺とこいつだけの、……二人だけの、唯一絶対の、真実。」(戦人)

※そしてEP8は魔術師になった戦人と復活した魔女のベアトによる、縁寿救済の為のゲームです。ベルンと戦人は真剣に戦っているように見えますが、実際はお芝居のようなものなのかもしれません。何せ、以下のような会話がありますから。

「……また、こんな愉快な物語を見つけられるといいわね。」(ベルン)

「今度は、ベルンが憎まれ役じゃないといいわねー。」(ラムダ)

「あら。悪役も楽しかったわよ。」(ベルン)

とは言っても“虚無の海”の住人は現実世界にはほぼ干渉出来ないか、出来てもわずかにしか干渉できないため、縁寿は白昼夢、もしくは幻覚として、このゲームを認識します。そして魔術師になった戦人と魔女のベアトの想いを(あるいはベルンの想いも)このゲームによって理解し、ビルから飛び降りるのを止め、寿ゆかりとして生きていくことになるわけです。縁寿がベアトのゲームを“知っている”ことは以下の内容で解ります。

……私はもう、……理解しかけている。やはり、……そうなのだ。右代宮戦人は、…………あの日に、死んだのだ。だって、………魔女があんなにも、赤き真実で、兄は死んだと、繰り返してたじゃないか…。………いつだってみんなは一緒にいると誓った、未来の魔女が、……反魂の魔女が、…………情けない……。

ちなみに魔女は、魔女になった瞬間から時間軸の制限を受けなくなると考えられます。これは『Fate/stay night』の英霊システムと同様でしょう。これは、この作品を知らない人の為に簡単に説明しておきますと、功績のあった人間は死後“英霊”として精霊のような存在になれるのですが、英霊になった瞬間から、通常の時間軸とは違う世界に移行します。その結果、西暦２０００年に英霊になった人が、西暦１５００年に召喚されたりするのです。魔女もこれと同様の存在であるため、現実世界の過去の出来事も、そして未来の出来事さえ、自由にゲーム盤に組み込むことが出来るのでしょう。何せ『ひぐらし』は昭和５８年、つまり１９８３年の出来事ですから、ベルンもラムダも魔女としては新米のはずなのです(あるいはラムダの前身は“努力が報われなかった鷹野三四”なのかも…)。原作では以下のようなやり取りがありました。　

「あら、エヴァ。ちょうど良いところへ。」

「お呼びでしょうか、我が主。」

「その挽き肉のゴミを捨てておいてちょうだい。私はこれを戻してくるわ。」

ベルンカステルの手には、縁寿が選択を終えて魔法を失った鍵と、再び施錠された一なる真実の書があった。

「畏まりました、我が主。」

※これはコミックEP8では以下のように変えられています。　

「あらエヴァ　ちょうど良いところへ」

「ご用でしょうか　我が主」

「その子達と一緒にその挽き肉のゴミを片付けておいてちょうだい　私はこれを戻してくるわ」

「死骸はいかがしますか？」

「虚無の海にでも適当に放り込みなさい　ベアトのハラワタを暴いてやるために何度かループさせて駒にしてきたけど　完全に用済みになったから」

「畏まりました　我が主」

※１度目のループはEP3の最後で絵羽の死後、ビルの屋上から飛び降りた時です。本来、縁寿はこの時に死んだはずでしたが、それを途中で掻っ攫って駒にしました。２度目のループはEP4で六軒島への真実を求める旅が終わった時です。終点である六軒島で縁寿は天草に射殺されました。３度目はEP7の劇場で理御と一緒に座席に縛られていた時です。この時に肉塊になったのは、縁寿の本来の死因が、ビルからの転落死だからです。EP8は戦人に呼ばれた為、ノーカウントでしょう。

■EP1の源次は嘉音を認識している？

※取りあえず、この画像をご覧下さい。これは原作では以下のようになっています。

「……………どうした。何かあったか…？」(源次)

「…しゃ、……紗音は何も悪くないのに、あいつら…、」(嘉音)

※そのため、『最考考』では“この場面の源次は嘉音を認識していないのでは？”というようなことを書きましたが、これは僕の考察が間違っているのかもしれません。ただ、竜騎士０７さんの監修ミスの可能性もありえます(微妙な変更ですから)。何にせよ“何事もない”わけではありませんので、源次の発言は不自然ではあります。

■EP1の第一の晩において、食堂で本当に６人も殺されたの？

※まず、原作における、EP1の第一の晩の状況についての説明をご覧下さい。

彼らは次々に食堂に飛び込むが、熊沢が真っ青になるほどの変化は見つけられなかった。…あの倉庫の凄惨さを知る者たちにとって、それは一瞬、拍子抜けだった。だが、後から来た熊沢が指差して教えてくれた。……確かに、床に血の跡が残っていたのである。…あの惨状を思えばそれは決して派手ではない。…しかし冷静に考えたなら、これは相当の出血を物語るのに間違いなかった。

「…………ここにも血溜まりがあるよ。…………これは一体……。」(譲治)

※次にコミックEP1における客間での状況をご覧下さい。この差は一体何なのでしょう？　食堂で殺されたとされているのは６人です。一方で客間は３人です。３人でさえ、これほどの惨状になるのですから、本当に食堂で６人も殺されていたら、食堂はもっと凄まじい状況になっていたはずです。もっとも、客間の状況は「ベアトリーチェがやった」ということで、偽装されている可能性がありますし、竜騎士０７さんの監修が甘いためかもしれません。ちなみにコミックEP1における食堂の状況では、血溜まりは２つどころではありませんが…。それでも客間とは隔たりがあり過ぎます。

■EP1の夏妃の死亡状況

※僕は『最考考』でEP1の以下の描写は、戦人による誤認の可能性を指摘しました。“微かに香る硝煙の臭いは、夏妃伯母さんが握ったままのライフル銃の銃口から。”ところがコミックEP1では、銃口から煙が出ています。これを信じるならば、戦人の誤認はなさそうです。

■EP2の紗音はどのように自殺したの？

※EP2の紗音は自殺であることが、竜騎士０７さんによって明かされています。

(ＥＰ２の夏妃の私室について)あれも井戸のトリックと同じなんです。紗音は化粧台の前でうつ伏せになって死んでいるんですよ。簡単なトリックです。銃と重い物を紐で結んでおき、重い物を化粧台の後ろに放り込んでおきます。そして自殺すれば、銃が重い物に引きずられて化粧台の裏に消えるという、古典のトリックです。(最考散)

※ところが、コミックEP2を見る限り、竜騎士０７さんが説明している方法は使えません。化粧台が壁に密着しているため“化粧台の後ろ”がそもそも存在しないのです。考えられるのは、右側の上の引き出しがもっと引き出してある状況で銃を撃ったが、紗音の体が倒れる時に体に押されて引き出しが閉まった、というものです。引き出しの位置が低いため“重い物”が銃を引きずることができる距離は僅かです(あるいはゴム紐？)。体に押されて引き出しが閉まるのも計算に入れてのトリックなのかもしれません。もしくは“重い物”は銃だけでなく、引き出しも引っ張るように細工してあったのかも。(以下追記)コミックEP7で解答が示されましたが、なんと化粧台の形状が変更されています。単なる監修ミスかい！

■EP3の“黄金の真実”におけるベアトリーチェ

※まず、コミックEP3における黄金の真実の場面をご覧下さい。ベアトは自分の胸を確認しています。何故、確認する必要があったのでしょう？　それは、実際には胸がないからです。ただ、これが“夏海ケイ”さんが自分で描いたものなのか、竜騎士０７さんの指示で描いたものなのか、判断はつきません。

■EP3の譲治と南條は誰が殺したの？(追記)

※『最考考』で書いた内容に不備があったことに気がつきましたので、追記します。魔女の碑文に以下の内容があります。

第九の晩に、魔女は蘇り、誰も生き残れはしない。

※譲治も南條も第九の晩以降に殺されている訳で、つまり儀式が終わったことでベアトは黄金の魔女として復活し、約束もリセットされたという解釈もありえるのだなと、今更にして思いました。

■EP3の秀吉の死亡状況

※コミックEP3では戦人とエヴァの戦いにおいて、秀吉の死亡状況が以下のように描写されています(“その１”“その２”)。実はこの場面で出てくる“《赤：絵羽は秀吉を殺していない！》”という赤字は、原作には存在しないものですし、そもそも原作でのこの場面の扱いは以下の通りです。

「ワルギリア、次の事件だ！　親父たちの事件を再構築！！」(戦人)

「了解。留弗夫、霧江、秀吉の３人は、屋敷へ向かい、そこで殺されました。」(ワルギ)

「俺からの指し手は変わらない。絵羽伯母さん、あんたが犯人だッ！！　今度は秀吉伯父さんのアリバイすらねぇぞ！！　あんたはたったひとりで部屋で寝ていたと主張している。しかしそれは虚偽だッ！！！　赤で宣言できるものならしてみやがれッ！！」(戦人)

「……拒否するわッ。…なら教えてよ！　絵羽はただの女よ。そして殺されたのは、銃を２丁も持つ大人が３人よ？　彼女がたった１人でどうやって殺したというの？　凶器の杭でどうやって？　話によく出る、杭の射出機ってどんな構造をしているのよ?!　それを説明してよ！！　それが説明できない限り、絵羽にアリバイがないとしても、絵羽に殺人が可能だったことにはならないわよ！」(エヴァ)

「説明拒否ッ！！　“悪魔の証明”だ！　説明不能だからといって、未知の殺害方法、もしくは未知の凶器の存在を否定できない！！　つまりッ！！　俺が杭の射出機の構造を説明できなくても、その存在を否定することにはならない！！」(戦人)

「なッ、何よそれぇ！！　そんな滅茶苦茶って通るの?!」(エヴァ)

「……“悪魔の証明”、有効です。」(ロノウェ)

「同じく。“悪魔の証明”、有効です。……戦人くんは、その射出機の構造を説明する義務を負わずに、その存在を主張できます。魔女側はこの手を反論できません。」(ワルギ)

※「説明不足だった」と考えていた竜騎士０７さんが、コミックでは説明を追加してきたのだと思われます。(以下追記)コミックＥＰ７で驚愕の事実が明らかとなりました。何の為にコミックEP3の説明は追加されたのでしょう？

■EP3のベアトの心臓

何とベアトは、……心臓だけになっても、まだ鼓動を続けて、客間の結界を守り続けているのだ。(EP3)

宙に浮いていた黄金の心臓は、…輝きを失い、血塗れの肉塊となって床を転がっている。(EP3)

※EP3において、目を負傷した朱志香を嘉音が客間まで導き、エヴァから匿いました。そして、客間の前でベアトの心臓がエヴァを足止めし、最後には力尽きました。実はこれ、幻想修飾なのではないでしょうか？　

絵羽は朱志香の姿を求めて客間の前まで来たものの、ベアトリーチェに地下貴賓室から先に進むための鍵を渡す交換条件として朱志香を見逃した。あるいは爆発時間に間に合わなくなるので、朱志香の探索を諦めた。など、ベアトの心臓が絡む理由によって朱志香を殺せなかったのを、幻想修飾したのがあの場面、という可能性があります。

■EP3の魔女の手紙

※僕は『最考考』で「EP3の魔女の手紙は途中からになっているため、その前がこれまでのEPでの内容と同じとは限らない」というかなり無茶な説を紹介しました。ところが、コミックEP3では、手紙そのものが画として登場しています(“その１”“その２”“その３”)。ちなみにコミックEP2でも魔女の手紙が画で登場しています。レイアウトが同じであるため、両者は同じものであると考えられ、コミックを信じるならば、この無茶な説は消滅です。

■EP5の解答は？

※コミックEP8の４巻において、縁寿を追う戦人の前に立ちふさがったヱリカが、EP5の解答を説明します。まず、紗音と嘉音は同一人物であることが示されています。“Ｘ”というのはもちろん紗音です。探偵の観察眼をもってしても、変装は見抜けなかったようです。ヱリカはEP6の最後の場面でも、このトリックに気が付かなかったようです。戦人には、この時、嘉音が“見えていた”のです。作品中に描かれていなかった場面についても語られています。この赤字は原作にはなかったものです(同様の内容はありますが)。くどいようですが、戦人には紗音と嘉音を同時に目撃出来るのです(その１、その２)。共犯者には紗音と嘉音を同時に目撃出来るということなら(その１、その２)、このEP5の夏妃と蔵臼には無理なのかもしれません。“駒戦人”と表現されているのは、この時、プレイヤーの戦人はゲームに参加していないからです。一応、ベルンカステルが操っていたことになっていますが、おそらく嘘で、実際は単にＡＩで行動しているだけでしょう。僕が意外だったのはEP5にきちんとミステリーとしての動機があったことです(その１、その２)。これはEP5の以下のやり取りに出てきた内容の答えです。

「あの魔女どもに、ベアトのゲームは理解できるのか。」

「…同じゲーム盤を使う以上、この子に出来ないことは出来ません。……しかし、この子がやらないことはやれます。」

「…………………。…やらないこととは何だ。」

「チェスの道具はチェスで遊ぶために存在します。それを使ってトランプをすることは“出来ない”。しかし、チェスの駒を相手に投げ付けてぶつけたり、チェス盤に落書きしてみたり。そういう行為をすることも不可能ではありません。しかしそれは、チェスに対する冒涜だから、誰も“やらない”。」

※これがEP5の構造ということになります。駒本来の人間性に反したことを行わせるのは難しいようです。反論出来ない、つまりこれが公式解答ということです。事件の流れはこんな感じになるようです(その１、その２、その３、その４、その５、その６、その７、その８)。ただ、これがありますので、電話をしたのは戦人ではなくベアトリーチェということになるようです。原作では夏妃の部屋の前に嘉音がいるのですが…。

■EP6の姉ベアトと雛ベアトはどういう存在？

※僕は『最考考』の“■ベアトリーチェは駒のベアトとゲームマスターのベアト、二人いる？…088～”において「ベアトリーチェは２人いる」と説明しましたが、EP6の“姉ベアト”と“雛ベアト”、これがまさに２人のベアトです。“２人が合わさった時、本当のベアトに戻れる”ということでしたが、ベアトの復活シーンは以下のように描写されています。

“ベアトの脳裏に、………屋敷の、ゲストハウスの、薔薇庭園の、……図面が次々に蘇っていく……。トリック。錯誤。誘導。

　からかう。引っ掛ける。一緒に笑う。……こんなトリックを知ってますか…？　前に読んだ本に、こんなトリックが……。　ベアトの瞳が、どんどん見開かれていく……。そこには無数の光が、渦を巻いて飲み込まれていく。”

※雛ベアトが単独で記憶を取り戻したことでベアトは復活しました。つまり“２人が合わさった時、本当のベアトに戻れる”というのは勘違いだったわけです。

“「………私は生まれます。お父様のために。……戦人お父様のために生き、尽くすために生まれます。」”　

このような決意によって生まれた雛ベアトでしたが、その隣には姉ベアトがいました。何故、こんなことになったかと言いますと、ここが“ベアトのゲーム盤”だったからでしょう。戦人の対戦相手としてのベアトは“駒のベアト”に“ゲームマスターのベアト”が宿ったベアトです。ですからゲームマスターのベアトである雛ベアトが生まれたことで、同時に宿主である駒のベアトも復活したのです。ちなみに姉ベアトが駒であることは、以下の竜騎士０７さんの発言でも示唆されています。“ルールを理解していれば「黄金の真実」は誰にでも使えるもので、究極的にはゲームの「駒」でも使えるものなのです。だからベアトリーチェ(姉)も使えたのでしょう”。

■EP6の解答は？

コミックEP8の４巻において、EP5に続いてEP6の解答も説明されています(その１、その２、その３、その４、その５、その６)。ようは“嘉音”が部屋に入った後、“紗音”になってクローゼットに入ったということです。

■EP6のクイズ大会でのチーズを等分にするには？

「……出題者は、８つに切り分けろとしか言ってません。等分は条件に含まれませんでした。……まぁ、折り方を工夫すれば等分も可能ですが、お頭の硬い皆さんには、説明が混乱するので省きます。うっふふふふふふふ……。」(ヱリカ)

※との発言がありますが、コミックEP6の図を使って、この方法を示します(図を少し加工しました)。

■EP6のロジックエラーの脱出方法は？

※まずEP8において以下の内容があります

…………嫌な予感がする。こんなはずはない。このゲーム盤のゲームマスターは自分(戦人)だ。なのに、ゲームマスターに把握できない事態が起こるなんて、あるものか…。

※穿って解釈すると「じゃあ、何でEP6ではあんなに苦しんだんだ？」というツッコミも出来ますが、EP6はヱリカとの真剣勝負だった為、意図的に情報を遮断して戦っていたのでしょう。

「だから戦人は、今やこの世界の、物語の、ゲームの全てを理解している。……それはつまり、ゲームの支配者の地位を得たということよ。……くすくす、それを信じたくないでしょう、ベルン?!」(ラムダ)(EP5)

※ということですから、そんな戦人がロジックエラーに陥ってしまった以上、以下の赤字を潜ることは事実上不可能なのです。

《赤：(嘉音に戦人の救出が可能よ。ヱリカ封印後に窓を出て客室の戦人くんと入れ替わり、チェーンロックを閉めて、クローゼットに隠れた。) 不可能デス。窓も封印を維持していマス。無論、ロジックエラー時にデス。ロジックエラー時に隣部屋の窓の封印が暴かれていたことを理由とする青き真実の使用を禁じるものと知り給え。当該の青き真実への回答義務は、発生しないものと知り奉れ…！》

※また、フェザリーヌも以下の発言をしています。

「……あるいは、……窓の話をせずに、隣部屋の５人の誰かが助けに来られたことを説明するか。」(フェザ)

「窓の話をしないってことは、窓を使わずに部屋を出るってことだわ。それでは隣部屋だって密室と変わらない…！」(縁寿)

「……ふむ。……だから私も困ってしまった。……このおかしな封印宣言のせいで、２つの部屋は再び密室に戻ったも同然になってしまった。……恐らくだが、」(フェザ)

「恐らく何？　八百万を束ねて超えるっていうあんたの知能ならどんな答えが見つかるの?!」(縁寿)

「……………答えは、ない。」(フェザ)

「ない?!　ないって何！」(縁寿)

「隣部屋の窓以外に、出口はない。……にもかかわらず、隣部屋の窓を推理に組み込むことが許されぬ。…………この密室を解く答えは、恐らく、ない。」(フェザ)

※フェザリーヌほどの魔女が「答がない」という以上、この赤字は抜けられないと考えるのが妥当です。ちなみにその後、フェザリーヌは以下の発言をします。

「……………………。……いや、一手、あるにはある。……しかしその手は、………二度と使えぬ手だ。……そしてそれは、…ベアトの心臓の一部でもある。」(フェザ)

「この物語の、最大の謎の一つってこと…？」(縁寿)

「そうだ。………それを使えば、……あるいは何とか……。」(フェザ)

※これは“爆弾”のことを言っているのだと考えられます。爆弾を使って壁を爆破し、人が通れるような穴を開けることが出来れば、この赤字を潜ることが出来ます。しかし、そんなことをしてしまえばベアトの心臓を晒すことになってしまいます。ですから使うわけにはいかないのです。ちなみにこの発言から省略されている部分をフェザリーヌの発言に付け足すと、以下のようになります。

「……………………。……いや、一手(とても馬鹿らしい手だが)、あるにはある。……しかしその手は、………二度と使えぬ手だ(壁を爆破などすれば、爆弾の存在は隠し通せまい)。……そしてそれ(爆弾)は、…ベアトの心臓の一部でもある。」

※以上の内容で、この赤字は絶対に潜れないことが解りましたが、その一方で以下のやり取りがあります。

「これって重大なルール違反じゃないの?!　だって、正解が言えないクイズなんて、フェアなゲームじゃない！　これ、向こう側のロジックエラーじゃないの?!」(縁寿)

「……………………。……それがロジックエラーにならないから、こうして物語が続いているとも、受け取れる…。」(フェザ)

※あの赤字は抜けられないけれども、あの赤字によってロジックエラーにはならない。ということは、あの赤字を抜ける必要性自体がないと考えられます。この赤字で注目してもらいたいのは、もし、赤字で隣部屋といとこ部屋を封じるつもりなら、以下のようになっただろうことです。

《赤：不可能デス。隣部屋もいとこ部屋も(扉だけでなく)窓も封印を維持していマス。無論、ロジックエラー時にデス。》

※しかし実際は以下です

《赤：不可能デス。(いとこ部屋の)窓も封印を維持していマス。無論、ロジックエラー時にデス。》

《赤：ロジックエラー時に隣部屋の窓の封印が暴かれていたことを理由とする青き真実の使用を禁じるものと知り給え。当該の青き真実への回答義務は、発生しないものと知り奉れ…！》

※つまり赤字で両方の部屋を封じてしまうと、“正解が言えないクイズ”になってしまい、ロジックエラーとなるのです。これは逆から考えれば、正解は“隣部屋の窓の封印が解かれていることによって導き出される”ということです。しかし、これを理由に組み込んだ青き真実は使えません。ならば如何すれば良いか？　実際にこのロジックエラーを解決した、雛ベアトと嘉音の会話を振り返ると答は解ります。

魔女ってのは。

「謎を解かされる側じゃない。」(嘉音)

「……謎を、解かされる側じゃ、……ない……？」(雛ベアト)

「あぁ、そうさ。どうして魔女が、誰かの謎で頭を抱えてるんだい？　……頭を抱えるのは、魔女の仕事じゃないだろう？」(嘉音)

「じゃ、……じゃあ、……魔女の……仕事は……？」(雛ベアト)

「僕の知ってる黄金の魔女、ベアトリーチェというのは。……とびっきりの魔法で、誰にもわからない難問を生み出して、煙に巻いて嘲笑ってやるヤツを言うんだ。………誰にもわからない最悪の謎を作って、徹底的に煙に巻いて、扱き下ろしてやれ。相手に出された謎で頭を抱えるのはね、君じゃない。君の相手の仕事さ。」(嘉音)

※これを受けて、もう一度、このゲームのルールを確認してみましょう。

「そうね。赤き真実とはつまり、魔女が自由に行使できる権利。人間側が望んだ時に行使しなければならない義務ではない。……………ただし、内容によるわ。」(縁寿)(EP4)

「……内容……？　どういうことだ…。」(戦人)

「魔女はあなたの復唱要求に応える義務はない。ただし、あなたの主張によって、魔女説が打ち破られてしまう時のみ、義務が生じる。なぜなら、この裁判官なき法廷では、反論されないことは即ち“真実”だから。……あなたが思考停止に陥り、魔女の主張する魔女説を反論できなければそれが直ちに真実となって来たように。」(縁寿)

「……でも、だからと言って、復唱要求が戦人の反撃手段の一つであることに変わりはないわ。すでに言ってる通り、魔女は、魔女説を打ち破る致命的なものに限り、反論の義務、即ち、赤き真実を語ることが義務となる。……反論のタイミングこそ魔女の自由ではあるけれども、それは必ず履行されなければならない。………そうよね？」(縁寿)(EP4)

「ふむ、そうなるであろうな。ゲームの終了時までに妾が戦人の提唱する“人間によるトリック”を否定出来なかった場合、戦人はそれを理由に妾を否定し、勝利を宣言することが可能となろう。」(ベアト)

「………それは、人間側が提示する“トリック説”、即ち復唱要求は必ず、そのゲーム内（エピソード内）に反論されなければならないという、魔女側の制約という認識でいいのかしら？」(縁寿)

「そうなろう。……戦人の目的は、妾がこの島で繰り広げる愉快なゲームの全てを、人間で説明し妾を否定して見せることだ。それを戦人が成し遂げたなら、その時点で戦人はゲームの勝者となるであろうぞ。」(ベアト)

「ルール確認。……ゲーム終了時とは、ゲーム内の六軒島時間で１９８６年１０月５日２４時００分という認識でいい？」(縁寿)

「問題ないぞ。」(ベアト)

「そのゲーム終了時に人間側が、全ての謎についてトリック説を主張できていて且つ、魔女側から反論がない場合、人間側は勝利を宣言できるものとする。……問題ない？」(縁寿)

「………もう少し詳細としよう。ゲーム終了時に、魔女側には反論の機会が与えられるものとする。」(ベアト)

「時間を切ってもらうわ。１分よ。１分以内に反論が行なわれない場合、勝利は宣言されるものとする。」(縁寿)

「ならば同じルールをそちらにも課させてもらおうぞ。ゲーム終了時に、人間側は与えられた謎に対し１分間の反論時間が与えられる。その時間内にたった１つであっても反論されない謎が残った場合、魔女側の勝利となり、そのゲームは終了する。……長考を理由にゲームを止められては興を削ぐのでな？」(ベアト)

「妾が赤を使えるように。戦人、今よりそなたには青を使うことを許そう。そなたは、妾の魔法殺人を人間とトリックで説明する際に、青で宣言することが出来る。妾はゲーム終了までの間に、そなたの青を赤にて反論する義務を持つ。」(ベアト)(EP4)

「青……。……つまり俺は、復唱要求を“青”で語るということか…。」(戦人)

「少し違うぞ。復唱要求はどんな些細なことでも可能だった。しかし青はもう少し厳しいぞ。それ自体が魔女を否定しない限り、成立しない。」(ベアト)

「………………………。」(戦人)

難しい話になってきたが、…つまりこういうことだ。例えば、過去の謎で俺が復唱要求してきたことの１つ。「マスターキーの本数は５本である」。これは、５本しかないと主張するマスターキーが、本当に５本であることを確認するためのものだ。しかしこれだけでは、魔女の否定にはならないから青で宣言は出来ないのだ。だから、青で語るにはこう言わなくてはならない。“実はマスターキーの本数が５本を越えていた。犯人はその余剰の鍵で密室を出入りした！”……と、こうなって初めて、魔法で密室殺人を行なったと主張する魔女に、反論する義務が生まれるわけだ。つまり、推理の前提を確認するような復唱の要求には使えない。

※これがどういうことかと言いますと、魔女側が「魔法で行った」と主張した内容に対し、人間側は青字で「人間が行った」と追及します。

魔女側が赤字でそれに反論出来なければ魔女側の負け、反論出来れば人間側の負け、ということです。EP6においては攻守が逆転しているため、我々も戦人も勘違いしているのですが、そもそもベアトの主張は「魔法で行った」これだけで良かったのです。それを青字で否定するのはヱリカの側です。つまり、戦人がロジックエラーに陥ってしまったのは、ルールを誤認してしまったからであり、雛ベアトはそれを元に戻しただけなのです。

■EP7のウィルの推理の解答は？

※コミックEP7ではウィルの推理に解答がついています。まずEP1第一の晩。マネキンすら置いていません。

秀吉が今、見下ろしているその遺体は、…たまたま荷物の山奥の物陰で、入り口の譲治からは死角だった。

※正直、この描写とあっていない気もするのですが…。EP1第二の晩。EP1第四の晩。EP1第五の晩。EP1第六、第七、第八の晩。EP2第一の晩。EP2第二の晩。ようは以後、紗音として行動しているということです。EP2第四、第五、第六の晩。紗音が譲治に何か話していますが、その内容について竜騎士０７さんは以下のように説明しています。

紗音はあの段階で譲治へあることを問いかけたはずなんですよ。それに対して譲治は、彼女が期待する答えを出せなかったんだと思います。その結果、心中に及んだと考えるのが、私から出る一番シンプルな答えの一つじゃないかと。(中略)推理すれば、譲治が描く結婚後の未来像が彼女を苦しめていた、という考えには十分至れるかと思います。(中略)「将来は多くの孫に囲まれて過ごしたい」と、譲治はやたらと子どもがいる未来にこだわるんですよね。子沢山が彼の憧れなんですかね。それが彼女にとって非常にプレッシャーとなったことは、推測可能だと思います。(最考散)

※EP2第七、第八の晩。これは、はっきり言っておかしいです。“《赤：使用人が犯人であることを禁ずッ！！》

”に引っかかりますし、以下の竜騎士０７さんの発言があるからです。

源次が犯行を犯さないまでも、協力するだけで何とかなるんですよ。「見て見ぬふりをする」、あるいは「殺人はしなくても死体は運んでいる」とか。(最考散)

※EP３第一の晩。EP3第二の晩。EP3第四、第五、第六の晩。これもおかしいです。何かを黙っているとか、嘘の証言をするとかならともかく、買収されたとしても殺人まで引き受けるでしょうか。実際“Confession”においても“殺人代行が出来そうな人物”の中に秀吉の名はありません。性格、銃の扱いの点でも秀吉に留弗夫と霧江が殺せるとはとても思えません。二人は秀吉を詰問する為に連れ出した訳ですから、隙を見せるわけがないのです。もっとツッコんだ話はコチラをご覧ください。“買収されている”ということは、絵羽は碑文の謎を解いていないことになります。それならばEP2の楼座と同じく、九羽鳥庵に通じる通路の鍵を貰えていないことから、絵羽は爆発で死ぬはずです。考えられるのは絵羽が碑文の謎を解いた後、楼座と真里亞を殺してしまったことから、その隠蔽に協力する代わりに絵羽に殺人を引き継がせたというものですが《赤：妾(ベアト)は約束は守る。》がある為、殺人を続けさせることはこれに引っかかります。そもそも、何の為に殺人を続けさせるのか？　また、これを“買収”と呼べるのか？　これの応用として、碑文の謎を解いた者に全面協力する(絵羽の殺人を補助する)、というパターンも考えられますが、これも“買収”と呼べるのか？　EP3第七、第八の晩。睡眠薬入りのコーヒーを飲ませて、眠らせてから絞殺しました。東屋には台車で運んだものと思われます。EP4第一の晩。EP4第二の晩。EP4第四、第五、第六、第七、第八の晩。ようは全員を買収して共犯者にした後、順々に騙し討ちしていった訳です。EP4第九の晩。EP4「私は、だぁれ……？」の解答。

全体を通しての感想は「本当にこれ、公式解答なの？」です。特にEP3は幻想描写と実際の出来事がかけ離れ過ぎていて、考察など不可能です。こうなってしまったのには、３つの可能性が考えられると思います。まず１つ目「この推理は作画担当の“水野英多”さんが自分で考えた解答であり、公式解答ではない」。２つ目「何らかの理由で竜騎士０７さんは解答を差し替えた」。３つ目「何らかの理由で竜騎士０７さんは意図的に誤った解答を提示した」。１つ目と３つ目は無用に読者を混乱させる為、可能性は低いと考えられます。ですから、おそらく２つ目が正解でしょう。では、何の為に正解を差し替えたのでしょうか？　まず考えられるのが「絵羽の移動時間に問題があった」。

…留弗夫たちがゲストハウスを出てから、すでに３０分は経過していた。

※この状況で絵羽の叫び声が聞こえてきますから、絵羽は３０分の間に本館に行って、留弗夫と霧江を殺し、霧江に秀吉を殺され、３人に杭を刺して帰ってこなければなりません。かなり無理がありそうです。ですから「絵羽はゲストハウスを出ていない」ということにし、秀吉に殺人役を割り振ったのです。ちなみにこの場合、３人に杭を刺したのは紗音ということになります。次に考えられるのが「“ヴァン・ダインの二十則　第１２則。真犯人が複数であることを禁ず”に違反しない為」。本来、絵羽は共犯者ではなかったはずで、それならば、別の意図で殺人を行う真犯人が２人（紗音と絵羽）になってしまいます。そこで秀吉と絵羽を共犯者にすることで、この問題をクリアしようとしたのですが、逆に多くの矛盾と謎が発生した、こんなところではないでしょうか？　

■EP7のお茶会で語られた“六軒島爆発事故の真実”

※ちょっと気になったのが、霧江たちがその場にいた人間を全て片付けた時は存在した“黄金の魔女の遺体”が、絵羽が目覚めた時にはなくなっていることです。このタイミングで目覚めていたのなら、戦人以外にも誰か救えたのではないかと思うのですが…。

■絵羽は縁寿を憎んでいた？(『続・最考考』版)

※僕は『最考考』の“■絵羽は縁寿を憎んでいた？”で以下のように書きました。“最終的には絵羽は縁寿を憎むようになったものの、当初は愛そうと努力したし、最期の瞬間まで憎しみつつも気遣っていたと思われます。”コミックEP8において絵羽の告白(“その１”“その２”“その３”“その４”)があります。これを信じるならば、僕の推測は当たっていたようです。

■縁寿は戦人が霧江の息子だと知っていた？

※僕は『最考考』の“■縁寿は戦人の出生の秘密を知っていたの？”で以下のように書きました。“縁寿は戦人が自分の完全な兄(父が留弗夫、母が霧江)だと知っていたようです。事件後、ワイドショーなどの取材に留弗夫が丸め込んだ病院の関係者が事情を漏らしたのでしょう。”コミックEP8においてこのような内容があるため、これを信じるならば、僕の推測は当たっていたようです。

■黄金郷とはどのようなもの？

“「開けば、屋敷は跡形も残らず、絵羽を除いて誰も生き残らない物語。……絵羽は何も語らず死んだ以上、全ては猫箱の中。………有限の箱の中に仕舞われる、無限の可能性。」(ウィル)

「……こうして思うと。彼女が生きて、そして死んだ島そのものが、黄金郷だったのかもしれませんね。」(理御)

「猫箱を黄金郷と呼ぶならね。……そして、その猫箱の中で考え得る、もっとも楽しい物語を、戦人は書いたわ。」(ベルン)(EP7)”

“「黄金郷は、魔女の力だけで保たれている世界ではありません。そこで幸福を享受する全ての人間による協力と承認が必要なのです。その為に、ここには全員のサインが揃わねばならないのです。」(ワルギ)

「前回。黄金郷の扉がようやく開いたが、お前はサインを拒んだ。……記憶にはないだろうがな。お前がサインを拒んだ為、この世界を再び闇に閉ざしてしまったのだ。」(金蔵)

「……それだけを聞いてると、…何だか俺ひとりが頑固で、みんなに色々と迷惑を掛けたように聞こえるな…。」(戦人)

「そなたの頑固は折り紙つきであるからな。金蔵から受け継いでいるのは血だけではないらしいぞ。」(ベアト)

ベアトが人懐っこそうに笑う。一応、俺が馬鹿にされているはずなのだが、思わず釣られて笑ってしまうような笑顔だった。

「魔法とは即ち、奇跡。……奇跡は全員が信じあわねば完成せぬ。……そして、最後のそなたが信じてくれることで、この奇跡は、…黄金郷は完成するのだ。」(ベアト)(EP3)”

※これらの内容から解るのは、黄金郷は“黄金の真実”だということです。その場にいる全員が認め、共有した時、黄金郷は成立します。ならば、人数は少なければ少ないほど良いわけですが、少なすぎると問題も起きてきます。

“「それは認める。これまではそなたの世界ではなかった。だから妾が招くのだ！　これより、ここは妾とそなたの世界となる。そなたはもう客人ではない。この世界の、もう一人の主となるのだ。妾にも何の遠慮も無用。この無限の世界で、かつてルームメイトだった時のように過ごすだけの話……。」(ベアト)

「その記憶がないことが、私はとても残念です。………でも、そのお招きは、お断りしたいと思います。」(紗音)

「なぜに。……そなたに、ニンゲンの世界に戻らねばならぬ、どんな義務が、どんな義理があるというのかっ。」(ベアト)

ニンゲンの世界、使用人の世界は、確かに日々、大変なことばかりだ。奥様は神経質で気が短いし厳しい。日々の仕事も面倒臭くないといえば嘘になるし、学業との両立だって、それはとても大変なこと。彼女がそんな辛い日々を送るのを、ベアトリーチェはずっと見ていた。日々、決して疲労が拭われることなきその肩に、ため息を漏らすのを、何度も見ている。だからこそ、招いたのだ。この黄金の理想郷に。そして、最高の歓待をして、心の底より楽しませたはずだった。……なのに、どうして紗音は、この世界よりも、元の世界を選ぶというのか。ベアトリーチェには、それがまったく理解できず、唖然とする他なかった。

「この理想郷にて、妾はそなたに対し最高の持て成しをした。そして、それはこれからも、それ以上の楽しい日々が続く。」(ベアト)

「……なのに、それでもニンゲンの世界を選ぶそなたには、ニンゲンの世界にて、魔女の悦楽以上の楽しさがあると言うのか。」(ベアト)

「………はい。ニンゲンの世界にだって、魔法に負けないくらい楽しいことがあります。」(紗音)

「馬鹿な、……あるわけがない…！」(ベアト)

「………いいえ。あります。」(紗音)

紗音の表情は柔らかい。しかし、きっぱりと断言する。ニンゲンの世界に、素晴らしい魅力の何かがあると。そして、その何かは、この何もかもが思いのままのはずの理想郷には、ないということなのだ……。

「………………馬鹿な…。……わからぬ、……わからぬ……。」(ベアト)

ベアトリーチェはそう呟きながら、落ち着きなく何度も姿勢を変える。しかし、何をどう繰り返そうとも、紗音の微笑が揺らぐことはなく、その答えを見つけることも出来はしなかった…。

「では、………私はこれで、失礼します。お茶、本当に美味しかったです。」(紗音)

「…………わからぬ、わからぬっ。……妾は全てを無限に手に入れられる、偉大なる黄金の魔女っ。その妾に、そなたは手に入れられぬものがあると、そう申すのか。」(ベアト)

「………はい。」(紗音)

「知りたいっ。全てを手に入れたと信じる妾が、未だ手に入れておらぬものとは何なのか、教えよ…！」(ベアト)

「多分、……あなたはもう、それをご存知と思います。だから、私をここへ招いてくれたのではないですか…？」(紗音)(EP7)”

“…………ここが、黄金郷…………。マリアージュ・ソルシエールの魔女たちが、やがて導かれる約束の地…。そこでは全ての願いが叶い、全ての魔法と夢が生まれ出す。仲良しの真里亞お姉ちゃんといつまでも二人きりで、魔法談義をしながらお茶を飲んでいられる世界。……誰にも急かされず、何にも拒まれない。傷つけるかもしれないような誰一人すらも、彼女ら以外に存在しない世界。そう、それは二人にとって完成された、もはや小さな宇宙……。(EP4)”

※１人では単なる空想となってしまいます。その為、ベアトは紗音を誘おうとしましたし、EP4においては真里亞が去ることで、ベアト１人になってしまい、黄金郷は崩壊してしまいました。

“「そうだったな。きっとそなたを黄金郷に連れて行くと、約束していたな。」(ベアト)

「そこではどんな願い事も叶うってベアトは言った…！　そこには黒い魔女のいない、やさしいママに会える…！　会ったことのないパパにも会えるかもしれないね…！　もちろん学校も宿題も、いじわるな友達も誰もいなくて、真里亞とベアトはいつまでも楽しく暮らせるの…！　ね、さくたろ、楽しみだねー！　うりゅー！」(真里亞)(EP7)”

“「無作為に選んでるなんて、大嘘だ。あのペテン師魔女め…。……どうせ、黄金郷に辿り着けばあらゆる願いが叶うなんてのも、嘘っぱちに決まってる。」(嘉音)

「………………そんなことはないよ。黄金郷は、……素晴らしいところだよ。」(紗音)

「行ったことあるの？」(嘉音)

「………ちょっぴりだけね。それすらも、ベアトリーチェさまの戯れだったのだろうけど。」(紗音)

「……………どんなとこなの、そこ。」(嘉音)

「うん。………素晴らしいところだよ。…うまく説明できない。安らかな夢の中みたいな世界。」(紗音)

「薔薇が咲き乱れてて、美しい蝶が舞ってるような、極楽みたいな感じ？」(嘉音)

「……そういう具体的なイメージのところじゃないの。本当に、夢の中みたいなところなの。そこにいる時は、とても穏やかで安らかで、……いつまでも眠ってることを許されてる、まるで休日の早朝のお布団の中みたいな感じ。……カーテンの隙間から日が差してきて、そろそろ起きないと、と思うんだけど、今日は休日だから起きなくてもいいんだって気付いて、もう一回お布団の中に潜り込む時みたいな、そんな気持ちになれる場所。」(紗音)

「僕なら損したと思うな。休日なのに勘違いして起き出すなんて、姉さんくらいだ。………それで？」(嘉音)

「うん。そこにいた時はね、満たされてて、とても穏やかだった。でも、元の世界に戻ってくると、つい直前までそこにいたはずなのに、うまく思い出すことが出来ないの。ついさっきまで見ていた夢が思い出せないのに良く似てる。…でも、とっても穏やかで静かな世界だったことだけは覚えてるの。」(紗音)

「………それだけ？　何だ、あいつが偉そうに言う黄金郷なんて、大したことないな。……何でも願いが叶う場所だと思ってたのに。」(嘉音)

「その通りだよ。何でも願いが叶う場所。………少し違うかもしれない。何も願わなくてもいい場所、が正解かもしれないね。……例えば嘉音くんが、寒くて上着が欲しいと願った時、上着をもらえればとても幸せなことだけど、そもそも温かい部屋にいられたなら、上着が欲しいなんて願う必要さえもないでしょ？　……黄金郷はそういうところなの。大抵の願いは、願う必要さえなくなる。全てから解放された、何もかもが穏やかな世界なの。与えられて幸せ、という概念さえも超越した、全てから解放された世界とでも言えばいいのかな。」(紗音)

「……………………。……何だか宗教っぽい世界だな。」(嘉音)

「そして、そこでは全てが平等なの。意思ある存在は全てが平等。……ニンゲンも家具も魔女もない。……そこでの私は誰とも対等で公平。もう家具だからと、何も自分を恥じる必要がない。………全てのニンゲンとも、そして魔女とさえ対等な、本当に幸せな世界だったの。うまく思い出せないけど、そこでは私、ベアトリーチェさまとさえ対等な関係で、良い友達でいられた気がする。」(紗音)

「…………あの魔女がいるなら、ろくな理想郷じゃないよ。………で、その幸せな黄金郷に、姉さんは譲治さまと一緒に行きたいわけだ。おかしな話だね。黄金郷は全てが満ち足りた理想郷なわけでしょ？　譲治さまがいなくても、充分に満たされてそうだけど？」(嘉音)

「…………………。…黄金郷はね、とても穏やかで安らかで全てが対等で公平だけれど。……幸せだけ、実は抜けてるの。」(紗音)

「幸せな世界じゃないの？」(嘉音)

「もちろん、安らかで穏やかで公平というだけですごい幸せな世界だよ。……でも、それは例えるなら、全ての悩みというマイナスから解放されたゼロの世界なの。人の世はマイナスで満ちてるから、もちろんゼロというのはものすごい幸福なわけだけど、……それでもゼロなの。くす、贅沢だよね。……それはこういう感じ。穏やかな休日の朝のまどろみの時。……最愛の人も隣にいてくれて、手を握っててくれたなら、もっともっと、素敵な幸せになれる、………みたいな。…ごめん、姉さんは例えが下手くそだね、馬鹿だから。」(紗音)(EP4)”

※コミックEP8では“てんごく”とルビが振られたり、逆にヱリカには“死の国”と断じられています。悲しみがない代わりに喜びもない、ただ平穏だけがある世界。中島みゆきさんの『幸福論』という歌の歌詞に“孤独が怖けりゃ誰にも会わないことね”という一節がありますが、元からないから失うこともない、そういう境地なのだと考えられます。

■黄金蝶出現のルールって何なの？

※コミックEP8において以下のような内容(“その１”“その２”)が出てきました。そこで“黄金蝶出現のルール”について考察してみることにしました。まず、ゲーム盤において実際に人前に出てきた場面を列挙してみます。

嘉音の口から紡がれる言葉が、…深い闇に飲み込まれていく。その闇が不意に、煌きながら、渦を巻き始める…。それは、……とても幻想的な光景…。ボイラー室のあちこちの影に隠れていた黄金に輝く蝶たちが、…美しく瞬きながら羽ばたき、…闇の中へ集い消えていく…。　嘉音は、蝶たちを飲み込む闇に向かって言い続けていた。……しかし、闇の中に集った蝶たちは、………多分、恐らく、いや、どうせ、……笑う。(EP1)

玄関ホールは薄暗い。わずかな灯りで中央が照らし出される以外は、漆黒の闇で塗りつぶされている。……その、闇の中に、………黄金に輝く蝶たちが、蠢き、煌きながら、……嘲笑う。夏妃は硬い唾を飲み込み直し、黄金の蝶たちに、冷たい銃口を向ける……。(EP1)

真里亞は魔女に言われた通り、目を閉じて思い出していた。…潰れたお菓子が、本当はどんな姿をしていたか。だから、その光景は楼座だけが見ていた。宙に放り上げたお菓子が、……金色に弾けて…、いや違う。それは黄金の蝶。何匹もの黄金の蝶に散り、…それは宙に手をかざす魔女の手に集まっていく。するとそれは、………信じられないことに、………買った時そのままの綺麗な元の姿に戻っていた…。(EP2)

朱志香の部屋に飛び込んだ時、その目に飛び込んできたのは異様な光景だった。部屋は、金色の粉吹雪が舞い、まるでスノーグローブの中で金箔を舞い散らせているような幻想的な世界だった。………いや違う。僕はこの光景を以前にも見ている。これは金箔じゃない。……無数の黄金の蝶たち、ベアトリーチェの眷属たちッ！！　朱志香は無数の蝶に群がられ、必死にそれを払うように腕を振り回していた。

(嘉音)「お嬢様ッ！！！」

(朱志香)「か、嘉音くん……、た、助けて……………。…ゲホンゲホゲホゲホッ！！」

嘉音は朱志香に飛びつくと、群がる蝶たちを乱暴に払いのける。…この美しくも汚らわしい蝶たちは、朱志香の顔に群がり、口や鼻から入り込もうとしていたのだ。朱志香が激しく咽込む。…まるで、この蝶たちが朱志香の喘息発作を引き起こし、嘲笑っているかのようだった。(EP2)

楼座は廊下へ出て、金蔵の書斎へ向かう。少女時代を過ごし、たくさんの思い出が詰まったはずの屋敷の空気が、どこか違っているような気がした…。そして玄関ホールの階段を登っていく…。……その時。楼座が背中を向ける階下のホールの薄暗闇で、…何かが光った。それはひらひらと舞う、一匹の黄金の蝶。…ひらひらと舞い、ちかちかと輝く。その蝶は、音もなく静かに舞う。……当然だ。蝶が羽ばたく音など聞こえるわけもない。………そして階段をゆっくり登っていく楼座の背中に、……止まる。楼座は気付かない。そして知らぬ者が見たとしても、蝶の形をした金箔が一枚、張り付いてるくらいにしか見えないだろう。楼座は気付かず、そのまま金蔵の書斎へ向かっていく……。(EP2)

源次は紗音からクモの巣のついたハンカチを受け取る。そして郷田の巨体とナイフによって壁に押し付けられている嘉音に近付いた。

(偽嘉音)「や…めッろ…！！　それを、ちか、近付けるな…ッ！！　やめろ、やッ、めッ！！　ぎゃおおおおおおおああああぁぁあああああぁぁッ！！」

源次がハンカチを、嘉音の顔面に押し付けた時、…焼けた鉄板に肉を置いた時に聞く音とそっくりな音が聞こえた。もちろん臭いもそっくりだった。焼けて爛れて、汚らしい赤と黒に爛れ落ち、断末魔の声と共に嘉音の体は爆ぜ散った。それはまるで金箔の詰まった風船を破裂させたかのよう。使用人室の中は金箔の嵐、……いや、黄金の蝶たちの群で埋め尽くされた…。その蝶たちは、まるで水に、いや空気中に溶けるかのようにすぅっと虚空に消えて行き、……後には、血塗れになって尻餅をつく彼らが残されるだけだった。しかし、血に塗れた者だけではない。自ら血を吐き出して倒れている者もいた。

(源次)「…熊沢…！　……南條先生…！　…………………。」

触れたら指が切れてしまいそうなくらいに鋭利なその切れ口はばっくりと開き、大量の血を未だに溢れ出させている…。(EP2)

傘を受け取った譲治が廊下へ駆け出すと、紗音と郷田もそれぞれの道具を持ってその後を追う。……彼らが飛び出していった後、源次は、チェス盤の脇へすっと手を伸ばす。………そこにあるものを、そっと引き寄せ、手の平で覆うように隠す。源次はなおも息を殺し続ける。　………すると、………何か黄金色のものが閃いた。配膳台の上に置かれたアイスペールの中から、…小さな黄金の蝶が音もなく、ひらりと現れたのだ。それはまるで、譲治たちが飛び出していくのを見届け、自らもこっそり後を追うかのようだった……。一瞬の出来事だった。　…優雅に羽ばたいていた黄金の蝶は、源次の投げたナイフで昆虫標本の蝶のように壁に縫い止められていた。黄金の蝶は、苦しそうに何度か羽ばたいた後、抜け出せないことに観念し、細かな黄金の粉と煙になって、水に溶けるように消えてしまう…。(EP2)

紗音はその鍵を高く掲げて、彼らに見つけられたことを示す。その様子を見た譲治と郷田の目が、丸く見開かれる…。それは紗音の期待した表情ではなかったので、ぎょっとした。なぜなら、紗音は気付かなかった。遠くから見ていた譲治と郷田が先に気がつけた。紗音が鍵を高々と掲げた時、……テーブルの周りから、ぶわっと金箔の吹雪が湧き上がったからだ。それは、無数の黄金の蝶たち。(EP2)

……震えながら泣く金蔵の小さな背中に、一枚の金箔のような蝶が、どこからともなく現れ、ひらりと舞い降りる…。(EP2)

俺(戦人)は意を決し、……扉を開け放つ…。その瞬間、…俺は眩しき黄金の輝きで目が眩みそうになった………。それは、………何と、……黄金に輝く、蝶の群だった。書斎の中をいっぱいに満たしていた黄金の蝶たちが、一斉に溢れ出して来たのだ……。(EP2)

薔薇庭園は今や薔薇と黄金の庭園。黄金の蝶たちが、黄金の妖精たちが、黄金の蜥蜴たちが跋扈し乱れ飛ぶ金色の庭園。

(楼座)「真里亞ッ、早く！！　走ってッ！！　早く早く早く早くッ！！」

楼座はインゴットを包んだブランケットと銃を抱え、真里亞に追いつけないような速さで走り、時折止まっては真里亞に速く走れと声を掛けた。だからその度に見てしまう。…屋敷より追い来る黄金の追っ手を、見てしまうッ！(EP2)

金蔵が投げた指輪は、一羽の黄金の蝶となり、ひらりひらりと風雨の中を舞い飛ぶ。それはまるで導かれるように、薔薇庭園を目指した。そして、黄金の魔女の姿を見つけ、舞い降りていく……。それがベアトリーチェの前までやって来た時。それは金色に爆ぜると、元の指輪の姿に戻り宙に跳ねた。(EP3)

３人(留弗夫、霧江、秀吉)は緊迫の面持ちで、再びホールへ戻り、玄関を目指す…。

(留弗夫)「だ、……誰だッ！！」

ホールに出た途端に、留弗夫が真っ先に不審な人影を認めて叫んだ…。その瞬間、金箔の嵐が巻き起こり、黄金の蝶たちが空間を黄金色に染めた。(EP3)

(ベアト)「さぁ、紗音が眠る客室へ行くぞ。そなたの想いの力にて、彼女の魂を連れ戻すのだ。」

(譲治)「い、行くって、どうやって…。下には母さんたちがいる。表へ出るのを許してくれるわけがない。……それに、あなたはさっき、他のニンゲンが現れたら姿を保てないと言わなかったかい？」

(ベアト)「……そう言えばそうだったな。下には蔵臼たちがおったか。…それでは確かに下へ降りられぬな。……ならば、１階へ降りずに、屋敷へ行けばいいではないか。簡単な話よ。」

まるで、愉快な悪戯でも思いついたかのようにベアトは笑う。……そして黄金の煙管で、鎧戸が閉ざす窓を軽く叩いた。すると、煙管から３匹の黄金の蝶が現れ、窓の鍵を、溶かすように開けてしまう。(EP3)

朱志香と嘉音が、静かに静かに、ゆっくりと使用人室を抜け出す。そのすぐ脇では、南條の死体を残酷に見下ろす魔女の姿があったが、魔女はその気配に気付きもしない。しかし、その後に控えるロノウェは、嘉音と目が合った。…嘉音は、しまったと思い、表情を歪めその背中に朱志香を庇う。

(嘉音)「……………………。」

しかし、ロノウェはそれを主に知らせない。彼の姿を見咎めたこと自体が気のせいであったかのように、素知らぬふりをする。……いや、ふっと笑ったように見えたかもしれない。そのロノウェが後ろ手に組む指から、１匹の小さな黄金蝶が現れ、嘉音の前を先導するように飛んでいく。(EP3)

ロノウェが優雅に、まるで、料理の配膳を命じる執事のような仕草をすると、どこからともなく、たくさんの黄金の蝶が舞い上がる……。

(朱志香)「んなッ?!　何だよ、これ……?!」

黄金の蝶の群は、小さな渦を作るようにぐるぐると回りながら一箇所に集まる。……するとその蝶の小山は、木枯らしに吹かれて消え去る枯葉の山のように消え、……そこには片翼の鷲の紋章が箔押しされた、洋形封筒が置かれていた……。(EP4)

鉄格子の向こうには、古ぼけた三面鏡が置かれ、……朱志香の光景が映し出されていた。隣の鏡には、同様に譲治の光景も映し出されている。黄金の蝶が群れ集まって三面鏡が現れたとか、なぜ鏡に朱志香や譲治の光景が映し出されているのか、彼ら(蔵臼、霧江、南條、紗音、嘉音)はいちいち疑問には思わなかった。……大切なのは、映っている光景だったからだ。(EP4)

※正直、他の幻想描写との差が良く解りません。黄金蝶を見ることが出来るのは、犯人もしくは共犯者、そして見たあとに生きて探偵である戦人とは出会えない人物ですが、これは他の幻想描写も同様です。ちなみにEP2で戦人が目撃していますが、あの場面の戦人は探偵権限を喪失していると考えられます。金蔵は元々幻想存在なので、人としては勘定しません。というわけで何も解りませんでしたとさ。(以下追記)コミックＥＰ８で“黄金蝶が見えるのは犯人側(犯人及び共犯者)か死者。買収されていない者は死の３０分前まで蝶は見えない”という解答が示されました。

■嘉音の現実世界での認識

※現実の六軒島において、紗音は嘉音としても働いていたわけですが、嘉音は周囲から以下のように認識されていたと考えられます。まず、顔が紗音と非常に良く似ている。紗音は他の福音の家出身の使用人とは違い、小学生の頃から働いている、特別扱いを受けていた使用人で、それ故に金蔵の隠し子ではないかと噂されていた。つまり、嘉音はこれまで存在を秘されていた、もう１人の金蔵の隠し子であり、紗音の実の弟に当たる。だから紗音と顔が似ている、と。六軒島爆発事故以降は、こんな感じだと思います。まず、六軒島で働いていたと多くの関係者が証言。ところが福音の家に在籍の記録がなく、また、戸籍も確認出来ない。絵羽が逃れたことで、これまで知られていなかった九羽鳥庵の存在が発覚。九羽鳥庵に残されていた品々と船乗りたちの証言から、金蔵はかつて九羽鳥庵に妾を囲っていた可能性が濃厚(あるいは船乗りたちは口を噤んだかもしれないが、そもそも何の為に隠れ屋敷を作ったか考えれば…)。金蔵は何をするか解らない人物(爆弾と九羽鳥庵の存在がそれを証明している)、特に晩年は常軌を逸していた。金蔵は妾に生ませた子どもの１人を戸籍も与えず密かに育て、年頃になった頃に六軒島で使用人として採用、それが嘉音。年齢が船乗りたちが九羽鳥庵へ行き来しなくなった時期とズレるが、それは単に発覚を恐れて妾を九羽鳥庵から別の場所に移した。あるいは九羽鳥庵以外にも島外に誰にも知られていない屋敷があり、別の妾がいた、などの可能性が考えられる。実際、六軒島には戸籍はあったものの、同様に金蔵の隠し子らしき紗音という使用人もいた為、それがもう１人いても不思議ではない(本当の姉弟だから、顔が似ていても当然)。何故２人いて、１人は戸籍があってもう１人は戸籍がないのか？　という疑問があっても「金蔵だから」で終了。嘉音はどこで育てられたか？　どこに住んでいたのか？　などが取りざたされることはあっても、存在したことは事実ですから、紗音と同一人物と疑われることはないでしょう。

■偽書の枚数は？

※コミックEP6に偽書の画像(“その１”“その２”)が登場します(ちなみにこれ“その１”と“その２”を合わせて１つの偽書です)。“■メッセージボトル中のノート片の枚数は？”で説明するのですが、メッセージボトルのノート片は９枚程度でした。これと比較すると分厚すぎな気がします。ただ“■偽書『Land of the golden witch』”で説明するように１６０００～１７０００文字なら四百字詰め原稿用紙に４０枚以上になるわけで、結構、微妙な感じですが…。

■偽書は何のために書かれたの？(続・最考考版)

※『最考考』で立てた考察の柱ですが、コミックＥＰ８で変更せざるを得ない事実が発覚しましたので、これに合わせた考察に修正します。僕は“戦人は紗音に話を聞いて何があったか知っていた”と思っていましたので“偽書「Banquet of the golden witch」の執筆理由”を“絵羽を救う為”だと考えていました。しかし、十八が絵羽を犯人だと考えているなら、この偽書の執筆理由は“六軒島爆発事故の真実を暴き、絵羽を断罪すること”だと考えられます。ところが以後の偽書「Ａｌｌｉａｎｃｅ」「Ｅｎｄ」「Ｄａｗｎ」これらがＥＰ４～６のゲーム盤と同様の事件であったと考えると“六軒島連続殺人事件は多くの共犯者による狂言”という主張です。何故「Ｂａｎｑｕｅｔ」とここまで内容が違ってしまったのか？　非常につまらない考察も出来るのですが、ここはあえて“八城幾子は絵羽の日記の鍵を持っていた”という内容を信じて“「Ｂａｎｑｕｅｔ」執筆後に絵羽から接触があり、真実を知った”ということにしましょう。“絵羽の日記の入手”という可能性も考えられるのですが、絵羽の日記は絵羽の死後に流出したもので、それは「Ｄａｗｎ」の執筆前後ではないかと推測出来る為、手紙かメールだったと考えたほうがよさそうです(あるいは日記を送られて、鍵だけ貰って日記は返送した？)。何の証拠もないのに十八がそれを信じるのか？　という問題もあるのですが、つまらん考察を出すくらいならこちらを選びます。(以下追記)想定していた最悪よりも更に酷い真相がコミックＥＰ８で明らかになりました。“「えぇ。伊藤幾九郎〇五七六が、私、八城十八の別のペンネームだと見破ったのはあなただけ。実に見事なるかな…。」(幾子)”この発言が嘘だったことになります。こういう風に嘘をつかれると、もはや推理など出来ません。更に「Ｂａｎｑｕｅｔ」とそれ以後の偽書で、内容がまるっきり変わってしまったことの説明がまるでありません。そもそも偽書を書いたのは縁寿の為でも絵羽の為でもなかったという、救いようのない真相でした。日記に関しても「何だそりゃ？」です。絵羽を憎んでいた縁寿が日記を見つけても、ただ鍵を壊して中を読むだけになったでしょう。

■偽書『Land of the golden witch』とは？

※どうも「メッセージボトル及び偽書はノート片数枚(９枚)に収まる分量である」ということが理解しにくいようですので、僕自身がメッセージボトルのルールを守った偽書を書いてみることにしました。自由に書いても良かったのですが『Land of the golden witch』の偽書を書きます。何故なら、竜騎士０７さんが没にしたことを残念がっていましたし、どういう内容だったのか、インタビュー及び考察で触れられているため、書きやすいからです。というわけで、まずは材料集めです。インタビュー及び対談から、以下の材料が集まりました。

(聞き手)『Land of the golden witch』は、どんなお話だったのでしょうか？

圧倒的に最悪な感じです(笑)。『Ｅｐ２』どころの話じゃないレベルでした。

(聞き手)前回のインタビューでは、ファンタジーとミステリーのバランスを取りたいとおっしゃっていましたよね？

人間寄りの話だから、もっと酷い、残虐な話になる予定だったんです。

(聞き手)エヴァ･ベアトリーチェの所業も、十分酷い気がしますが……。

あれはかなりマイルドですよ(笑)。『Land of the golden witch』でやろうとしたことに比べたら、全然マイルド。(真相３)

※非常に残虐な話であったようです。

※EP3よりもファンタジー寄りでありつつも、人間寄りの話だったようです。

ＥＰ５はエグい仕掛けがあって、ある種の核心まで至っている人ならば引っかからないと思うのですが、核心に至っていない人が見ると「アレ？」と思われてしまうでしょうね。(最考)

(聞き手)今回、『Land of the golden witch』のネタが入っているということですが。

それは絶対言えません!(笑)　確かに『Land of the golden witch』の一番肝になる部分が入っていますが、それは恐ろしいネタで……。そしてそれは、戦人にもヱリカにもベルンカステルにも議題に挙げられていないんですよ。謎であったことさえも気付かないんじゃないかな。

(聞き手)ユーザーの中にネタが何であるか、気づかれた方はいらっしゃいますか？

ゼロです。

(聞き手)そのネタは、事件の謎解きに深く関わっているのですか？

「答え」に至っている人なら大丈夫だと思いますけどね。トリックに気づいてくれたかな……。かなり汚いネタなのでね。

(聞き手)聞き方を変えると、ネタに気づいていない人は事件の真相に至れないのですか？

苦しいですね。『Land of the golden witch』のネタを打ち破らないと、いくつかの重要な答えには行き着けないのは確かですが。ただ、そのネタも本来は使う必要がなかったから、あろうとなかろうと事件の真相には辿り着けるんですよ。ただ、あまりにも毒が強いのでかく乱した可能性があります。場合によっては、ある種の誤解を生じかねないですね。(真相５)

※これは“戦人の主観が信じられるのは、主人公であるからではなく、探偵であるから”というEP5で明かされた秘密についてのことだと考えられます。ということは『Land of the golden witch』において、戦人は探偵ではなかったのでしょう。

ＥＰ４で確固たる答えにまで至った方ならば、ＥＰ５は相当エグいですがたぶんあっさり分解できます。でも迷っている人は、とある罠にコロッと引っかかってしまう可能性が高い。(中略)それらも、あまり伏線としてハッキリは書いていないですけどね。そこを留意してきた方は引っ掛かり、逆にスルーしていた方は引っ掛からずに素通りするでしょう。『うみねこ』世界には大きなルールがいくつかあって、そのルールのうちの複数個が分かっていないとＥＰ５には切り込めない。(最考)

※これはEP5において、戦人は探偵ではないため、紗音と嘉音が同席しているのを目撃したことだと考えられます。

(聞き手)ワルギリアの登場は、難易度をコントロールする上で必然だったのでしょうか？

いえ、当初の『Land of the golden witch』では、全然違う位置づけのキャラだった。名前もワルギリアじゃなく、ウェルギリアスだったんです。(真相３)

元々ワルギリアにあたる存在は登場することになっていたんですけど、当初はもっと好戦的な、ヱリカに準拠するキャラが出てくるはずだったんですよ。

(ＫＥＩＹＡ)あの段階でヱリカ的なキャラですか？

主人公と推理を議論して、戦人と逆の立場から拮抗するような。あんなキャラがＥＰ３の段階で本当は登場するはずだったんですよ。その頃の名前はウェルギリアスで、男でした。(最考散)

※ウェルギリアスはワルギリアの元になったキャラですので、幻想存在です。ですから偽書には登場しません。ただ正直、このキャラは胡散臭いです。幻想存在は何らかの依り代を持つものですが、ウェルギリアスの依り代は何だったのでしょう？　また、戦人と推理を議論して逆の立場から拮抗するなら、その間、ベアトは何をしていれば良いのでしょう？　さらにこの作品では一度出て来たキャラはその後も出続けるわけですが、こんなキャラを出してしまうと、その後の展開に大きな支障となるであろうことは想像に難くありません。ですから、おそらくウェルギリアスはガセキャラです。　

ＥＰ５はお蔵入りさせた『Land of the golden witch』のギミックをいくつか取り入れ、２７０度のカーブがあるような凶悪な難易度になっています。(最考)

(『Land of the golden witch』は)とにかく大変な難易度になる予定でした。ワルギリアやロノウェのフォローがゼロで、ＥＰ４～６の謎が一気にワンセットで襲ってくるようなレベルだったと考えていただければ。(最考散)

『Land of the golden witch』のトリックのいくつかは、分解してＥＰ４～６辺りに混ぜてしまったんです。(最考散)

※EP4～6に出て来るトリックが『Land of the golden witch』には使われていたようです。

ＥＰ４の「とても多い共犯者」は、『Land of the golden witch』のギミックの一つだったんですよ。「とても多い」という言葉で誤魔化しておきます(笑)。(最考散)

※『Land of the golden witch』の共犯者はとても多かったようです。

(ＫＥＩＹＡ)(『Land of the golden witch』を)今発表したとしても、これまでのシナリオのなかで最高の難易度になるのでしょうか？

うーん。今の段階だと、ヘタすると思考停止どころか、真相だと思われかねません。『ひぐらし』で例えれば、『目明し編』のない『綿流し編』みたいな。「魅音が犯人なんだ」で終わってしまうくらい致命的です。(EP4対談)

※真相と勘違いされてしまうような内容だったようです。以上で集められる情報は全てだと思います。次はノート片１ページあたりの文字数を決めます。引用すると長くなってしまうため、気になる人は『最考考』の“■メッセージボトルとはどのようなもの？”をご覧頂きたいのですが、かなり細かく書かれている印象です。ですから紗音が使用したノートはもっとも一般的なノートでありつつ、細かい字が書ける“B5サイズ　B罫(6 mm間隔)　３５行”であったと考えます。文房具屋に行って、このサイズのノートを３種類買ってきました。罫線のマーキングによると、１行あたりの文字数はそれぞれ２４文字、２７文字、２８文字。パッと見て、罫線の幅が一番自然に思えたのが、２７文字でした。ですから、これを採用します。ということは１ページあたりの文字数は２７文字×３５行で９４５文字。それが１８ページですから、１６０００文字～１７０００文字くらいになりそうです(９枚目をフルに使っているとは限らないため)。その次は文章のスタイルです。“日記風手記”ということですが、手記というものがイマイチ理解出来なかったため、図書館に行って“手記”と書かれた本を片端から開いてみました。すると、全て一人称でした。ということは真里亞の一人称で良さそうです。というわけで、次は事件の流れです。第一の晩の被害者は譲治、朱志香、真里亞、紗音、嘉音、楼座で行きます。第二の晩は金蔵と源次、第三～七の晩は留弗夫、秀吉、郷田、熊沢、南條です。第一の晩はバラバラ殺人です。残虐な内容だということですので、被害者を子ども中心にし、殺し方も酷いものにします。犯行現場は貴賓室。譲治の足の代わりに紗音の足がくっついており、真里亞の腕の代わりに譲治の足がくっついており、紗音の腕の代わりに楼座の腕がくっついており、嘉音の腕の代わりに朱志香の腕がくっついています。第二の晩は火あぶりと水責めです。２人にホモ疑惑を押し付けた上で、金蔵の遺体はボイラー、源次の遺体は金蔵の書斎の風呂場です。“引き裂け”ということですから、正反対の処遇にします。第三の晩と第四の晩は留弗夫と秀吉、２人で抜け出して煙草を吸っているところを狙われます。僕は煙草が嫌いなので、この２人には早めに死んでもらうことにしました。あとは女性は殺したくないし、蔵臼と夏妃はお気に入りですから、消去法で第五の晩から第七の晩は定番の“使用人処理”です。きちんとメッセージボトルのルールに従っていますので、ミステリーとして解けるようになっています。もし解けないなら、その人は『うみねこ』が理解出来ていないということです。是非、挑戦してみてください。メインページの一番下においてあります。

■霧江と明日夢

※僕は『最考考』の“■明日夢はどんな人？”において“「明日夢さん、………あんなにぼんやりしてそうなのに。…留弗夫さんを咥え込んだら、離しやしない。……“だから何ですか、どうぞお引取下さい”、ですってよ。……バスひとつ乗るにも、怖い怖いと縮こまってた、あの小娘がね。………あの時、悟ったわ。…本当に狡猾だったのは、彼女だったってね。……そうよ、乗り物恐怖症だって、留弗夫さんの気を引くための嘘だったわ。……………」(霧江)(EP6)”この発言について“明日夢が妊娠していたときに、霧江が「自分も妊娠しているのだから留弗夫をよこせ」と迫った時の明日夢の返事だと考えられます。”と書きましたが、コミックを見る限りでは、僕の推測は当たっていたようです。

■霧江の嫉妬の期間がおかしい

“明日夢さんなんか死んでしまえ。そして私と再婚してほしいって、ずっとずっと嫉妬して呪って、そしてやっと明日夢さんが死んだ。私は確信したわ。私には魔法の力があって、それが呪いとなって明日夢さんを殺したんだって確信したわ。でも、私の嫉妬の炎は治まらない。内緒よ？　戦人くんを見る度にね、あの女を思い出しちゃうの。そして戦人くんを見る度にね。…もし私の子が生まれていたら、同じ歳だっただろうなって思ってしまうの。私は今でも彼女を嫉妬し、苛まれてる。今も、これからも。未来、永劫にね。(EP3)”

“「………てめぇに男を寝取られて、１８年間嫉妬し続ける女の狂気がわかるかよ…ッ！！」(霧江)(EP3)”

※ここでのポイントは、明日夢が死んでから６年経っているのに(明日夢に留弗夫を奪われていたのは１２年間)、嫉妬の期間が１８年なのは、戦人を見るたびに明日夢への嫉妬が蘇るからであることと、未来永劫、嫉妬が続く(現在進行形)と発言していることです。ところがEP6では以下のようになっています。　

“「朱志香ちゃんたち若い子の恋愛感は、育むところで終わってる。……それは甘いわ。……愛を収穫しなきゃ、恋は報われない。」

「愛を、……収穫……。」

「それは、一見、愛し合う二人きりだけの問題に見えて、そんなことはないのよ。だからいつ収穫しても自由なんていう先延ばしは、盗人に機会を与えるだけ。……苦労して育てた実が、翌朝にもぎ取られてなくなっていたら？　……昨日の内に、面倒臭がらずに収穫しておけば良かったと後悔するはずよ。……辛いわよ、その後悔は。……地獄を這うわよ。」

「……………………。」

「私は幸運よ。その地獄が１８年で終わったから。……だからもう、私は自分を、間違えないの。……あの人は私のものよ。もう逃がさない、手放さない。そして主に感謝する。………その機会を与えてくれて。絶対にあの人を諦めないという“絶対の意思”に、“奇跡”が応えてくれたんだわ。」

朱志香はもはや絶句して、……相槌さえも打てない。……霧江が教える恋の正しい姿とは、彼女が想像するよりも、ずっとずっと苛烈なものだった…。

「今の私は。……留弗夫さんを私のところに繋ぎ止めるためなら、何でもするわ。そして、留弗夫さんの敵には一切容赦しない。……あの人が望むならば私は、人殺しさえも、躊躇しないかもしれない。」

「………１８年目にしてようやく、その決意を持ったからこそ、………絶対の意思が奇跡を、……私にもたらしてくれたんだわ。………奇跡はね、それを自ら成し遂げられる者のところにしか、現れない。」”

おそらくこれは“霧江の嫉妬は１８年間”とだけ覚えていて、EP6を書いてしまった為、こうなってしまったと思われます。「じゃあ、その嫉妬はいつ終わったの？　当然、明日夢が死んだときだよね」と考えてしまったのでしょう。嫉妬は終わっていないですし、明日夢が死んだ時に嫉妬が終わったのなら、嫉妬の期間は１２年です。

■金字とはどのようなもの？

※金字が作品中で使われたのは以下の２回のみです。

「《金：この死体が右代宮金蔵の死体であると保証する…！！》」(EP5)

「くっくくくくく……。うむっ、なるとも。《金：そなたが魔法にて、伏せたカップの中に黄金の花びらを生み出した。見事な魔法であったぞ。》」(EP6)

※作品中では以下のように説明されています。

「な、何それ…。ラムダ、こんなのはルールにあるの?!」(ベルン)

「…………………。……えぇ。……黄金の真実、有効よ。黄金の真実は、……この世界の領主、……いえ、……ゲームマスターにしか使えないッ！！」(ラムダ)

「な、……何ですって…………、」(ヱリカ)

「……黄金の真実。赤き真実とは異なる方法によって紡がれる神なる真実。……その力は赤き真実と同等デス。……時に劣るでショウ。しかし、時に勝ル！！」(ドラ)

「その輝きこそが、……戦人くんが、本当にベアトを理解した証。」(ワルギ)

※金字に関する竜騎士０７さんの発言は以下しかありません。

“(聞き手)新しく金文字が登場しましたね。

なぜでしょうね。ぜひ考えてもらいたいです。「金文字とは何か」「どういう条件で使えるのか」「赤文字よりも強いのか」……これらも、「答え」を理解している人が見れば分かります。

(聞き手)金文字は、ゲームマスターのみ使えるようですが…

厳密に言うとゲームの答えを知ったものにしか使えません。答えを知っていれば、ゲームマスターでなくても使えます。

(聞き手)エリカが使えないのは？

真相を知らないからです。ラムダデルタはゲームマスターを退いていますが真相を知っているので、金文字宣言ができるのでしょう。ベアトが金文字宣言をしなかったのは、空気を読めるいい子だったからで(笑)。戦人も最後の最後でドラノールに「赤で否定を禁じます」と言われたので、金文字を使っただけです。”

“(聞き手)今回「黄金の真実」を戦人が使わず、ベアトリーチェ(姉)が使った理由は？

私としては「誰が使った」ではなく、「どういう条件下で、何を意味して使ったのか」ということを探ってほしいですね。「黄金の真実」と「赤き真実」の成立条件の違いを考えて欲しいです。(中略)ルールを理解していれば「黄金の真実」は誰にでも使えるもので、究極的にはゲームの「駒」でも使えるものなのです。だからベアトリーチェ(姉)も使えたのでしょう。”

※純粋な金字ではありませんが、同等の表現だと思われるのは以下の場面です。

“「続けましょう。第２のゲーム、第一の晩。腹を割かれし６人は密室礼拝堂に。」

「幻は幻に。……黄金の真実が、幻の錠を閉ざす。」

「第４のゲーム、第一の晩。食堂にて吹き荒れる虐殺の嵐。」

「幻は幻に。……黄金の真実が紡ぎ出す物語は、幻に帰る。」

「第４のゲーム、第二の晩。二人の若者は試練に挑み、共に果てる。」

「幻は幻に。……黄金の真実が紡ぎ出す物語は、幻に帰る。」(EP4)”

“「…………これでもう、…妾は魔女ではない。……………だが、必ず、妾は再び魔女になるぞ…。……そして、……再び黄金の魔女と呼ばれるに至って、………再び、……そなたの対戦相手だと認められに、…………帰ってくるから………。」

「いや。………お前は、魔女だったぜ。」

「……………え……。」

「…俺は、見てたぜ。………お前が、あの邪悪な魔女を、……すっげえ魔法で吹き飛ばして、その正体を暴き出すところを、…俺はちゃんとこの目で見ていたぜ…。」

「あ、…あれは魔法ではなく、……赤き、」

「いいや、魔法だったぜ。………お前は確かに、黄金の魔女だった。………お前自らが否定しようとも。………俺が認めてやるよ。…………“お前は確かに、…黄金の魔女だ”。」

………戦人がその言葉を口にした時。真っ暗だった世界に、…ぽっと一粒。…小麦の種のように小さな黄金の一粒が眩く光った。それは…小さいけれど力強く黄金色に輝く。そして、……背中を寄せ合って座っていた二人を照らし出す…。だから、二人は互いに自分の姿を自覚する。…自分たちは、意識だけの存在ではない。……体を持った、ちゃんとした存在であることを自覚する。…いや、体という存在が、与えられたというべきか。戦人は自分の姿を見ても、そう驚かなかった。…しかしベアトは、自分の姿を見て、少し驚く。……戦人が見ても、いつもの彼女の姿だと思うのだが、……彼女はその姿をしばらくの間、驚いていた…。(EP3)”

“「奇跡なんて起きない！！　《赤：お前が心を許せる者は誰も存在しない！！》　だから死ねぇええええぇええ！！！」

「いるわ。……みんなが、私を守ってくれる。」

全てを飲み込もうとする、無慈悲なミステリーのクジラに、深々と大きな楔が打ち込まれる。その深々とした楔は、熟練し、そしてミステリーを深く愛した者にしか、打ち込めない。

「陳腐だぜえぇえぇ、そのトリックぅうぅ…！！　妾がすでに読破し、飽き果てたトリックだぜぇえぇ。」

戦人と背中を合わせ、反撃の楔を打ち出す彼女のその姿は、……紛れもなく、紛れもなく。

「ベアト?!?!　どうして?!　《赤：赤き真実で死亡を宣言したのに！！》」

「………あんたの赤き真実が、何だってのよ……。」

「《赤：赤き真実は絶対！！　それは誰が抗おうとも、絶対に覆せない、完全なる真実！！》」

「世界中の全てが。……私の家族を否定しても。………それを一なる真実として突きつけても。……私は認めないわ。なぜなら。」

縁寿はゆっくりと立ち上がる。その周り、……ゆっくりと人影が現れては、同じように立ち上がる。次々に、大勢。それは、……縁寿の家族たち、親族たち。六軒島のみんな。それだけじゃない。黄金郷のみんな、幻想の住人のみんなが姿を現わし、縁寿に続き、ゆっくりと立ち上がるのだ。そして全員が、鋭くベルンカステルを睨みつける。

「世界中が否定しても、私は捨てたりしない。絶対にみんな生きてるって希望を。……そして、私は至ったわ。………それが、私の魔女としての境地よ。」

「………こい…つ、……ただの未来の魔女じゃないの…？　過去には、後悔の涙を流すことしか出来ない、無力な魔女じゃないの…?!」

「私は、黄金の魔女、エンジェ・ベアトリーチェ。……称号は、黄金と、無限と、……反魂。」

「………至ったね、縁寿。」

「えぇ。ありがとう、お姉ちゃん。……長き日々の果てに、私はようやく至ったわ。」

「お前なら、至れると信じてたぜ。」

「ありがとう、お兄ちゃん。……受け取ったわ。お兄ちゃんが、最後のゲームで伝えたかったこと。」

「消え去れ、ゲロカス妄想！！！　そんなのッ、そんなの認めるわけねぇだらぁああああああぁあああぁああああああああッ！！！」

「みんなは永遠に私と共にあるわ。誰が赤き真実にて何度殺そうとも。……私はそれを拒否する。私の元に何度でもみんなは蘇る。………私は反魂の魔女エンジェ！！　私の世界は、お前の赤き真実では傷一つ付けられない！！！」

「うううぉおおおああああああああああああああぁあああぁあああああ！！！」

縁寿の、………いや、縁寿と、その一族たち、仲間たちから一斉に、黄金の軌跡を描く放射線が広がる。それはベルンカステルの大蛇たちを描いていたものと同じもの。しかし宿す輝きは黄金。そしてそれはうねり、巨大な一つとなり、両翼を得た鷲の姿となる。もう、片翼じゃない。黄金の鷲が、縁寿の絶対的意思によって、未来へ羽ばたく翼を得る。その広げた翼に、…………ベルンカステルは、そのクジラは、圧倒される。

「右代宮の鷲は、振り返らない。」

「そして、絶対に挫けない…！！」

黄金の鷲はその翼で易々と青いクジラを飲み込み、粉々に砕く。そして、その主も逃さない。逃げる番になったのは、今度はベルンカステルだった。ベルンカステルは黄金の鷲には抗わない。抗えない。赤き真実を以ってしても傷一つ付けられない彼女らの世界に、一体、何の攻撃が通じるというのか。必死に逃げ惑いながら、赤き真実の楔を右代宮家の人々に次々投げ掛ける。《赤：右代宮金蔵は死亡している。右代宮蔵臼は死亡している。右代宮夏妃は死亡している。》

それらを延々と繰り返すのだが、……誰も倒れない。縁寿はそれを受け容れないから、誰も貫くことが出来ない。

「こ、……こんな……。こんなエンドレスナインがあるの…?!　あ、赤き真実さえ、……通じないなんてッ！！　何なのよ、黄金の真実って！！　赤き真実に打ち勝てる黄金の真実って、一体何なのよ……！！！」

「信じる心よ。……それは“私たち”の総意。……私たちが認めて共有した真実の前に、お前の赤き真実など、何も貫けたりしない。」(EP8)”

※金字＝黄金の真実、それは“集団の全員が認めて共有した真実”ということのようです。ただ、EP5の以下のやり取りに引っ掛かりを覚えます。

“「《赤：証拠提示。右代宮金蔵と識別可能な遺体を提示する…！！》」(戦人)

「《青：その遺体が右代宮金蔵であると証明することは出来マスカ?!　どれほど金蔵に酷似した遺体であろうとも、当人であることを証明できない限り、第三者の身代わり死体であるとの主張が可能デス！！　それが金蔵の遺体であることをニンゲンの真実で示せマスカ?!　本件のみ、赤き真実のみでの反論を無効としマスッ…！！》」(ドラ)

「……へぇ。赤き真実での反論を無効？　そんな趣向もあるのね。」(ベルン)

「確かに、第三者の死体が存在しないことは、すでに赤で語られてる。しかし、それを赤で語ることを禁じられたら、……くすくす、戦人のヤツ、お手上げじゃない。うっふふふふふふふふ！」(ラムダ)

「そうだな……。《赤：この閉ざされた六軒島では、この死体が祖父さまのものだと示せる客観的な方法はない。》」(戦人)

「《青：それこそは、この遺体が替え玉死体である可能性の示唆です！　この身元不明遺体が金蔵の死を証明するものにはなり得ません…！！》」(ヱリカ)

「《青：……チェックメイト…！！　我が推理は揺るぎませんッ！！》」(ヱリカ)

ドラノールは、遺体提示による証明に赤き真実を封じている。……魔女の力を得た戦人とて、反論は不可能……！

「………赤き真実を封じられて、どうやってその死体を金蔵だと証明するの？　無理よ。…不可能だわ…！」(ベルン)

「………赤と青なら、…ね……？」(ラムダ)　

「《金：この死体が右代宮金蔵の死体であると保証する…！！》」(戦人)”

※ドラノールとヱリカは金蔵の遺体を金蔵だと認めないわけで、言わば“信じない観測者”にあたります。それなのに何故、黄金の真実が使えるのか？　という疑問があるのですが。これには２つの考え方があると思います。１つは“本人の意思に関係なく発動出来る”。EP4において、戦人が赤字を使って“「自分は明日夢の子どもである」”と言おうとして言えませんでした。また、コミックEP8でヱリカが“「おかしいと思ったんですよ。(EP6での)決闘の時、なぜ私は１８人目なんて矛盾した赤を言い切れたのか。――あれ、あんた達は“体の数”を、私は意図せずして“名前の数”を宣言したんですね？」”と発言しています。つまり、赤字は本人の意思に関係なく適応される部分があり、金字も同等の性質を持つとするならば《赤：第４のゲームにてベアトが示した赤き真実！！　全ての人物は右代宮金蔵を見間違わないッ！》がある為、この場にいる誰もが金蔵の死体を金蔵だと認識しているわけで、強制的に“信じる観測者”として黄金の真実に巻き込むことが出来るのでしょう。ただ、この考え方には問題があって、ＥＰ８の最後で縁寿がベルンをやっつける場面やコミックEP8の金字を説明出来ません。そこで出てくるのがもう１つの考え方“集団の外部は関係ない”です。外部の人間が否定しても集団の全員が信じているのなら、発動出来る。EP8において赤字で死亡が宣言された親族が蘇ることが出来るのは、縁寿の内面世界を観測出来るのは縁寿だけである為、集団の成員は縁寿１人で良いから。外部に影響を及ぼす辺り、これが通用するなら無敵な感じもしますが…。

■クレルのはらわたって何なの？

ベルンカステルは死神の鎌を振り上げ、………それを思い切り振るい、……クレルの下腹部に深々と突き立てる……。

「綺麗に死ねたつもりだった？　くっひひひひひひ！！　死骸をハラワタ引き摺り出して辱めるのが、私の一番得意なことだってのに…！！」

　突き立てた大鎌を、無慈悲に無残に残酷に、……天へ振り上げる。　………クレルの体に、下腹部から胸部にかけて縦一文字に、……深々と刃が走り、………開腹する。

　そしてその赤黒い中身が、……どろりとはみ出し、それから堰を切ったかのようにどっと溢れ出して、世界を赤黒い臓物で埋めた……。

「イ、イタリア人の黄金を奪うだと？　卑怯者め、右代宮、貴様、それでも帝国軍人かぁあああぁ?!」

「………お、お父様……？　わ、私はお父様のことを敬愛いたしております……。で、でも、……そのお父様の気持ちには、その……。」

「どうして…！！　どうしてあなたたちは私を助けたんですか?!

　どうして死なせてくれなかったんですか?!　私はあの時の大怪我で、……こんな体で生きさせられている！！　こんな体で、生きていたくなんかなかった！！

　こんな、恋をすることも出来ない体で……！！　そんなの、そんなの、生きる価値がないんじゃないですか?!　そんなのニンゲンじゃない…！！　家具じゃないですか！！」

「そう、私は、家具……！！　家具なんだ…！！

　どうして、………私をあの時に死なせてくれなかったんですかッ！！　ぅわぁああああぁあああああぁああぁああ……！！！」

※ＥＰ７に出てくる場面ですが、実はこれ、コミックＥＰ８でもきちんと説明されていない為、誤解している人も多いのではないかと思います。だから解説しておくことにします。まず“ハラワタ”とはそもそも何なのか？ということですが、端的に言ってしまうと“心に秘めた負の叫び”を暗喩したものです。出てくる場面は３つ。１つ目は太平洋戦争中の六軒島において、金蔵がイタリア人の黄金を奪うことを提案し、上官に非難される場面。２つ目は金蔵が九羽鳥庵のベアトリーチェに言い寄り、否定的な返答をされる場面(紗音的にはこのあと、むりやり手籠めにされた)。３つ目は紗音が自分は下腹部に重傷を負い、生殖能力を失った男性であったことを知った場面。このうち３つ目はコミックＥ８で描かれています。“あなたたち”とは源次・熊沢・南條のことでした。やっかいなことに、３つの場面のうち、真実なのは３つ目だけです。残りの２つは、紗音が「そうであったに違いない」と誤解している場面です。順番に説明します。まず、１つ目。この場面の真実はＥＰ７で語られています。何故、ＥＰ７で語られた場面が真実だと断定出来るのか？　それはこの場面が以下のように“観劇者権限”によって語られたからです。

「右代宮金蔵が本当のことを喋らねぇ限り、これ以上の展開はねェ。まさか俺が、金蔵を口説き落として真相を告白させるってのも、ゲームに含まれてるとは言い出さねぇだろうな。」

「そんなの退屈で死んでしまうわ。……真実を語らぬ金蔵は、それ自体が城に守られたキングだけれど、あなたのゲームの障壁になってしまっては面白くない…。」

「……拷問はやらねェ。俺の流儀だ。」

「わかってる。ゲームマスターとして、あんたに力を与えるわ。金蔵から真実を得られるようにね。」

　ベルンカステルは土足のまま、棺の中に踏み込むと、献花されている薔薇の一本を拾い、……たんぽぽの綿毛を散らすように、強く息を吹きかける。

　すると一枚の花びらが千切れ飛び、それは黄金色ではなく、透き通った水晶の輝きを帯びながらウィルの方へ舞って来た…。

「“探偵権限”か。」

「ふっ、なぁに、その間抜けな能力。……違うわ。それは観覧席への招待状よ。」

「……“観劇者権限”か。………それを元老院の許可なく与えることは禁じられてるはず。」

「私を。私のゲーム盤で。誰が禁止すると……？」

「…………ふん。」

「……お館様。もう、語る時ではございませんか？」

「…………………………。……そうか。その時が来たか、……我が友よ。」

「あんたが語らなきゃ。何も真実は明らかにならない。」

「………お館様。……もはや、知る権利と資格が、あるかと思います。」

「わかっている。今日という、私の気まぐれな葬儀に、天のベアトリーチェが贖罪の機会を与えたのだろう…。

………今日まで話さなかったことを、許せ。」

　金蔵は深く息をついてから、ようやく目頭を覆っていた手を下ろし、……真っ赤になった目で一同を、……ウィルを、理御を、見回す。

「………………………。」

「………………お祖父さま……。」

「理御も聞け。……客人よ。ウィラードと言ったか。」

「あぁ。」

「………この私が、自らの口より真実を話せる内に、この機会を設けてくれたことを感謝する。……お前はきっと、ベアトリーチェより使わされた、天の使いに違いない…。……感謝する………。」

「その機会を設けたのはベアトリーチェじゃねェ。どこぞの魔女だ。……いや、どっちも魔女には違いねェ…。」

「ふ、……お前が誰でも良い。私に機会を与えた。それで充分だ。……感謝するぞ、ウィラードとやら。」

　金蔵はゆっくりと立ち上がり、右手を突き出す。

　それは、握手を求めるものだった。

　金蔵なりの、感謝の気持ちを伝えるものだったに違いない…。ウィルは、それに応える。そして二人の手が、静かに力強く握られた。すると、……二人の握手の隙間から、眩い光が漏れ出す。

「………………ん、」

　ウィルは手の平に、一粒の火傷のような刺激を感じる。　……それは、ベルンカステルの与えた、あの力。その光はどんどん眩しさを増してくる。しかしそれは金蔵たちには見えていないようだった。

「……今こそ、語ろう。私が、ベアトリーチェに、………ベアトリーチェ・カスティリオーニに出会ったのは、終戦間際。彼女は、海の向こうからやって来た……。」

※つまり、現実世界をカケラとして俯瞰出来る、魔女の力によってもたらされた場面だからです。ですからＥＰ７で語られた内容は、太平洋戦争中の六軒島で、実際にあった出来事なのです。一方で、ただの人間である紗音が知ることの出来る真実は、屋敷の地下におびただしい人骨が残っていることだけ。源次もその場にいたわけではなく、詳しい事情は知りません。その為、「自分がそうだと思う真実」を作り出してしまったのです。

　次に２つ目、金蔵と九羽鳥庵のベアトリーチェの関係について。実はこれ、どこにも答はありません。ただ、ＥＰ３で語られた楼座との出会いの場面から考えると、以下のように金蔵とラブラブでハッピーな感じではありません。

「………私の自己紹介をしたので、逆に彼女のことを質問したわ。…そうしたら、急に雰囲気が落ち込んでしまったの。……何て言うのか、とても気だるそうな、寂しそうな。…私が初めて彼女の顔を見た時に浮かべていたのと同じ表情だった。」

「まぁ、秘密の愛人だからな。好き勝手に歩かれてお袋に見付かっちまったらコトだ。……きっと軟禁に近い状態だったろう。綺麗なドレスに綺麗な屋敷や庭があっても、さぞや窮屈な思いをしてたんだろうぜ。そりゃ苦労もあったろうさ。………それで？」

「彼女はきっと何か悩みがあった。……それを私に話したところで何の解決にもならない、というような雰囲気が読み取れて、私もとても悲しかったのを覚えてる。………私と一緒にいることさえ忘れてしまったかのようで。…遠くをぼんやり見ながら、ずっとずっと無言でいたわ。…私はきっと失言してしまったに違いないと思ったんだけど、……謝罪の言葉すらも口にしていいような雰囲気じゃなくて…。……だから私も、彼女が私と一緒にいることを思い出してくれるまで、ずっとずっと黙ってた…。」

「妾は、…もうベアトリーチェは嫌だ。妾が何者なのか、知りたい。ベアトリーチェではない、新しい人間を始めたい。

だから、ここから連れ出して欲しい。………もう、紅茶もいらぬ。ドレスもいらぬ。金蔵とも二度と会わぬ。……ここより妾を連れ出してくれ。楼座。」

※ここでのポイントは金蔵が紅茶やドレスと並べられていることです。当時の九羽鳥庵のベアトリーチェは紗音を出産済みです。ですから既に金蔵と肉体関係があるわけですが、それでもこうして好きな紅茶やドレスと並べられる。更に言えば紅茶＜ドレス＜金蔵と、３つの中で１番大切な存在なのです。ですから２つ目の場面については「完全に正解」とは言い切れないでしょう。おそらく当時のベアトリーチェはあまりに無知すぎて恋も愛も知らず、肉体関係を持つことの意味を理解出来ていなかったと思われます。そして、２つ目の場面には決定的におかしいところが１つあります。それは、九羽鳥庵のベアトリーチェが金蔵を呼び捨てにしていたのに対し、“ハラワタ”のベアトリーチェは「お父様」と呼んでいることです。真実なのはＥＰ３で語られた呼び捨ての方です。何故なら以下の赤字があるからです。

「この、九羽鳥庵の庭でくつろいでるベアトと、…さっきの祖父さまとの会話は、真実なのか？」

「はい。真実です。かつて、

《赤：実際にこの場所で、お二人はこのような会話をなされました》。」

※この場面におけるベアトリーチェの発言が以下です。　

「……そなたとは長い仲だ。妾はそなたを、無二の友であり、そして父ですらあると思っておる。……だからどうか教えて欲しい。そなたは知っているはずだ。…妾が何者であるかを。」

※金蔵とタメ口です。ですから金蔵を「お父様」と呼ぶとは考えられず、これ(“ハラワタ”の２つ目の場面)が真実ではないことが解ります。この場面は楼座がベアトリーチェと会った場面とほぼ同じ時期であると思われますが、それでもやはりベアトリーチェが金蔵に親しみを持っていることが見て取れます。少なくとも“父親にむりやり手籠めにされた”訳ではないのです。

■ゲーム盤ってそもそも何なの？

※『最考考』にはゲーム盤についての説明を書いていなかったし(“■世界観”で簡単に説明していますが)、コミックEP8で興味深い内容が出てきたため、僕の考えを書いておこうと思います。紗音が書いたメッセージボトルにはいくつかのルールがあります。舞台は１９８６年の１０月４～５日の六軒島。登場人物は右代宮家親族＋六軒島使用人(南條含む)の１８人。犯人は紗音(紗音以外は人を殺せない)。紗音と嘉音は同一人物。金蔵は物語の開始前に死亡している。文体は右代宮真里亞の一人称。分量はノート片９枚に収まる程度。時限爆弾のスイッチが入っているため、それが解除されないと１９８６年１０月５日２４時００分の時点で爆弾が爆発して島が吹っ飛ぶ。碑文の謎が解かれれば、ゲームは終了。このルールを理解している者は、新たなメッセージボトル(偽書)を書くことが出来ます。そしてルールを理解した(あるいは十八にルールを守れているかチェックしてもらった？)八城幾子は偽書を書きました。この『うみねこのなく頃に』に登場するゲーム盤は、紗音が書いた２つのメッセージボトル。そして八城幾子が書いた４つの偽書。これらが元になっていると考えられます。魔女であるベアトは“雛ベアトの戦人版”として生み出した“駒戦人”が自分との戦いを通じて“真の戦人”になることを期待して“ゲーム”を始めました。そのゲームに用いられるのが“ゲーム盤”です。ゲーム盤は“ルール”をきちんと守っているメッセージボトルと偽書を題材に、ゲームマスターが幻想修飾を施したものです。ということは“ルール”から外れているものはゲーム盤ではないわけで、元になるメッセージボトル及び偽書も存在しないと考えられます。

■ゲーム盤のルール？

※僕は『うみねこ』で不思議に思っていることがありました。それは「普通ならこうするだろう」と考えられる点があるのです。例えばEP1における第一の晩。食堂に血溜まりが残されていましたが、もし僕が犯人だったなら「６人がこの場で殺された」と誤認させる為、６人分の血溜りを偽装します。こうしておけば「６人もの死体がこの場から動かされた」という事実が確定的になり、犯人が複数であること、殺されたのが６人であることを容易くミスリードさせることが出来ます。また、EP4における真里亞の死体は腕が組まれていました。これが死者への思いやりならば“口元から泡を吐き出したような痕跡があり、それはテレビドラマなどで見るような、典型的な毒殺の死体のように見えた”という見苦しい姿を晒させないため、拭き取ってあげたはずなのです。これまで僕は「これは竜騎士０７さんは我々プレイヤーが推理出来るように証拠を残したのだろう」と考えていました。しかし、良く考えてみると“作者の意図”が作品中の出来事に持ち込まれるというのはどうなのでしょう？　これはむしろ、犯人である紗音の意図なのではないでしょうか？　紗音の本来の意図は“戦人に気づいてもらう、約束を思い出してもらう”ことです。そのため、戦人へのヒントとして、推理が出来るように証拠を残したと考えられます。

■現実世界の紗音は六軒島で大量殺人を計画していた？

※EP4において、六軒島の爆弾が爆発することによって遺族となる人々(留弗夫一家の遺族である縁寿、南條の遺族である南條医師、熊沢の遺族である鯖吉)に、１億円近い現金が保管された貸し金庫のカードと鍵、そして暗証番号が封筒で送られていたことが判明しました。切手の消印は１９８６年の１０月３日、つまり親族会議の前日です。そしてその送達方法は、遠方の実際には存在しない住所が送達先として記載されており、住所不明として差出人欄に記載された遺族に還付される、というものでした。このことから推測出来ることは２つ、紗音は事前に遺族が発生することを承知しており、島の爆発を目論んでいたこと。そして、送達方法が封筒の回収を前提としない手段であったことから、爆発が起こらない可能性を考慮していないことです。つまり紗音にとって島の爆発による在島者全員の死亡は、ほぼ確定的に起こる決定事項だったのです。そしてEP8における１９８６年１０月６日の描写、以下は幻想修飾為されているものの、戦人と紗音の実際のやり取りであると考えられます。

「………生きれぬ。妾はもう、数え切れぬほどの世界で、数え切れぬほどの罪を犯した。妾が殺した命の数が、罪の数が、多過ぎる。」(ベアト)

「俺たちの世界では、何の罪も犯しちゃいないさ。」(戦人)

「いいや、………そんなことはないぞ。」(ベアト)

「……………………………。」(戦人)”

※最後の戦人の沈黙により、戦人も「紗音は罪を犯した」と認識していることが解ります。だからこそ以下のやり取りがあるわけです。

「お前に罪があるなら。それを犯させた俺にも罪がある。……だから、お前の十字架は、俺たち二人で背負おう。」(戦人)

「………戦人…………。」(ベアト)

「生涯。……お前の十字架を支えるから。………出よう。黄金郷を。俺と二人で。」(戦人)

ベアトは呆然としながら、完全に言葉を失ってしまう。そして、ぽろぽろと涙を零して、両手で顔を覆った。

※それは二人が生涯背負っていかなければならないほど、重い十字架な訳です。

「妾は、………生きていけるだろうか……。」(ベアト)

「生きてけるさ。……魔法の執事はいねぇが、便利なものが色々あるさ。……六軒島にはないものが、何でもある。お前に、世界を見せてやるぜ。」(戦人)

「………妾は、……生きていけるだろうか……。」(ベアト)

ベアトは同じことを、もう一度繰り返す。彼女が言う意味を、戦人は理解している。しかし、それには何を答えても、今は解決にならない。……しかし解決の方法はある。時間と、心だ。それらを少しずつ、ゆっくりと。穿つ雫で鎖を断ち切るように、……少しずつ長い時間をかけて、……島の呪いを断ち切らなければならない。それには途方もない時間が掛かるかもしれない。でもいつかきっと、……彼女を解放する。俺はそう、信じる。

「妾は、あの島で、幾百の死を弄んだ、罪深き魔女だ。……その妾に、そなたの世界は眩し過ぎる。」(ベアト)

「いいや、生きろ。」(戦人)

俺は力強く即答する。

「もしお前が、幾百の罪を償おうと思うなら、生きて生き抜け。生の限りを尽くして、……精一杯を生きろ。それだけが、お前の罪を償う方法だ。」(戦人)

「…………それだけが、妾の罪を償う方法なのか。」(ベアト)

「そうだ。そして絶対に償い切れる。俺を信じろ。」(戦人)

※ベアトが２回繰り返した「生きていけるだろうか」という言葉、これは「(これだけの罪を犯して尚)生きていけるだろうか」という意味であると考えられます。そして戦人は解決法は“長い時間”であると考えています。つまり“長い時間”をかける他ないほど、この罪が重いものであることが解ります。以上の内容から紗音が実際の六軒島において“狂言殺人の推理ゲームをするつもりだった”だけとはとても思えません。そして最後の入水の場面、竜騎士０７さんは以下のように説明しています。

うーん。答えになってしまうのであまり言いたくないのだけど、「ベアトリーチェと戦人が添い遂げられてしまう」というのは「紗音と譲治、朱志香と嘉音が添い遂げられない」ということを確定させることでもあるんですよね。三組の恋がそれぞれ成就されるためには、実は誰も成就してはいけないんですよね。(うみねこのなく頃に竜騎士07インタビュー)

実際に島から出ていって「添い遂げられました」という事実が確定するとベアトリーチェの中では残り二組の恋愛を否定することにつながってしまう。残り二組も幸せでいるためにはベアトという猫箱は伏せたまま、閉められたままでなければならないんですよ。でもそのまま戦人に島から連れ出されたら猫箱が開いてしまう……うーん、ここはお茶を濁したいな。(うみねこのなく頃に竜騎士07インタビュー)

※そもそも、今回の事件の動機は、紗音が３つの恋心を１つの肉体に宿し、そのいずれをも選択出来なかったことにあります。最終的に譲治と朱志香が死亡し、戦人だけが残りました。しかし、それでも尚、紗音は戦人を選べませんでした。その理由を説明しているのが、上記の２つの竜騎士０７さんの説明です。つまり紗音にとって六軒島の爆破は、誰かを選ぶ為に行うものではなく、全員と結ばれる為に行うものだったのです。ようは無関係な人間を大量に巻き込んだ無理心中であったわけで、それを指して竜騎士０７さんの以下の３つの発言があります。

「動機をテーマに犯人の心を探って欲しかった、犯人の心を考えて欲しかった」というテーマを描くにあたって、その心の中の一つの形態として愛があって、「心を理解しないと動機を察することができない」という作品に『うみねこ』をしたかったんですよ。だから読者の方が今までどれだけ真剣に恋愛のことを考えてきたか、ということがそのまま犯人の心境・心情を理解できるか否かに直結してしまうと思います。だから有り体に言ってしまうと、この作品は圧倒的に女性の方が真相に辿り着いた確率が高いですね。ほとんどが女性じゃないかな。男性で辿り着いた人はKEIYAさんを含めて非常に稀ですね。(うみねこのなく頃に竜騎士07インタビュー)

ベアトリーチェという奇特な考え方をする人の考えがどれだけ四年間の連載の過程で理解できたかが、最後のシーンで泣けたか泣けないかの差になってくるのではと思います。(うみねこのなく頃に竜騎士07インタビュー)

※竜騎士０７さんの発言にはツッコミどころもありますが、ようは「この壮大な無理心中を理解するには、恋愛の切なさを理解出来ないと厳しいだろう」ということです。僕個人的には女性の方が理解出来た理由は、紗音が女性だから、女性の方が感情移入しやすかったことが大きいとは思いますけど。

■ここがヘンだよ『うみねこのなく頃にコミックEP7・8』

コミックEP7・8において、原作では明かされなかった真相が描かれています。しかし、どうもこれにはツッコミどころがありまくりなので、検証しておきましょう。まず１つ目“赤字”についての解釈。この説明によれば“人物像などの、どのゲーム盤にも共通し、並列する赤(字)は猫箱の外(現実世界)にも通用する疑いようのない事実”とのことです。これは２つに分解できます。１つは“作品中で語られる人物像は、現実世界のその人物を的確に表現している”。もう１つは“どのゲーム盤にも共通する内容は、現実世界にもそのまま適応される”。ならば、これはどうなるのでしょう？　“《赤：そなた(戦人)は無能だ》”確かにプレイヤーの戦人は探偵として無能だったでしょう(ゲームマスターによってそのように作られたのですから)。しかし、実際の戦人は１２歳にして、こんなことを語れるほど、多くの推理小説に触れています。“「あぁ。推理小説で探るべき３つの論点は、フーダニット、ハウダニット、そして、ホワイダニット。この、前者２つを扱う小説は結構多いと思うが、最後のホワイダニットを扱う小説って、案外ないんだよな。」(EP7)”そして、１８歳になった時の自室の状況が以下です。“遺品整理の時、彼(戦人)が自室に、本当にたくさんの推理小説を積み上げているのを、私(縁寿)は知ったから。”。そしてEP6において以下のやり取りがあります。

「日本ミステリー界の話だが。……『占星術殺人事件』より、坂口安吾の『不連続殺人事件』の方が先だぜ。」(戦人)

「…………………っ。…………………に。………人数、同じじゃないですか。」(ヱリカ)

「記録はタイだが、『不連続殺人事件』の連載開始は１９４７年だ。『占星術殺人事件』は１９８１年だぜ。……あんたくらい博識なら、『不連続殺人事件』を先に挙げるべきじゃなかったのかい。」(戦人)

※この時、プレイヤーの戦人は駒から離れていますから、これは駒戦人、つまり現実世界の戦人の実力です。全然、無能ではありません。そして“《赤：全ての人物は右代宮金蔵を見間違わない。いかなる変装であったとしても、右代宮金蔵を見間違わない！》”こんな不自然なことがありえるでしょうか？　現実世界に存在する右代宮金蔵は、どんな変装をしても絶対に見破られてしまうのです。２つ目が“戦人の生まれについて”です。この解釈では、現実世界の紗音が戦人の出生の秘密を知っていたことになります。留弗夫がどんな事情でもって他人にすり替えの事実を漏らすというのでしょう？　３つ目が“魔法陣について(“その１”“その２”“その３”)”です。この説明だと、短時間で魔法陣を書くために型紙とスプレーを使ったことになります。しかし『我らの告白』で以下の説明があります“これで現場に行くと、さっきはなかった不気味な魔法陣が描かれていた……、というのも面白い。魔法陣自体は数日前から用意しておけば良い。蔵臼たちに、さっきはなかったと虚偽発言をさせれば良いだけだ”“その後、ゆっくりと時間を掛けて、すべての殺害現場の扉に魔法陣を描く”つまり、短時間で魔法陣を書く必要はないということです。そして魔法陣の大きさ、デザイン、線、凹凸へのかかり方(“コミックEP1”“コミックEP2(その1)(その2)”“コミックEP3(その１)(その２)”“コミックEP5(その１)(その２)”)に注目してください。こんなものが型紙とスプレーで描けるでしょうか？　と、ここまで文句をつけて来ましたが、実は別の解釈も出来ます。フリーハンドでこんな魔法陣を描くのは大変です。そこで、型紙を使って魔法陣の基礎を描いておいて、後は手書きで描いた。これなら、型紙とスプレーでも納得できます。４つ目が“真里亞の薔薇消失の秘密”です。郷田ってこんな働き者でしたっけ？　EP2で以下の説明があります。“普段は料理以外にも雑事をこなさなければならないが、親族会議の日は料理人として専念することができる。元料理人の郷田にとって、一年間で最高の晴れ舞台に違いなかった。”そしてEP1では以下のやり取りがあります。

「……あの、…源次さまより、郷田さんのお手伝いに就くように言われてまいりました。」(紗音)

「あぁ、そうですか…。それは助かります。そろそろ戸締りの見回りに行きたかったのですが、ここを空けてもいいものか困っていたのです。何しろ、旦那様方の会合はまだだいぶ続きそうですからね。いつ何時、お茶のご用命があるかもわかりませんし。」(郷田)

「そうですよね…。では、どうしましょうか…、私が留守番を、」(紗音)

「では紗音さん、申し訳ありませんがお屋敷内の見回りをお願いします。私はここで、親族の皆さんのご用命の待機をしておりますので。」(郷田)

「は、……はい…。」(紗音)

…紗音はちょっぴり呆れる。自分は厚意でここに手伝いに来ているのに、本来の当番の本来の仕事を当然のように押し付けるなんて。しかも、それを一方的に押し付けると、郷田は再び雑誌に没頭して、クロスワードパズルに浸りこむ。

※こんな郷田が料理人としての仕事に専念できる親族会議の日に、雑事として嫌う使用人としての仕事を積極的にするでしょうか？　さらに薔薇庭園に失点があれば、それは薔薇の世話をしていた嘉音の責任です。むしろ親族に発見してもらったほうが責める口実が出来ます。以下のように郷田は嘉音を嫌っていますから“……おいたわしや、紗音さん、嘉音さん…。あの二人がいじめられる理由は何もないのです。…しかし、郷田さんに嫌われているのは紛れもない事実…。郷田さんは、右代宮本家へいらっしゃられるまで、どこかの立派なホテルにお勤めだったそうです。そこで身につけられたというお仕事ぶりは、そりゃあ大したものだとは思います。ただ、郷田さんはここではもっとも年季の短い使用人。…ご自身のそれまでの積み重ねによるプライドもあられたのでしょう。彼は、自分より長い年季を持ちながらも未熟で、人生経験も及ばない紗音さんと嘉音くんを、ことある毎にいびられるのです…。(EP1)”。その上、あの時点で親族は一通り薔薇庭園を堪能しており、台風が近付いているため、もう、薔薇庭園に薔薇を見に行くことは考えられません。そんな状況でわざわざ、薔薇庭園の美化に努めるでしょうか？　まあ、薔薇の花びらを採りにきた郷田が、何となくゴミ(飴玉の包み紙)がついた見映えの悪い薔薇を処理しただけかもしれませんが(「まったく嘉音さんはこれだから…」とかブツブツ言いながら…)。コミックＥＰ８で現実世界の六軒島における１９８６年１０月５日から６日の出来事が描かれましたが、これにはツッコミどころがありまくりです。“空砲”って何？　何の為にそんなもの混ぜるの？　ＥＰ７のお茶会で描かれたこの場面はこうなっています。“魔女は口からどろりと血を零し、そのままベッドに倒れた”。“噛みしめて切った唇”からの出血とはかけ離れた状況です。次は“当主の指輪”。何でいきなり外して投げ捨てるの？　この指輪は絵羽から縁寿に受け継がれなければなりませんから、絵羽に渡さなければならないのですが、あまりに雑な描写です。絵羽と紗音と戦人、すれ違いを続けた３人(その１、その２)ですが、こんな具合に行動しています。無茶でしょコレ！　入水の動機が竜騎士０７さんが語った内容と違います。“実際に島から出ていって「添い遂げられました」という事実が確定するとベアトリーチェの中では残り二組の恋愛を否定することにつながってしまう。残り二組も幸せでいるためにはベアトという猫箱は伏せたまま、閉められたままでなければならないんですよ。でもそのまま戦人に島から連れ出されたら猫箱が開いてしまう……うーん、ここはお茶を濁したいな”。入水後、紗音は魔女ベアトリーチェとして転生しました(その１、その２、その３、その４、その５、その６、その７)。いきなりＥＰ１から始めていますが、いつラムダデルタやベルンカステルのことを知ったのでしょう。

「…くっくっく、敵意など微塵も。…伝説の魔女、ベルンカステル卿に粗相がないか、気が気でならぬだけよ。」

「………誤解があるわね。私は無力よ。あなたのような、１人を百殺す恐ろしい力を持った魔女の前にはまったくの無力。」

「その無力な魔女殿が、何人たりとも寄せ付けぬ力をお持ちなのだから恐れ入る。かの大魔女、ラムダデルタ卿を単騎にて退けられたのだから。」

「……根競べに勝っただけよ。あの子が飽きただけのこと。」

「ラムダデルタ卿は、そうは言ってなかったがな？　…くっくっく、過ぎた謙遜はかえって醜くもあるぞ、ベルンカステル卿？」(EP1)

※この時、ベルンカステルとは初対面かもしれませんが、少なくともラムダデルタとは面識があり、ラムダデルタの話を訊いていたことが解ります。

「無限の魔女、大ベアトリーチェ卿は、辺境の魔女なれど、その優れた魔法大系により無限の物語を生み出す無限機関“ベアトリーチェの猫箱”を生み出した天才魔女だそうです。……私からすれば、詰めの甘いマヌケ魔女なのですが、どうやら、大魔女の世界では、ちょいと知られた有名人のようで。」(EP8)

※一体、いつ、ベアトリーチェはこんな有名人になったのでしょう。コミックＥＰ８の終盤で“魔術師バトラ”はゲーム盤の駒であったことが判明しました。ならば紗音がベアトリーチェとして転生した時に一緒に引っ張ってきてしまった“記憶喪失の戦人”はどこに行ってしまったのでしょう？　考えられる可能性は“記憶喪失の戦人”は魔女になった紗音が無意識のうちに生み出してしまった“駒”だった、というものです。

■「寿ゆかり先生のアンニュイな日常」

※長くなってしまった為、これは別ページにおくことにします。

■コミックEP8で明かされる真相とは？

※コミックEP8の１巻の巻末に以下のような竜騎士０７さんのコメントがあります。

(夏海)先生とは、ＥＰ８連載開始のだいぶ前から漫画化に際し色々な御打合せをしました。原作にはないアレンジや、僕が原作で仄めかした部分も、大変わかりやすく、それでいてＥＰ１からしっかり考えて読んでいないとわからないギリギリのニュアンスを描いて頂いています。また、これから先も、この漫画では原作で描かれなかった様々な真相を夏海先生が描いてくれることでしょう。それは、僕が夏海先生の情熱に負け、愛の深さに感動し、それらを明かす決意をしたからです。(中略)何度でも僕は言いたい。うみねこを追いかけて下さった皆さんに言いたいのです。今だけが、最後の答え合わせを楽しめる唯一の機会なのです、と。どうぞあなたの推理や考察が、有意義なものになりますように。ヒントも答えも、全てがここにあります。『愛がなければ視えない』。

※ということですから、コミックEP8には原作では描かれなかった真相が、直接的ではないにしても描かれていることになります。そこで、僕が気がついたものを取り上げてみることにします。まずEP1における秀吉と絵羽の殺害時に、チェーンロックが掛けられていたのに、犯人はどのようにして部屋に入ったか？　その答えがこれです。共犯者だから、普通に入れました。同じくEP1において夏妃の部屋の扉に為された悪戯、あれにどのような意味があったかの答えがこれ(“その１”“その２”)です。インタビュー及び対談で既に明かされている内容ですが、コミックしか読んでいない人のために改めて明かしたものと思われます。EP1における夏妃の最期の謎、その答えがこれです。「で…でも…あの銃は…」という夏妃の台詞はその後に「試し撃ちをした時はきちんと発砲出来た」という言葉が来るのでしょう。室内で発砲して、家具や壁を傷つけるわけにはいきませんから、夏妃は窓から外に向かって試し撃ちをしてみたのでしょう。特に何を狙ったというわけでもないでしょうから、発砲音がして、硝煙が出れば、夏妃が「きちんと使える」と勘違いしても問題はありません。EP2において、ベアトは真里亞のマシュマロ菓子を魔法で元通りにしましたが、その答えがこれです。同じくEP2における第一の晩では６人を殺したあと、椅子に座らせる必要があります。蔵臼や留弗夫は体重が８０キロくらいはあると思われますが、肥料の袋を持ち上げるのでさえ苦労する嘉音にそんなことが出来るのか？　という疑問があるわけですが(源次に手伝ってもらったとしても)、その答えがこれです。ということはEP1における以下の場面“「……………僕だって、………………………。」嘉音はうな垂れ、下唇を小さく噛むのだった…。”この時の台詞に続く言葉は以下だったのでしょう「本気を出せば…」。つまり普段から郷田に対して非力であることをアピールしているため、郷田の見ている場面では非力なフリをせざるを得なかったのです(あるいはEP2において郷田が共犯者なのは、第一の晩の力仕事用なのかも…)。EP3における“六連鎖密室”及び、譲治・南條殺しの真相がこれです。EP4で楼座が真里亞のために手作りしたことになっている、さくたろうの真相がこれです。ちなみにこれはコミック版“翼”において以下の内容があるため(“その１”“その２”)既に充分な気きもしますが…。EP4における“顔が半分吹き飛んだ死体”の作り方がこれです(“その１” “その２” “その３” “その４” “その５” “その６”)。僕は最初、この説明は“顔が半分吹き飛んだ死体はM1897と火薬の量を減らした00鹿撃ち散弾を使用した。”というつもりかと思いましたが、よく読んでみるとどうも違うようです。というのは、金蔵がこの場で手にしていたり、説明図で使用される銃はM1984で、M1897を手に取ったのは一度きりです。ですから“顔が半分吹き飛んだ死体”はM1894と火薬の量を減らした410ゲージショットシェルによって作られたのです。EP1の顔面損壊死体は普通に“頑張って耕した”のでしょう。ただ『我らの告白』でM1894の威力について以下のように説明されています。“ベアトは絞殺道具を仕舞うと、次に傍らのライフルを取る。そして熊沢のふくらはぎの辺りに狙いを付け、引き金を引いた。銃声は軽い。……ドラマや映画で聞くような、ドギューンなどという音ではない。せいぜい、シャンパンの栓を抜いたくらいの音だった。しかし、血の塊が飛び、そこにはぶくぶくと血の溢れ出す痛々しい穴が穿たれた。”これはM1984と45口径ロングコルト弾によるものだと思われますが、ここまで差が出るものでしょうか？　また、EP4の第一の晩の現場は食堂なわけですが、流れ弾は出なかったのでしょうか？(この時に、片手リロード＆二丁拳銃スタイルを使用したのであれば、カッコ良すぎ。『リベリオン』超え？)　まあ、これはどこか別の場所で殺してから死体を運んでくる。頭の下に玉受けを用意してから撃つ。流れ弾が出ない角度と距離で撃つ。など、工夫をすれば良いのかもしれませんが…。　何故、EP4においてベアトは戦人に失望したのか？　その答えがこれです。EP5における秀吉の死の真相がこれ(“その１”“その２”“その３”)です。紗音と嘉音の一人二役の証拠がこれ(“その１”“その２”“その３”“その４”“その５”)です。

■コミックEP8版“ベルンの出題”

※コミックEP8版のベルンの出題では朗読者について、以下のように説明しています。

「朗読者はその読み聞かせ方でいくらでもゲームを歪め、印象操作することができる。ベアトが魔女幻想で物語を脚色したようにね」(ベルン)

※これは原作では以下のようになっていました。

「……朗読の巫女は、自分の口を通して、物語を脚色することも歪めることも出来る。……たとえ私のゲームに小細工がなくとも、朗読の術で、いくらでもそれをすることが出来る。」(ベルン)

※説明不足だったと考えたため、変更したのでしょう。また、南條に関する紫字が２つ省略されています。

「そもそも、《紫：ゲストハウス内で南條先生を殺すことは不可能》なんだ！」(譲治)

「しかも、これを見ろよ。つまりこいつは、《紫：南條先生がゲストハウスを出ていない証拠だ…！》」(戦人)

※これは『最考考』でも指摘しましたが、嘘のないト書きで“そして、今度は南條先生が殺された。殺されたのはゲストハウス内の玄関。”とあるのに、犯人でない譲治が“《紫：ゲストハウス内で南條先生を殺すことは不可能》”と紫字で語ることはありえない話です。そのため修正したと考えられます。そして、以下の紫字“「《紫：譲治お兄ちゃんだって大人は殺せない》よ。《紫：子供…未成年なら殺せるけどね…》」”これは原作では以下の通りです“「《紫：譲治お兄ちゃんだって、大人は殺せないよ。子供は殺せるけれど。》」”やはり説明不足だったと考えたのでしょう。

■コラム　『うみねこ』以上の問題作？『Remember11 -the age of infinity-』

『うみねこ』と言えば“考察”ですが、今から思えば“考察しなければ理解出来ない”作品としては、かつて『うみねこ』以上の問題作がありました。それがこの『Remember11 -the age of infinity-』です。この作品は２００４年にPS2で発売されたビジュアルノベルで“infinityシリーズ”と呼ばれる一連の作品の３作品目にあたります。前作にあたる『Ever17』は非常に人気があり、そのファンが、そのままこの作品を手にすることになったのですが、発売当初、この作品はファンから総スカンを喰らいます。何故かというと、通常、ビジュアルノベルはいくつかのノーマルエンド、バッドエンドの果てに、すべての謎が解明され、大団円となるトゥルーエンドが用意されているのが一般的です。ところがこの作品、ノーマルエンドとバッドエンドしかないのです。“エンディング一覧”があるため「これら全てを埋めれば、謎が理解出来るに違いない」「このどれかにトゥルーエンドがあるに違いない」そう考えて、エンディング一覧を全て埋めたプレイヤーは驚愕の事実に直面します。この作品には、トゥルーエンドはなく、真相は作品中では明らかにされないという事実に。そういう訳で、この作品は“クソゲー”認定されてしまうわけなのですが、やがて、この作品の謎を解く人が出てきました。実はこの作品、ノーマルエンドとバッドエンドの情報を組み合わせると、真相が明らかになるように作られていたのです。この作品の恐ろしいところは、このことが製作者側から何のアナウンスもなかったことです。『うみねこ』は作者である竜騎士０７さんが「挑め！」というメッセージを発し続けていますから『Remember11 -the age of infinity-』に比べれば、遥かに親切な作品でしょう。ちなみに“考察サイト”の存在によって、この作品の評価は多少持ち上がりましたが、それでも低いままです。面白いのは『最終考察うみねこのなく頃に散』において、この作品の製作者である“中澤工”さんと“ＫＥＩＹＡ”さんの対談があるのに『うみねこ』の考察の終始していて、作品論についての言及がほとんどないことです。普通ならどう考えても『Remember11 -the age of infinity-』について取り上げるはずなのですが…(中澤工さんの作品紹介一覧の中にも登場しない…黒歴史扱い？)。おそらくこれは、この対談がEP5発表前という時期だったためだと考えられます。もしこれがEP8発表後だったなら、この対談の内容はガラリと変わったことでしょう。というか是非、竜騎士０７さんと中澤工さんに“真相を明らかにしない作品を世に送り出す際の製作者の苦悩”をテーマに対談して欲しかったです。

■コラム　「それ、もしかして考察？」～公式考察者は何故にヘボいのか？～

　僕からの巷の『うみねこ』考察者への評価は非常に低いものです。特に「公式掲示板に参加していた」という触れ込みの考察者(以下“公式考察者”)は、知りうる限り目もあてられません。よくもまあ、あれほどの人数で何年も考察して、あの程度の考察しか出来なかった挙句、胸をはって「公式掲示板に参加していた」などと言えるものです。呆れ果てて何も言えません。僕ならばむしろ、人には明かせない“黒歴史”です。何故、公式考察者はヘボいのか、その理由を考えてみようと思います。

第１は「自分の考察に愛着を持ってしまったことにより、冷静な判断が出来なくなってしまったこと」が挙げられると思います。公式考察者は、情報が揃わないうちから考察していたため、情報の不足分を自らの解釈で補完した考察を構築しています。それ自体は仕方がないことなのですが、新たな情報が追加されたなら、それを自分の考察に適応する必要がありました。その結果、場合によっては新情報を自分の考察に適用することで、これまでの考察を全てひっくり返す必要が出てくることもあったでしょう。ところが、公式考察者はそれまで築き上げてきた考察を捨てることに耐え切れず、別の道を選びました。「新情報を認めない」あるいは「竜騎士０７さん本人を攻撃する」という現実逃避の道を。これは株式投資における“塩漬け”とまるっきり同じ現象です。これでは株式投資には失敗します(『うみねこ』をいつまで経っても理解出来ない)。しかも株ならば、絶えず株価が変動するため、待っていれば、いずれ株価が上がる可能性もあります。しかし“真実は１つ”の『うみねこ』においてはそれはありえません。つまり“損切り”出来ない公式考察者は、永遠にこの作品を理解することは出来ません。僕は情報が揃うまで自分の考察を持たなかったことにより、公式考察者のような“塩漬け株”を持たずに済んだことで、身軽な考察が出来ました。これは確かに僕にとって有利なことですが、僕は自分の考察に固執するつもりはありません。むしろ「これほど時間をかけた考察が引っくり返されるなら、それほど面白いことはない」と考えています。この“器”の差が、僕と公式考察者の明暗を分けたのではないでしょうか？

第２は「継続性がなく刹那的な考察しかしなかったこと」が挙げられると思います。公式考察者が口をそろえて言うのは「公式は凄かった」「公式には凄い人がいた」ということです。しかし、その証拠を公式考察者は示すことが出来ません。何故なら、公式掲示板の終了と共に公式考察者の考察は消えてしまったのです。こんな馬鹿なことがあるでしょうか？　きちんとした考察をするにはそれなりの分量になることから、検証・改善のためにそれを整理してまとめるのは当然のことです。そのことに思い至らなかった時点で、公式考察者の考察に対する意識の低さと、その考察能力、そして築き上げた考察の程度が窺い知れるというものです。そんな状況で凄い考察をしていたというのなら、それは本当に天才です。

第３は「経年劣化とそれに反比例して増大したプライド」が挙げられると思います。『うみねこ』は半年ごとに発表されたわけですが、EP1から取り組んだとしたら、３年半以上考察していたことになります。これだけ長い期間考察すれば、さすがに疲れるでしょうし、飽きるでしょう。そしてそれに反比例するように、根拠のない自信とプライドだけが増大していきます。公式考察者はとかく「公式に参加していた」ということを自慢したがります。そして、自分の考察を示そうとはしません。僕はそんな公式考察者を見て、高校時代に学校の先生から聞いた話を思い出しました。大阪に“北野高校”という一流の高校があるそうで、成績の良い人間が周辺地域から集まってきます。すると、それまではダントツで成績がトップだった子どもが、クラスで下位の成績になったりします。これはオリンピックで考えると解りやすい話ですが、その国で１番の人でも、世界中から集まった各国の１番の中では最下位かもしれないのと同じです。そんな時、その子どもはやたら“北野高校の看板”に拘るようになるそうです。どこに行くにも北野高校の制服を着て行き、北野高校の鞄を持って行くようになるのです。何せ、一流高校ですから、北野高校の制服を着て、北野高校の名前が入った鞄を持っていると「あの子は北野高校の学生なんだ、凄く頭が良いんだ」と思われます。実際には落ちこぼれである自分をより大きく見せるために、北野高校の看板にしがみつくのです。僕は公式考察者にこれとまったく同じものを感じました(僕からすれば“公式の看板”は無能の証ですので、むしろ滑稽です)。

第４は「自らの功名心に囚われたため“ネットの集合知”が機能しなかったこと」が挙げられると思います。竜騎士０７さんは『うみねこのなく頃に竜騎士07インタビュー』において“ネットの集合知”について、以下のように語っています“「インターネット時代の連載推理小説」は著者と読者が一対一でする対決ではないじゃないですか。ありとあらゆる専門知識を持った読者がそれぞれに意見を出し合って、それを共有し合って著者が投げかけた謎に挑んでくる、集合知の世界なんです。昔のミステリーは、ある専門知識がなければ解けない、というトリックが多かったと思います。たとえば「水は氷の状態では木材よりも頑丈になり、車さえ通れるようになる！　なんだって！？　水を凍らせて車が通れるようになるなんて！！」というトリックがあったとする。昔ならばそれは通用したんですよ。ところが現代では、そんなトリックを出したところで北国出身の方が「いや、普通に通れるよ。俺たちのところでは普通だよ」とネットで書いたら「あ、そうなんだ。氷で渡ったんだ。氷、氷」と一瞬で読者に情報が共有されてしまう。”一方でネットが抱える問題点についても、以下のようなやり取りがあります“(聞き手)僕がすごくおもしろいなと思ったのが、正解が出たのにもかかわらず、その正解が他の推理に埋もれていったことです。読者が連携したことによって、せっかくの正解がその連携で潰されていくというおもしろさ……。(竜騎士０７さん)もっともらしい間違った推理が、正しい答えを駆逐してしまう恐れがネット時代には常にあるんです。”ネットの集合知はそれぞれの考察者が協力しなければ機能しません。むしろ、正解を打ち消す害悪にさえなります。公式考察者の間では、ネットの集合知がまるで機能していませんでした。何故かというと、公式考察者にとって他の考察者は、１つの目標に向かって協力する仲間ではなく、自分に襲い掛かってくる、倒すべき敵だったのです。

僕は“まとめWiki”の掲示板でこの状況を芥川龍之介の『蜘蛛の糸』という作品に例えましたが、もっと良い例えがありました。それは『ピグマリオ』というコミックに出てきた１シーンです。どんなシーンかと言いますと、地獄に険しい山があります。その山の頂上に１本の剣が刺さっています。その剣に触れると、亡者は地獄の苦しみから逃れ、現世に転生することが出来ます。そのため、山は剣を目指す亡者で覆いつくされています。ところが、誰も剣に触れることが出来ないのです。何故かというと、１人の亡者が剣に触れようとすると、下から追いついてきた他の亡者によって引き摺り下ろされてしまうからです。順番に触れていけば良いだけなのに、互いに相手を引き摺り下ろすことしか考えていないため、誰も剣に触れることが出来ないのです。譲り合うことの出来る者にとって、この場は地獄ではありません。ただの現世に蘇るための通過点です。しかし、譲り合うことを知らない、譲り合うことの出来ない亡者にとって、この場は永遠に抜け出すことの叶わない無間地獄なのです。僕には公式考察者の姿がこのシーンとピッタリ重なりました。もし、公式考察者が他の考察者の考察の素晴らしい点を自らの考察に取り入れ、あるいは自分の考察を惜しむことなく他の考察者に提供する。他の考察者からの指摘を素直に受け入れて、自分の考察を修正し、あるいは他の考察者の考察に対して問題点を指摘する。という、互いを高めあえる関係を築けていたなら、公式考察者の考察は素晴らしいものとなったでしょう。しかし、不幸なことに公式考察者は互いに攻撃し合い、否定し合い、自分の考察も相手の考察も高めることは出来なかったのです。

現在、僕の周囲には真面目に考察している考察者は殆どいません。ですから、僕には切磋琢磨しようにも、相手がいないのです。切磋琢磨できる相手が数多くいたにも拘らず、それを活かせなかった公式考察者。至れないわけですし、僕の考察を理解出来ないのも当然です。

■コラム　「それ、もしかして考察？」２～考察者は何故にいつまで経っても成長しないのか？～

　僕が自分以外の考察者を見ていて、不思議に思うことは、彼らがまるで成長しないことです。僕がはじめて“まとめＷiki”の掲示板に顔を出したのは２０１１年１１月だと思います(この頃にPS3版のEP1～4をクリアした為)。そして現在、２０１３年の３月です。この間、僕は弛むことなく考察者として成長し続けてきました。そしてその集大成として『最考考』を完成させ、現在はちょくちょく『続･最考考』を書いています。もっとも、最後に周回したのは１年近く前になりますので、いささか内容の記憶度では衰えが見られますが…。

ところが、僕以外の考察者に全く成長が見られないのです。考察者のレベルは僕が顔を出した時と全く変わっていませんし、下手をすれば、情報が完全に与えられていなかった時点での『真相解明読本』に紹介されているのと同レベルです。考察者そのものが世代交代していたりしますので、考察が足りない人がいるのは仕方がないことなのですが、ＫＥＩＹＡさんの『最終考察』のシリーズがあり、『真相解明読本』があり、竜騎士０７さんへの様々なインタビュー及び対談が発表されているのに、何故、考察者のレベルは低いままなのでしょう？　ネットで得られる情報に限定しても、ＫＥＩＹＡさんの考察が全部ではないにしても読めますし、たけぽんさんの考察があり、プルプルピコプヨさんの動画があり、そして何より僕の『最考考』と『続･最考考』があります。「これらに一通り目を通していれば、こんな考察にはならないだろう」という考察がいまだに飛び出しますし、おそらく１０年経ってもこのままでしょう。こんなことになってしまっている理由はいくつか考えられます。まず、大前提として“■コラム　「それ、もしかして考察？」～公式考察者は何故にヘボいのか？～”で取り上げた内容がありますが、それに付け加えるべき理由を挙げようと思います。

まず、第一は“考察者の勉強不足”が挙げられると思います。ごく単純に、上に取り上げた考察に触れていないのです。「自分の力で考察したい」という想いがあるのかもしれませんが、掲示板に参加するなら、もうその考えは棄てるべきです。自分の間違った考察に、他者から正解を示される場合もあるのですから。さらに言えば、過去に誰かが同じ内容を書いているかも知れず、それを一通り調べるのも、掲示板に参加する上でのマナーなのではないでしょうか？(僕はそんなことはしませんでしたが…)

第二は“読解力の不足”が挙げられると思います。上に取り上げた考察に触れてはいるものの、読解力が不足している為、読んではいても、読めてはいないのです。僕は「『最考考』を読んだ」という考察者、幾人かとやり取りしましたが「本当に読んだの？」という考察者しかいません。『最考考』に書かれた内容をそのまま尋ねてくるのはかわいいほうで「『最考考』のここに書いてある」と示しても、それでも理解出来ない考察者もいます。こういう考察者は『うみねこ』という作品を読解した上で解釈しているわけではなく(そもそも読解というものを理解出来ない)、単に『うみねこ』を読んで、何の検証もなく、思いつきを掲示板に投下しているだけです。彼らのイタい部分は、そんな“考察モドキ”を恥ずかしげもなく「これでどうだ！」とばかりに披露し、根拠を示して否定しても、その内容がそもそも理解出来ず、自分の考察モドキを手放さないところです。彼らは『うみねこ』を識りたいわけではなく、単に“自分の考察(モドキ)”を見せびらかしたいだけですから、ある意味当然なのですが…。

僕が残念なのは、これではいつまで経っても、僕と対等に話せる考察者が出てこないことです。相手の為を思って、心苦しくも考察の問題点を指摘し、考察者に必要な姿勢を説明しても、理解する力もなければ、理解する気もありません。こんなことでは既存の考察者の成長は考えられませんし、新たな考察者もそうそう現れないでしょう。これでは僕と切磋琢磨出来る考察者は、永遠に現れないかもしれません。正直、僕の読解力などそれほど大したものではありませんし、『最考考』『続･最考考』の内容だって、普通の解釈に過ぎません。凄いことなど何もないのです。それが解っているから、僕にとって“日本一の至リスト”など、あまりに空しい称号です。掲示板への書き込みだって、基本的に「この人には理解出来ないのだろうなー」と思いながら書いています。僕にとっての本命は、いつか過去ログとしてその書き込みを読んでくれるかもしれない、未来の考察者です(あるいは読んではいるけど、書き込みはしない考察者)。基本的に書き込み1つで、僕にはその考察者の理解度及び力量はほぼ把握出来ますが、現時点で僕と並びうる考察者はもちろん、可能性を感じる考察者さえ一人もいません。“後世畏るべし”という言葉を信じ、今はただ、新たな考察者を待とうと思います。5000ページもの文章を読める人間なら、学ぶ気さえあれば、すぐに僕と同レベルの考察者になれると思うのですが…。

■コラム　第二の『うみねこ』？　『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』

ちょっと長くなってしまった為、別ページにします。

■コラム　テーブルトークＲＰＧを制するものは『うみねこ』を制す？

僕は『うみねこ』の世界観の理解には、テーブルトークＲＰＧの理解が不可欠だと考えています。そこで『最考考』の“■テーブルトークＲＰＧ？”でテーブルトークＲＰＧについて説明したわけですが、はたしてあの説明でテーブルトークＲＰＧが理解出来るのでしょうか？　いささか不安なので参考文献を紹介したいと思います。初心者向けは何といっても『RPGリプレイロードス島戦記』です。小説と読み比べてみると尚良いでしょう。『ロードス島戦記コンパニオン』『ロードス島RPG ベーシックルール』『ソード・ワールドRPG』はテーブルトークＲＰＧのルールブックそのものですので、これらで勉強してみるのも１つの手かもしれません(実は僕自身は読んでいない…)。『クロちゃんのRPG(ロールプレイング・ゲーム)千夜一夜』はテーブルトークＲＰＧの熟練者によるコラムですので、テーブルトークＲＰＧを裏側から眺めたい人にはオススメです。そして次に紹介するのが、僕がそもそもこのコラムを書こうと思ったキッカケである『RPF レッドドラゴン』です。これはテーブルトークＲＰＧ初心者は置き去りの作品ですが、ゲームマスター及びプレイヤーが凄まじいことになっています。まず、ゲームマスターが『レンタルマギカ』の“三田誠”さん。そしてプレイヤーが『Fate/stay night』の“奈須きのこ”さん。『Fate/Zero』の“虚淵玄”さん。『ミミズクと夜の王』の“紅玉いづき”さん。『バッカーノ!』の“成田良悟”さん。どうやったらこんなメンバーが集められるのか不思議でしようがありません(個人的には竜騎士０７さんもプレイヤーに加えて欲しかった)。僕は竜騎士０７さんへのインタビューを読んで“太田克史”さんのことを「この人、頭おかしいんじゃ？」と思っていましたが、間違いなくおかしいです。こんなメンバーでテーブルトークＲＰＧをやろうなんて、普通の人間では絶対に思いつきません。最後に個人的な趣味で『賽の目繁盛記』を紹介しておきます。この作品はテーブルトークＲＰＧのリプレイをコミックにしたものですが、テーブルトークＲＰＧの教材にはあまりなりません。でも、名作なので紹介しておきます。ちなみに４巻の続きは同人誌になります。

■コラム　同人誌『霧江の犯行とヤスの動機と戦人のその後と縁寿の未来』を読みました

　僕はこの作品が結構気になっていました。というのは発行されたのが2011年8月13日、つまりEP8の後ということで、EP8を経て尚、『うみねこ』を愛し続けていた人たちの作品だからです。実際、内容を読んでみると、ちょこちょこおかしな点はありますが、素晴らしい考察になっています。“愛”があればこれだけの考察が出来るということなのでしょう。ちょっと笑ってしまったのが、“けんたろう”さんによる“幕間”です。“ノベルゲーム「うみねこのなく頃に」では、作中の六軒島でおこった出来事がそのまま語られている訳ではなく、また、六軒島の事件について記述された、ワインボトルに詰められたノート片や、伊藤幾九郎らの偽書の内容がそのまま収められているわけでもない”と書いてあり「けんたろうさんにしては鋭いな」と思ったのですが(モロ失礼)、続きを読んで脱力しました。“なぜ断定的にいえるのかというと、当たり前だけど、ノベルゲームはワインボトルの中に詰められないし、書籍の形にもならないw”確かに正解なのですが、僕からするとこの答はこんな感じです。算数の図形の問題で「角Ａの値を求めよ」という答えを計算で出すのではなく、図形に分度器を当てて測った。でもまあ正解が出せれば方法は何でも構わないということで、ＯＫにしておきましょう。僕は“■偽書『Land of the golden witch』”を書いたことにより、二次創作の大変さを思い知ったのですが、二次創作をする人には是非、この作品の正しい答えを知っていて欲しいと思います。というのは、ある人がすごく長い二次創作を書いているのを見つけたのですが、考察が不十分であるため、その内容におかしなところがあるのです。その為、一生懸命書いたであろうその作品が非常に哀しい出来となっています。これがもし、戦人は譲治とデキていた、という内容なら、別に正しい答えを知っている必要はないでしょう。元々が荒唐無稽なものだからです。しかし“一なる真実”をテーマとして二次創作しているのに、その前提である“一なる真実”の解釈が間違っていては、どうしようもありません。今から『うみねこ』の二次創作を書こうという奇特な人はまずいないと思いますが、もし書こうと思うなら一度ご相談ください。本文とインタビュー及び対談の内容から考えておかしな点があれば、ご指摘します。

■コラム　読解とは何じゃらほい？

　僕は『最考考』のコラムにおいて「『うみねこ』の考察とは読解である」と書きましたが、この読解についてもう少し詳しく書いておこうと思います。突然ですが、国語のテストでこんなことを思ったことはないでしょうか？　「何故、物語をどう受け止めるかは人それぞれなのに、正解があるのだろう？」と。そして一般的な設問は以下の通りです。“本文中から著者の考えを抜き出しなさい”“選択肢の中から正しい答を選びなさい”本文から正解を見つけるだけで答になります。つまり読解とは、文章中に書かれた内容を根拠に答を導き出すものなのです。ですから「お前の考察は引用ばっかりで自分の文章がまるでないじゃないか！」というツッコミは的外れです。むしろ引用だけで構成しても良いくらいなのです。こう書くと「読解と考察は違うだろう」というツッコミがあると思いますが、少なくともミステリーの答は読解によって出せますし、出すものです。何故なら、作者によって１つの明確な答が用意されているのですから。ですから誰が書いても正解は同じ答になりますし、逆に言えば同じ答にならなければどちらかが間違っている、あるいはどちらも間違っているのです(同じ答になっても両方間違っている場合もありますが…)。

　そして、文章を読むことは“書き手の意図を読み取る”ことです。それは評論文だろうが小説だろうがミステリーだろうが、文章である限り共通です。正しく読み取った上で「気持ち悪い」と思うか「素晴らしい」と思うかは人それぞれでしょうが、誤読した上での考察や感想は論外です。評論文よりも小説の読解を苦手にする人は多いと思いますが、何故、小説の読解が難しいのかと言いますと、評論文の場合“一般論”しか書かれていないのです。何せ、教科書や入試に採用されるような文章ですから「人殺しは正義だ」「犯罪は素晴らしい」このような主張の文章が採用されることはなく、“一般論”をそのまま適用するだけで正解出来ます。しかし、小説の場合“一般論”が通用しない作品が取り上げられる場合があります。なぜなら、フィクションであるにも関わらず一般論しか書いていないような小説など、何も面白くないからです。これに評論文と同じように“一般論”で解答したところで、それは不正解です。何故なら、小説の読解に必要なものは“一般論”ではなく、“作者の意図”であり“登場人物の考え方”なのですから。読解とは数学のように決まった答えが出るもので、そこに受け手の考えである“感想”が入り込む余地はありません。こういう部分が理解出来ていなくて、国語の成績が良かった人はまずいないと思います。文章を読むことに、読み手の事情や感情は関係ありません。どれだけ書き手が書こうとした内容を理解出来るかです。
　僕はこのことに関して高校時代に面白い経験をしました。僕はある時、模擬試験の現代文で府内３位に入りました。普段の僕は順位など気にしたことのないような順位でしたから、本来ならばありえないことです。何故、こんなことになったのかといいますと、その模擬試験で出題されたのが『華岡青洲の妻』だったのです。この作品は華岡青洲の歓心を得るために、その妻と母が競い合って実験に身を捧げる異常愛を描いた作品です。その一部を切り出して試験問題にしたものですから、おそらく殆どの受験者がこの物語を理解出来なかったのです。
　そして一般常識や自分の考えで解答を出してしまったため、誤答が続出したのだと思います。ところが僕はたまたまこの作品を知っていましたので、きちんと解答出来たのです。つまり登場人物が異常者の場合、その異常さに寄り添わなければ、登場人物の心を理解することは出来ないのです。もちろん、一般常識を当てはめることで理解出来る作品は数多くあります。というかむしろ大多数です。だからこそ勘違いしがちなのですが、それは“たまたまその作品に一般常識が当てはまったから理解出来た”だけであり、その作品を読解して理解出来たわけではないのです。『花もて語れ』という朗読をテーマにしたコミック作品があるのですが、朗読のベースになるのは読解による“作品解釈”です。読解を勉強するにはもってこいの作品ですので、是非読んでみてください。最後にもう一つ、参考文献を取り上げておきます。『国語入試問題必勝法』という短編ユーモア小説があるのですが、これが実に上手く読解というものの本質を指摘しています。

■コラム　日本一の至リスト

　僕は“うみねこのなく頃にWiki(http://umineco.info/)”の掲示板において“日本一の至リスト”を自称しています。これはごく単純に“客寄せ”の為です。「こう名乗っていれば、僕に挑んでくる考察者が出てくるだろう」と期待しているのです。実際、間違ったことを書くとすぐにツッコミが入るため、かなり役にはたっているのですが、文句を付けたいだけのアンチも集まってくるのが欠点です。残念なのは『最考考』へのツッコミが皆無であることです。僕としては「他の考察者からの批判を反映して『最考考』の完成度を高めたい」という思いがあります。しかし、まるでツッコミがないため、ガッカリしているのですが、考えてみれば当然なのかもしれません。僕は『うみねこ』を６周半しています。竜騎士０７さんの“インタビュー及び対談”を何十回と読み返しています。また、掲示板で相手に説明するために、本文やインタビュー及び対談から引用することをずっとくり返してきました。そんな僕に対して、１～２周程度しかしていない、ろくに他の考察者と考察のぶつけ合いをしたこともないような考察者が、問題点を指摘できるはずがないのです。むしろ出来たらその人はどこかおかしいです。一方で僕から他の考察者の考察を見た場合、本文やインタビュー及び対談の記述を根拠に、間違いを指摘出来ることが必ずあります。僕は自分の考察が、本文やインタビュー及び対談の記述と矛盾がないか、全て検証していますが、そんなことをしている人はまずいないでしょうから当然です。他の考察者とはあまりにかけ離れてしまった僕は“日本一孤高な至リスト”でもあるのでした。僕に対して「自分が日本一の至リストであることを自慢している」と思っている人がいるようですが、僕にとってはそんなこと何の意味もありません。こんな誰にも理解されない作品のことを日本一理解していたところで、何の自慢になるというのでしょう？　また、僕にとっては自分が凄いわけではなく、他の考察者の努力が(量･質共に)僕よりも少ないだけです。子どもに勝って喜ぶ大人がいるでしょうか？　僕は“日本一考察に時間を費やした至リスト”でもあるのです。そもそも“自分より劣るものに対して優越感を持つ”のは、人として、さもしいことなのではないでしょうか？　僕はさもしくない人間のつもりですので、そういう心情が良く解りません。自らのさもしさを僕に投影して、勝手に解釈してもらっては困ります。「あなたとは違うんです」(by　福田元総理)。

■コラム　僕が尊敬する考察者その１“ＫＥＩＹＡ”さん

　“ＫＥＩＹＡ”さんは言わずと知れた『最終考察　うみねこのなく頃に』『最終考察　うみねこのなく頃に散』の著者です。このコラムのタイトルを見て「あれ？」と思われた方も多いのではないかと思います。何故なら、僕は『最考考』において、ＫＥＩＹＡさんを酷評しているからです。何故、僕は尊敬する考察者であるＫＥＩＹＡさんをあれほど扱き下ろすのか？　それはＫＥＩＹＡさんが本気を出していないからです。僕がＫＥＩＹＡさんのことを初めて知ったのは『最終考察　ひぐらしのなく頃に』を読んだときです。正直、衝撃を受けました。まさか『鬼隠し編』だけであそこまで真相を理解できる人間がいるとは…。「僕では逆立ちしても敵わない」自分の限界をまざまざと思い知らされました。そんなＫＥＩＹＡさんが『最終考察　うみねこのなく頃に』で持ち出したのが“消滅説”です。僕はこれで再び、衝撃を受けました。「ＫＥＩＹＡさんは狂ったのか？」自分の目が信じられませんでした。“ファーストプレイメモ”を読む限り、ＫＥＩＹＡさんの考察力そのものは、僕よりも圧倒的に上です。しかし、そこからの深まりがまるでありません。その結果、僕から見たＫＥＩＹＡさんの考察は見るに堪えないシロモノです。一体、ＫＥＩＹＡさんに何があったというのでしょう？　この原因は２つ考えられます。１つは“慢心”。自分の考察が広く認められ、『最終考察　うみねこのなく頃に』という本まで出版することが出来ました。それによってＫＥＩＹＡさんは慢心してしまったのではないでしょうか？　その結果、他の考察者の指摘に耳を傾けることをせず「自分は正しい」「自分は凄い」盲目的に自分を信じ“消滅説”というトンデモ説を持ち出してしまったのです。もう１つは“愛がなければ視えない”。ＫＥＩＹＡさんは『うみねこ』を愛してなどいないのでしょう。ですから『最終考察　うみねこのなく頃に』『最終考察　うみねこのなく頃に散』共に“仕事”としてこなしただけなのではないでしょうか？　僕にとってＫＥＩＹＡさんは“最高の反面教師”です。「考察力だけでは『うみねこ』の考察は出来ない」ということを教えてくれました。

■コラム　僕が尊敬する考察者その２“プルプルピコプヨ”さん

　“プルプルピコプヨ”さんは『ニコニコ動画』において『【うみねこＥＰ３推理】誰が南條を殺したのか【動機】』という動画の他、いくつかの『うみねこ』の考察を動画で発表している人です。この人は凄いです。何より凄いのが、EP7発表の時点で、ほぼ完璧な考察を発表していることです(つまりインタビュー及び対談の情報なしであれだけの考察をしている)。しかもその考察の根拠が、きちんと本文からの引用で説明されています。恥ずかしながら、僕はプルプルピコプヨさんの動画を視るまで、EP2の戦人が金蔵を目撃していることに疑問を感じていませんでした。僕からすればパーフェクト超人みたいな考察者ですが、残念なことに途中で考察を投げ出してしまっています。もし、プルプルピコプヨさんが最後まで考察を続けていたなら、僕が考察を発表することはなかったでしょう。僕にとってプルプルピコプヨさんは“目指しているうちに、いつの間にか追い越してしまった師”です。考察のありようと「考察は最後まで続けなければ意味がない」ということを教えてくれました。

■コラム　僕が尊敬する考察者その３“ウソッキー”さん

　“ウソッキー”さんは『うみねこのなく頃にWiki』の『よろず推理処』に参加していた考察者です。気になる人は過去ログを漁っていただきたいと思いますが「EP4までで犯人を特定出来るのか？」というテーマで、僕はウソッキーさんに対してリザインしました。あの頃の僕はまだ２周目の最中で、今とは比べ物にならないくらいにヘボかったのですが、今現在、同じテーマでウソッキーさんとやりあったとして、実は勝てる自信がありません。僕は『最考考』の“■EP1～４で本当に謎は解ける？”で一応、このテーマについて考察しています。しかし、この考察ではおそらくウソッキーさんには勝てません。うまく説明は出来ませんが、これは『うみねこ』という作品の構造的欠陥です。「僕が悪いわけじゃないんだから許してチョー」ということで、勘弁してもらうことにします。正直、僕はウソッキーさんと考察合戦をしていたその時は「この人、馬鹿じゃなかろーか？」と思っていましたが、今から当時のやり取りを読み返してみると、凄い考察者でした。ウソッキーさんは僕にとって“唯一の敗北をこの身に刻んだ考察者”です。日本一の至リストだからといって、慢心していてはいけないことを教えてくれました。

■コラム　僕が尊敬する考察者その４“デカルト”さん

　“デカルト”さんは『うみねこのなく頃にWiki』の『よろず推理処(その２)』に参加していた考察者です。僕は論理的な考察をしているように見えるかもしれませんが、実は“直感派”です。理屈より先に答えあります。そのため、論理的な説明部分は全て“後付け”です。ですから自分の考えをうまく説明できない時があります。そんな僕のつたない説明をきちんとまとめてくれるのがデカルトさんでした。また、僕の考察を唯一理解してくれた考察者で、僕が知りうる限り最高の考察者でもあり、考察力・読解力・説明力は僕以上です。残念なことに大分長いこと顔を出していないことから、引退してしまったと考えられます。『最考考』について意見を伺いたかったのですが、実に残念です。ちなみにデカルトさんには「ウソッキーさんと同一人物ではないか？」という疑惑があるのですが、本人からは特にコメントがなかったため、別人ということにしておきます。デカルトさんは僕にとって“喉から手が出るほど欲しい考察者”です。「Descartes！ Come back!」

■コラム　僕が尊敬する考察者その５“ちびゆか”さん

　“ちびゆか”さんは『うみねこのなく頃にWiki』の『よろず推理処』『よろず推理処(その２)』に参加している考察者です。実は僕は最初の頃、ちびゆかさんとは関わらないようにしていました。書いていることが全然理解できなかったのです。ところがちびゆかさんが方針転換したのか、僕がちびゆかさんに慣れてしまったのか、いつの間にかコミュニケーションが取れるようになっており、僕にとってかけがえのない考察者になってしまいました。ちびゆかさんとのやり取りの中で、新たに生まれた考察がいくつもあります。僕にとって『うみねこ』の考察は『最考考』で一応完結しています。もちろん、答えを出せていない部分もありますが、理解すべき点は理解できていると思います。そんな僕にとっての次の目標は“ちびゆかさんに僕の考察を理解してもらうこと”です。ちびゆかさんの『うみねこ』への愛情はハンパないです。そんなちびゆかさんが『うみねこ』を理解出来ないなんてことがあってよいのでしょうか、いや、ない！　ですから今の僕にとって『うみねこ』の考察とは“ちびゆかさんに『うみねこ』を理解してもらうためのもの”となっています。ちびゆかさんは頑固な人ですから「ちびゆかさんに納得してもらえるなら、大概の人を納得させられるだろう」という思いもあります。ちびゆかさんは僕にとって“『うみねこ』の考察を捧げ、分かち合いたい考察者”です。

■コラム　ミステリー的に正しいうみねこEP5

(ヱリカ)「書斎の窓は雨が降り出してから、開けられたことはありません」

(留弗夫)「おいおい、探偵さん。俺の証言を鵜呑みにしてもいいのか？　俺は犯人とグルで、夏妃義姉さんを陥れるために“鍵は閉まってた”って嘘の証言をしてるかもしれねーぜ」

(ヱリカ)「それはありえません。留弗夫さんはお気づきにならなかったようですが、実は書斎の窓には外からこれと同じものが張ってありました」

ヱリカはポケットから、手書きで何やらぐちゃぐちゃと大量の線が殴り書きされたシールのようなものを取り出して、一同に見せた。

(秀吉)「ほんまや、何か貼ってあるで」

秀吉は窓から剥がしたものを一同に示した。それは２つに破られてはいたものの、確かにヱリカが見せたものと同じだった。

(ヱリカ)「私は島に漂着してすぐに、屋敷を観察し、当主もしくは主人の書斎らしき部屋に見当をつけて、これを窓に貼り付けました。その時に窓の施錠も確認しています。それから真里亞さんの前に現われたのです」

(南條)「ほぅ、それは何故ですかな？」

(ヱリカ)「ミステリーにおいて物語の舞台が古めかしい洋館、あるいは屋敷である場合、統計によると５１．２５％の確率で当主もしくは主人に当たる人物が被害者となります。その為、あらかじめ先手を打たせていただきました」

(霧江)「つまり、貴方はこの部屋で何かが起こると最初から予想していたわけね。でも、ここは３階よ。梯子もないのにどうやってここまで？」

(ヱリカ)「簡単なことです。雨どいを伝って登ってきました」

(ベルン)「探偵であるヱリカの記憶力は写真並、聴力は録音機並。そして腕力はオランウータン並み。探偵であるヱリカには雨どいを伝って３階まで登るなんて造作もないことよ」

(戦人)「こ、こいつ……完全にイカれてるぜ……。とても同じ人間とは思えねー！」

(ヱリカ)「ありがとうございます。それは探偵にとって最高の褒め言葉です」

(蔵臼)「しかし、中庭からここまではかなりの距離だ。こんな小さなシールや鍵までは見えるとは思えんね。留弗夫が梯子で登ってきた時には既に破られていたり、鍵は外されていたのではないかな」

(ヱリカ)「その点もご心配なく。留弗夫さんが登る前にこれで確認しておきましたから」

ヱリカはやはりポケットから、今度は双眼鏡を取り出して一同に見せた。

(夏妃)「どうしてボートから転落して、命からがらこの島に辿り着いた貴方がこんなものを持っているのですか！」

(ヱリカ)「探偵に七つ道具は必需品です。他にも色々ありますよ。これは鉄格子を切るためのヤスリ。こっちはピッキングに使う道具。これは定番ですね、携帯縄梯子です。ほら、片方がフックになっているでしょう？　下から投げ上げて使うことも出来る優れものです」

■“Confession of the golden witch”とは？

コミックEP8(６巻)に登場する“現実世界の紗音が書いた罪の告白”で、クレルの告白を補完するような内容になっています。原作には登場せず、また、原作の時点ではそもそも存在していなかったものですから、はっきり言って、その存在自体が原作と矛盾しています。その為、このような言い訳が為されています。こんなものが発見されてしまったら、猫箱が猫箱でなくなってしまいます。何故、ここまで無茶苦茶なものを竜騎士０７さんは書こうと思ったのかと言いますと、あまりにも我々考察者が不甲斐ないからでしょう。何せ、これの発表前に「紗音は現実世界の六軒島で嘉音としても働いていた」という考察を発表していたのは、知りうる限り僕だけですから。この“Confession of the golden witch”は現実世界において八城幾子によって拾われたという設定です。“虚無の海”の“図書の都”にも所蔵されており、縁寿はカケラとなった“Confession”を図書の都で飛び降りて、黄金郷に流れ着くまでの間に見ることとなります。内容としてはクレルの告白で語られた、鐘音の鍵束から鍵を移動させた魔法の種明かし、EP3冒頭で語られた、“お姫様”とベアトリーチェ(ワルギリア)のやり取りが、紗音と熊沢とのやり取りであったこと、紗音の胸が偽物で、生理もないこと、紗音が嘉音として六軒島で働くようになったこと(その１、その２)、金蔵が紗音が理御であったことに気づいたきっかけ、ＥＰ６で嘉音が回想した“金蔵に銃を撃たせてもらった”のは紗音であったこと、真里亞が出会った“ベアトリーチェ”は紗音であったこと、譲治を愛するようになった頃にはまだ、自分の身体に希望を持っていたこと、自分が“子供が作れない身体”であることを知ったこと、朱志香が語った金蔵の部屋からの“異臭”は、金蔵の遺体から発生する臭いだったこと、紗音は六軒島で過去に起こった日本軍とイタリア軍の殺し合いを詳しくは聞かされておらず、金蔵が黄金を独り占めするために、彼らを皆殺しにしたと考えていること(その1、その２)、時計と連動した爆破装置って本当に金蔵が作ったの？(その1、その2)。紗音の内面では紗音、嘉音、ベアト、３つの人格による葛藤があること、朱志香からの嘉音への恋心が現実にもあったこと、戦人への恋心はベアトの人格が預かっていること、源次、南條、熊沢の３人は共犯者であるが、南條、熊沢は騙されての共犯者であり、紗音の真意(爆弾による心中を企てていた)を知っていたのは源次のみであること、メッセージボトルのルール(その１、その２)、メッセージボトルの中のノート片(その１、その２)、紗音の心中への想い(その１、その２)、使用人の共犯化、電話の不通化、ラムダデルタからの接触(その1、その２、その３)、ＥＰ１第一の晩の解答、ＥＰ２第一の晩、第二の晩の解答、ＥＰ３第一の晩の解答、ＥＰ２第四の晩、ＥＰ４第五の晩の解答、ＥＰ４第九の晩の解答、運命のルーレット(その１、その２)、実際にメッセージボトルを流す場面(その１、その２、その３)、以上、異常なまでに盛りだくさんの内容となっています。

■鯖アメって何？

※コミックEP4でワルギリアが魔法で出したものです。この場面に実際に居合わせたのは、熊沢であることを暗示していると思われます。

■紗音は使用人？

※この作品には以下の2つの赤字があります。

《赤：マスターキーは使用人たちがそれぞれ持つ一本のみ。マスターキーは5本しかない。》(EP2)

《赤：使用人が犯人であることを禁ずッ！！》(EP7)

※人格は鍵を持つことなど出来ませんから、この場合、肉体としての紗音が“紗音の人格”の分の鍵と“嘉音の人格”の分の鍵、合計２つの鍵を持っています。そして“鍵を持っている”のは肉体としての紗音ですから、この赤字によって肉体としての紗音は“《赤：紗音は使用人である》”と定義されてしまっているのです。そして“《赤：使用人が犯人であることを禁ず》”がありますから、２つの赤字が矛盾するわけです。ところがこの作品の犯人は使用人であるはずの紗音です。この矛盾に関して、以下のような２つの考え方が正解であるとされていると思います。１つ目は、紗音は使用人であると同時に“真の右代宮家当主”でもある。２つの立場を持つため「使用人であって使用人でない」という考え方です。２つ目は、紗音は複数の人格を持つため「使用人である“紗音の人格”と右代宮家当主である“ベアトの人格”、これらの赤字はそれぞれ別に適用される」という考え方です。１つ目はいささかズルいのではないかと思いますが「絶対おかしい」と断言出来るほどのものではありませんし、２つ目は“人格死”によって赤字を潜っている以上、同様に肯定されて然るべきです。しかし『うみねこ』をミステリーとして認識する場合「人格が犯人」など許されるのでしょうか？　ミステリーの犯人は人間なのではないでしょうか？　また竜騎士０７さんの以下の発言があります。

(ヴァンダイン二十則「使用人が犯人であることを禁ずッ!!」について)あの赤字はプレイヤーが、本当の意味で真犯人を理解できているかどうかを試すために出しました。(最考散)

※この“本当の意味で”と強調されているのが気になります。紗音が犯人であることは、結構、簡単に解ることだと思います。それならばこの強調は「人格が犯人なんてあるわけないでしょ！」という意味ではないでしょうか？　そこでズルくなく、人間が犯人である３つ目の正解を以下に示します。ただし、この解答は竜騎士０７さんがミスをしたという前提で成立します。それは“《赤：マスターキーは使用人たちがそれぞれ持つ一本のみ。マスターキーは5本しかない。》”のところで、本来ならば“《赤：マスターキーは源次、熊沢、郷田、紗音、嘉音たちがそれぞれ持つ一本のみ。マスターキーは5本しかない。》”と書くべきところを、誤って“使用人”と書いてしまった可能性です。そもそもこの赤字は“マスターキーは5本しかなく、この5人がそれを持っている”という事実を定義づけるためのものです。別に“《赤:紗音は使用人である》”と定義づけるためのものではありません。そのため、竜騎士０７さんはこの赤字によって“《赤:紗音は使用人である》”と定義づけてしまったことに気がついていない可能性があります。下手をすれば“《赤：マスターキーは(そなた達が)使用人(と認識している者)たちがそれぞれ持つ一本のみ。マスターキーは5本しかない。》”という認識で、これでＯＫのつもりなのかもしれません。なにせ“《赤:紗音は使用人である》”とはどこにも書いていないわけですから。紗音が使用人であると定義づけられていなければ、紗音は使用人として振舞ってはいるものの、実は使用人ではなく、真の右代宮家の当主で、犯人。この解答が成立出来るのです。ちなみに、この解答はある意味、たまらなくイタい皮肉です。何故なら竜騎士０７さんは“あの赤字はプレイヤーが、本当の意味で真犯人を理解できているかどうかを試すために出しました。”と言いながら、実はそれが成立出来ないミスを犯していると考えられるためです。

ここまでの説明をまとめると、大体、以下の様になります。“紗音は使用人であると同時に右代宮家当主である”この説を“兼職説”。“そもそも竜騎士０７さんは紗音を使用人と定義したつもりはない”この説を“ミス説”。“紗音の人格は使用人でベアトの人格は右代宮家当主”
この説を“人格説”。それぞれ便宜上、こう呼ぶことにします。まず兼職説のメリットは、紗音が使用人であることを赤字で宣言されても
同時に右代宮家当主であるため《赤：使用人が犯人であることを禁ず》をデフォルトで潜ることが出来ます。一方でデメリットは、いずれかを赤字で封じられても、もう一方で赤字を潜れるためアンフェアではないか？　という指摘に対して無力であることです。次にミス説のメリットは、《赤：紗音は使用人である》という赤字が成立しなくなるため、《赤：使用人が犯人であることを禁ず》を潜ることが出来、
兼職説のような指摘を受ける心配はありません。一方でデメリットは、竜騎士０７さんはミスをしたと想定せざるを得ないことです。最後に人格説のメリットは、それぞれの人格に赤字を適用することで《赤：使用人が犯人であることを禁ず》を潜ることが出来、ゲーム盤のルール上も問題はありません。一方でデメリットは、ミステリーの犯人が人格なんて許されるのか？　という指摘に対して無力であることです。こうして並べてみると完全な説などなく、それぞれ一長一短あることが解ると思います。

■紗音=理御は何故、男なのか？

かつて『最終考察　うみねこのなく頃に　考察』において“■ヤスは男？”というトピックを書きました。これはその補足です。“■ヤスは男？”で紗音=理御が生物学的には男である根拠をいくつか挙げましたが、決定的な根拠は理御の性別が秘匿されていることです。何故、秘匿する必要があるのか？　女として認識されている紗音とは性別が異なるからに他なりません。もし、理御が女であれば性別が秘匿されることはなかったでしょう。何故なら、秘匿する意味がありませんから。つまり、皮肉なことに秘匿することによって逆に、理御が男だと明らかになってしまっています。

このトピックではここからさらに踏み込んで「何故、男なのか？(女では駄目なのか？)」について書きます。結論から言いますと、これは“作り手(竜騎士07さん)の事情”です。この物語において紗音が計画したのは“無関係の人間を大量に巻き込んだ、壮大な無理心中”です。よっぽどの理由がなければプレイヤーを納得させることなど出来ません。もし、紗音が女だったらどうなったでしょうか？　赤ん坊のときの大怪我が原因で、発育が悪くなるかもしれませんが、それなりに胸は大きくなるでしょう。生理が来なくても「大怪我のせいで遅れているのかもしれない」と考えることが出来ますし、生理が来なくてもあるいは妊娠・出産が可能かもしれません。絶望感がイマイチなのです。一方で男であれば、もちろん妊娠・出産は考えられませんし、肉体的に愛する人と結ばれることもありません。それどころか「同性同士でなんて…」と拒絶されるかもしれません。そもそも十数年、女として生きてきて、今さら「実は男でした」なんて言われても、困ります。“無関係の人間を大量に巻き込んだ、壮大な無理心中”の理由としては、どう考えても女よりも男です。ですから、紗音=理御は男でなければならなかったのです。

■世界がもし八城十八の創作だったら

一般に流布している“八城十八創作説”は、僕の目から見て穴だらけなのですが、唯一納得せざるを得なかった“八城十八創作説”を書いておきます。まず、書いた時期は八城十八の晩年。何かのきっかけがあったと考えられますので、幾子か十八のどちらかが亡くなったか、もしくは病に倒れ、余命わずかな状況。あるいは寿ゆかりが同様の状態になった時、です。寿ゆかりと面会していますので、EP4などの縁寿の描写に問題はありませんし、１９９８年の数十年後もクリアです。書いた動機は“六軒島爆発事故の総決算”と“寿ゆかりの魔法の原点を伝える為”。

■世界構造図

※『うみねこ』の世界構造図を作ってみました。ベアトの領地で行われた、ベアトのゲーム(EP1～8)はカケラとして虚無の海を漂っています。また、現実世界のカケラも虚無の海を漂っています。これは以下のように無茶苦茶たくさんあります“あなた(理御)という奇跡の存在を見つけ出すために、２５７万８９１７の中のたった１つのカケラを見つけ出してきた”。その中には“縁寿がビルから飛び降りて死ぬカケラ”“縁寿がビルから飛び降りて奇跡的に助かるものの、真実を求める旅の果てに六軒島で天草に射殺されるカケラ”“真実を求める旅の途中で縁寿が八城幾子に会えるカケラ(これはもしかしたらないかも…)”“縁寿がビルから飛び降りず、寿ゆかりとなるカケラ”“夏妃が赤ん坊を崖から落とさずに理御として育てるカケラ”などがあります。

■設定変更

※コミックEP8は原作とはかなり内容が変更されています。理由は３つあると思います。まずは“尺が違う為”です。長大な原作をそのままコミックにすると、何十巻にもなる長編に成りかねない為、内容を圧縮する必要があります。その為に内容の一部をカットする、もしくは改変することによって端折る、というようなことがなされていると考えられます。次は“猫箱の中身を明かす為”です。原作そのままでは猫箱は閉じられたままですから、新しい内容を追加する必要があります。最後は“解りやすくする為”です。原作のままでは理解しづらい部分を、より理解しやすい内容に変更するのです。ところがどうももう１つ、考慮しなければならない要素があるようです。コミックEP8の９巻において竜騎士０７さんは以下のように書いています。　

“ＥＰ８の作画がＥＰ１をご担当した夏海先生に決まり、打ち合わせの以前に先生がすでに書き上げられた何十ページものネームを送って頂いていました。そこにはすでに二日目の爆発以降、三日目の戦人とペアトのやり取りや、犯人の過去編が描かれていました。（これを描けたのはＥＰ１連載開始前に、僕が真相についてお話ししていたからです。）お忙しい中、たくさんのネームを書き上げ、僕に届けてくれたネームからは夏海先生がこの物語をご自身の手で眠らせるという愛と決意を感じました。だから夏海先生に猫箱の中身を委ねることにしました。僕が、その際に先生にお伝えしたのは以下のような３つのことでした。「サウンドノベルと漫画では描き方も見せ方も違う。だから、原作に固執することなく漫画版に相応しい描き方、魅せ方にしていただきたい」ということ。もう１つは、「ＥＰ８は縁寿を幸せにするための物語。彼女を救う為に書き上げられたものなのだから、どうか必ず彼女を最後に幸せにしてほしい」そして最後の１つは、「全てを夏海先生にお預けするので、どうか猫箱を存分に描き切っていただきたい」それに夏海先生は全身全霊で応えて執筆をして下さいました。執筆中にも、本編で明かされなかった様々な事項の確認のやり取りを何度もさせていただきました。それは猫箱を切り開き、展開するかのような、いや、ベルンカステル風に言うならば猫箱の腹を裂き、全てを引き摺り出す作業でした。その果てに、僕は夏海先生に猫箱の全てを伝え切れたと思っています。だからこそ。あの日あの島で何かあったかを竜騎士07と同等に知る唯一の人間は、夏海先生ただ１人だと断言できると思います。”

※つまりコミックEP8で明かされた真実とは“夏海ケイ”というフィルターを通して、我々に伝えられた真実なのです。これには良い面と悪い面があると思います。良い面は、間に１人入ることによって、内容が客観化されると同時に整理されることです。悪い面は正しく翻訳されない部分が出かねないことです。コミックEP7も同様なのですが、コミックEP8には竜騎士０７さんの発言と矛盾する内容があって、僕はこれを「竜騎士０７さんが設定変更した」あるいは「竜騎士０７さんが原作の誤りを正してきた」と解釈してきたのですが、それだけではなくて、誤訳の可能性も考慮する必要があるわけです。この前提で、コミックEP8において原作から変更された部分について「何故、そのような変更をしたのか？」を考察します。コミックEP8の1巻を１ページめくると、いきなり原作にはなかった序文が登場します。いろいろ解釈は出来るかと思いますが、先ほど取り上げた竜騎士０７さんのコメントから考えると、このEP8が“縁寿を幸せにするための物語”であることの宣言だと思われます。発言主はゲームマスターである戦人と考えるのが自然ですが、あるいは物語の描き手である、夏海ケイさんという解釈も出来ます(もしくは竜騎士０７さん)。実のところ、冒頭に出てくる礼拝堂の場面は、原作よりもコミックの方が丁寧に描かれています。原作には、この縁寿の立ち位置を説明する内容(その１、その２)はありませんでしたし、その他にも原作にはなかった内容が入っています。これ以降にも登場しますが、こういう“原作にはなくコミックEP8で新たに追加された内容”は非常に重要です。何故なら、ただでさえ原作より尺がないコミックEP8なのに、それを圧して入れてきたということは、それが「どうしても必要」と夏海ケイさんが考えているに違いないからです。この場面も原作にはなかった内容です。これはコミックＥＰ８の９巻終盤に出てきた、魔女ベアトリーチェに転生した紗音と記憶喪失になった戦人にリンクしています。原作においてハロウィンパーティの後はクイズ大会になっていましたが、これはコミックEP8では“かくれんぼ”に変更されています。これは、これまでのEPに出てきたミステリーの謎解きをする為です。原作ではこのクイズ大会で獲得したメダルの数によって、金蔵がそれぞれ異なったプレゼントをくれましたが(ベアトリーチェのぬいぐるみなど)、コミックＥＰ８では細長い包みになっています。このプレゼントは後の展開で重要な役割を果たします。その後、しばらくは基本的に原作通りの展開となります(ベルンのゲームは少し訂正がありますが)。これは９巻で解ることなのですが、コミックEP8では、縁寿と八城幾子が面会し、絵羽の日記を見せられた場面が“実際にあったこと”になっています(原作での縁寿は八城幾子には会えなかった)。これはいろいろ説明するのを省くためと考えられ、特に意味のある変更ではないと思われます。その後、縁寿に味方するベルンカステル、ヱリカ、エヴァによる攻撃が始まりますが、ここで再びミステリーの謎解きが盛り込まれ、時にEP5とEP6に関してはかなり詳細に説明されます。原作と決定的に違う内容となるのが、６巻の内容のうち４分の３を占める“Confession of the golden witch”です。これは原作には登場しなかった(そもそも存在しなかった)、紗音が流した特別なメッセージボトルです。これを八城幾子が拾っていました(とコミックEP8では設定変更された)。この変更理由は明らかです。原作の内容だけでは“犯人の動機”を理解出来なかった人たちにそれを伝える為です。その後の黄金郷で縁寿が留弗夫と霧江に再会した場面が変更されています。これは僕も原作で疑問を感じた点です。真実を知ったばかりの縁寿が、すんなり両親を受け入れるとは思えなかったのです。それ以降の展開も原作よりも詳しく描かれています。特にこの部分はこの作品のテーマでありながら、原作では触れられなかった部分です。最後、縁寿がどちらの扉を開けるかは、原作ではプレイヤーが選択出来るようになっていました。しかし、コミックEP8では両方を描いています。“手品エンド”は基本的に原作のままです。しかし“魔法エンド”はかなりの設定変更が為されています。原作では縁寿はビルから飛び降りませんでしたが、コミックEP8では飛び降りています。原作では会えなかった八城幾子にコミックEP8では面会していることから、これは絵羽の日記を見せられた後、絶望し、ビルから飛び降りたということなのかもしれません。原作においては旅立ちの際に以下のやり取りがある為　

「そうだ、運転手を紹介しておこう。俺の子飼いの男だ。信用できるし、何でも頼れるぞ。会長のところで長年護衛をしていたから、縁寿ちゃんも面識があるかもな？」(小此木)

「……天草だけは御免よ。」(縁寿)

へっぷし！　運転席から出てきた男がくしゃみをする。

「そりゃねぇですぜ、お嬢。」(天草)

「天草、お前ぇ、何やらかしたんだ？」(小此木)

「……伯母さんの護衛の中で、一番軽薄そうだったからね。こいつだけは御免よって思ったの。」(縁寿)

「でも、一番仲良くしてたろ。」(小此木)

「……まぁ、おしゃべりだけは面白かったかも。」(縁寿)

※縁寿は天草と暫く会っていなかったことになり、この解釈だと変になりますが、コミックEP8ではこのようになっています。これだとむしろ、つい最近、天草と何かあったような印象です。こう解釈すると“一なる真実の書”を読んで図書の都から飛び降りた魔女の世界の縁寿と、現実世界の縁寿がリンクする為、構成がスッキリしますし“赤字で死亡を宣告された戦人が十八として生きている”ことの伏線にもなります。ファンタジー成分の追加も大きな変更点です。魔女の世界で貰った品物を現実世界に持ってきていますし、魔女の世界での約束を現実世界で叶えています。これは「この作品はファンタジーである」という主張でしょう。フェザリーヌの描写も変わっています。これは原作ではこうなっていました。　

「わかっている。もう少しだけを書き足し、そこで筆を置こう。……それで、そなたとはお別れだ。」

　フェザリーヌが、少し暗くせよと指を掲げてくるくる回す。すると、書斎の明かりが、ゆっくりと消えていく……。

「ほんの少しだけ休ませてはくれぬか。……その間は、我が猫、……もとい、我が巫女にお相手をさせよう……。」

※フェザリーヌが誰と話しているのか謎だったのですが、カットされています。おそらくこれは上手く説明出来る解答がないのでしょう。このあと、六軒島における１９８６年１０月５日午前１時５分以降、つまり地下貴賓室での殺戮劇後、紗音が意識を取り戻してから、１０月６日、入水するまでの場面が新たに描写されています。いろいろツッコミどころがあるのですが、そこは別のトピックで語っているのでパス。原作でも10月６日の描写がありましたが、あれは戦人と紗音のやり取りが幻想修飾された場面として描かれていたと思います。しかし、このコミックEP8では力技であれを現実の出来事にしてしまいました。正直「こんなやり方があったか！」と感心せざるを得ません。入水し、死んだはずの紗音はその後、魔女ベアトリーチェとして魔女の世界に転生します。そして、それがそのままＥＰ１に繋がっていきます。これは別に設定変更ではなく、原作の世界観を解りやすく説明しただけなのだと考えられます(「魔女のベアトの物語」はコミックEP8でこの場面が出てくる前に書きました)。縁寿と十八の再会の場面では、原作で大いにプレイヤーを悩ませた“あの描写”がこのようになっています。原作と決定的に違うのはこの場面です。原作では以下のようになっています。

十八先生とは、……もう二度と会わない方がいいだろう。彼を苦しめるし、……何より、私をまた、過去に縛り付けてしまう。それでも、あと一度だけ。どうして彼を案内したい場所があった。

「……十八先生。……最後にもう一度だけ、お会いして下さいませんか。どうしても先生を、ご案内したい場所があるんです。」(ゆかり)

「…………………。……えぇ、いいですとも。」(十八)

※この変更により、十八が“自ら心の傷に立ち向かう勇気のある男”として描写されました。福音の家にいた長髪の男、これは夏海ケイさんによるサービスシーンでしょう。そして原作では以下のようだった場面が

待ちくたびれたぞ、戦人ァ。

……すまねぇ。来るのが、遅れちまった。

そなた、何故、車椅子なんぞ座っておるのか。ほら、手を貸してやるからシャンとせい。

ベアトが歩み出て、……車椅子に座る戦人に、手を差し出す。戦人は、……その手をゆっくりと掴み、………ゆっくりと、……立ち上がる……。

※このようになっています。つまり、原作においては、黄金郷に戦人はいなかったのに、コミックEP8では元々黄金郷にいた戦人に十八の中の戦人が迎え入れられた、というように変更されています。EP5のラストで誕生し、EP8まで活躍した“バトラ卿”がこの、元々黄金郷にいた戦人ということでしょう。

■創作説とファンタジー説

※『うみねこ』の創作説とファンタジー説を例え話にしてみました。ある日、竜騎士０７さんはプレイヤーの前に、『うみねこのなく頃に』と書かれた、袋入りのジグソーパズルのピースをポンと出して言いました「パズルというものは完成するように出来ています」そしてそれ以上は何も言わず、その場を立ち去ってしまいました。「これはパズルである」と考えたプレイヤーは、それぞれ自分なりにジグソーパズルを組み立ててみましたが、普通に組んで行くと、どう考えて四角形にはなりません。「これは、使わないピースがあるのではないだろうか？」こう考えたのが創作説です。創作説の人はピースを選り分け、四角形にする為に不要はピースは余分なピースとして使わないことにしました。人それぞれ　様々な大きさの四角形が完成しますが、最も尊ばれるのが出来るだけ多くのピースを使用し、余分なピースの少ない四角形です。その代表例が“八城十八創作説”という作品です。一方で「“完成する＝たった一つの正解がある”があるのなら、使わないピースがあるのはおかしい」こう考えたのがファンタジー説です。どのピースを使わないかで無限のパターンがありえますから、それでは“たった一つの正解”など共有出来ないだろうという考え方です。ですから、ファンタジー説の人は全てのピースを使ってパズルを完成させる道を模索します。最終的にどんな形になるのかは、完成してみないことには解りませんので、とにかく形は気にせず、ピースの繋がりだけを意識して全てのピースを使ってパズルを完成させます。確信的に「このピースとこのピースは繋がる」と判断出来る場所がありますので、その部分は創作説とファンタジー説で共有出来ます。一方で、そもそもスタート時点で考え方が違うわけですから、どうやっても相容れない部分があるわけです。

■『ひぐらしのなく頃に』で理解する『うみねこのなく頃に』

※しばらく前に『ひぐらしのなく頃に』が再アニメ化されるという情報を目にしました。『ひぐらし』の“祭囃し編”が発表されたのは２００６年。それなのに２０１６年にテレビドラマ化され、もっとも最近のコンシューマ移植である『ひぐらしのなく頃に奉』が発売されたのは２０１８年と２０１９年です。そこに来て今回の再アニメ化。今、この文章を書いているのは２０２０年ですから、実に１４年以上に亘るロングランとなっています。

大変めでたいことですが、一方で同じ『～のなく頃に』の名を冠していながら『うみねこのなく頃に』はアニメは前半しか作られず、ＰＳＰ版に至ってはＥＰ５以降は未発売という“ご覧の有様”。俗に言う“ひぐうみ格差”ですが、ふと思いました。「『ひぐらし』人気に託けて、『うみねこ』の考察を書けるのではないか？」と。

難解だと言われる『うみねこ』の世界観ですが、ベースにあるのは『ひぐらし』の世界観であり、それをさらに発展・拡張させたものに過ぎません。ですから、この機会に『ひぐらし』の内容を引用しながら『うみねこ』の世界観を説明する考察を書くことにしました。何故、かつて考察者であった頃にこの考察を思いつかなかったのか不思議ですが、当時は『うみねこ』にどっぷり浸かっていた為、そういう俯瞰した見方が出来なかったのでしょう。以下、内容となります。

※『ひぐらしのなく頃に』の罪滅し編において以下の内容が出てきます。

「……圭一は、………覚えているのですか？　………レナと魅ぃを、……殺したことを。」

「そうだ！！　俺が……殺したんだ！！　殺したんだ！！　なのに、俺は何の罪も認めずに、まるで自分は被害者のつもりで！！　死ぬ最期の瞬間まで……仲間を呪って、恨んで！！　血がいっぱい出て、……そして………そして………。結局、何の後悔もなく、……ひとりで……勝手に死んだ………………。」

電話ボックスの中で、痒くて痒くて仕方がない喉を掻き毟りながら、……それでもなお自分の罪に気付かず、……勝手にひとりで死んでいく。

「……圭一。…………あなたの罪に、…気付きましたのですか。」

「気付いた。こんなにも今頃になって、俺は気付いたよ、思い出したんだ！！　ここじゃない別のよく似た世界で！　俺はなぜか仲間たちに疑心暗鬼を持って……殺してしまったんだ！！　仲間たちは俺に救いの言葉をかけていたはずなんだ！　なぜそれに耳を傾けられなかった？　どうしてだよ?!　うぉおおぉぉおぉおおぉぉ！！」

※並行世界である別のカケラ(鬼隠し編)の記憶を圭一が思い出した、あるいは共有した場面ですが、これは以下のように『うみねこのなく頃に』ＥＰ８の魔法エンドにおいて縁寿に起こったのと同じ現象です。

私は、眼下の星の海に、………一歩を踏み出した、片足の状態でいた。

いつから、私はここにいたのだろう。

……多分、ベルンカステルに誘われて、一歩を踏み出そうというところで、……ずっと私の時間は止まっていたのだ。

「………………………………。」

その足を、………ゆっくりと、戻す。

そして、フェンスに寄り掛かって、座り込んだ。

空は、遠い。

でも、地上も遠い。

どちらの世界にも遠い、悲しい場所に、私はずっといたのだ。

空へは、行けない。

なら、私の世界へ、帰らなくちゃ。

「そしてそれは、エレベーターがいいわね。……スカイダイブはもうたくさん。さすがにもうないわよね。ここから飛び降りて、無事なんて奇跡は。」

そんな奇跡は絶対ないって、某奇跡の魔女の保証済みなんだからね。

※ちなみにこの場面と直接、繋がるのはＥＰ３のラストに出てきた以下の場面です。　

………この世に、私の家族も友人も、何もいないのだ。

だから、

…………行こう。…帰ろう。

……家族のところへ。

縁寿の姿は、…柵を最初から越えていた。

眼下の景色はとても遠くて美しくて、むしろ幻想的でまったく恐怖感を感じさせない。

下を向いてたら、きっと下の世界へ連れて行かれてしまうだろうから。

……私は上を向く。

上の世界へ、家族のいる世界へ連れて行ってほしいから。

………何が莫大な財産よ。

何が呪われた黄金よ。

何が黄金の魔女ベアトリーチェよ。

私が本当に欲しいものは、山成す黄金であろうとも、手には入らない…。

その為に必要なのは、一歩前へ踏み出す、たったそれだけの勇気。

※絵羽が亡くなった後、全てを失った縁寿がビルから飛び降りようとする場面です。これをして“縁寿、突然の心変わり”などと揶揄する声もありましたが『ひぐらし』における“圭一の別のカケラでの記憶の共有”を認めるのなら、これも当然、受け入れられるはずです。そして皆殺し編で以下の内容が出てきます。

それは、あるカケラにおいて、…別のカケラのことを認識させるという奇跡を生み出す。

………別のカケラで学んだことを活かせるなら、人は間違いなど犯さない。

※そしてＥＰ８で以下の縁寿のモノローグ的な内容があります。

１９８６年の１０月４日から５日にかけての２日間に。

一体何があったのかを知りたくて、……ビルの屋上より一歩を踏み出し、……魔女のゲーム盤とカケラの世界をいくつも漂い、長き報われぬ旅路に身を任せてきた。

※縁寿は“長き報われぬ旅路”の果てに、それらで学んだことを活かして、魔法エンドに至るわけです。同様の構造なのに『ひぐらし』はＯＫで『うみねこ』はＮＧ。何故か、そんなダブルスタンダードな風潮がアンチ系考察者連中界隈にはありました。そして罪滅し編で以下のようにレナが雛見沢症候群の発作から立ち直りますが。

「どうして圭一くんに鉈を振り上げているのか、…わかんない。……どうして、…私は……こんなにも大好きな仲間たちに、…こんなにも恐ろしいことを…してしまったんだろう…。」

「お、………お前、…………そうか……、……気付いたのか…。………この「世界」で、……気付けたのかよ………ッ！！！」

「自分で自分が…信じられないよ…。

こんなにもあんなにも、楽しい日々だったのに、…どうして私は、…どうして私は…。……何も不満もなかったし、…何の不安もなかったのに……、…どうして、…自分で壊してしまうような真似を…………。」

「レナ……、お前はやっぱり……すげえよ…。」

俺なんか、…お前と魅音を殺した後、……それでも気付かなくって、わけのわからない遺言を残して、…大石さんに電話までして！

……それでも自分以外の誰かが悪いんだろうって思い込んでたんだぜ。

……死んでも。死んだあとも！

俺はずっと自分の罪深さに気付きもしなかった！

自分ひとりだけが勘違って、仲間の救いにも気付けず殺してしまうことの何と悲しいことか。

……そして、……それを罪と気付けないことが何と…辛いことか…。

「だから、……レナはすごいんだよ……。仲間を１人も殺さなかった。…お前は…罪を犯す前に、……気付けたんだよ……。はは、あはははははははは！！　さすがだよレナ、……さすがだよ、…俺とは…違うんだッ！！」

※雛見沢症候群の発作によって罪を犯してしまった圭一と、発作から立ち直り罪を犯さなかったレナ、この対比はＥＰ５まで来てようやく記憶を取り戻した戦人と、ＥＰ６だけで記憶を取り戻したベアトに重なります。そして皆殺し編の冒頭に出てくる世界、これこそが『うみねこ』に出てくる“魔女の世界”と同等のものです。

…何をしているの？

あなたが自発的に遊びを始めるなんて珍しい。

私の問い掛けに頷くことしかできない存在だったのに、…いつの間にか自我を持ったのかしら…？

……嬉しいわ。

私にも妹、あるいは弟？　ができて。

かつての私もあなたのような虚無の存在だった。

それがいつしか自我を持ち、思考を持ち、自らの姿を持つに至ったんだもの。

だからあなたが自我を持ったって不思議なんて思わないわ。

この、無限に広がりながらも、同時に閉ざされた狭い世界にようこそ、私の妹。弟かもしれないけど、あなたの性別がわからないからわかるまでは妹にしておくわね。

ここは終わりなき永遠と無限の世界。

でも、だからと言って果てしなく広大で広いというわけじゃない。

そうね。例えるなら半径の小さな輪っかの世界と言うべきかしら。

輪っかをぐるぐると回り続ける分には、終わりのない永遠の世界だけれども。

それは決して無限の広がりを持つという意味じゃない。

そう、つまりここは、永遠に閉塞した世界ということ。

未来は無数の選択肢に紡がれて無限の広がりを見せるはずなのに、……なぜか私たちの世界は必ず「死」という名の終焉で閉じられてしまう。

それを例えるなら、さしずめ運命の迷宮ということなのかしら。

いつまでも同じところばかりぐるぐると回っていると、…だんだん辛くて飽きてきて、私みたいなのが湧き出すことになる。

…それがさらに続いて、あなたまで生まれてくるなら、やがてはこの世界もあなたの妹たちで埋め尽くされていくかもね。

そうしてこの世界にコロニーが築かれ、狭い迷宮世界に興味を失った時が、私たち「古手梨花」が消えてしまう時なのでしょうね。

…梨花はまだ狭い世界に未練があるようだけど。私はとっくに興味を失っている。

だから、あなたという話し相手が生まれて本当に嬉しいわ。

それで、あなたはさっきから何をしているの？

記憶のカケラで積み木遊び？

今はほんの５～６個しかないけれど。

それでも少しは楽しい遊びができるかもしれないわね。

本当はもっともっとたくさんあったの。

……でも、少しずつ闇に溶けて消えてしまった。

今、はっきりと残っているのはそこにあるだけ。

あぁ、それはそう使うんじゃないのよ。

ほら、……こうしてかざしてごらんなさい。

それらはそれぞれが、古手梨花の人生と、その終焉よ。

それは……、…あぁ、懐かしい。

圭一が囚われた世界での物語ね。

私はそれらのカケラを本のようなものだと思っているので、「鬼隠し編」と名付けている。

※“私”か“あなた”がベルンカステルの前身ということになるのでしょう。あるいはこの２人がフェザリーヌとベルンカステルなのかもしれません。ここで興味深いのは“梨花はまだ狭い世界に未練があるようだけど”という内容です。この梨花は『うみねこ』においてはプレイヤーの戦人に相当すると思われます。この２人は『うみねこ』で魔女の世界においてゲーム盤を俯瞰するベルンカステルやラムダデルタと同等の立ち位置です。参考までに『うみねこ』における“魔女の世界”こと“虚無の海”に関する記述を２つ紹介しておきましょう。

……俺と二人の魔女は、

……真っ暗な宇宙に放り出されていた。

全方向が果て無き闇で覆われ、無数の輝く何かが満たされた無限の広さを感じさせる空間。

……人によってはそれを宇宙でなく、光り輝くたくさんの何かのカケラが漂う深海と例えるかもしれない。

「………では、始めるわ。………碑文の謎を解くためのカケラを紡ぐ……。」

ベルンカステルが、両手を左右に開く。

すると、まるでプラネタリウムのように、………全宇宙のカケラが、尾を引いて回り始めた…。

プラネタリウムという表現は、本当に正しかったかもしれない。

……なぜなら、複数のカケラが金色の線で結ばれた、まるで星座のようなものが、次々に高速で俺たちの周りを飛び抜けていくからだ。

それはまるで、俺たち３人がものすごい速度で、宇宙を駆け抜けているかのようだった…。

そして、いくつかの強く輝くカケラが、光の尾を引きながら、……ベルンカステルを中心に渦を巻くように取り込まれていく。

それはまるで、彼女が太陽で自らの太陽系を生み出すようにさえ見えた。

その、ベルンカステルを中心にした太陽系は、俺たちを飲み込むほどに大きな半径となる。

そして時折、その衛星であるカケラが俺のすぐ近くを駆け抜けた。

そのカケラが、俺のすぐ近くを駆け抜けると、……何かの記憶が蘇るような気持ちになる。

だから直感する。

……多分、このカケラというものは、記憶の結晶のようなものなのだ。

「記憶じゃないわ。世界のカケラよ。……まぁ、あんたには記憶のように感じられるだろうけどね。」

「…………では、始めるわ。…まずは、このカケラから。」

※世界構造自体は同じなのに、受け入れられた『ひぐらし』と受け入れられなかった『うみねこ』。その差が何故、生まれたのか？　僕には良く解りません。ファンタジー部分を多くし過ぎたのか？　あるいはミステリーとファンタジーを対立項として提示してしまったせいか？　それはさておき『ひぐらし』の皆殺し編で以下の内容があります。

必然というのは、……そうね。

前原圭一というコマの役割のことよ。

もし前原圭一が極度の疑心暗鬼の持ち主で、常に世界を曲解する性格の持ち主だったなら、「鬼隠し編」に限らず、他の全ての世界でも遠からず同じ行動を取ったはず。

でも、そういうことはなかった。

前原圭一というコマが、直情的で思い込みが激しいというのは事実のようだけど。

「鬼隠し編」のような暴走を見せること自体は、彼という役割から見れば、明らかに不自然なイレギュラーと言える。

つまり、１つの世界で必然に見える事象でも、いくつもの世界を重ね透かして見ると、それは必然でないことがわかるということなの。

逆を言えば、起こすべくして起こされている事実は、世界をいくつ跨いだところで、毎回変わりなく繰り返されるということ。

※『うみねこ』の世界において、この“必然”というのは１９８６年の１０月５日に六軒島で爆発事故が発生することです。惨劇を回避することが目的である『ひぐらし』と、回避出来ない惨劇をどう受け止めるか？という『うみねこ』。これもまた対比になっています。最後に『ひぐらし』の祭囃し編に出てくる内容を取り上げます。

さぁってと、次は何をして遊ぼうかしらね。

何しろ遊べるカケラはいくらでもあるんだから。

何？　あなたも遊んでみる？

くすくす、面白いわよ。神さまにでもなった気分がするものね。

悟史が一緒にいる世界とか、園崎姉妹が入れ替わってない世界とか。

沙都子の両親や、梨花の両親が健在な世界はどうなってるんだろう。

あぁ、こんなのどう？

赤坂が鷹野に籠絡されて敵側なの。あはは、面白そう。

個人的には、あの鷹野が富竹にゾッコンな世界とか興味あるんだけど。

圭一を色々な女の子にくっつけて遊んでみるのも面白そう。私、修羅場、大好きだもの。くす！

さぁて次は何をして遊ぼうかしらね。カケラはいくらでもあるわよ。

ねぇ、いくつかいる？　あなたは何して遊びたい？

※これが『うみねこ』においては“ベアトのゲーム盤”に相当するわけです

■百年の魔女

※EP6で以下の発言があります。

「神の世界に近付けば近付くほどに、時間の概念は曖昧になる。６年も千年となるし、１０００年がほんの一眠りにもなる。……ほんの２週間の月日でさえも、百年の魔女を名乗るに相応しい永遠となり得るのだ…。」(フェザ)

※この百年の魔女という呼び名は『ひぐらしのなく頃に』の登場人物、古手梨花が自称する通り名です。そしてコミックEP6におけるこの場面に出てくる画は古手梨花のものになっています。

■フェザリーヌの秘密

※『最考考』の“■フェザリーヌ・アウグストゥス・アウローラ”において、僕は「フェザリーヌは羽入と八城幾子が合わさっている」というようなことを書きました。それと同時に「それが何故かは解らない」とも。実はある仮説を持っているので、それについて書いてみようと思います。ヒントは２００８年の８月に発表された『ベルンの手紙』にあります。これはEP3と同時に発表されたものです。この『ベルンの手紙』は内容からするとフェザリーヌに宛てたものと思われますが、少しおかしなところがあります。“親愛なる友よ”“貴重なる助言を本当にありがとう”“あの子の茶番に付き合うことで、貴方の病気が少しでも快方に向かうのならば。どうかぜひ、私に力を貸してほしいの”“近いうちに貴方のところへお見舞いに行くわ。見舞いの品は私。好きなだけ嘲り笑うといい。好きでしょう？　そういうのは。だから久し振りの友人を迎える為に、どうか生き返ってちょうだい”ベルンにとって手紙の受取人であるフェザリーヌは、友人であり、親しみを持っている相手のようです。ところがEP6に登場したフェザリーヌとベルンの関係は、そんなものではなさそうです。

「……肉を喰らい、選ぶ道もあることを学んだ猫よ。……久しぶりであるな……。」(フェザ)(EP6)

「あんたが教えなきゃ、気付かずに済んだ道よ。……肉の味を教えたバケモノ。………生き返ったのね。………フェザリーヌ・アウアウローラ…。」(ベルン)

「……アウグストゥス・アウローラであると…。そなたには、何度教えても覚えぬな…。…良い。それもまた、懐かしい……。噂は聞き及んでいるぞ…？　………奇跡の魔女、ベルンカステルを名乗り、………あまり褒められぬカケラ遊びをして回っているとな……。」(フェザ)

「あんたの真似をしてるだけよ。到底、及びやしないけれど。……もし私の噂が良からぬものならば、あんたはそれに百を掛けるべきだわ。」(ベルン)

「………相変わらず不愉快なヤツだわ。……でもね、今は愉快よ。あんたの真似をしてるとね、本当に退屈しないわ。」(ベルン)(EP6)

「……詰れ。好きに。かつて別れに際し、そなたに許した置き土産だ。」(フェザ)

「口の悪い巫女は退屈しないから好き、なんだっけ……？　ちっ、馬鹿馬鹿しい。……あんたを喜ばせるくらいなら、口を噤むわ。………それで、……何の用…？」(ベルン)

※どう考えても、ベルンはフェザリーヌを良く思っていません。何故、こんなことになっているのでしょう？　その答えはおそらくこれです。

(聞き手)シエスタ姉妹に関しては、作品の企画当初から考えていたのでしょうか？(真相3)

シエスタという名前自体はなくても、想定していた枠内には入っていた感じです。『ひぐらし』でいえば、「梨花ちゃんを探る刑事がやってくる」という設定は決まっていても、赤坂衛という名前が決まっていなかったのと同じです。そういう意味で言うと、どんなキャラクターにもポジションは最初からありますね。

(聞き手)そういったキャラクターの役割や「ルール」は緻密に固めた上で、(『うみねこ』の)制作を始められたのでしょうか？

そうです。名前やビジュアル、話し方や性格などの演出部分は決まっていないことが多いですけどね。だから、例えばシエスタ姉妹の登場が仮に予定されていたとしても、この喋り方になることまでは想定していなかったかもしれない。

※フェザリーヌはEP6で登場するキャラクターですから、この時点では設定がきちんと固まっていなかったのです。おそらくこの時点でのフェザリーヌは、古手梨花が魔女化してベルンになっているように、羽入が魔女化した存在だったのでしょう。羽入はあまりにも永い時間を生きてきたため、存在が劣化し、病んでいます。それをベルンは心配しているわけです。そして、この時点では島から脱出してきた戦人を拾う人物、八城幾子とはまったく別の存在だったと思います。ところが、話が進んでフェザリーヌと八城幾子を登場させる時、竜騎士０７さんはふと思ったのです。「この２人を一緒の人物にしてしまえば面白いかも」と。本来は別の存在ですから、一緒にしてしまうといろいろ問題が出てきます。しかし面白さ優先で融合させてしまったのでしょう(八城＝オヤシロさまでしょうから、名前も羽入との融合によって決めたと考えられます)。僕はそもそも、ベルンも途中で設定変更が為されたのではないかと思っています。EP1においては明らかに戦人寄りの親切な魔女だったのに、いつの間にか心の歪んだ敵の魔女になっています。これだって、最初は単なる『ひぐらし』のスピンオフとして、軽い気持ちで登場させたものの「『ひぐらし』と同じ立ち位置では面白くない」「もっと活躍させたい」ということで、設定を変更したのではないでしょうか？　何せ以下の内容がありますし。

本当はベルンカステルもラムダデルタもあそこまで物語に関わる予定はなかったんですよ。そもそもベルンカステルはＥＰ１のような感じで、ちょろっと出てきてヒントを出してくれる隠しキャラ的な扱いだったんです。しかし物語を説明して読者を誘導する上で、ワルギリアよりももう一階層上の存在じゃないと説明できないことがある、ということで出番が増えていきました。(最考散)

■本当はもっと美しい『うみねこのなく頃に』

コミックＥＰ８では、いくつかの謎が残されたままになっています。その為、これを読んだだけでは『うみねこのなく頃に』という作品の、本当の素晴らしさを知ることは出来ません。そこでコミックＥＰ８の内容を補完する説明を書くことにしました。他で書いた内容と被りますが、これだけ読めばとりあえず、コミックＥＰ８を最低限補完出来る、という内容にしたつもりです。まず、紗音の本来の性別は男です。これが何を意味するかと言いますと、もし、紗音が崖から落ちず、男(理御)として生きていたなら、戦人とのロマンスはなかったのです。理御はリア充ですから、ミステリーに興味を持つこともなく、ミステリーを通しての戦人との交流もなかったでしょう。これは『ひぐらしのなく頃に礼』における“賽殺し編”の再現です。そして、嘉音の存在は紗音だけでなく、紗音の運命に負い目を持つ者達(源次、熊沢、南條)、にとっても救いでした。紗音が本来の性別で生活出来る可能性が生まれたのですから。次に、本当の戦人は紗音との約束を憶えていました(その根拠は既に書いている為、ここで割愛します)。１０月６日に２人が六軒島を脱出した場面の描写は以下の通りです。

戦人がベアトに習った通りに操作すると、ボートはゆっくりと滑り出す……。薄暗い岩窟を抜けると、急に眩しく太陽が照りつけ、真っ白なうみねこの群れが迎えた。飛び交ううみねこたちが散らし落とす羽毛が、……船出を祝福するように見えた。眩しい日差しが、島の呪縛から解放したことを教える。……台風の封印が解かれた空は、眩し過ぎるくらい。

※どうも、早朝という感じではなく、それなりの時間と思われます。紗音が地下貴賓室で意識を取り戻した時間は、コミックＥＰ８で１０月５日の１時０５分と明記されています。その後の出来事から考えて、戦人と紗音が地下道に潜ったのは、遅くとも数時間後、３～４時頃だと推測出来ます。それから１０月６日のこの時間まで、ずっと一緒にいたわけです。おそらく２４時間以上になるでしょう。いろいろ話す時間は充分過ぎるほどにあったはずで、その際、紗音は自分がどのような思いでこの６年間を過ごしたかを戦人に伝えたでしょうし、戦人も自分が約束を忘れたわけではなかったことを話したでしょう。ベアトの入水には、この時のやりとりで「戦人は自分との約束を憶えてくれていた。だからもう、思い残すことはない」という気持ちがあったはずです。実は１０月６日の描写には不自然な部分があって、大概の読者は戦人とベアトをＥＰ１～８までの２人と重ねてしまうでしょうが、現実世界の戦人とベアトは

１０月４日に６年ぶりに再会し、２人だけの時間を過ごせたのは１０月５日の惨劇後以降です。戦人から紗音への恋愛感情がなければ、あのようなやり取りにはなりえないわけで…。

■メッセージボトル中のノート片の枚数は？

※“ワインボトルの中には、ノート片が何枚もぎっしり詰められていた。(EP4)”と本編中にはありますが、コミックの場合はそれが画で解ります。実際に確認してみましょう。まずコミックEP1。次にコミックEP4。次にコミックEP5。さらにコミックEP6。コミックEP7。最後にコミックEP8。はっきりとは確認出来ませんが、どうも９枚くらいで統一されているように思えます。(以下追記)コミックＥＰ８で語られる“Confession of the golden witch”において実際に紗音が流したワインボトルの画が出てきました。９枚もないかもしれませんが、それでも何十枚、何百枚ということはなさそうです。ちなみにアニメにおいては実物(その１、その２)が出てきますが、これではメッセージボトルの説明と食い違う為、参考にはなりません。“Confession of the golden witch”で実際にメッセージボトルを書いている場面が出てきます(その１、その２)。

■八城十八創作(ヤス=幾子)説を否定する10の理由

※(理由１)コミックEP8で竜騎士０７さんが真相を明かす決意をした

この漫画では原作で描かれなかった様々な真相を夏海先生が描いてくれることでしょう。それは、僕が夏海先生の情熱に負け、愛の深さに感動し、それらを明かす決意をしたからです。

※これがコミックEP8の巻末に竜騎士０７さんが寄せたコメントです。一方で、それ以前には以下のような発言をしています。　

(聞き手)どうして明確な謎解きを出さなかったのかをお聞かせ願えますでしょうか。(真相8)

それは、この作品が議論して楽しむゲームだからです。ゲームである以上、挑戦した人だけ、議論をして色々な情報を集めた人だけがゴールに辿り着けるようにしたかったんですよ。これこそが『うみねこのなく頃に』がゲームである理由です。(中略)今後も「真相はどこかに書かないんですか？」といった内容の質問を受けると思いますが、一切触れないことが真剣にプレイしてくれた人に対する一番の恩返しになると思っています。

※前言撤回も良いところです。何故、こんなカッコ悪いことを竜騎士０７さんはするのでしょう。答はズバリ“世間で真相とされている考察が誤っているから”です。作者として、自分の作品が正しく理解されないことはとても悲しいことです。ですから、竜騎士０７さんは恥を忍んで発言を翻したのでしょう。つまり、現在主流の考察である“八城十八創作説”は間違いなのです。

(理由２)通常、物語は作品中の登場人物に書き手を想定しない

一人称(主人公が“僕”“私”“俺”)の物語は、作品中に登場する誰かの視点で語られるものですが、その場合には必ず、誰が語り手なのか判るように書いてあります。しかし戦人の一人称で物語が進むEP1を除き『うみねこのなく頃に』は基本的に一人称ではありません。それなのに何故か皆“『うみねこ』の作者”を想定したがります。これは解りやすく例えるならば「ハリー・ポッターシリーズを書いたのはハリーか？　ロンか？　それともハーマイオニーか？」と言い出すようなものです。普通はそんなこと誰も考えないのに、何故か『うみねこのなく頃に』に関しては、それが当たり前のように語られているのです。

(理由３)作品中に根拠がない

確かに作品中には漁師が発見したものと警察が発見したもの、２つのメッセージボトルが存在すると書かれていますし、それを模倣して偽書作家が書いた偽書(八城幾子が書いた４つの偽書もその中の一部)が存在するとも書かれています。でも“ＥＰ”を誰かが書いたとは、まったく書かれていません。僕が書いた『最終考察　うみねこのなく頃に　考察』は原作テキストと竜騎士０７さんの発言からの引用が８～９割を占めているわけですが、その中に“『うみねこのなく頃に』は誰が書いたのか？”というトピックはありません。これは別に僕の考察にとって都合が悪いからトピックを立てなかったわけではなく、原作テキストと竜騎士０７さんの発言の中にトピックを立てる根拠となる内容がなかったからです。

(理由４)現実世界の出来事と創作部分を切り分ける手段がない

竜騎士０７さんは“一なる真実がわかるように書いた”と発言していますが、『うみねこのなく頃に』には八城十八(ヤス＝幾子説を採用するなら、紗音と戦人)には知りようのない内容が描写されています。EP3における楼座と九羽鳥庵のベアトとの邂逅。EP4におけるルチーア学園における縁寿の生活、絵羽死去後、縁寿が行った“真実を求める旅”、楼座と真里亞の生活。EP7における金蔵とビーチェのロマンス。これらは八城十八による創作ということになりますが、それならば我々はどうやって、創作である部分と真実である部分を切り分けたら良いのでしょう？　こんなことで一なる真実など解るのでしょうか？　僕が主張する“ファンタジー説”の根幹は“書いてあることを全て信じる”というものです。何故なら、我々には何が創作で何が真実なのか、切り分けようがないからです。プレイヤー個人の主観で切り分けた真実を、誰もが共有出来る真実に昇華出来るのか？　そんなものが“一なる真実”と呼べるのか？　それがファンタジー説の出発点です。故にファンタジー説による考察は“一なる真実”によってがんじがらめになっており、著しく自由度の低いものとなっています。“解法は１つだけ”だからこそ、それは“一なる真実”足りえます。

(理由５)竜騎士０７さんが“『Confession of the golden witch』”を出してきた　

僕は『コミックEP8』連載開始当初、この『Confession～』は構想になかったのではないかと思っています。というのは、これによって作品中の設定にまで変更が加えられているからです。そうまでしてこんなものを出してきた、その目的の1つに「八城幾子が紗音でなくても偽書は書ける」というのがあるはずだからです。この『Confession～』は“八城幾子が海岸で拾った”と語られました。ヤス=幾子説の根拠の1つは「何故、八城幾子は右代宮家の関係者でなくては知りえない内容の偽書を書けたのか？　それは、幾子がヤスだからである」というものですが、『Confession～』を拾っていたことで、八城幾子が偽書を書ける理由が説明出来るようになりました。つまり『Confession of the golden witch』はヤス=幾子説を否定する側面を持つのです。

(理由６)赤字で否定されている

“《赤：妾が赤で語ることは全て真実》”という赤字がありますが、赤字の中には現実世界について言及しているものもあります。これに関して「だからこそ、創作なのだ」というのが創作説の主張ですが、これは赤字の絶対性を否定する解釈です。赤字を信じていないのです。赤字を本当に信じるのならば、このような解釈にはなりません。そして赤字によって以下のやりとりがあります。

“「この、九羽鳥庵の庭でくつろいでるベアトと、…さっきの祖父さまとの会話は、真実なのか？」(戦人)

「はい。真実です。かつて、《赤：実際にこの場所で、お二人はこのような会話をなされました》」(ロノウェ)

「はい。《赤：ここは１９６７年の世界》。１９年前の世界でございます」(ロノウェ)(EP3)”

金蔵と九羽鳥庵のベアト、２人しかいない場面の描写が、赤字で「真実です」と語られています。創作者には絶対に知りえない出来事が真実だと赤字で保証される。これは赤字で創作説を否定しているも同然です。

(理由７)八城十八がこんな物語を書く理由が見当たらない

ＥＰ４において縁寿の“真実を求める旅”が描かれます。あんなもの八城幾子と十八には知りようのない話ですから、あの部分は八城十八による創作ということになります。縁寿はそんなものを読んでどう思うでしょう？　また、縁寿とベアトリーチェの為だというなら何故、それを世間一般に公開するのでしょう？　単に手紙を書けば良いのではないでしょうか？　十八が六軒島から生還した戦人であることが世間に知られれば、大騒ぎになります。自らそんなことをするでしょうか？　ＥＰ８で縁寿は右代宮グループを小此木に譲って、寿ゆかりとして生きていく決意をしますが、あれは縁寿に対して作家になれと言っているのでしょうか？　最後のパートは１９９８年から数十年後の未来ですが、あれは縁寿にそれだけ待てということでしょうか？　疑問点しか浮かび上がりません。　

(理由８)紗音が幾子として生きるわけがない　

紗音は孤独な自分を慰めるために“ベアトリーチェ”“嘉音”２つの新たな自分を生み出しました。それが結果としてあのような悲劇を生み出します。

「お前に罪があるなら。それを犯させた俺にも罪がある。……だから、お前の十字架は、俺たち二人で背負おう。」(戦人)

「………戦人…………。」(ベアト)

「生涯。……お前の十字架を支えるから。………出よう。黄金郷を。俺と二人で。」(戦人)(EP8)

※ここでまた、新たな自分である“幾子”を生み出してしまったら、十字架を背負っていないことになります。

(理由９) 偽書の文章量としておかしい

それぞれのEPのコミックにおいて“メッセージボトルのノート片の枚数は９枚”と統一されている以上、これは公式解釈とみて間違いないと思います。そして偽書が“メッセージボトル偽書作家とは、その名の通り、六軒島の事件を記した謎のメッセージボトルの、文章を捏造して発表する者たちのことである。彼らは、新しいメッセージボトルが発見されたと称し、よく似た贋作、もしくは、真相を自分なりに解釈した新説を、右代宮真里亞の文書を騙って発表するのだ。彼らは堂々と「右代宮真里亞」を名乗り、さも自分は当事者で真相を知っているかの如く、新しい奇怪な物語を描き、それを、ニンゲンが新しく手に入れた海、インターネットの大海に、第三、第四のメッセージボトルとして放っているのだ…。伊藤幾九郎は、そんな人間たちの間でもっとも高い評価を受けている偽書作家なのである。(EP6)”というものである以上、文章量もメッセージボトルを踏襲していると考えられ、講談社ＢＯＸで発売されているＥＰ３が上下巻で６００ページを超えていることから、文章量的におかしいことが解ります。

(理由10) コミックＥＰ８における変更点

コミックＥＰ８は原作から大幅に内容が変更されています。変更した理由はもちろん(理由１)で取り上げた“真相を明かす為”です。ということは変更された部分にこそ“真相”が描かれていることになります。この前提で“どこが変わったか？”を確認してみましょう。紗音による罪の告白である『Confession of the golden witch』。この中に『ラムダデルタ卿による回想記』を組み込んできました(“その１”“その２”“その３”)。現実世界の出来事として描かれている『Confession～』の中にファンタジー世界の物語を組み込む。その意図は明らかでしょう。そして、これだけではありません。縁寿が“バトラのゲーム”の中で貰ったプレゼント。これを現実世界の縁寿が持っています。さらに“バトラのゲーム”の中でのバトラの頼みごとを現実世界で叶えています。その上“1986年10月６日”を“バトラとベアト”ではなく“戦人と紗音”として描いています。そしてその結末において、紗音は魔女ベアトリーチェとして転生しています。あきらかに「この作品はファンタジーである」という主張です。逆に「創作である」という主張はまったく存在しません。

■竜騎士０７さんは“一なる真実”をどう思っているの？

※これは２つの方向性から考えることが出来ます。１つは『うみねこ』はミステリーである、という方向性です。

(聞き手)竜騎士０７さんにとってのアンチミステリーとは、どういうものでしょう？(真相8)

(聞き手)ご自身では『うみねこ』をどちらの部類に入ると思っていますか？

(聞き手)「謎解きをしないミステリー」として意識した作品は？(真相8)

その点では、上手に模倣はできなかったんですが『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』がイメージにありました。あと意識したものとしては『瓶詰地獄』がありますね。

(聞き手)『うみねこ』の物語を作るにあたり、意識したミステリー作品はありますか？(真相8)

「孤島に閉じ込められる」というクローズドサークルが題材なので、やはり『そして誰もいなくなった』などアガサ・クリスティの作品や、ダンテの『神曲』などをイメージしています。

『うみねこ』世界でミステリーにあってはならない、究極的にファンタジー的な部分が１つあるとしたら、雨に対して濡れるという考え方がないこと。それがあの世界ではキレイに切り落とされている部分です。(中略)個室に戻ることができたなら、濡れていることなんていくらでも対処できます。『うみねこ』の世界は本格推理パズルというよりは論理パズルの世界観を採用しているので、雨が論点にならない限りは雨の話が出なくてもセーフかなと。論理パズルの世界では、ヒント以外の情報は切り捨てていいことになっていますから(笑)。(最考散)

「探偵小説作法二十則」に本当に沿ってしまうと動機がどうでもいい作品になって、物語の主旨から外れてしまうんですよ。それでは二十則を抜けるのが目的になって、『うみねこ』ではなくなってしまいます。(最考散)

超有名作品に出てくる、もう古典も古典、何十年も前のレベルのトリックを掛け合わせてやっているだけなので。斬新なトリックは全く出てきません。(竜騎士07インタビュー)

※かなり過剰に引用しましたが、これらの発言から、竜騎士０７さんは「『うみねこ』はミステリーである」と考えていることが解ります。そして、竜騎士０７さんがミステリーをどのように考えているのかが、『アンチミステリーとアンチファンタジーについて』に書かれた以下の内容で解ります。

※そして以下の内容があります。

「一なる真実」を分かってもらうためのヒントは十分に込めているので、私なりのミステリーになっています。ただ、世間では答えが書いていないとミステリーとは言わないようですね。(真相8)

※以上の内容をまとめると、竜騎士０７さんは「一なる真実が分かるように書いたから『うみねこ』はミステリーである」と考えていることが解ります。そして、ミステリーが筆者と読者の知恵比べであるのなら、竜騎士０７さんは「『うみねこ』はミステリーだから、その答である“一なる真実”を見つけてみろ」と主張していることになります。そしてもう一つの方向性が、竜騎士０７さんの“一なる真実”についての発言です。

(聞き手)どうして明確な謎解きを出さなかったのかをお聞かせ願えますでしょうか。(真相8)

(聞き手)『一なる真実』はそもそも存在しないという見方もあるようですが？(真相8)

僕としては一応用意はしてあります。ここは赤字にしてもらっても大丈夫です(笑)。

(ＫＥＩＹＡ)一つの真実を言い当ててほしいというよりは、ある程度の範囲内でいくつかの説があってもいいという感じですか。(最考散)

それはもちろんですよ。ある程度のゆとりは残しているつもりなので。「ベルンの出題」のように、明確な一つの答えにするつもりは毛頭ないですよ。でも、突き詰めればほぼ間違いない答えが出てくるようにはできています。

あの島でなにがあったのか、ということは最初から全て決まっていることなんですよ。ただ、それをどこまで見せていくべきか？　私は、「愛ゆえに殺しました」と口で言うほど白々しいことはないと思うんですよ。言葉にならないところで察する。そんなギリギリのところを書きたかったんですよね。(竜騎士07インタビュー)

※これもやはり「自分は一なる真実が理解出来るように書いたから、是非それを読み解いて欲しい」というメッセージになっています。以上、２つの方向性、どちらで考えても竜騎士０７さんはプレイヤーに「“一なる真実”に至って欲しい」と考えていることが解ります。

■竜騎士０７さんはコミック版をきちんと監修してるの？

※これは疑わしい部分が多々あります。まず“銃の威力と銃声”について。『我らの告白』において、ウィンチェスターM1894の威力は以下のように描写されています。

ベアトは絞殺道具を仕舞うと、次に傍らのライフルを取る。そして熊沢のふくらはぎの辺りに狙いを付け、引き金を引いた。銃声は軽い。……ドラマや映画で聞くような、ドギューンなどという音ではない。せいぜい、シャンパンの栓を抜いたくらいの音だった。しかし、血の塊が飛び、そこにはぶくぶくと血の溢れ出す痛々しい穴が穿たれた。

※ところが、コミックEP3において以下のように描写されています(“その１”“その２”)。これは過剰すぎるのではないでしょうか？　またコミックEP2において紗音は拳銃で自殺したと思われますが、それにしては銃痕が大きすぎるのではないでしょうか？　(以下追記)コミックEP7ではこのようになっていますが、本当にこんな仕掛けできちんと銃が隠せるの…。次に“園芸倉庫の窓”について。まず、コミックEP1の園芸倉庫をご覧下さい。窓などありません。次にコミックEP4の園芸倉庫をご覧下さい。きちんと窓があります。あるいはEP1の段階では、まだ窓の存在は考えていなかったのかもしれませんが。さらにEP3において、紗音が復活後に死んだ場面、原作では以下のように描写されています。

ベアトの眼前で、鍵穴より飛び込んできた黄金の蛇が、愛し合う二人をぐるぐるっと取り囲んで、二人の心臓を瞬時に貫通した。……しかも律儀に、紗音の胸の穴にもう一度、黄金の蛇を貫かせた…。　

※紗音が２回貫かれているのは、これが２回目の偽装死であることを意味する重要な場面です。しかし、コミックEP3では以下のように一度しか貫いていません。さらにさらにコミックEP7において“福音の家”出身の使用人が５人も描かれています。これにヤスが加わるわけですから、福音の家出身の使用人がこの時点で６人もいることになります。ところが、原作において以下のやり取りがあります。

「ねぇ、ガラシさん～。何でヤスだけは３人部屋じゃないわけですかー。」

ヤスというのは、きっと私のこと。私は物心ついた時から親がいないので、まったく覚えがないが、……一応、安田という苗字が与えられていました。その安田で、私のあだ名はヤス、らしい。

「知らないわよ、部屋の割り振りは源次さまが決めてんだもの。私だって納得行かないわよ。」

「ですよねー！　普通、２ぃ２ぃにしますよねぇ?!」

※つまり、当時の六軒島にいた福音の家出身の使用人はヤスを入れて４人なのです。最後にコミックEP5における２つの魔法陣を見比べてみてください(“その１”“その２”)。この魔法陣は同じもののはずなのですが、明らかに位置が違います。もっともこれは校正レベルの問題なのですが…。まだまだあります。“■EP2の紗音はどのように自殺したの？”でも触れましたが、コミックEP2とEP7では夏妃の部屋の化粧台の形状が違います。最後にコミックEP3で原作にはなかった内容が追加されましたが、コミックEP7では違った解答になっています。竜騎士０７さんが見落としているのか、あるいは作画担当者に自由に描いてもらっているのか、もしくは途中で設定変更したのか、どういう理由があるのか解りませんが、とにかく竜騎士０７さんの監修には問題があるようです。

■留弗夫の年齢はいくつ？

※『最考考』での検証が不十分だった為、こちらできちんと書きます。『最考考』で書いたように１９８６年当時、絵羽は５３歳、楼座は３２～３４歳であると考えられます。

楼座は昔から気が効く女性だった。…４兄弟の末っ子であり、上の３人と歳が大きく離れていることもあって、兄や姉たちの毒気を宿さずに成長できたお陰かもしれない。(EP1)

楼座、楼座。どうしてお前はそんなに馬鹿なのか。あぁ、これは蔵臼兄さんの声です。蔵臼兄さんはとても大人だからとても頭がいいのです。(EP2)

楼座、楼座。どうしてお前はそんなに馬鹿なのか。あぁ、これは絵羽姉さんの声です。絵羽姉さんはとても大人だからとても頭がいいのです。(EP2)

楼座、楼座。どうしてお前はそんなに馬鹿なのか。あぁ、これは留弗夫兄さんの声です。留弗夫兄さんはとても要領がいいのです。(EP2)

「あなた、黙って。…………ずいぶん昔だけど、お父様は、森には狼が住んでいるから近寄ってはならないって、私たちを脅さなかった？」(絵羽)(EP3)

「あぁ、そんなこともあったな。馬鹿らしいね。日本の狼はとっくの昔に絶滅しているというのに。まさに子供騙しだな。」(蔵臼)

「記憶にねぇなぁ？　そんな話、親父に聞かされたっけ…？　森には魔女だろ？　狼なんて話、聞いたことないぜ？」(留弗夫)

「あんたがまだ小学校だった頃よ。覚えてない？　そしたらあんた、むしろ狼を撫でてみたいなんて言い出すもんだから。お父様はすぐに狼の話を引っ込めて、魔女の話に切り替えたのよ。もうそのウソっぽいことと言ったら、あっははははは。」(絵羽)

「はっはっはっは。当時の留弗夫には、狼よりも魔女の話の方が覿面だったね。よく覚えているよ。私の背中にしがみ付いた夜があったことを覚えているかね？」(蔵臼)

※上記の情報から、留弗夫は屋敷が竣工した１９５２年に屋敷に引っ越してきた当時、６～１２歳であったと考えられます。しかし、楼座との間の方が絵羽との間より広くないと“上の３人と歳が大きく離れている”という内容と矛盾する為、上限である４５～４６歳だと考えるのが妥当だと思われます。

■煉獄の七杭の不思議

※まず、アニメの煉獄の七杭をご覧下さい(“その１”“その２”)。次にコミックEP1の煉獄の七杭をご覧下さい(“その1”“その２”)。色も形もまったく違うことがお解りいただけると思います。何故、こんなことになってしまったのでしょう？　これは、竜騎士０７さんによるオフィシャルなデザインが存在しないためだと考えられます。そのため、アニメのキャラクターデザインをした人と、コミックEP1を描いた“夏海ケイ”さんがそれぞれ独自にデザインを考えたのでしょう。ちなみに本編では以下のように描写されているため“その凶器は紛れもなく、絵羽伯母さんたちの眉間に刺さっていたものと同じだった。……いや、柄の部分の悪魔のデザインが少し違うだろうか…？　その辺は多少の個性差だろう。とにかく、同じ形状の凶器という意味ではまったく同じだった。絵羽伯母さんたちの時は、少々残酷だが、現場保全の意味もあり、凶器は突き刺さったままの状態にされた。…だからこうして、完全な状態で凶器全体を見るのはこれが初めてだった。やはり凶器は、ナイフのような刃物ではなく、アイスピック状、…いや、細い杭状のものだった。しかもそこには、ドリル状？のような螺旋の意匠が施されていた。…悪趣味に例えれば、生贄の心臓に杭を打つために作られたような、そんな悪魔の儀式ご用達っぽくも見える…。全長は柄の部分も入れて２５ｃｍくらい。その半分ほどが真っ赤に血で染められた杭状の部分。(EP1)”本編の説明に忠実なのはコミックEP1の方です。続けてコミックの各EPにおける煉獄の七杭をまとめて紹介します。コミックEP2(“その１”“その２”) 。コミックEP3(“その１”“その２”) 。コミックEP4 。コミックEP6(“その１”“その２”)。コミックEP8。コミック翼。ご覧のようにコミックEP1のデザインに統一されています(コミックEP7には煉獄の七杭は出てきていない)。ちなみにコミックEP1、コミックEP3、コミックEP8は夏海ケイさんが描いているので、デザインが統一されているのは当たり前です。しかし、コミックEP2は“鈴木次郎”さん。コミックEP4は“宗一郎”さん。コミックEP6は“桃山ひなせ”さん。コミック翼は“伊東フミ”さんがそれぞれ描いています。それなのにそのデザインが同じであることで、意図的に統一していることが解ります。ところで1つ、抜けているEPがあることにお気づきでしょうか？　実は以上の説明にはコミックEP5が抜けています。理由は、コミックEP5の煉獄の七杭をご覧頂くとお解りいただけると思います。コミックEP5(“その１”“その２”“その３”) 。他とはかなりデザインが違います。どうも作画担当の“秋タカ”さんは反骨精神旺盛な方で、夏海ケイさんのデザインでは満足出来なかったようです。ちなみに僕は秋タカさんのデザインのほうが好きです(本編の説明から考えれば、柄が短すぎますが)。夏海ケイさんのデザインはどうも太りすぎです。これによって竜騎士０７さんの監修は、それほど厳しいものではないことがお解りいただけると思います。

■楼座はいつから六軒島に住んでるの？

※これは、この作品に残された疑問点の1つです。原作ではEP3において、以下のように描写されています。

「ということは……。………楼座は、……ベアトリーチェに、会ったことがあるというのかね。」(蔵臼)

「そ、そんな話、楼座の口からは一度も聞いたことがないわ。…楼座、いつよ？　あなたは一体、いつベアトリーチェに会ったのよ?!」(絵羽)

「……あれはいくつの時だったのかしら…。…多分、中学生か、……よく覚えてない。とにかくそのくらいの頃だったと思うわ…。」(楼座)

「ってことは、…大体、２０年位前ってとこか。」(留弗夫)

※楼座の発言をそのまま解釈すると、楼座は中学生くらいの頃に六軒島に引っ越してきたことになります。その一方で、EP1において以下の発言があります。

「お屋敷が竣工したのは昭和２７年と聞いています。」(夏妃)

※昭和２７年というのは、西暦１９５２年です。２０年前に中学生だった楼座は、１９８６年においては３２～３５歳であったと考えられます。ということは屋敷が出来たのは、楼座が生まれた頃とほぼ同じなのに、楼座はそれから１０年以上経ってから屋敷に引っ越してきたことになります。おかしなことなのですが、この謎がついに解かれる日がやってきました。まず、コミックEP3における中学生の楼座をご覧下さい。次にコミックEP8における子どもの頃の楼座(“その１”“その２”)をご覧下さい。子どもの頃の楼座は既に六軒島に住んでいたわけですが、背格好から判断するに、９歳の真里亞とほぼ同じ年齢のようです。つまり、コミックから判断する限り、楼座が六軒島に引っ越してきたのは中学生くらいの頃、というのは間違いであることが解ります。ちなみに原作のEP6においても以下の内容があります。

「………そのソファーは、楼座さまが幼少の頃、……好んで横になられたものと、聞いております。」(嘉音)

※もっともこれは、引っ越しの際にソファーも一緒に持ってきた可能性もありますが…。

■六軒島の使用人シフト事情

「…普段はこの島には、何人いるんですか?!」(戦人)(EP1)

「し、…使用人のシフトにもよるでしょうが、お父様、夫に私に朱志香。そして使用人が２～３人。…昨日今日は５人いてもらってますが、普段はそこまでいません」(夏妃)

※六軒島の使用人は源次、熊沢、郷田、紗音、嘉音、瑠音、眞音、礼音、以上８人です。このうち２～３人がシフトで働くわけです。しかも料理をするのは熊沢と郷田だけっぽいので(※『最考考』の“六軒島の料理事情”参照)、この２人はどちらかが必ず島にいなくてはなりません。源次も使用人の頭ですから、勤務の回数は多そうです。これはどこかおかしくないでしょうか？　まず一週間のうち、２人出勤日と３人出勤日がそれぞれどれくらいあるか考えてみます。普通に考えて、１：６はありえず、３：４もしくは４：３が妥当なところでしょうが、ここはサービスして３：４を採用しましょう。当時は週休一日の時代ですから、郷田が週に６日出てきて、郷田が休みの日は熊沢が入るとします。これをベースにシフト表を作ると以下のようになります。

	日曜日	月曜日	火曜日	水曜日	木曜日	金曜日	土曜日
出勤者1	熊沢	郷田	郷田	郷田	郷田	郷田	郷田
出勤者2	源次	嘉音	瑠音	礼音	源次	嘉音	瑠音
出勤者3	紗音	(なし)	眞音	(なし)	紗音	(なし)	眞音

何ということでしょう。熊沢と礼音が週に１度しか出てきませんし、他の連中も週に２度しか出てきません。これで給料を貰っていて良いのでしょうか？

紗音のシフトが週に３回程度として(EP6)

※さらにこの記述と矛盾してしまいます。

「その後は、六軒島へ行く度に会っていたということか」(ウィル)(EP7)

「うん。私たちは大の仲良しになった。ベアトと話せば話すほどに、彼女は本当にすごい魔女だと思い知ったよ。彼女は会う度にいつも素敵な魔法を見せてくれた。そして、私とは異なる魔法大系を聞かせてくれて、二人で魔法の深遠を語り合ったよ。私は、早く彼女の高みに上りたいと思った。ベアトのような魔女の域に達したいと願った」(真里亞)

※一週間のうち３日しか六軒島にいない紗音に、六軒島に行く度に会えたというのはおかしな話です。しかし嘉音も入れれば、週に６日ですから不自然ではないでしょうが、ここに嘉音まで入れてしまうと、とんでもない状況になってしまいます。

(熊沢と嘉音に)「本当にご苦労でした。お前たちと源次と紗音には、約束どおり、過去一ヵ月分の休暇の買い上げと、新たに５日の有給を与えます。秘密の手当てですよ。取得に際しては源次と相談し、他の使用人たちに気取られないように」(夏妃)(EP5)

※さらに有給まであるようでは、もはやどうしようもありません。仕方がないので最大限に譲歩したシフト表を考えてみます。

	日曜日	月曜日	火曜日	水曜日	木曜日	金曜日	土曜日
出勤者1	郷田	熊沢	郷田	熊沢	郷田	熊沢	郷田
出勤者2	源次	礼音	瑠音	礼音	瑠音	礼音	瑠音
出勤者3	紗音	眞音	紗音	眞音	紗音	(なし)	眞音

２人出勤日は週一として、嘉音の存在は抹消、源次以外は週３日以上出勤、それでようやくこれです(しかも源次は週一！)。六軒島の使用人はどれだけ楽な仕事なのでしょう。ついでに勤務形態についても考えてみましょう。
「あれ？　今日のシフト、深夜勤は誰になってんだ？」(朱志香)(EP1)
「親族会議中は特別シフトになってたと思いました。少し変更も出てるみたいなので、ちょっと確認してきます……。」(紗音)
普段のシフトなら、深夜勤から早朝勤につながるような辛いことはそうない。親族会議の２日間だけの特別体制だった。(EP1)
そして、暗闇に支配された屋敷の中を、決められたルートに従いながら戸締りの確認をしていく。廊下を歩き、その窓ひとつひとつの戸締りを確認した。六軒島には右代宮家以外の人間はいないのだから、本来、戸締りにはそれほど重要な意味があるわけではない。夏妃がそれを無用心だと叱るまで、右代宮本家には戸締りの習慣はなかったのである。(EP1)
六軒島には右代宮家の屋敷以外はないため、その昔は施錠の習慣はなかった。だが、夏妃の命令により深夜から早朝にかけては施錠が義務付けられたのだった。そして朝の開錠は早朝勤の使用人が行なうことになっていた。郷田は起床してすぐに朝食の準備に入るため、それは源次たちが行なうことになっていたのである。(EP1)
※おそらく深夜勤の最後の仕事が戸締りの確認で、早朝勤の最初の仕事が朝の開錠なのでしょう。船の便が朝と夕の２回なら、朝の便で来ていては早朝勤の仕事に間に合いませんし、深夜勤で帰るのも無理でしょう。かといって両方がつながることがないのなら、毎日、最低２人は六軒島に泊まる必要が出てきます。早朝勤が朝の開錠と朝食の準備をし、朝の便で前日の深夜勤が離島する。同時にその日の深夜勤が来島する。そして夕方の便で早朝勤が離島し、翌日の早朝勤が来島する。使用人が２人の時は早朝勤と深夜勤だけで回し、３人の時は朝の便で来て夕方の便で帰る“日勤”がいる。こんな感じになるのでしょうか？　となると早朝勤が出来るのは郷田と熊沢だけですね(源次もっと働け！)。ちなみに“『ある料理人の雑記』”に以下のような内容があります
ある大富豪が、住み込みの料理人を探している、というのだ。話を聞くと、給金は悪くないが、労働条件はかなりキツそうなイメージだった。その後輩が、かつて世話になった恩返しにと、俺にこの話を振ってくれたのだ。何でも、大富豪一家が、専属の料理人を探していて、かなり腕前に注文をつけてきているという。しかし、かなりの腕を持つ料理人は、普通、どこかに所属していて、フリーということはありえない。それに世話になったしがらみもあり、高給を示されたからといって、ほいほいと辞められるわけもない。つまり、俺のような人間にはぴったりの求人だったというわけだ。
俺の他にも、１０人以上の若手料理人が集められていた。正直なところ、俺が最高齢だったかもしれない。……本当の意味で若い連中の中にいると、自分のことをまだ若いと思っている自分が、自意識過剰なだけなのではないかと思ってしまう。ただ、若い料理人たちも、良いインスピレーションを持っていた。さらに経験を積めば、さらに素晴らしい料理人になるだろう。積み重ねという点で、やはり俺にかなりの有利があった。また、先代総料理長の仕込みである、接客技術も大いに評価された。厨房から出ない料理人と、ＶＩＰ相手に自ら料理を運び、歓談することさえあるホテル料理人の差が歴然と出る。だから、まず俺が採用されるだろうという手応えは感じていた。……しかしそれでも、“他の職場のクセがかえって邪魔になる”というような理由で、若手を優先して採用する可能性もある。結局のところ、神頼みだった。だから後に、夏妃奥様の鶴の一声で俺に採用が決まったと知った時、後光が差して見えたものだ。
※料理が出来るのが熊沢だけでは過労死が心配されますので、郷田が来る前にもう１人料理当番がいたはずです。その人が辞めてしまったため、新たに料理を出来る人間を探す必要があったと思われます(それまでの間は源次が昔取った杵柄で…)。考えてみれば早朝勤と深夜勤は２４時間島にいるわけですから結構キツいです。でも、旅館の仲居さんとかもこんな感じでしょうから(しかも毎日、深夜勤と早朝勤のハシゴ)特別キツいわけではないと思います。ちなみに“住み込み”なら郷田はずっと六軒島に住んでいるのではないかと考えることも出来るかもしれませんが、これはそうではないと思います。
聞けば彼女(紗音)は住み込みで働いているという。(EP1)
※そして紗音は新島にある右代宮家が用意した寮に住んでいるわけですから、郷田も同じような立場ということではないでしょうか？　確か六軒島に住んでいる使用人がいるという描写はなかったような…でも逆もなかったかも。案外、源次と郷田は六軒島に住んでいたりして。
その場合、郷田の週６早朝勤に源次の週６深夜勤が加わり、もはや福音の家の使用人の出番なし。