■『うみねこ』の歩き方 そのB「右代宮家の物語」(ケーナ解釈) 番外編

「魔女のベアトの物語」

 

“彼女”が目を覚ますと、宇宙のような不思議な空間にいました。“彼女”が覚えている最後の記憶は、自らが海に飛び込み、沈んでいくところまででした。ここは死後の世界なのでしょうか。真っ暗で、遠くには星々が輝いているように見えますが、宇宙ではないようです。何故なら、星のように見えたものは、近くで見ると光輝くカケラであった為です。手近にあったカケラの一つを覗き込んでみると、何か映像が見えます。もっと良く見ようとカケラに触れた瞬間、“彼女”の意識はカケラの中に飲み込まれていました。そのカケラの中には、1つの宇宙の誕生から終焉までが記録されていました。それは実に1000億年にも及びました。しかし、カケラから意識を切り離した時、“彼女”は全く時間が経過していないことに気がつきました。もっとも時計があるわけではなく、何となくそんな気がする、という程度でしたが。隣にあったカケラに手を伸ばすと、今度は一匹のアブラゼミの生涯が記録されていました。“彼女”はそのアブラゼミが6年間、幼虫として地中で生活し、そして成虫として3週間過ごした後、寿命を迎えるまでを見守りました。

その後、“彼女”は手当たり次第にカケラに触れて回りました。僅か数秒で終わってしまうカケラもあれば、永遠に続くのではないかと思われるようなカケラもありました。また、現実の出来事だけではなく、誰かが空想で生み出した物語のカケラもありました。数え切れないほどのカケラに触れて回ったことにより“彼女”はこの空間がどのようなものであるのか、自分が何故ここにいるのか、大体理解出来ました。ここは“虚無の海”、様々な可能性、幻想、妄想がカケラとして結晶化した世界。カケラを通して見ただけで、まだ実際に遭遇したことはありませんが、この世界の住人は魔女や悪魔など、“彼女”が元いた世界の常識では、想像上の存在とされているような、現実世界には存在しなかった者たちです。どうやら“彼女”自身、魔女としてこの世界に存在しているようです。かつて、“彼女”がニンゲンであった時、満たされなかった想念が、この世界に一個体の存在として転生した、それが今の“彼女”なのです。

“彼女”は、とあるカケラから生まれた2人の魔女に心惹かれました。“奇跡の魔女”ベルンカステルと“絶対の魔女”ラムダデルタ。この2人は“彼女”と同じ世界の出身で、共に“彼女”と近い1983年に生まれた魔女でしたから、親近感を覚えました。この世界は時間が経過しないだけではなく、そもそも時間という概念自体がないようで、“彼女”の僅か数年先輩なだけにも拘らず、ベルンカステルとラムダデルタは他の魔女や悪魔から一目置かれる存在のようです。やがて“彼女”はカケラを眺めるだけでは満足出来なくなり、自身も魔女として活動することにします。まずは体を作るところから始めなければなりません。今の“彼女”は肉体を持たない精神存在で、この“虚無の海”に生れ落ちて以来、一度も動くことなく、ただカケラを近くに引き寄せたり、カケラ紡ぎ(※“虚無の海”用語。自分が求めるカケラを“虚無の海”の中から見つけること)をしたりしていただけだったのです。

ラムダデルタがニンゲンであった時、彼女は成人していましたが、“絶対の魔女”ラムダデルタは幼い少女の姿です。ラムダデルタはあるカケラにおいて、自分の“絶対”を破った、古手梨花を前身とするベルンカステルをライバル視していた為、魔女としての姿を定める時、ベルンカステルの年恰好に自分も合わせました。魔女は自分の望む姿を取ることが出来るのです。“彼女”が望む魔女としての自分の姿、それは“彼女”がニンゲンであった時、愛した“彼”が語った姿、金髪碧眼にハリウッド女優のようなグラマーな女性。そしてその身を包むのは、黒を基調に金糸で豪華な刺繍が施されたゴシックドレス。名前はもちろん“ベアトリーチェ”。“彼女”は「戦人に約束を思い出して欲しい」と願い、それが叶えられなかった、安田紗音の想念が魔女化した存在だったのです。

 

※以上で第一部 第一章 第一節 第一話“魔女ベアトリーチェ誕生”終了です(このネタ、解る人いるのかな?)。タイトルにもある通り、この「魔女のベアトの物語」は「右代宮家の物語」の番外編となります。「右代宮家の物語」は『うみねこのなく頃に』という作品の現実世界を説明する内容となっていますが「魔女のベアトの物語」はその裏側であるファンタジー世界を説明する内容です。両者が矛盾なく成立するようにしていると共に「右代宮家の物語」を読んでいることを前提としている部分がありますので、先に「右代宮家の物語」をご覧になることをオススメします。

これからラムダデルタにその可能性を認められ、正式な魔女として認められた“絶対の承認”。とあるカケラにおいて、地獄のような苦しみを味わっていた七姉妹を、自分の家具として取り立てることで救済した“煉獄からの解放”。かつての師、熊沢が魔女化したワルギリア(鯖にあたって熊沢が死んだカケラがあり、その想念が魔女化した)との邂逅と決裂、そして千日に渡って繰り広げられた死闘の末、見事ワルギリアを鯖缶(みそ煮)に封じた“無限と有限のウロボロス”。後にベアトの使用人頭となる悪魔、ロノウェとの黄金のキセルを巡って千年にも及んだ確執と、その果てに交わされる主従の誓いを描いた“黄金の絆”。ガァプと組んで、天界大法院の異端審問官を恐怖のどん底に叩き込んだ“無限空間の災禍”などなど、666もの血湧き肉躍る熱いエピソードがあるのですが、そこは一気に飛ばして、魔女のベアトが魔女としての暮らしに飽きてしまったところまで話を進めます。

何てことを書いて真に受けられても困りますので、説明しておきますが、僕はワルギリアなどはベアトの駒だと認識しています。ですから、そもそも“虚無の海”の住人ではなく、ベアトの領地にしか存在できません。ちなみに「戦人は約束を覚えていたのだから、“彼女”の願いが叶えられなかったというのはおかしいのではないか?」という疑問があるかと思いますが、紗音が待っていたのは“約束を忘れ、ミステリーへの興味も失った戦人”です。“ミステリーを愛し続け、約束を覚えている戦人”は、紗音が待っていた戦人ではないのです。紗音の願いは“約束を忘れた戦人が自分とのミステリー勝負によって約束を思い出し、かつての自分を愛してくれた戦人に戻ること”だったわけで、実際の六軒島において紗音の願いは叶えられませんでした。ですから、その想念が魔女化したわけです。女の子は複雑なのです。

 

魔女は皆、絶大な力を持ちますが、原則として自分の領地限定です。そもそも普通の魔女はこの世界に漂うカケラを覗くことは出来ても、自分の領地を離れることさえ出来ません。そのため、ベアトはまず、自分が力を振るえる領地を作ることにしました。果たしてあっという間に出来ました。魔力の源泉は“信じる意志”と“創造力”なのです。ニンゲンであったころから、ベアトにとっては得意分野でした。ベアトは自分の領地でいろんなことをして遊びました。ニンゲンの頃には考えもしなかったようなことが、魔女になった今は指先1つで出来てしまいます。やがて、ベアトは自分の領地から出ることさえ出来ない“辺境の魔女”であるにも拘わらず、その優れた魔法大系によって無限の物語を生み出す無限機関“ベアトリーチェの猫箱”を生み出した天才魔女として“虚無の海”の中で知られた存在となり“黄金と無限”の銘を持つまでになります。ベアトは自分の力に酔いしれましたが、しばらくすると、飽きてしまいました。何でも思い通りに出来る代わりに、思い通りにしかならないのです。戦人を愛し、愛されることに何の不都合もない立場と肉体を手に入れましたが、肝心の戦人を生み出すことが出来ません。ベアトが魔法で生み出した戦人は、彼女にとって都合が良いだけの操り人形にしかならなかったのです。

そこでベアトは戦人を蘇らせる儀式を行うことにしました。儀式には相応のリスクが必要になります。それはニンゲンであっても魔女であっても違いはありません。。絶大なる魔女の力を持ってしてさえ、蘇らせることの出来ない戦人を蘇らせる奇跡、それに見合うリスクをベアトは1つしか思いつきませんでした。彼女がまだニンゲンであったとき、叶うことを願い、そして果たされなかった奇跡、ベアトはその奇跡の成就に再び自らの運命を賭けることに決めました。失敗すれば無間地獄に囚われることになるかもしれませんし、せっかく得た、魔女としての何不自由ない生活を失うことになるかもしれません。しかし、如何に絶大な力を持っていたとしても、愛する者のいない孤独な世界に、ベアトはこれ以上耐えられなかったのです。

まず、ベアトは戦人の依り代となる“駒戦人”を用意しました。この戦人は現時点では自由意思を持つだけのただの駒ですが、ベアトの儀式が成功すれば、この駒戦人を依り代としてベアトが求める戦人が蘇ることになります。次に駒戦人の対戦相手として“駒ベアト”を用意しました。この駒ベアトは自分を“黄金と無限の魔女ベアトリーチェ”である、と認識しています。そして現在は力を失っているが、戦人に魔女の存在を認めさせることで魔女の力を取り戻し、黄金と無限の魔女ベアトリーチェとして復活出来る、と信じています。ベアト自身が駒戦人の相手をしない理由は2つありました。1つは“勝負をフェアにする為”です。駒戦人は儀式の為のリスクとして、その探偵能力が本来の戦人から著しく減退しています。そんな駒戦人の相手が“黄金と無限”の銘を持つ上、現実世界を1つのカケラとして認識し、その全てを知ることが出来る魔女の自分では、あまりにアンフェアです。2つは“感情移入を避ける為”です。駒戦人はあくまで駒ですが、それでもベアトが愛してやまない戦人を模した駒です。約束を忘れ、ミステリーの知識を失っている以外は、実際の戦人と何一つ変わるところはありません。自分が相手をしていては、感情移入してしまって冷静にゲームを進められなくなるかもしれません。ですから“ゲームマスター”として第三者的な立場から駒戦人と駒ベアトの戦いを眺めるべきだと考えました。

次にこの2つの駒が対戦する舞台“ゲーム盤”を用意します。戦人とベアトリーチェが対戦するのに相応しい舞台、そんなものは考えるまでもありません。1986年10月4日と5日の六軒島です。対戦方法も同じくです。六軒島を舞台とした推理ミステリーです。ベアトにとって、これはかつてニンゲンであった自分が、果たそうとして果たせなかったゲームの再現なのです。ニンゲンだった時、ベアトは戦人に自分との約束を思い出して欲しくて、六軒島を舞台とした狂言の連続殺人ミステリーを仕掛けるつもりでした。しかし、親族が碑文の謎を解いたことにより、これを果たすことは出来ませんでした。また、そもそも戦人は約束を覚えていましたし、ミステリーを愛し続けていました。ですから現実世界において、本来ベアトが待っていた“約束を忘れ、ミステリーの知識も失った戦人”は存在すらしなかったのです。

ミステリーのシナリオはニンゲンであった時に自分が書いたメッセージボトルが4つありますから、取りあえず、4回分は確保出来ています(現実世界においては、そのうち2つは誰にも読まれることなく海の藻屑と消えましたが)。また、現実世界には数多くの偽書が存在しますから、その中から“ルール”に沿っていて、ゲームに使えそうなものを見繕えば良い話です。後は戦人以外の“駒”として、シナリオに沿ってAI(人工知能)で行動する15人の登場人物を配置して準備終了です。いよいよゲームを開始しようとした時、突然、ラムダデルタがやって来ました。ラムダデルタは“ベアトリーチェの猫箱”がお気に召したようで、たまにベアトの領地に遊びに来るのです。“虚無の海”においてベアトの名が知られるようになったのには、顔の広いラムダデルタによる宣伝が大きく貢献していました。ラムダデルタは、ベアトが予定している儀式の内容を熱心に聞いているうちに、突然大きく手を叩き、ゲラゲラ笑いながらどこかに行ってしまいました。ベアトは何かイヤな予感がしましたが、航海者の魔女の気まぐれを気にしていてもしようがありません。諦めて儀式を開始することにしました。

1回目のゲームに使用したのは『Legend of the golden witch』。六軒島爆発事故から数年後、式根島で漁師が発見したものであり、黄金の魔女ベアトリーチェの存在を世に知らしめた物語です。しかし、1回目はまだ勝負ではありません。駒戦人に物語の流れを理解させると共に、駒ベアトと戦う動機付けをしなければなりませんから、他の駒と同じく駒戦人もAIでシナリオに沿って行動させました。駒がAIで行動する場合、現実世界の本人がその場にいるのと、全く同じ行動をします。何故なら、魔法によって現実世界の人間をそのままゲーム盤に顕現させているだけだからです。ですから、『Legend of the golden witch』自体はノート片数枚に収まる程度の内容でしかありませんが、物語に書かれていない部分はシナリオから外れない範囲で駒が自分で考え、その考えに基づいて発言したり、行動したりするのです。このシステムなら、自分ひとりで15個もの駒を操作する必要はなくなりますので、ゲームマスターであるベアトは基本、視ているだけで済みます。

メッセージボトルの犯人は、紗音に固定されています。その理由は2つありました。1つ目はニンゲンであった紗音が、他人に犯人役を押し付けることは出来なかった為、2つ目はこれが紗音と戦人のミステリー勝負だからです。そして紗音は変装によって、一人三役で嘉音、ベアトとしても行動します。これがこのミステリーの肝であり、これを見破らなければ、犯人は解りません。また、紗音は真の右代宮家当主であり、莫大な財産を持つと同時に900tもの爆薬を爆発させる時限装置を持っている為、多くの共犯者を得ることが出来るという設定です。ただのニンゲンであった紗音には1986年当時、親族がそれぞれの事情によって経済的に逼迫していた事実を知る由もありませんでした。ですが、大金というアメと、爆弾というムチがあれば、大概の人間は言うことを聞かせられるだろう、という認識でした。魔女となり、現実世界をカケラとして眺めることの出来るようになったベアトにしてみれば、本当に親族を買収出来る下地があったことは驚きでした。

Legend of the golden witch』における共犯者は源次、熊沢、南條、秀吉、絵羽です。シナリオの段階では、全てニンゲンによる犯行で説明出来ますが、ベアトはそれを幻想修飾して提示します。ですから第一の晩において秀吉は、シナリオの段階では「死体がある」と嘘をついていますが、ゲーム盤においてはその場にない紗音の死体を実際に目撃します。第二の晩において源次、嘉音、熊沢が客室のチェーンロックを確認していますが、これも同様です。金蔵は物語の開始前に既に死亡しているため、ゲーム盤に出てくる金蔵は全てベアトによる幻想描写です。第五の晩における嘉音は、シナリオの段階では自作自演による死んだフリです。しかしベアトの幻想描写により、ゲーム盤においては魔女と戦って負けたことになります。物語の最終盤で、ようやく魔女が駒戦人の前に姿を現しますが、これは紗音による変装です。駒戦人はゲーム盤においては探偵ですので、駒戦人が目撃している場面では幻想描写は使えません。

物語が終了してからが本番です。駒ベアトを上位世界(領地そのもの、その中にゲーム盤という箱庭が存在する。ゲーム盤と区別しやすくする為“ゲーム盤の上位にある世界”ということで、以後“上位世界”と呼称する)に送り込み、駒戦人と対面させます。基本、駒ベアトもAIで設定された通りに行動しますので、設定通り、戦人を挑発し、戦いの動機付けを行いました。駒ベアトは第二の晩を幻想修飾して駒戦人に見せましたが(この時点で駒戦人は“プレイヤー”として上位世界の存在になっており、ゲーム盤の駒戦人ではなくなっている為、探偵ではなく、幻想描写を見せることが出来る)、実際にはベアトが幻想修飾しており、駒ベアトは自分が見せているつもりにさせられているだけです。駒ベアトは自分がベアトの駒に過ぎないことを理解していないのです。これで準備は終了、次からが本番ですが、予定外の事態が発生しました。ベルンカステルが領地に侵入してきたのです。おそらくラムダデルタが良い暇つぶしがあると、吹聴したのでしょう。“奇跡の魔女”ベルンカステルの恐ろしさは様々なカケラで見てきていますので、ベアトにとっては由々しき事態ですが、相手は自分より上の位階である“航海者”です。下手に機嫌を損ねて大切な儀式を邪魔されては敵いません。そこでベアトはベルンカステルの機嫌を伺いつつ、客としてもてなすことにしました。

 

※魔女のベアトと駒ベアトの関係性が伝わりにくいと思うので、補足説明しておきますが、上位世界においてプレイヤーの戦人とやり取りをしているのが駒ベアトで、魔女のベアトは基本的に戦人の前には姿を現しません。ただ、たまに駒ベアトに宿り、自分の考えを発言させたり、自分の思うような行動をさせます。EP8におけるプレイヤーの縁寿と駒縁寿の関係と同じような感じです。駒ベアトはAIによって自律行動する駒で「自分は魔女である」と本気で信じています。そして自分が魔女のベアトの駒であることを理解していません。何故、このような解釈をするかと言いますと、そう考えなければ説明がつかない部分がこれから多々登場する為です。というわけで次からは第二のゲームに進みます。

 

魔女のベアトが2回目のゲームのシナリオに使用したのは『Turn of the golden witch』。六軒島爆発事故の当日に、警察による遺留品捜索で周辺海域から回収されたものであり、このメッセージボトルの筆跡と式根島で漁師が発見した『Legend of the golden witch』の筆跡が一致した為、センセーションを巻き起こしました。この『Turn of the golden witch』と『Legend of the golden witch』、どちらが欠けても“六軒島魔女伝説”は成立しえず、ベアトがニンゲンであった時の、猫箱の語り手を生み出したい、という願いは辛うじて叶えられました。その一方で“六軒島爆発事故”が忘れ去られていくのを阻害した為、唯一の生存者である絵羽の心を抉り続けました。考えうる限りの可能性を想定したつもりでしたが、これは完全に想定外の事態です。“人の世のままならなさ”をベアトは痛感しました。

2回目のゲームの序盤には、現実世界における過去の出来事をそのまま仕込みました。何せ魔女ですから、現実世界のカケラから、さらにカケラとして出来事の一部を切り出してゲーム盤に仕込むことが出来るのです。ですからゲーム盤を眺める者は、過去の出来事をその場にいるかのように目撃します。譲治と紗音との沖縄でのデート、紗音による鏡割り、絵羽一家の六軒島訪問、紗音とベアトの交流、朱志香の学校での文化祭、これらは全て現実世界での実際の出来事です。ベアトはこれらの場面を見せることで、紗音という1人の少女が抱えていた苦悩を駒戦人に理解させたかったのです。今はまだ、駒戦人にとって紗音と嘉音は別人ですから、これらの出来事の意味を理解することは出来ません。しかし、駒戦人が真相に気がついたとき、これらの出来事から紗音の苦悩を読み取ることが出来るはずです。ベアトは駒戦人に自分との約束を思い出してもらうと共に、紗音という1人の少女の生き様をも理解して欲しかったのです。

その後には、それぞれの親族が抱える事情を伝える現実世界での出来事を仕込みました。1回目のゲームと違う場面がありますが、これは別の現実世界でのカケラの出来事を仕込んでいる為です。1つのカケラは可能性によって分岐し、無限のカケラを生み出します。ベアトはそれらの中から、もっとも解りやすいカケラを見つけてきました。1回目のゲームに使用したカケラにおいて、楼座親子が遅刻してきたのは、単純に電車の接続が悪かった為ですが、2回目のゲームのカケラでは、真里亞を宥める為にハロウィンのマシュマロ菓子を探して遅くなりました。楼座と真里亞の関係を説明するには後者の方が都合が良い為、今回はこちらを採用しました。ベアトはそれぞれの親族が抱えていた事情や想いも、駒戦人に背負って欲しかったのです。

Turn of the golden witch』における共犯者は源次、熊沢、南條、郷田、楼座です。現実世界において紗音が用意したメッセージボトルは4本。そのうち人の目に触れたのは2本だけ。使用人以外には、秀吉、絵羽が共犯者である『Legend of the golden witch』、そして今回のゲームで使用する、楼座が共犯者である『Turn of the golden witch』です。残りの2本の共犯者は、それぞれ蔵臼、夏妃と留弗夫、霧江でした。4本が全て人の目に触れれば、猫箱の中に4つの真実が存在することになりました。爆発事故によって全ての証拠がなくなり、残されたのは並び立つ4つの真実。この猫箱の中の真実を巡り、後世の人々が様々に想像し、あるいは新たに生み出す真実、これこそがニンゲンであった時のベアトが求めた“黄金郷”なのです。魔女になったベアトが“無限の魔法体系”を創造し、“ベアトリーチェの猫箱”を生み出すことが出来たのは、ニンゲンであった時、既にその原型を確立していたからなのでした。

2回目のゲームと1回目のゲームの決定的な違いは、1回目のゲームにおいてはゲーム盤のただの駒だった駒戦人が、2回目においてはプレイヤーに昇格し、上位世界で駒ベアトと戦うことです。その為、ゲーム盤における出来事で、駒戦人がプレイヤーとして操作する“戦人の駒”が見ていない場面は幻想修飾されることが多くなります。紗音と嘉音とベアトが同席する場面、煉獄の七姉妹や金蔵が出てくる場面は必ず幻想修飾されています。楼座と霧江が話をしたベアトは紗音の変装ですが、共犯である楼座はその正体を知っており、共犯ではない霧江は知りません。しかし、幻想修飾されることにより、両者の反応は同じようなものになります。

ゲーム開始の頃は威勢の良かった駒戦人ですが、親族を疑わざるを得ない状況に耐え切れなくなり、あろうことか途中でゲームを投げ出し、プレイヤーであることを放棄してしまいます。その為、ゲーム盤の戦人の駒は探偵権限を失い、AIで自律行動するただの駒になってしまいました。これは戦人が魔女を認めたことになりますから、事実上、駒ベアトの勝利です。しかし、ベアトの本来の目的は駒戦人に約束を思い出してもらうことであり、駒ベアトはその目的を達成する為の駒でしかありません。ベアトにとって駒ベアトが勝利しても何の意味もないのです。勝負は次のゲームに持ち越しですが、ベアトは次のゲーム以降の布石として、探偵権限を失った戦人の駒に幻想描写を見せておくことにします。戦人を金蔵の書斎に導き、金蔵とベアトと面会させました。こうしておけば以降のゲームでアドバンテージを得ることが出来ます。

 

※僕はEP3の最後の場面で金蔵が発した以下の台詞に引っ掛かりを覚えました。“「前回。黄金郷の扉がようやく開いたが、お前はサインを拒んだ。……記憶にはないだろうがな。お前がサインを拒んだ為、この世界を再び闇に閉ざしてしまったのだ。」”ところがEP2にそんな場面はないのです。そして“記憶にはない”ということは、プレイヤーの戦人が戦人の駒から抜けたときにそれが行われたと考えられます。プレイヤーがいない駒などゲームマスターは自由に操ることが出来ますから、もしベアトが戦人に勝つつもりだったなら、戦人の駒を操って、サインをさせてしまえば良かったのです。ところがベアトは逆のことをしています。戦人の駒にサインを拒ませたのです。何故、僕がゲームマスターである魔女のベアトと、上位世界で戦人と戦う駒ベアトを別の存在であると考えたのか、その理由の1番目がこれです。魔女のベアトは戦人を屈服させて黄金郷を開くことなどに興味はないのです。一方で上位世界の駒ベアトは本気で戦人を屈服させ、黄金郷を開こうとしているように思えます。この矛盾を説明するには“2人は別人である”と考えるのが一番妥当だと考えました。

 

ゲームが終わり、ベルンカステルと腹の探りあいをしているところに、ラムダデルタがやってきました。辺境の魔女の身で“航海者”を相手にするのは分が悪い為、ベアトはもう1人の“航海者”をゲーム盤に呼びこむことで牽制しようと、こっそりラムダデルタに連絡を取ったのです。もっとも、ベルンカステルがやって来たこと自体、ラムダデルタの企みでしょうから、放っておいても、やがては自分からやってきたでしょうが…。ベルンカステルとラムダデルタはゲームを投げ出した駒戦人をそれぞれに励まし、再び戦いに戻る力を与えてくれました。それが、単にゲームの続きを見たいが為であることは重々承知していましたが、ベアトにとってはありがたいことでした。たった一度の敗北で諦められては、ここまでのお膳立てが水の泡です。駒ベアトにこれ見よがしに楼座の駒をいたぶらせていると、2人の魔女の励ましによって戦う気力を取り戻した駒戦人が現れ、駒ベアトに啖呵を切りました。これでようやく次のゲームが始められます。

当初、ベアトが3回目のゲームのシナリオに採用しようと思ったのは、かつてニンゲンであった自分が書き、海に流したものの、誰にも読まれることもなく海の藻屑と消えた2本のメッセージボトルのうちの1つ、蔵臼と夏妃が共犯者となる物語でした。しかし、ゲーム盤の構想を練っている段階で、天界大法院の異端審問官、ドラノールがやって来たことにより、途中まで完成した状態でドラノールに渡してしまいました。カケラでその存在は知っていたものの、辺境の魔女に過ぎない自分には関わり合いがないと思っていた天界大法院にまで、今回のゲームが知られているのは驚きでしたし、アイゼルネ・ユングフラウの主席であるドラノールが、直々に訪問してくれたのは光栄でもありました。無限のカケラが漂う“虚無の海”において、法務を司る天界大法院の異端審問官は多忙を極めますから、天界大法院を離れる時、通常は自らの“分体”を生み出して派遣するものなのです。しかし、この時やって来たドラノールは“分体”ではなく本人でした。これはドラノールがそれだけ、ベアトの儀式に関心を示している事実を示しています。そして、ドラノールは自分の事情をよく理解していてくれましたから、その気持ちがとてもありがたかったのです。

ドラノールが去ってから、ベアトは再びゲーム盤の準備に戻りますが、ドラノールとの別れ際におけるやり取りが重く心に圧し掛かっていました。おそらくドラノールはこの儀式が失敗することを確信しているのです。だからこそ、あの未完成の原稿を、いつの日にか公開したい、と言ったのです。ドラノールほどの異端審問官がそのように判断するということは、本当に奇跡でも起きない限り、この儀式は失敗するのでしょう。心が折れそうになりますが、まだゲームは始まったばかりです。こんなところであきらめるわけにはいきません。自分が書いたシナリオはあと1つ残っていますが、それは験が悪いので使わないことにしました。誰にも読まれることなく波に飲まれ、海の藻屑と消えた物語に奇跡を託すことなど出来ません。また、留弗夫と霧江が共犯者というのは、現実世界で発生した惨劇に通じる部分がある為、引っ掛かりを覚えました。幸いなことに現実世界には膨大な数の“偽書”が存在します。きっとその中には“ルール”に沿い、この儀式に使えるものがあるはずです。

ベアトが着目したのは“伊藤幾九郎〇五七六”こと、八城十八が書いた4つの偽書でした。執筆しているのは六軒島のことなど何も知らない八城幾子ですが、彼女の優れた洞察力と監修を担当した十八のサポートにより、現実世界に存在する偽書の中では、もっともベアトのメッセージボトルに近い内容となっています。そして何より、関わっているのが戦人が記憶を失った結果、生まれることになった十八です。戦人としての記憶を失った戦人が関わった物語を、自分との約束を忘れた戦人復活の儀式に使用する。この不思議な因縁にベアトは奇跡を託そうと思いました。こうして、3回目のゲームのシナリオは八城十八が初めて書いた偽書『Banquet of the golden witch』に決まりました。

実は『Banquet of the golden witch』には大きな問題がありました。これを執筆した時点の八城幾子は、現実世界で発生した六軒島爆発事故の真相を完全には理解していなかった為、取りあえず、絵羽1人が生き残った、という事実を解釈するだけの偽書を書いたのです。当時は十八が蘇りつつある戦人の記憶からの侵食に苦しみつつ、世間からの誹謗中傷に苦しむ絵羽と縁寿の為に何も出来ない自分を責めていた時期でした。幾子は2つの記憶の狭間で苦しむ十八を見守ることしか出来ない自分にも、何か出来ることがあるはずと、偽書の執筆を思い立ちました。しかし、そんな状況の十八に六軒島の様子を根掘り葉掘り尋ねるわけにもいかず、十八には自分が書いた内容を最低限、監修してもらう程度に留めました。また、監修を請け負った十八にしても、記憶が戻り切ってはおらず、完全な監修は不可能でした。その為、いささか“ルール”から外れてしまう部分があるのです。しかし、致命的なものではないことから、工夫すれば何とかなりそうです。そもそも、自分との約束を思い出すことも出来ない駒戦人では、この僅かな綻びに気がつくわけもありません。そのような事情で変則的な内容になってはしまいましたが、こうして3回目のゲームの準備は終わりました。いよいよ勝負開始です。

3回目のゲームの冒頭には、現実世界において使用人として六軒島で働き始めたばかりの紗音と熊沢とのやり取りを幻想修飾して仕込みました。自分と“魔法”との出会い、それを通じて駒戦人にも“魔法”の何たるかを理解するきっかけを与えたかったのです。しかし、魔女のベアトの駒に過ぎない駒ベアトは、その光景を自分の過去と認識させられていました。しかも、この場面が幻想修飾されていることに気がついてはいません。この幻想修飾された場面こそが、駒ベアトにとっては自分の過去なのです。その後は1回目のカケラとは違うカケラでの、六軒島に向かう親族のやり取りを仕込みました。また、それだけでなく“観劇者権限”により、絵羽の過去も追体験させるようにしました。“観劇者権限”とは、ある個人が体験した過去の出来事を、その場にいるかのように追体験出来る力を与えるものです。本来は“権限”として人に付与するものですが、ゲーム盤に仕込むことも可能です。これは今回のゲームで重要な役割を果たす、絵羽が抱く想いを駒戦人に理解させる為です。そして、かつて絵羽の中に宿って絵羽を支えた、もう一人の絵羽である“エヴァ”の存在を駒戦人に認識させる為でもありました。

その後に仕込んだのが、やはり1回目のカケラとは違うカケラにおける浜辺でのやり取りです。この場面には駒戦人に約束を思い出してもらうためには、最も大切な発言があったのです。今の駒戦人には気がつくことはできないでしょうが、いくつものゲームを重ね、この3回目のゲームをカケラとして再び眺めた時、この発言は戦人復活の為の重要な鍵になることでしょう。今回はゲーム盤における薔薇庭園での真里亞とベアトの会話の場面を登場させました。これも駒戦人に“魔法”を理解させる為です。どうも駒戦人のポンコツ設定を誤ったらしく、このまま戦いを続けていては、いつまで経っても駒戦人は約束を思い出せないどころか、まるっきり勝負にもならないでしょう。ですからベアトはある程度、駒戦人がゲーム盤の仕組みを理解出来るよう、サポートすることにしたのです。ゲーム盤において金蔵が手放した当主の指輪を受け止めた悪魔ロノウェ。駒ベアトはロノウェのことを本物の悪魔だと信じていますが、実際には魔女のベアトが源次を依り代として生み出した、ベアトの駒です。クローズドサークルの筈の孤島に新たな登場人物が加わる、通常のミステリーではありえない展開ですが、だからこそ逆にゲーム盤というものの仕組みを理解するヒントとなりますので、ゲーム盤にも登場させることにしました。

今回のゲームにおいては駒戦人に19人目の人物、ベアトリーチェの存在をミスリードさせることに成功しました。実際には16人しかいないのに、それを18人に水増しした上、さらにもう1人追加する。我ながら見事な策略です。こうしておけば、人数の争点は19人目が存在するか否かとなり、その上、さらに2人少ないなど、とても考えが及ばないでしょう。駒戦人にベアトリーチェの存在を確信させたところで、現実世界の九羽鳥庵において、かつて金蔵とベアトリーチェが会話した場面を見せます。これで駒戦人はこのベアトリーチェが今も六軒島にいる19人目だと誤認するでしょう。もっとも、駒ベアトは九羽鳥庵のベアトリーチェこそがかつての自分だ、と魔女のベアトによって信じ込まされているのですが。これが実際の場面かどうか疑う駒戦人に、ロノウェは赤字を使って事実であることを証明しました。ロノウェは魔女のベアトの駒に過ぎませんが、故に、魔女のベアトの力を一部、貸与されているのです。

やがて、ゲーム盤の楼座の駒がかつて九羽鳥庵のベアトリーチェと邂逅した場面を語り始め、同時にゲーム盤に仕込んでおいた“観劇者権限”が作動しました。これにより、ゲーム盤を眺める駒戦人は、楼座が過去に実際に見聞きしたことを、その場にいるかのように追体験します。やがて、楼座と共に九羽鳥庵を抜け出したベアトリーチェは崖から落ちて死亡します。駒戦人は“観劇者権限”によってその現場にいますので、ベアトリーチェの顔を覗き込むことが出来ましたが、どう見ても死亡しているようにしか思えませんでした。実はこのときは死んでいなかったのだろう、と言い張る駒戦人に、駒ベアトは赤字で九羽鳥庵のベアトリーチェの死亡を宣言します(駒戦人は“探偵権限”を持たない為、赤字で宣言されなければ死亡を確定出来ない)。駒ベアトは“肉の檻”であった九羽鳥庵のベアトリーチェが死亡したことにより、自分は魔女としての存在を取り戻した、と魔女のベアトに信じさせられていますが、実際はそんなことはなく、九羽鳥庵のベアトリーチェはかつて実在したニンゲンであり、駒ベアトは魔女のベアトがゲームの為に生み出した駒です。

ゲーム盤において、ベアトの駒による第一の晩が始まりますが、これは完全な幻想描写です。かつて駒ベアトが熊沢に封印した先代ベアトリーチェ(ワルギリア)が蘇りますが、これも魔女のベアトによって駒ベアトが信じ込まされている“設定”です。実際にはワルギリアもロノウェと同様に魔女のベアトが熊沢を依り代にして生み出した駒です。ゲーム盤におけるベアトの駒とワルギリアのド派手な魔法バトルを見せ付けられた駒戦人は取り乱し、再びゲームを降りそうになりますが、そんな駒戦人の前にゲーム盤においてベアトの駒に破れ、ゲーム盤の外の存在となったワルギリアが現れます。そして“魔法”とはどのようなものか、そして魔女との戦いとはどのようなものか、説明してくれました。それにより駒戦人はやる気を取り戻し、再び駒ベアトと戦う意思を固めます。魔女のベアトからすれば、何とも世話の焼ける話です。

第一の晩後、ゲーム盤の駒はゲストハウスに篭城します。その中で、絵羽の駒が碑文の謎を解き、地下貴賓室に至ってしまいます。そして、少し遅れて楼座の駒も碑文の謎を解き、2人は地下貴賓室で鉢合わせしました。すぐにみんなに報告しようという楼座に対し、絵羽はしばらく秘密にしたいと告げます。2人は険悪な空気となりますが、楼座が一晩だけなら、と譲歩したことで話はまとまりました。絵羽が最終的には黄金を親族にも分け与えるつもりであることに納得がいかないのが、絵羽の中で目覚めた“エヴァ”です。黄金は全て自分のものであり、右代宮家の当主は自分だ、と主張するエヴァの前に、ベアトの駒が現れ、当主の指輪を差し出しました。そして金蔵との契約により、黄金の魔女としての全ての力をエヴァに継承することを宣言しました。それにより、エヴァはベアトリーチェの名を受け継ぎ、エヴァ・ベアトリーチェとなりました。駒戦人はこの光景に驚きますが、ワルギリアはこれは“解釈”に過ぎないと説明します。実際、幻想修飾が為されていないゲーム盤におけるこの場面は、地下貴賓室に辿り着いた絵羽がそこにあった手紙から、爆弾の存在と作動方法を知り、同時に当主の指輪、煉獄の七杭、キャッシュカードを手に入れただけです。

駒ベアトは、そういうルールである為、黄金の魔女の座とベアトリーチェの名をエヴァに引き継ぐことを宣言します。2回目のゲームにおいて、駒ベアトは赤字で自分は約束を守ることを宣言しています。そして手紙でそのルールを公示している以上、駒ベアトはこれを破ることが出来ないのです。この時点で駒ベアトは自分はゲームマスターとしての権限を失ったと考えていますが、そもそもこのゲームの本当のゲームマスターは駒ベアトではなく、魔女のベアトです。魔女のベアトにとって駒ベアトは自分の存在を隠す為の影武者兼、操り人形でしかありません。魔女のベアトは以後、エヴァという駒を使ってゲームを進めます。その為、以後、駒ベアトにとって不測の事態が発生しますが、ようはゲームマスターである魔女のベアトが、駒ベアトがルールによって使えなくなった為、操る駒を駒ベアトからエヴァに変更しただけなのです。

ゲストハウスに篭城したゲーム盤の駒たちでしたが、薔薇が心配だ、と駄々をこねる真里亞を落ち着かせる為、楼座は真里亞と共にゲストハウスを抜け出し、薔薇庭園に向かいました。そこに現れたのは絵羽です。絵羽は楼座と真里亞の会話を盗み聞きしており、他の親族には聞かれない場所で楼座にもう一度口止めをする為、薔薇庭園にやって来たのです。絵羽と楼座は口論の末、掴み合いとなりました。ぬかるみに足を取られた楼座が転倒した先には庭園の柵があり、その切っ先に延髄を貫かれ、楼座は死亡しました。その光景に恐慌した真里亞が泣き叫ぼうとした為、絵羽はとっさにその首を絞め、絞殺してしまいました。我に返った絵羽は狼狽し、ゲストハウスに逃げ戻ります。ベアトはその場面をエヴァが魔法を使って2人を弄ぶ場面に幻想修飾し、駒戦人に見せますが、駒戦人はその残酷な光景に怒り狂います。そして、この残酷ショーを楽しんでいた駒ベアトを非難し、その場から逃げ出しました。

ワルギリアに見放され、ロノウェからも諌められ、落ち込んだ駒ベアトはゲーム盤のエヴァに残酷なことは控えるように、と進言します。エヴァはそんな駒ベアトに失望しつつ姿を消しました。ゲーム盤において、楼座と真里亞の不在が発覚し、駒たちは薔薇庭園で殺害されている2人を発見します。駒ベアトと駒戦人の戦いも再開されますが、駒戦人が相手をしてくれない為、駒ベアトはロノウェに駒戦人の相手を任せて姿を消しました。今度はエヴァに接触しますが、エヴァにも手は借りない、と拒絶されてしまいます。やがてゲーム盤において、霧江の駒が、体調不良の絵羽が在室していたはずの室内で煙草の吸殻を発見し、秀吉の嘘を追及する為、屋敷に食料を取りに行くことを提案します。その後、霧江の提案を受けて、留弗夫、霧江、秀吉の3人が屋敷に向かいます。屋敷に着いた留弗夫と霧江は秀吉を問い詰めますが、こっそり後をつけてきた絵羽によって射殺されました。しかし、腹を撃たれた霧江は即死せず、絵羽に反撃しようとしますが、絵羽を庇って秀吉が撃たれ、死亡します。絵羽は島に潜む19人目の仕業に見せかける為、地下貴賓室にあった煉獄の七杭を3人の遺体に突き刺し、秀吉の死を悼む間もないままゲストハウスに戻ります。その間に紗音の駒は屋敷に戻ります。3人が死亡している以上、一同が屋敷に戻ってくることは確実であり、客間で死亡している筈の紗音の遺体がないとまずいことになるからです。

ベアトは屋敷での一連のやり取りを、エヴァとその家具である煉獄の七姉妹及びシエスタ姉妹による犯行として幻想修飾しました。駒ベアトは3人の遺体を使って再び残酷な遊びをしようとするエヴァを諌めますが、エヴァは儀式は行うが、口出しされる謂れはない、と駒ベアトを拒絶します。駒ベアトは無限の力に酔いしれるエヴァの姿に、かつての自分を見る思いでしたが、そんな駒ベアトの前にワルギリアが現れ、そんなことではいつまで経っても戦人に魔女と認められることはない、と言いました。そして、このゲームは戦人を屈服させる拷問などではなく、駒ベアトが戦人に認めてもらうために努力する、試練なのだ、とも。今更どうすれば良いのか、と問う駒ベアトに、ワルギリアは言いました。それは自分で考えなければならない、そして、エヴァに黄金の魔女を継承したことにより、その為の時間は充分にある、と。その言葉に駒ベアトは、これから自分が取りうる道を探す決意を固めます。

やがて、ゲーム盤において3人の帰りが遅いことから、駒たちが屋敷に移動し、留弗夫、霧江、秀吉の遺体を発見します。駒戦人はゲームを続けようとしますが、ロノウェはベアトの代行者を返上する、と言い出しました。そして駒戦人に再びベアトを対戦相手として認めてくれるように頼みました。ワルギリアも同調した為、駒戦人は仕方なく、再び駒ベアトと向き合うことにします。そして姿を現した駒ベアトに言いました。魔法が人に幸せをもたらす為のものなら、お前は魔女失格だ、と。そして、これが人間と魔女との戦いだというのなら、魔女でないベアトには参加資格がない、とも。この発言を受けてワルギリアは、ベアトが対戦資格を取り戻すまで対局者不在でゲームを進行することを提案し、駒ベアトがこれを受け入れたため、以後、しばらくの間、対局者不在のままゲームは進みます。

駒ベアトは、譲治の駒の、紗音を生き返らせてくれるなら、どのような悪魔の契約も受け入れる、という願いに力を貸すことで、自分は魔女として認められるのではないかと考え、譲治の前に姿を現します。そして魔法によって譲治を屋敷へと運びますが、これは魔女のベアトによって幻想修飾された場面です。ゲーム盤においては、譲治になら紗音を説得出来る、と考えた南條が、紗音に協力していた事実を打ち明け、譲治が窓から脱出した後、鍵をかけただけです。実際には紗音は犯行を続けてはおらず、絵羽が引き継いでいるのですが、南條はそれには気がついていません。そして、それを魔女のベアトが幻想修飾し、駒ベアトは巻き込まれています。譲治がゲストハウスを脱出してから間もなく、絵羽は蔵臼と夏妃に催眠薬入りのコーヒーを飲ませ、2人が眠り込んでから絞殺し、台車に載せて薔薇庭園の東屋に運びました。そして煉獄の七杭を刺しました。ベアトはそれをエヴァとシエスタ姉妹による犯行として幻想修飾します。

駒ベアトに導かれ、屋敷にやって来た譲治の駒は、駒ベアトの力を借りて、紗音の魂を呼び戻すことに成功しました。譲治に力を貸したことで疲労困憊の駒ベアトは、命の大切さと一生懸命を知る者にしか宿しえない魔力、そして無限の魔女には知ることのできない、有限の力にしか起こせない、奇跡の力を目の当たりにして、ようやく自分が正しい魔法の使い方を思い出したことを悟ります。しかし力強く抱擁し合う譲治と紗音を、シエスタ姉妹の黄金弓が貫きました。駒ベアトの動向はエヴァの命令によってシエスタ姉妹に捕捉されていたのです。エヴァに敵と認識された駒ベアトは命からがら逃げ出しました。しかし、以上の場面も魔女のベアトによって幻想修飾された場面です。実際にはゲストハウスを抜け出してきた譲治が屋敷の中で紗音に殺され、紗音はこれまでのように死んだフリを続けただけです。

その頃、ゲストハウスでは蔵臼と夏妃、そして譲治の不在が発覚し、駒たちが大騒ぎしていました。やがて、絵羽と朱志香に引き摺られるようにして、全員で表を探しに行くことになります。薔薇庭園の東屋で蔵臼と夏妃の遺体を発見し、一行はそのまま屋敷に向かいました。そして屋敷において客間の扉に新たに書かれた“07151129”という数字を発見します。絵羽はその番号が地下貴賓室で発見したキャッシュカードの暗証番号である可能性に気がつき、メモしました。これは地下貴賓室に手紙を残した紗音が、慌てていた為、キャッシュカードの暗証番号を書き忘れ、譲治を殺さなければならなかったせめてもの償いとして、絵羽の為に書いたものです(絵羽による碑文の解読は、紗音にとって想定外の事態だったが、絵羽が梯子を持ち出した時点で気がついた為、手紙を残す時間はかろうじてあった)。室内には寄り添うように倒れる譲治と紗音の遺体がありました。目を見開いた譲治の様子から、その死亡を確信した戦人の駒は脱力してソファに座り込み、物思いに耽っていました。するといつの間にか絵羽と朱志香が取っ組み合いをしており、やがて絵羽が手にしていた銃が暴発し、朱志香が両目を覆いながらその激痛に床を転げまわります。直接当たったわけではなさそうですが、その様子から、軽傷とは思えません。絵羽が恐慌して部屋を飛び出してしまった為、戦人はどこに犯人が潜んでいるかも解らない現状において、孤立する危険性を鑑み、絵羽の後を追いかけました。

南條は朱志香の治療をする為、朱志香と共に使用人室に移動します。そして応急措置として朱志香の両目をガーゼで覆い、包帯で固定しました。これにより朱志香の両目は完全に塞がれました。朱志香の治療後、廊下に出た南條は紗音に射殺されます。これを魔女のベアトはエヴァの仕業として幻想修飾しました。朱志香とエヴァが会話しているように見えるのも、幻想修飾です。朱志香は廊下での物音から南條が何者かに殺害されたことを知り、次は自分の番だと一人怯えています。そこに一方的にエヴァの発言を重ねると、エヴァの発言によって朱志香が怯えているように見えるのです。駒ベアトはそんな朱志香を救う為、残された魔力を全て使って嘉音の魂を蘇らせることを決意します。駒ベアトによって再び生を受けた嘉音は朱志香を案内し、客間のカーテンの中に隠しました。駒ベアトは客間の扉を封印し、自らその前に立ち塞がります。やがてエヴァ一行が現れ、シエスタ姉妹の攻撃を受けますが、駒ベアトは心臓だけになって尚、扉の封印を守りました。ちなみにこの場面も魔女のベアトによる幻想修飾です。ゲーム盤においては紗音の駒が南條を殺した後、嘉音として朱志香を客間に誘導しただけです。その幻想修飾に駒ベアトは巻き込まれているのです。

やがて駒戦人が現れ、エヴァを対戦相手として戦うことを宣言します。エヴァは魔女のゲームのルールに不慣れな為、序盤は駒戦人に圧倒されますが、やがてコツを掴み、駒戦人を追い詰めていきます。駒戦人は苦戦しますが、駒ベアトの助力を得て最終的にエヴァが絵羽であることを証明しました。それにより、一度は魔女としての姿を失いかけたエヴァでしたが、あらゆる赤字を用いて絵羽には南條を殺せないことを、そして誰にも南條を殺せない事実を駒戦人に突きつけます。駒戦人はこの一手に屈しましたが、それを受けて駒ベアトは自ら赤字を用いて魔女を否定することで、エヴァを退けました。この時、魔女のベアトは駒ベアトに宿り、このゲームの真相を語ることで、自らの心臓を晒しました。しかし、幻想修飾により、駒ベアトは自分はただ、赤字で魔女を否定しただけだと認識しています。やがて、エヴァの全ての魔法が否定され、幻想が取り払われた時、戦人の駒は絵羽によって射殺されました。

ふと気がつくと、駒戦人は駒ベアトと2人、真っ暗で何もない空間にいました。駒戦人が駒ベアトを魔女と認める発言をしたとき、黄金郷が開きました。そこには死んだはずの皆がいました。駒戦人は黄金郷を完成される為にはサインが必要だと促され、ペンを手に取りますが、駒ベアトとワルギリアの態度に不信感を持ちました。すると突然、大音響と共に1人の少女が現れました。ベルンカステルの駒としてゲームに参加した縁寿です。ベルンカステルがゲームを面白くする為、現実世界の縁寿に働きかけ、駒としてスカウトしてきたのです。謎の少女(駒戦人には縁寿と解らない)にサインを制止され、駒戦人は戸惑いますが、この時、実は駒ベアトには魔女のベアトが宿っていました。ベアトは葛藤を抱えていました。駒戦人がサインをした時点でこの儀式は失敗です。しかし、このまま美しく幕を下ろすのも悪くない、そう考えてしまったのです。黄金郷に入るにはベアトの承認が必要ですから、縁寿の侵入を許したのもベアト自身です。駒戦人のサインを妨害し、ベアトの儀式を続けるには、またとない闖入者だったのです。やがてベアトは葛藤を振り切り、駒ベアトから抜けて後の対応は任せました。

ゲーム終了後、ラムダデルタが駒ベアトを苛めて遊んでいましたが、ベアトは無視しておきました。ベルンカステルは駒ベアトが魔女のベアトの操り人形に過ぎないことに気がついていませんが、ラムダデルタはゲーム開始前に遊びに来てゲームの仕組みを理解している為、駒ベアトと魔女のベアトの関係も理解しているのです。駒ベアトは自分が魔女でいられるのはラムダデルタが後見人である為と思っていますが、それ自体が魔女のベアトの作った“設定”であり、ラムダデルタはそれに付き合っています。

 

EP3は構造が複雑である為、かなり説明臭い内容になってしまいました。僕が魔女のベアトと駒ベアトを分けた一番大きな理由が「EP3を説明出来る解釈がこれしかないから」です。ルールから外れた八城十八の『Banquet of the golden witch』。これをシナリオに採用してゲーム盤を作ったが為に、EP3はあのような内容になってしまったのだと考えています。碑文が解かれる展開はEP5にもありますから、あちらでもまた説明することになりますので、現時点では「良く解らない」と思われている方も、EP5で理解出来るかもしれません。正直、EP3は『うみねこ』の中で最も理解しづらいEPだと考えています。

 

4回目のゲームのシナリオに使うのは、八城十八が書いた『Alliance of the golden witch』です。この偽書の共犯者は戦人以外の全員です。この頃の幾子は六軒島爆発事故の真相を理解していましたし、十八も戦人としての記憶を完全に取り戻していました。ですからその内容は“ルール”に沿い、また、現実の六軒島において紗音がしようとしたことに近い内容となっています。この後に続く、八城十八の『End of the golden witch』及び『Dawn of the golden witch』も同様の内容である上、以降、偽書の質は落ちる一方ですから、ここで駒戦人が約束を思い出せなければ、いくらゲームを続けても後は無間地獄となる可能性が高いです。ですからベアトにとってここは正念場です。それなのに、今回のゲームにおいては縁寿という闖入者が新たに参加します。前回、駒戦人にサインをさせるわけには行かなかった為、受け入れざるを得なかった部分があるのですが、そのツケを今回のゲームで支払うことになりそうです。

今回のゲームにおいては縁寿が駒として参加していることもあり、“観劇者権限”を用いて現実世界の縁寿の様子をゲーム盤に入れ込みました。“真里亞の日記”を通して間接的に真里亞の様子も入れ込むことも出来ますし、何より縁寿が魔法を理解していく過程は、駒戦人に魔法を理解させるにはもってこいなのです。また、同時に、あるカケラにおける縁寿の“真実を求める旅”も入れ込みました。戦人を蘇らせることに成功したら、次は縁寿の番です。かつてニンゲンであった時のベアトの過ちが、現実世界の縁寿を運命の袋小路に追い込んでしまいました。現時点で存在するカケラの中に、縁寿が1998年を生き延びるカケラは存在しません。復活した戦人と力を合わせれば、あるいは縁寿に新たなカケラを生み出す選択をさせること出来るかもしれません。その為にも縁寿の駒に自分の可能性を理解させたかったのです。

ゲームの進行に伴い、ゲーム盤に新たに登場した悪魔、ガァプが駒戦人の前にも姿を現しました。ガァプはかつてベアトがニンゲンであった時、空想で生み出した魔女でしたが、後に真里亞の発言を受けての設定変更により、悪魔となりました。このガァプもロノウェやワルギリアと同じく、魔女のベアトが生み出した駒です。もっとも、駒ベアトは相変わらず、ガァプを本物の悪魔だと信じていますが。このゲームは戦人以外は全員共犯者である為、戦人が見聞きした場面以外は、ほぼ幻想描写です。魔女のベアトは戦人の駒への次期当主のテストにおいて、駒ベアトを飛び越して、ベアトの扮装をした紗音の駒に宿りました。そしてゲーム盤の戦人の駒に直接、約束のことを尋ねました。戦人の駒は“約束を忘れた戦人”ですし、そのプレイヤーである駒戦人は“約束を忘れた戦人がプレイヤーに昇格した存在”です。ですから、戦人の駒に問いかけることで、2人の戦人に同時に問いかけることが出来るのです。しかし、戦人の駒は約束を思い出せませんでした。失望したベアトはゲームから降りることを決め“爆弾を擬人化したベアト(爆弾ベアト)”に後を任せました。この爆弾ベアトの役割は、10月5日の24時に六軒島から全ての証拠を消滅させることです。ですから本来ならばゲーム終了まで出番はないのですが、もうベアトはゲームを続けることに堪えられなくなったのです。

ベアトと入れ替わった爆弾ベアトは戦人を残し、無言で書斎に戻ると賑やかに楽しんでいた、金蔵とガァプをそれぞれ黒焦げの死体とガラスの彫像に変えました。ただならぬベアトの様子に恐れをなしたワルギリアとロノウェは被害に遭わないうちに姿を消します。魔法で散らかった部屋を片付けた爆弾ベアトは、駒戦人にゲームを放棄する意思を伝えました。肩透かしを喰らった駒戦人は、引っ掛かりを感じながらも、それを了承しようとしましたが、ベルンカステルとラムダデルタが現われ、このままでは駒戦人は永遠にゲーム盤に囚われたままになる、と説明します。これを受けて駒戦人は爆弾ベアトを非難し、姿を消していた縁寿も現れ、駒戦人に賛同しました。

すると爆弾ベアトは駒戦人に自分との対戦資格があるかどうか問う、と言い出しました。ベアトの思惑を察した縁寿が何かを言いかけましたが、爆弾ベアトによってゲーム盤から退場させられてしまいました。そして爆弾ベアトは赤字を用いて、駒戦人の母親が明日夢ではないことを宣言します。自分は右代宮金蔵の孫である右代宮戦人と戦うためにゲームを開催したのだから、明日夢の子どもではない駒戦人は、金蔵の血を引いておらず、自分との対戦資格はない、というのが爆弾ベアトの主張でした。その発言を受け、アイデンティティを喪失した駒戦人はゲームを降りてしまいました。戦人の退場によって、爆弾ベアトも姿を消し、残されたベルンカステルとラムダデルタもゲーム盤を去った為、書斎には誰もいなくなりました。

魔女のベアトが去り、爆弾ベアトも去ったベアトの駒には、駒ベアトが宿っています。駒ベアトはマリアージュ・ソルシエールの同胞、真里亞と共に黄金郷に篭りました。互いを認め合っている真里亞と2人だけなら、誰にも傷つけられることなく、そしても誰かを傷つけることもありません。駒ベアトは全てを忘れ、真里亞と共にこの黄金郷で永遠に過ごすつもりでした。しかし、そこに縁寿がやって来ました。魔女のベアトが全てを清算する為に招いたのです。縁寿に説得され、真里亞が黄金郷を離れたことで、黄金郷は崩壊し、駒ベアトは再びゲーム盤に引き摺り出されました。ところが、肝心の対戦相手である駒戦人が戦意を喪失したままです。すると縁寿は自らを犠牲にして、再び駒戦人に戦う気力を呼び起こしました。

 魔女のベアトは自ら駒に宿り、駒戦人との最後の戦いに臨みます。しかし、これはベアトにとって、勝つ為の戦いではなく、負ける為の戦いでした。何故なら、駒ベアトとは違い、魔女のベアトにとって、駒戦人に勝つことなど何の意味もないのですから。しかし、それでも全てを終わらせる為に、ベアトは駒戦人と戦わなければならないのです。黄金の魔女に相応しい、華々しくも壮絶な散り際を見せなければならないのです。はたして、駒戦人の放つ青い楔が次々とベアトの体を刺し貫きます。その激痛に、思わずベアトは駒から意識を離してしまいました。すると駒ベアトの意識が浮かび上がってきます。混濁する意識の中でベアトは思いました。駒ベアトに悪いことをした、と。駒戦人と戦わせる為に作った駒ではありましたが、駒ベアトはこれまで自分なりに必死で駒戦人と戦ってきました。しかし、その、駒戦人に勝利して魔女として復活し、黄金郷を開く、という目的はベアトが与えた嘘の目的です。本来ならば駒ベアトはとっくに駒戦人に勝っていたのです。それが魔女のベアトの横槍によって妨害され、結局、このような結末を迎えることになりました。ならば、もう少し、駒ベアトの努力に報いよう、ベアトはそのように考え、最後の気力を振り絞ります。そして、赤字を使って体に刺さった青い楔を全て砕け散らせました。第二ラウンド開始です。

駒戦人が繰り出す青字は無茶苦茶な暴論でしたが、敢えてベアトはそれを受け止めました。駒戦人はミステリーというものをまるで理解していません。しかし、それはベアトがそのような設定で駒戦人を生み出したからです。現実世界の右代宮戦人はミステリーを深く愛し、その知識も卓越したものでした。そして、それほど好きなミステリーを通して交流した紗音のことを忘れているわけもなく、ただ約束通り、紗音を待ち続けていただけだったのです。ところがベアトの前身である紗音は、戦人との約束を誤解し、最終的に14人もの人命が失われる惨劇のきっかけを作ってしまいました。その罪を今、自分は贖っているのだ、ベアトはそのように考えました。そもそも“約束を忘れた戦人”である駒戦人が約束を思い出すという奇跡に賭けた自分の目論見が外れた結果がこれです。駒戦人が無能であることが罪ならば、それはそのような設定で駒戦人を生み出したベアトの咎です。体を穿つ痛みの1つ1つが、ベアトにとっては贖罪の為の刑罰なのでした。

激痛に耐えながら、ベアトは自分が負うべき全ての青き楔を受け切りました。残されたのは爆弾を擬人化した存在である“爆弾ベアト”が持つ謎だけです。力尽きたベアトは駒から離れ、駒には爆弾ベアトが宿りました。爆弾ベアトは駒戦人に自らの存在を赤字として投げかけ、駒戦人はその謎を受け止めたまま、ゲーム盤を降りました。

 

EP4EP3とはうって変わって短くなりました。一番大きな理由は「右代宮家の物語」の“右代宮縁寿の物語”で大体書いてしまっているからです。今回、クロスオーバーするのは解っていましたが、あえて“右代宮縁寿の物語”を読み直さずに書いてみました。すると、クロスオーバーする部分がほぼ同じ内容になっていました。さすが同じ人間による読解です。今回は、あまり考察していなかった部分を解釈する必要があった為、解釈しながら書く羽目になりました。書いていて「なるほどこう解釈するのか!」と自分で感心しました。ですから書いていてなかなか楽しかったです。次のEP5は魔女のベアトがゲームマスターを降りているため、ラムダデルタがゲームマスターになります。ところが魔女のベアトの影武者であった駒ベアトはゲーム盤に残っている為、いろいろ理解しにくい部分が出てきます。構造的にはEP3に近い為、併せて読むことで理解しやすくなるかもしれません。

 

前回のゲームで魔女のベアトがゲームから降りてしまった為、ベアトの領地には“ベアトの屍”だけが残されていました。ベアトの足首には鋼鉄の足枷が括られています。勝敗は、どちらか一方の勝とうとする意思が挫けた時に決まります。その意味では前回のゲームによって魔女のベアトと駒戦人との戦いはベアトの敗北で決着しました。しかし、このゲームでもっとベルンカステルと遊びたいラムダデルタは、ここで終わってもらっては困るのです。ですから、足枷でベアトを繋ぎとめることによって、ラムダデルタはゲーム盤を消滅から守りました。ベアトにはワルギリアが付き添っていますが、その髪を解かれ、櫛で丁寧に手入れされても、ベアトは反応しません。その瞳は何も映さず、その口が何を語ることもありませんが、ベアトの魂が消えてしまったわけではありません。ですから、その傍らで過去のゲームの譜面を再考する駒戦人に時折、虚ろではあっても眼差しを向けてくれることはありましたし、時に何かの仕草らしきものを見せたり、唇を動かして見せたりもしました。

その一方で、魔女のベアトの替わりにラムダデルタがゲームマスター、駒戦人の替わりにベルンカステルがプレイヤーを務める5回目のゲームが開始されました。ラムダデルタは魔女のベアトがゲーム盤の準備をしている時に遊びに来て説明を受けている為、このゲームの仕組みを理解しており、ゲームマスターを務めることが出来るのです。これは自分とベアトの勝負だ、と憤る駒戦人を2人の魔女はヒントになると言ったり、縁寿を気の毒に思わないのか、などと説得しようとしましたが、駒戦人は聞き入れず、勝手にやればいい、との駒戦人の発言を受け、このような形となりました。

ラムダデルタがゲームのシナリオに採用したのは3回目、4回目と同じく八城十八が書いた偽書『End of the golden witch』でした。ラムダデルタは空気が読めますので、魔女のベアトが4つある八城十八の偽書を発表順にシナリオに採用してきたことから、次はこのシナリオを使う予定だったのだろう、とベアトの意志を酌んだのです。今回のゲームにおいてはベルンカステルを対戦者として迎えることで、2つ、問題がありました。1つ目はベルンカステルが““解ける謎であるならば、難易度に関係なく必ず解ける”奇跡の魔女であることです。EP3で絵羽が碑文の謎を解いた以上、ベルンカステルは必ず碑文の謎を解いてきます。ということは駒ベアト及びその眷属による幻想修飾は封じられるのです。EP3で魔女のベアトが駒ベアトの替わりにエヴァを使ったように、何か替わりの駒を用意する必要があります。

2つ目はこれがベアトの儀式であることです。毎回共犯者を変えることの出来るこのゲーム盤は“奇跡の魔女”ベルンカステルにとって相性が悪いのですが、相手は百戦錬磨の“航海者の魔女”ですから、それでも答に辿り着かれてしまう可能性はあります。そうなってはベアトがこの儀式に賭けた全てが無駄になってしまいます。ラムダデルタとしてはベアトを応援したい気持ちがありますので、万が一にも部外者であるベルンカステルが正解に至る事態は避けたいのです。ラムダデルタとは違い、ベルンカステルは空気を読むことなど出来ませんから、答に至ってもそれを明かさない、などという気遣いは期待出来ません。そこでラムダデルタはあからさまに正解ではない答を示し、ベルンカステルがそれを正解ではないと理解しつつも、面白がって乗ってくるようなストーリーを作ることに決めました。同じ脚本を使っても演出を変えることでまったく違う芝居を作れるように、ゲームマスターの采配しだいで、ベアトのゲームもこれまでとは違った趣に出来ます。これなら自分もベルンカステルも楽しめますし、ベアトの儀式の邪魔にもなりませんから、一石二鳥です。

ラムダデルタとベルンカステルがゲームを開始しても、駒戦人は関心を示さず、ベアトとの勝負を振り返ることに専念していました。しかし、ワルギリアによる、魔女たちはベアトのやらないことをやる、という発言、そして実際に2人のゲームを見たロノウェの“愛がない”という発言に憤り、ベアトのゲームを2人の魔女から取り返すために参戦することを決意します。ところが、既にゲームはベルンカステルが詰めてゲームセット、という状況でした。ゲーム盤では事件2日目、10月5日を迎えており、見知らぬ1人の少女が夏妃を犯人として名指ししています。状況が理解出来ない駒戦人の為に、ラムダデルタがこれまでの展開を見せてくれることになりました。

ラムダデルタはゲーム盤の冒頭に、現実世界において金蔵が死亡した際の出来事を入れ込みました。今回のゲームにおいてベルンカステルの関心を犯人から逸らせる為に“生贄”として、ラムダデルタが選んだのは夏妃です。事故とはいえ、夏妃による赤ん坊の崖からの転落がなければ“魔女のベアト”が生まれることもなかったでしょうから“夏妃が犯人”をミスリードさせる為、観劇者権限を用いて金蔵死亡時から1986年の親族会議までの夏妃を描写しました。夏妃は金蔵の書斎において金蔵の幻に励まされ、魔女ベアトリーチェの助力を得ますが、これらは夏妃の内面をラムダデルタが視覚化した幻想描写です。夏妃は蔵臼の半年あれば金策が出来る、という言葉を信じ、その間、蔵臼による金蔵の資産の無断流用を誤魔化す為、金蔵の死を隠蔽することにしました。その際、最も大きな障害となるのが、毎年行われる親族会議です。金蔵の死後、親族会議が行われましたが、夏妃の機転と金蔵の死を知っている使用人たちの協力により、金蔵の死を隠したまま乗り切ることが出来ました。ところが蔵臼の金策が間に合わないうちに1986年、金蔵の死後、2度目の親族会議が近付いてきました。

再び金蔵の死を隠し通さなければならない重圧から、夏妃の頭痛は増す一方でしたが、そんなある日、夏妃の元に一本の電話がかかってきました。電話の男は夏妃のことを“カアサン”と呼び、19年前の復讐の為に帰ってきたと言います。そして親族会議の日に帰ると言い残し、電話を切りました。この“19年前の男”こそ、ラムダデルタが駒ベアトの替わりに用意した“犯人役”なのです。もちろん、現実にはこのような電話は存在しませんでした。この電話自体がラムダデルタによる幻想描写です。魔女は現実世界をカケラとして眺めることが出来ますから、ラムダデルタは19年前に発生した、夏妃が金蔵から預けられた赤ん坊を崖から突き落としてしまった事故を知っています。その時の赤ん坊が奇跡的に生き長らえて紗音として六軒島で使用人をしているわけですが、夏妃はそれを知りません。ですから“生贄”として犯人に仕立てられた夏妃を追い詰めるのに、これほど相応しい駒はないのです。EP3においては碑文の謎が解かれてから幻想修飾の担い手が変更されましたが、ラムダデルタはこれではエレガントさに欠ける、と思いました。そこでゲーム開始前からベアトの駒による幻想修飾は捨て、“19年前の男”で勝負するのです。

親族会議当日、六軒島についた親族たちと、早速、金蔵との面会を巡って諍いが発生しました。やはり、2度も誤魔化すのは大変そうです。夏妃が協力者である源次及びベアトリーチェと(ゲームが始まっている為、これまでは夏妃の内面の存在だった魔女ベアトリーチェが、ゲーム盤のベアトの駒に摩り替わっている)、今後の対応を協議しているとベアトリーチェの眷族であるロノウェとガァプが現れました。見知らぬ存在に夏妃は驚きますが、ロノウェもガァプもベアトの駒の眷属としてゲーム盤に配置された駒ですので、ベアトの駒が夏妃に協力する以上、この2人及び煉獄の七杭も夏妃の協力者となるのです。本来ならば、ゲームマスターはベアトの駒、及びその眷属を使って“人間が犯人”のシナリオを魔女の仕業として幻想修飾しますが、今回のゲームにおいては“19年前の男”を駒として使うことになりました。そこでラムダデルタはあぶれてしまったベアトの駒を、夏妃の内面の、魔女ベアトリーチェと摩り替えてしまったのです。

事件が起こらなければ何も始まらない、と考えていた駒戦人に、2人の魔女はそんなだから無能なのだ、と釘を刺しました。そしてベルンカステルは事件が起こらない10月4日にだって解ける謎はある、と言います。駒戦人はその謎が魔女の碑文であることに思い至りますが、自分は謎を解くどころか、その存在意義さえ理解していないことに気がつきました。なぜ、その謎が設けられ、提示されているのか? 解けぬ謎であってもその意味を探ることで、それを提示したベアトの心を知ることが出来るのではないか、駒戦人はそのように考えました。

ゲームが開始されてしばらくすると、異変が発生しました。これまでのベアトのゲームには登場しなかった“古戸ヱリカ”という少女が六軒島に漂着したのです。ベルンカステル曰く、無能な戦人が主役駒では話が進まない為、自分自身を駒として登場させた、とのこと(実際にはベルンカステル自身ではなく、ベルンカステルの駒。とあるカケラにおいて、恋人に裏切られ、傷心旅行に出た1人のお嬢様がヤケ酒をあおり、ボートから転落して死亡した。ベルンカステルはそのお嬢様に“古戸ヱリカ”という名前と青い髪を与え、自分の駒とした)。ベアトのゲームを冒涜する行為に駒戦人は怒りますが、ゲームマスターはラムダデルタですから、ラムダデルタが了承する限り、こういうことも可能なのです。もちろん、八城十八が書いた偽書『End of the golden witch』には古戸ヱリカなる人物は登場しません。

そもそも、偽書『End of the golden witch』は“探偵”不在、“語り手”である戦人も含めた、登場人物全員が共犯者である内容でした。しかし、もともとラムダデルタは偽書のシナリオに添いつつもミスリードさせる展開にするつもりでしたから、あらかじめベルンカステルに、今回のゲームには探偵がいないことを知らせ、何なら探偵役の駒をベルンカステルが出しても良い、と水を向けていたのです。元の偽書には登場しなかった“探偵”が新たな登場人物として参加することで、偽書の内容通りの展開から外れることになりますが、ベアトのゲームの駒は“実際の人物がそこにいるのと同じように”行動しますので、元のシナリオになるたけ添う形で対応してくれるでしょう。後はゲームマスターであるラムダデルタが駒に干渉してちょくちょく介入すれば、何とかなります。

ベルンカステルはヱリカについて“探偵宣言”を出しました。そのため、ヱリカは犯人ではないこと、また、これまでのゲームにも影響を与えないことと、ヱリカの分、在島者の数が1人プラスされたことを確認しました。ヱリカが南條の診察を受け、朱志香が昔着ていた余所行きの服を貸し与えられて客間に案内された時、そこには六軒島の在島者が勢ぞろいしていました。ラムダデルタは赤字で、現在客間にいる人数が在島者全ての人数であることを宣言します。戦人の駒は客間をぐるりと見回し、その場にいる人間を確認しました。客人の古戸ヱリカ、そして、その後には熊沢と紗音。その傍らには源次。客人を歓迎する蔵臼と夏妃。さっそくアピールを開始した郷田、相変わらず淡白そうな表情で愛想がない嘉音。そして、留弗夫と霧江、絵羽に秀吉、楼座に真里亞。それに南條。そして戦人の左右には譲治と、朱志香。自分も含めたこの18人が戦人の駒が認識した在島者でした。ところが、今回のゲームにおける戦人の駒は“語り手”ではあっても“探偵”ではありませんので、戦人が認識した“18人”は幻想修飾された人数であり、探偵であるヱリカにとって、この場にいるのは17人です。

その年齢不相応に立派な立ち居振る舞いから、親族の関心を集めるヱリカでしたが、ディナー後、玄関ロビーの魔女の肖像画に興味を持ち、魔女の碑文と黄金の話を聞いただけで金蔵の意図を看破し、さらなる親族の関心を得るのでした。ヱリカの能力に感服した親族は、謎解きをしたいというヱリカの意向を受けて、みんなで碑文の謎に挑戦することにします。ヱリカは親族からのヒントを得て、碑文の謎を解明していきました。ヱリカをサポートする戦人の駒のキレの良さに驚く駒戦人に、ベルンカステルはこの時の戦人の駒は自分が操っていると説明しました。しかし、実際のところ、これこそが本来の戦人の駒の実力なのです。魔女のベアトは駒戦人を“紗音との約束を忘れ、ミステリーの知識も失った戦人”として生み出しましたから、これまでのゲームではその無能な駒戦人が宿ることで、ゲーム盤の戦人も自動的に無能になっていたのです。

碑文の謎解きは22時近くになったことで、お開きになります。戦人はコーヒーカップを片付ける楼座の手伝いをしながら、1人残って碑文の謎解きを続けていました。トイレに行こうとした戦人は書庫に入ろうとするヱリカを見かけ、付き合います。ヱリカは碑文の謎解きの為に地図帳を求めて書庫に来たのだ、と言いました。その後、戦人とヱリカは知恵を出し合い、碑文の謎を解くことに成功します。2人が碑文の手順に従い、作業を終えても特に何も起きませんでした。しかし戦人は暗闇の中に金蔵の姿を見出します。金蔵は戦人に地下貴賓室への道を示すと姿を消した為、ヱリカは金蔵の姿を認識しませんでしたが、その導きにより、戦人とヱリカは10tの黄金を発見しました。2人がそのまま屋敷に戻り、全員立会いの下に黄金の場所に案内する、と言ったことで、大騒ぎになります。

金蔵は魔女の碑文について何も説明していなかった為、絵羽が説明を求めて金蔵の書斎に押しかけました。しかし、部屋の中には今後の対策をベアトリーチェたちと協議し、その精神的疲労から居眠りしていた夏妃がいました。書斎に中に踏み込まれては金蔵の不在が発覚する為、蔵臼の協力を得て、夏妃はなんとか室外に脱出します。碑文の謎が解かれたことにより、お役御免となったベアトリーチェ及びその眷属たちでしたが、ベアトリーチェは親族会議を終えるまでは夏妃に仕える決意を固めました。金蔵もそれに同調します。一方で地下貴賓室で黄金を目の当たりにした親族たちは狂喜しますが、その分配及び次期当主の座を巡って口論となりました。口論は舞台を屋敷に移して続けられますが、ヱリカは一同と別れ、ゲストハウスに戻ることになります。戦人も共にゲストハウスに行こうとしましたが許されず、急遽始まった親族会議に付き合わされることになりました。

そんなゲーム盤でのやり取りを眺めていた駒戦人は、碑文を解かせることでベアトにどのような利益があるのか疑問に思い、傍らのベアトに確認しましたが、反応はありません。するとワルギリアが、碑文が解かれてもベアトには何の利益もないこと、そして黄金はもともとベアトのものであることを赤字で宣言しました。碑文が解かれても解かれなくても、ベアトには価値がない。しかし、天秤の片方の皿に乗るのが碑文の謎であるならば、もう片方に乗るのが碑文殺人です。ということはベアトにとって碑文の謎が無価値なら、碑文殺人も無価値ということになります。チェス盤を引っくり返すことにより、ベアトの意図を探ろうとしていた駒戦人ですが、どうしても理解出来ないのが、碑文の謎に見立てた連続殺人でした。復讐のために右代宮家の人間を皆殺しにするというのなら、もっと簡単な方法はいくらでもあります。それなのにベアトは自ら難易度の高い殺人方法を選んでいました。そこに意図があるのなら、それは最後まで生き残る人間へのメッセージであることに思い至った駒戦人は、それがここまでの全てのゲームにおいて唯一、最後まで生き残った自分であることに気がつきます。

ベアトの意図を測りかねる駒戦人に、ワルギリアは赤字で宣言しました。ベアトの意図は恐怖を味わわせるためのものではなく、また、復讐のためでもない。さらに、快楽目的でもないことを。戦人は前回のゲームで、6年前の罪を思い出せと迫ったベアトの真剣な眼差しを思い出しました。天秤の両端は無価値でも天秤そのものに価値がある。駒戦人にはこれが子どもが何も賭けずに行うジャンケン遊びのように思えました。ジャンケンの勝敗は何も生み出しませんが、子どもはジャンケンそのものを楽しみます。そんな姿をベアトの天秤に重ねました。そして、今はまだベアトの意図がさっぱり理解出来ないものの、その思考を辿る旅を絶対に途中で諦めないことを誓います。

親族会議は何の進展もないまま、24時前になってようやく小休止となりました。蔵臼と夏妃は食堂を出て、2階の廊下に移動し、今後の対応について話し合います。すると源次が現れ、夏妃に電話がかかって来ていることを報告しました。その瞬間に、ホールの大時計が鳴り響き、24時を知らせます。電話は“19年前の男”からのものでした。夏妃は蔵臼には知られない様に電話を自室に転送するように源次に伝えると、蔵臼にはもう休むことを告げ、自室に戻ります。19年前の男はヱリカが島に漂着したことを知っていました。ということはヱリカと共謀しているか、もしくは島に内通者がいる、あるいは19年前の男自身が密かに島のどこかに潜んで、様子を伺っているということです。19年前の男は自分の存在を蔵臼や朱志香に知られたくなければ自分の言うことを聞くように、と夏妃を強迫しました。そして今夜はもう、自室を出ないこと、電話をかけることもかかってきた電話をとることもしないこと、明日の朝はいつも通りの時間に起床することを約束させます。しかし、この電話は幻想描写です。ゲームマスターであるラムダデルタが夏妃の駒に、このような電話があったと思い込ませているだけなのです。

一方で食堂に残った面々には、紗音と嘉音が紅茶を給仕していました。2人が親族たちの暇つぶしに捕まり、話をしているとノックの音が聞こえました。紗音と嘉音は不審に思いました。今日の使用人は自分たちと源次と熊沢と郷田、合計5人です。そのうち、郷田と熊沢はゲストハウスにいる為、屋敷にいるわけがありません。そして源次はこのようなノックの仕方をしないのです。留弗夫が入るように声をかけても、もう一度ノックが繰り返されるのみでした。少しおかしな空気が流れる中、ホールから24時を告げる大時計の音が聞こえてきます。時計の音が鳴り終わってから嘉音が扉を開けると、廊下に封筒が置いてありましたが、ノックをした人物の姿はありませんでした。紗音と嘉音が食堂に入って来た時はそのような封筒がなかったことを全員が確認している為、その後、誰かがやって来て、封筒を置き、ノックをしたことになります。屋敷はこの時点で戸締りされ、ゲストハウスのいとこたちと、南條、郷田、熊沢、そしてヱリカは屋敷に入ることは出来ません。一同は金蔵がこのようなことをする理由もない為、蔵臼たちが金蔵のフリをして封筒を置いたのだと考えました。

しかし、金蔵は既に死んでおり、この時間、蔵臼、夏妃、源次は2階にいました。ですから、ノックも廊下に置いてあった封筒も実際は存在せず、これは幻想描写です。封筒は紗音が普通に持ってきました。食堂に残った全員が共犯者である為、このようなことが出来ます。封筒の中には手紙と当主の指輪が入っていました。手紙の差出人は右代宮家顧問錬金術師である黄金の魔女ベアトリーチェで、黄金も当主の座も碑文の謎を解いた戦人のものであると書かれています。そこへ蔵臼と源次が戻ってきたことで、再び親族会議は再開されました。その後、午前1時頃に親族会議の終了が宣言され、楼座はゲストハウスに戻りましたが、それ以外の面々は食堂に缶詰でした。戦人が一同を残し、ようやくゲストハウスに戻れたのは午前3時でしたが、こんな時間だというのに1階のラウンジで郷田と南條、そしてヱリカが談笑しています。戦人が帰ってきたことがきっかけとなり、ゲストハウスの面々も解散することになりました。戦人がいとこ部屋の扉を開けると中は真っ暗で皆、既に眠っているようです。戦人は自分のベッドに潜り込むと、そのまますぐに眠ってしまいました。

翌日の朝、戦人が目を覚ますと、同じ部屋で寝ていたはずの譲治、朱志香、真里亞、楼座が首を切られ、大量の血を流して死んでいました。ゲストハウスの一同が集まり、騒いでいる最中にヱリカがやってきました。この殺人は狂言ですので、戦人の見た遺体は幻想描写です。その為、探偵であるヱリカが遺体を確認すれば、そもそもこの場には遺体などないことは解ったはずです。しかし、ヱリカは現場検証を怠った為、この場には4人の遺体があると思い込んでしまいました。一方で殺人が起こったことにより、煉獄の七姉妹は驚愕しました。碑文の謎が解かれたことにより、儀式は中断されたはずだからです。何が起こっているのか理解出来ないまま、大慌てでベアトリーチェへの報告に向かいます。

同じ頃、屋敷においては、源次が起きてこない為、使用人控え室に熊沢と嘉音が起こしに行きました。嘉音は使用人控え室の扉を開ける時、扉を封印するようにガムテープが張ってあることに気がつきましたが、気にせずガムテープを破って扉を開けます。部屋の中にはゲストハウスの4人と同様、首を切られ、大量の血を流してベッドに横たわる源次の遺体がありました。こちらもゲストハウス同様、驚愕した煉獄の七姉妹はベアトリーチェへの報告に向かいました。

自室で寝ていた夏妃は突然の電話に飛び起きました。傍らには妹たちからゲストハウスと屋敷での殺人を知らされたルシファーが控えていましたが、ルシファーに電話を優先するよう進言されたこともあり、夏妃は電話を取りました。電話の相手は19年前の男でした。19年前の男は声を聞かせたい人がいる、と何やら電話の向こうで作業を始めました。やがて、受話器から拘束され、解放を求めている様子の蔵臼の声が聞こえてきました。夏妃は蔵臼に呼びかけますが、その声は蔵臼には聞こえていないようです。19年前の男は夏妃が2つの約束を守るなら、蔵臼を解放すると約束しました。1つ目は蔵臼の不在が発覚しても、19年前の男に捕まっていることを知らないフリをすること。2つ目は、今日の昼の1時になったら、屋敷の1階の、一番手前の客室に入り、クローゼットの中に隠れていること、でした。電話の最中に源次の死を報告するために郷田と嘉音がやってきました。夏妃は約束を守ることを19年前の男に伝え、電話を終えました。電話の向こうで19年前の男を演じていたのはラムダデルタでした。実は電話などかかってきてはおらず、ゲーム盤の駒である夏妃とルシファーは電話がかかってきたと思い込まされていたのです。

その後、島にいる全員が屋敷で合流し、お互いの状況を確認しました。蔵臼の不在が話題となり、蔵臼の部屋へと移動することになります。その様子を眺めていたベアトリーチェは先手を打つ為、ガァプに命じて4人の死体を隠してしまいました。蔵臼の部屋は空でしたが、ベッドには大量の出血を窺わせる血痕が残されています。それを見た夏妃は、朱志香の遺体を確認していなかったことを思い出し、ゲストハウスに駆け出していきました。残りの一同も、ゲストハウスに戻ることにします。しかし、ゲストハウスにあるはずの4人の遺体は忽然と姿を消していました。これを受け、ベルンカステルは青字で3つの仮説を示しましたが、ラムダデルタは赤字での返答を拒否しました。ゲームのルール上、それはゲームの終了期限である10月5日24時に行えば良いからです。

一同がゲストハウスに向かった為、誰もいなくなった屋敷にはガァプの姿がありました。ガァプはゲストハウスの4人同様、源次の遺体も隠してしまいます。しかし、実は元々、ゲストハウスにも、使用人控え室にも、遺体などなかったのでした。これは幻想存在とはいえ、ゲーム盤の駒である煉獄の七姉妹やガァプが、ゲームマスターであるラムダデルタに見せられた幻想です。この場面におけるゲーム盤での駒の動きは以下でした。ゲストハウスから一同が退出した後で、隠れていた譲治、朱志香、真里亞、楼座は源次から借り受けていたマスターキーを使っていとこ部屋に入り、遺体の偽装のために布団と毛布の下に仕込まれていた、余分な布団と毛布を取り去り、遺体が消えたように見せかけました。その後、一同が再びゲストハウスに戻ってくる前に姿を隠したのです。そして使用人控え室で死んだフリをしていた源次は、一同が蔵臼の部屋に向かっている隙に屋敷を抜け出しました。

源次の遺体の消失を確認した一同は金蔵の書斎を訪ねましたが、反応はありませんでした。非常事態ですので、屋敷の外から窓を破り、金蔵の書斎に入ることになります。金蔵の書斎に立て篭もっていたベアトリーチェは金蔵をベッドの下に隠し、もしもの場合の為にロノウェとガァプを退避させました。ベアトリーチェが黄金の蝶の群となって、書斎の中に溶け込むことにより、書斎は誰もいなかった沈黙を取り戻します。そこに窓を破って留弗夫が侵入し、中から開錠したことで一同は金蔵の書斎に踏み込みました。金蔵の姿を求めて徹底的に書斎内を捜索しましたが、金蔵の姿は見当たりません。そこで最後に金蔵と会った、と主張する夏妃に注目が集まります。何故なら、自分と会った後に金蔵が別の誰かに会った可能性を考えていない発言だからです。ヱリカはそんな夏妃に尋ねました。金蔵はいつからいないのか、と。

ヱリカはゲーム盤でもゲーム盤の外でもない不思議な空間に戦いの舞台を移し、金蔵を追及しましたが、そこにベアトリーチェが割り込みます。ベアトリーチェの青き真実を受けてルシファーが青い杭となり、ヱリカに青い楔を打ち込みました。楔を抜こうとするヱリカにベアトは宣言します。青き真実を打ち破れるのは、赤き真実のみであること、そしてこの島に来て間もないヱリカに使える赤など存在しないことを。しかし、ヱリカは動じることなくドラノールを自らの駒として召喚しました。元老院の魔女であるベルンカステルは、天界大法院の異端審問官であるドラノールの分体を強制的に召喚するほどの権限を持っており、その権限が駒であるヱリカにも与えられているのです。ドラノールはベアトリーチェにはじめまして、と自己紹介しました。ドラノールは魔女のベアトがゲームを始める前に訪ねて来ていますから、魔女のベアトとは面識があります(このドラノールは分体ではあるが、知識及び能力は本人に準じる)。しかし、この場にいるベアトリーチェは魔女のベアトによって生み出された駒である為、ドラノールとは初対面なのです。

絵羽は夏妃が金蔵の書斎から出てきて以降、書斎の扉が開かれていないことを宣言しました。何故なら、その時、絵羽が扉に挟んだレシートが留弗夫が扉を開けたことによって落ちたからです。このようなゲーム盤の駒の証言を、ドラノールの部下であるコーネリアとガートルードが赤字に昇華することによって、ヱリカは魔女でもないのに赤字を使うことが出来ます。留弗夫が窓を破った時に内部から施錠されていたと証言したことにより、これも赤字に昇華されました。窓も扉も閉まっていたのに金蔵がいないことで俄然、夏妃への疑惑が高まりますが、ベアトリーチェは隠し通路の存在を青き楔で繰り出します。ところが、ドラノールは赤い太刀でこの楔を打ち砕きました。ドラノールが操るノックスの十戒はミステリーのルールである為、無条件で赤字に昇華出来るのです。その後、ベアトリーチェは次々と青字を繰り出しましたが、ことごとくドラノールの赤字で退けられました。

これを受けて、ベアトリーチェは戦略を変更しました。金蔵の不在を認め、金蔵が部屋にいなくても夏妃が金蔵と話せた理由を青い楔で繰り出します。これらはノックスの十戒に抵触しませんでしたので、5本もの楔がドラノールの身体を穿ちました。しかし、ヱリカが夏妃からそのうち4本の楔を否定する証言を引き出した為、金蔵が書斎のどこかに潜んでいる、という1本を残してベアトリーチェの楔は打ち砕かれます。そしてその1本もあらゆる可能性をドラノールが赤字で斬り捨てたことで砕け散りました。探偵権限を持つヱリカが室内のあらゆる場所を捜索し、密室であったことを確認した為、それを赤字に昇華したのです。

打つ手をなくしたベアトリーチェは全てを諦めましたが、ふと、盤上の戦人と目が合った気がしました。ゲーム盤の駒である戦人には、上層世界のベアトリーチェを見ることは出来ないにも拘らず。戦人は夏妃を問い詰めるヱリカに、自分が金蔵になってこの部屋から脱出してみせる、と宣言します。戦人は夏妃に昨日と同じように行動するように指示し、自らは金蔵に成り代わってベッドに横になりました。そして夏妃がトイレに入り、ベッドから目を離した隙に窓から脱出出来る、と指摘します。ヱリカは書斎が3階にあることから、それを否定しますが、一同は金蔵ならやりかねない、と戦人に賛同しました。ヱリカは窓の鍵は施錠されていた、と主張しますが、戦人はトイレから戻った夏妃が窓が開いていることに気がつき、閉めたのだ、と言いました。そして窓を封印するコーネリアを弾き飛ばし、窓から飛び出します。空中で迎撃しようとしたドラノールをも打ち破り、戦人は軽やかに中庭に着地しました。そして、ベアトに声をかけます。ベアトは戦人を追って窓から飛び出し、戦人はその身体を両手で受け止めました。もっとも、これは幻想修飾された光景で、実際には戦人は窓から外に出て、雨どいを伝って下に降りただけなのですが…。

 第一の晩が終わり、小休止となったことで、ドラノールは黄金郷の東屋を訪ねました。この領地の本来の主である魔女のベアトに挨拶をしにきたのです。ドラノールとワルギリアが知り合いであることに駒戦人は驚きますが、これは魔女のベアトの“設定”にドラノールが付き合っているだけです。ワルギリアは魔女のベアトが熊沢を依り代として生み出した駒ですから、実際にはドラノールとは面識がありません。しかし、ドラノールは付き合いが良い為、この“設定”をそのまま受け入れているのです。ドラノールは駒戦人と魔女のベアトにはじめまして、と挨拶しました。ドラノールは以前にベアトの領地を訪れていますから、これも実際には初対面ではありません。しかし、駒戦人の手前、面識があることを明かすわけにも行かず、このような挨拶となりました。

ワルギリアは黄金の蝶を茶のポットや、茶葉の缶に化けさせ、紅茶を用意します。駒戦人は異端審問官であるドラノールが、その光景にどのような反応をするのか気になりました。しかし、ドラノールは物陰に紅茶の道具があり、自分たちの死角でワルギリアが紅茶を淹れているのを、魔法で淹れたのだ、と解釈することはノックス9条で許されている、と主張しました。そして、自分の敵は邪悪であり、魔法そのものではないのだ、とも。ドラノールは異端審問官としては無慈悲に魔女を断罪しますが、一個人としては魔女を憐れんでさえいたのです。ドラノールは先ほどの戦いで戦人が手心を加えてくれたことに対して礼を言いました。しかし、駒戦人はあの時点ではまだゲームには参加していませんでしたから、戦人の駒を操作していたのはラムダデルタかベルンカステルだろうと考え、あれは自分ではない、と言います。ところが、本人に出来ないことは駒にも出来ず、本来の性格に相応しい行為を駒は得意とする為、自分は駒戦人に感謝するのだ、とドラノールは説明しました。もっとも実際には、ゲーム盤の戦人の駒は最初から誰の操作も受けず、駒戦人の影響さえ受けない、純粋な右代宮戦人として振舞っているのですが。

戦人はドラノールを見直し、好敵手として全力で戦うことを約束しました。ドラノールも同意しましたが、先ほどの戦いにおいて、自分たちが全力を尽くしたわけではなかったことを打ち明けます。コーネリアには雨が降り出してから窓が開かれたことはない、という赤字が与えられていましたが、それが何故か使えなかったのです。そもそも、金蔵が死亡していることは赤字で宣言されているのに、ラムダデルタもベルンカステルも金蔵が存在する余地を残してゲームを進めているように思えました。ドラノールは何か邪悪な目的があるかもしれないから注意するようにと言い残し、その場を去ろうとします。何故、自分はこのゲーム盤に呼ばれたのか、と呟くドラノールに、ワルギリアは呼んだのはベルンカステルかもしれないが、受け入れたのはベアト自身だと告げました。

ドラノールが去ってから、戦人はワルギリアに、ベアトが望まない限り、黄金郷に入ることは出来ないのか、と確認しました。ワルギリアがそれを肯定したことにより、戦人の疑問は深まります。何故なら、前回のゲームにおいて、縁寿は招かれざる客でありながら黄金郷に辿り着き、真里亞と共に閉じ篭っていたベアトを再びゲーム盤に引きずり出したのですから。ワルギリアはここに自分がいて、戦人がいて、ベアトがいること。そしてドラノールが茶会に招かれたことも、全てはベアトが望んだことなのだと言いました。ファンタジーを否定するミステリーの尖兵であり、魔女の天敵でもある異端審問官。そのドラノールを自ら招いたというベアト。戦人にはベアトの思惑がますます解らなくなります。

一方で戦人にやり込められ、主人であるベルンカステルの前で恥を晒すこととなったヱリカは、コーネリアを苛めることで憂さ晴らしをしていました。しかし、茶会から戻ったドラノールが割り込んだことで興醒めし、第一の晩を検証することにします。実はヱリカには解かなければならない謎があったのです。それは昨夜の24時に何者かのノックによって突如現れた、片翼の鷲の刻まれた手紙の謎でした。ヱリカは瞬く間にいくつもの青字による推理を構築します。しかしラムダデルタは赤字によってヱリカの推理をことごとく否定しました。打つ手をなくしたヱリカは、時間さえあれば必ず答を導き出して見せると宣言しますが、ベルンカステルはヱリカなど所詮は駒なのだから、役に立たないのなら必要ない、と言い切ります。そして2人の魔女はヱリカを無視して推理合戦を続けました。ヱリカはこの屈辱に歪んだ笑顔で耐え、心の中で必ず戦人への雪辱を果たすことを誓います。

ゲーム盤では、朝からの騒ぎで朝食など考える暇もなかった駒たちが、もはや朝食と呼ぶにはあまりに遅すぎる朝食を摂っていました。その最中にヱリカが突然、立ち上がります。そして戦人の駒に対して、3階から飛び降りられるわけがないのだから、かっこよく飛び降りたように見えたのは幻想で、実は雨どいを伝って降りただけなのだ、と青字を使って指摘しました。これに戦人をはじめ、一同は面食らいます。確かに戦人は雨どいを伝って3階から中庭に降りたのですが、あの場面における論点は窓から脱出出来るか否か、であり、飛び降りたかどうかではなかったからです。そもそも、彼らはゲーム盤の駒に過ぎませんから、戦人がコーネリアを弾き飛ばして窓から飛び出した場面など目撃していないのです。ヱリカは混乱のあまり、ゲーム盤とラムダデルタによって幻想修飾された場面を混同してしまったのでした。

その後、ヱリカは関係者全員に聞き込みをし、アリバイや証拠を確認する為に、場合によっては屋敷中を同行させ、何度もゲストハウスと往復しました。その隙を突いて、ゲーム盤では嘉音(紗音)の駒が隠れていた譲治、朱志香、真里亞、楼座、源次の5人の首を切って殺害します。その為、精力的に探偵活動に励むヱリカを尻目に、ガァプと作戦会議中であったベアトリーチェに対し、ワルギリアは5人の殺害を赤字で確認し、ベアトリーチェも赤字でそれを肯定することが出来ました。しかし、ベアトリーチェは決定的な勘違いをしています。ベアトリーチェは朝の時点でゲストハウスに5人の遺体があり、それをガァプが隠したという認識でいます。ところが実際にはゲストハウスには5人の遺体などなく、ラムダデルタによって幻想描写を見せられた煉獄の七杭とガァプがありもしない遺体を発見し、そして魔法で隠したつもりでいるだけなのです。ですから5人が殺されたのは、朝ではなく、遅すぎる朝食が終わってからです。

ヱリカの捜査が進む中で、夏妃のアリバイが争点として浮かび上がりました。夏妃は自室に戻ってから19年前の男の指示した通り、朝まで部屋を出なかった為、誰にもそのアリバイを証明できないのです。夏妃は手にしたカップを床に叩きつけ、憤慨して部屋を退出しました。これは実のところ、19年前の男の指示に従う為の芝居です。まもなく1時になろうとしていましたから、指示に従う為には部屋を出る理由が必要だったのです。夏妃は客室に入り、クローゼットの中に隠れました。暗闇の中、夏妃は思案します。島の状況を把握している以上、19年前の男の協力者がいるはずなのです。使用人が怪しいと考えていたところで、誰かが室内に入ってきました。声を聞く限り秀吉のようです。施錠とチェーンロックを掛ける音が聞こえました。その後、ガタガタと鎧戸を閉めたらしき音も聞こえます。やがて秀吉の嗚咽が聞こえてきました。秀吉も1人息子を失った悲しみをずっと堪えていたのでしょう。1人になったことで、ようやくその悲しみを表に出すことが出来たのです。

すると突然、秀吉が誰かと取っ組み合いをする物音が聞こえてきました。夏妃はクローゼットに入る前に、室内には誰もいないことを確認しましたから、秀吉以外には誰もいないはずなのに…。夏妃は秀吉を助ける為にクローゼットから出ようと考えますが、19年前の男の指示を破ることで、人質になっている蔵臼の命が危険に晒されてしまうことを考えると、迂闊には動けません。その時、誰かが扉の施錠を解除したものの、チェーンロックによって扉を開けることを阻まれた音が聞こえました。絵羽が秀吉に合流しようとして、部屋にやってきたのです。秀吉は絵羽に助けを求めますが、会話は出来てもチェーンロックによって室内に入ることは出来ません。夏妃には絵羽が助けを呼ぶために慌てて駆け去る足音が聞こえます。しかし、その時には、もう部屋は静まり返っていて、さきほどまでの、取っ組み合うような秀吉の賑やかな気配は、一切消え去っていました。夏妃は秀吉を殺害したであろう犯人と2人きりで室内にいることに気がつき、恐怖します。

しばらくすると、絵羽が一同を引き連れ、番線カッターでチェーンロックを切断して入室しました。ベッドの上では秀吉がうつ伏せに倒れ、その背中には煉獄の七杭が刺さっています。絵羽が引き抜くと15cm近くも突き刺さっていました。やがてこの部屋が密室であったことが話題になり、戦人が鎧戸を外からでも閉められる可能性を挙げましたが、遅れて到着したヱリカが、実際に外から試してみたところ、不可能であったことを告げます。やがて絵羽が秀吉の遺体を客間に移動するべきだと主張し、これまでの遺体が全て消えてしまったことから、秀吉の遺体をシーツに包んで客間に運ぶことになりました。ヱリカは今朝の遺体と同じく、秀吉の遺体も検死しませんでした。もし、この時、ヱリカが秀吉の遺体を検死していたなら、秀吉が実は生きていたことが解ったはずです。何故なら、探偵の検死を死んだフリで潜ることなど不可能ですから。夏妃が聞いた秀吉の犯人との争いは秀吉の1人芝居、そして絵羽以下の一同が秀吉の死亡を確認し、背中から杭を抜いたのは幻想描写です。

部屋から退出する際、ヱリカはふとクローゼットが気になりました。もしかすると犯人が潜んでいる可能性がある為です。しかし、ベルンカステルの干渉を受けた戦人が半ば強引に肩を掴み寄せた為、クローゼットの中を確かめることは出来ず、部屋を後にしました。夏妃は全員の退出を確認してからクローゼットを抜け出し、自室に向かいます。騒ぎのことを知らずに部屋で休んでいたことにしようと考えたのです。ところがその途中でヱリカに呼び止められ、ヱリカと共に客間に向かう事になりました。客間に全員が集まり、ヱリカに促されて紗音と嘉音が扉を閉め、嘉音が扉を施錠したところで、ヱリカはチェックメイトを宣言しました。ちなみにこの場面で嘉音が施錠している為、ゲーム盤でヱリカが認識しているのは嘉音であることが解ります。

ヱリカのチェックメイトを受けて、ゲームマスターであるラムダデルタは、幻想法廷の開廷を宣言しました。幻想法廷にはゲーム盤の全ての駒が一同に揃います。ニンゲンも、家具も、魔女も、さらにその上の魔女も。この時点でゲーム盤の時間は10月5日の24時となりました。ゲームマスターであるラムダデルタを皮切りに、法廷の参加者全員が自己紹介を始めます。ゲーム盤の駒たちは自分たちの状況も含めて自己紹介しました。生存者は戦人、エリカ、金蔵、蔵臼、絵羽、留弗夫、夏妃、霧江、南條、紗音、嘉音、郷田、熊沢。死亡者は楼座、朱志香、譲治、真里亞、秀吉、源次。ヱリカは被告人として夏妃を名指ししました。それを受け、ベルンカステルはこのゲームの犯人はニンゲンである右代宮夏妃であると主張します。一方でベアトリーチェは犯人は魔女である自分であると主張しました。ヱリカは秀吉殺害時、夏妃以外は全員一緒にいた為、唯一アリバイのない夏妃が犯人であると指摘します。ベアトリーチェは夏妃が部屋のクローゼットに隠れていたのは事実であることから、復唱要求によって所在の確認を行なわれると追い詰められると考ました。ゲームの支配者はラムダデルタである為、ラムダデルタが面白がれば、事実に関係なく、夏妃が犯人ということで確定されてしまいます。

そこでベアトリーチェは主導権を握る為、時系列に添って話を進めないと混乱する、と主張しました。ラムダデルタがこの主張を受け入れた為、第一の晩から話を進めることになります。ヱリカは10月4日の親族会議の小休止の後、夏妃が1人だけ退席し、その時刻から翌朝までアリバイが消失することから、夏妃が犯人であると主張しました。それを受けて、ベアトリーチェは他にもアリバイのない者がいる可能性を指摘します。しかし、ヱリカは夏妃以外の全員のアリバイを証明して見せました。また、自分がゲストハウスのいとこ部屋において譲治たちとトランプをして遊んだことから、24時の時点で譲治たちが生存していたことを宣言します。これらの事実はヱリカの主人であるベルンカステルによって赤字に昇華されました。ついでに譲治、朱志香、真里亞、楼座、源次の5人の死亡が赤字で宣言されますが、これは10月5日の24時の時点での話であり、5人の死亡時刻をミスリードさせる為の罠です。

駒戦人はヱリカとベアトリーチェの戦いに、かつての自分とベアトの戦いを重ねました。しかし、この戦いにおいては魔女であるベアトリーチェに使える赤字がなく、逆に探偵であるヱリカが赤字を使います。ベアトは駒戦人がゲームに慣れるまでは復唱要求に応じてくれました。ところがこのゲームにおけるベルンカステルは、容赦なくベアトリーチェを追い詰めています。このことで、駒戦人はかつての自分がベアトに手加減されていたことに気がつかされました。駒戦人にはヱリカが描いたシナリオ通りになるように、2人の魔女が事実を曲解しているように思えます。そんな駒戦人にワルギリアは言いました。ゲームマスターであるラムダデルタが納得するなら、その真実の真贋は問われない。たとえその真実が、本当の真実と掛け離れていたとしても、と。そして、筋が通るなら、それが虚実であったとしても、真実と同じ価値を持つ、とも。駒戦人は夏妃が犯人ではないと信じつつも、ヱリカが示した真実以外の真実を示せませんでしたが、ワルギリアはそんな駒戦人に1つの赤き真実を託します。それは夏妃は犯人ではない、というものでした。

ベルンカステルは打つ手をなくした夏妃に司法取引を持ちかけます。蔵臼が犯人だと認めたならば、夏妃に対する追求を中断し、以後は所在不明の蔵臼が犯人ということで話を進めるというのです。しかし、夏妃は右代宮家の名誉を重んじ、その取引を突っぱねました。するとベルンカステルは赤字で蔵臼の死亡を宣言しました。しかも、夏妃に電話で声を聞かせた直後に殺されていたといいます。これを受けてラムダデルタは第一の晩の犯人は夏妃である、とする主文を読み上げました。また、ベルンカステルは追い討ちをかけるように、今回のゲームに出てきた金蔵は夏妃によって生み出された幻想であり、本当の金蔵は夏妃のことを心の底から信頼したことも、紋章を許そうと思ったこともない、と赤字で宣言します。ベルンカステルは魔女ですから“観劇者”の力により、現実世界の金蔵が考えていたことまで把握出来るのです。

幻想法廷で敗北したベアトリーチェはバルコニーから階下にひしめく山羊たちの元に投げ落とされますが、ドラノールが介入したことで命を取り留めました。駒戦人が異議を申し立てた為、再審請求として受理されたのです。しかし、駒戦人はヱリカの真実を覆す真実を持ってはいませんでした。破れかぶれで青き真実を繰り出しますが、いずれも赤き真実で斬り捨てられます。最後の切り札としてワルギリアが託してくれた、夏妃は犯人ではない、という赤字を繰り出しますが、ノックス第2条によって認められませんでした。探偵は推理によって真実を導き出さなければならないのです。かくして幻想法廷は閉廷し、天空から飛来した巨大な赤き太刀が駒戦人の心臓を貫き、立った姿のまま、磔にしてしまいます。その瞬間、ベアトリーチェは眷属共々黄金の飛沫になって掻き消えました。魔女たちが去り、誰もいなくなった大聖堂の中央には、赤き巨大な太刀の墓標に貫かれた駒戦人の亡骸だけが残されました。

ゲーム盤においてはヱリカの推理により、夏妃が犯人であることが確定しました。三流ミステリーならここで犯人による動機の告白が為されるところですが、一流の探偵であるヱリカは、それさえも暴いてしまいます。というのは建前で、本来は犯人ではない夏妃を犯人に仕立てた以上、その動機もでっち上げる必要があるのです。ヱリカは夏妃の部屋を漁って発見した、夏妃が右代宮家に嫁いだ当初に書いていた秘密の日記帳を証拠として持ち出しました。政略結婚によって蔵臼と結婚することとなった夏妃は新婚時代、その不満を日記帳に記すことで押し殺していたのです。夏妃は当初は蔵臼を嫌っていたものの、やがてその気遣いに気付き、愛するようになりました。しかし、夏妃の日記帳は口に出せない想いを記すことで封印する為のものでしたから、その変化は日記帳には記されていません。夏妃には自分が蔵臼を愛していた証拠を見せることは出来ないのです。

ゲーム盤の誰もが夏妃が犯人だと受け入れる中、ヱリカはもう1人だけ犯人の候補がいると言い出しました。それは金蔵です。金蔵は書斎の窓から姿をくらましたという話になっていますから、アリバイがありません。ヱリカは夏妃に対し、濡れ衣を晴らす為には金蔵が犯人だと認めるしかない、と迫りました。夏妃に金蔵の死を認めさせることで、金蔵の書斎での敗北を帳消しにしたかったのです。しかし、夏妃は自分を守る為に右代宮家の名誉を差し出すことは出来ない、と拒否しました。このやり取りを受けて、ベルンカステルは“生きている金蔵”が屋敷内のあらゆる場所に存在しないことを赤字で宣言していきます。もっとも、金蔵は既に死亡していますから“生きている金蔵”はそもそも存在しないのですが…。

ゲーム盤においてはヱリカが一同を引き連れて、屋敷内を徹底的に捜索しました。ちなみにその際、ヱリカは金蔵の遺体を発見しましたが、ヱリカが探しているのは“生きている金蔵”ですから、スルーしました。やがてヱリカは夏妃の部屋の夏妃のベッド以外の全ての場所で、金蔵の姿はおろか、金蔵が存在した痕跡さえ見つけられなかった為、24時から朝までの間、金蔵は夏妃のベッドにいたと結論付けます。そして、夏妃も同じベッドで就寝していることから、ヱリカが推理によって導き出した今回の事件の真相とは、以下のようなものでした。右代宮家によって実家が経済的に屈服させられ、望まぬ結婚を強いられた夏妃は復讐の為、右代宮家の財産を奪おうと考えます。その為、金蔵がベアトリーチェに偏執的な拘りを持つ点を利用し、ベアトリーチェの扮装をして金蔵を肉体的に篭絡しました。しかし、戦人が魔女の碑文を解いて黄金を発見し、親族たちが、彼が当主を継承するべきだと騒ぎ出したため、事件を画策します。子どもたちを殺害し、戦人に罪を被せました。以後は無差別に関係者全員を殺害する予定でしたが、名探偵、古戸ヱリカの活躍により、あえなく失敗。

ゲーム盤の戦人の駒はヱリカの推理を信じました。そして今回の連続殺人を悲しい事件だと認識します。嫁いだ経緯はどうであれ、蔵臼は夏妃を大切にしていましたし、朱志香という愛娘も得ています。しかし数十年という永い年月を経ても夏妃の心が癒されることはなく、このような事件を引き起こしてしまいました。ベアトリーチェへの執着心を夏妃に利用され、篭絡された金蔵も気の毒です。夏妃は全てを諦め、19年前に自らが犯した殺人を告白しました。これは19年前の男による復讐だと考えたのです。泣き崩れる夏妃でしたが、そんな夏妃に突然、戦人の駒が駄目出ししました。戦人の駒に駒戦人が再び宿ったのです。

誰もいない大聖堂には依然、天を見上げた姿のまま赤き太刀に胸を貫かれ、地面に縫い止められた駒戦人の屍が残されています。そこに駒戦人と同様、屍と化した魔女のベアトが現われました。その瞳は光を宿さず動作も緩慢でしたが、やがて、駒戦人の元に辿り着きます。ベアトは駒戦人の胸に触れますが、鼓動は感じられませんでした。もうこの肉体に魂が宿ることはありません。ですからもう、ベアトが存在する理由もありませんでした。黄金の魔女はその役目を終え、黄金の飛沫となって散ります。

しかし、駒戦人は赤き太刀に貫かれながらも、考えることを止めてはいませんでした。あるいは真実を司る赤き太刀を通して、真実を求める力が再び駒戦人に宿ったのかもしれません。駒戦人はドラノールが黄金郷のお茶会に訪れてくれた場面を回想します。ノックス第3条により、ミステリーにおいて隠し扉は存在してはならない、故に探偵は隠し扉を探す必要さえない。駒戦人にはこれが暴論に思えました。しかし、そんな駒戦人にドラノールは問います。では第3条がなければ、ミステリーはどうなるのか、と。その言葉によって、駒戦人は気がつきました。ノックス第3条がなければ密室ミステリーは読み物にもならないことに。ノックスの十戒があることでミステリーは推理可能になる。つまりノックスの十戒は傲慢なルールではなく、頑張れば解けるという励ましなのだ、とワルギリアが補足します。

考えてみれば、駒戦人はベアトとの勝負において、当初、真面目に挑みませんでした。手掛かりが足りないから推理不能と主張する駒戦人に対し、ベアトは赤き真実というルールを持ち出します。赤き真実とはつまり、解けるから解いてみろ、という、ベアトからの励ましだったのです。駒戦人にはこれが、自分は魔女であると主張するベアトが、自分は魔女ではないと認めているように思えました。混乱する駒戦人に、ドラノールは言います。ノックスの十戒は思考する為の杖なのだ、と。ノックス第8条、提示されない手掛かりでの解決を禁ず。これは、手掛かりなしに当て推量で推理をしてはいけない、という意味だけではなく、出題者は解決のための手掛かりを必ず提示しなければならない、ということでもあるのです。

しかし、この世の全てのミステリーがノックスの十戒を守っている訳ではない点を、駒戦人は指摘します。ならば、このベアトのゲームも解けるように出来てはいないかもしれません。ところがワルギリアは赤字で宣言します。ベアトは駒戦人に解いて欲しいと願い、解けるようにこの物語の謎を生み出したことを。これを奥手な若者の恋愛のようだ、とワルギリアは言いました。相手が自分を愛している保証がなければ、自分も相手を愛さない。何故なら片思いは辛く、そして破綻した心の傷は長く尾を引くから、と。その関係性が恋愛に例えられるなら、ミステリーは作家と読者のバトルではなく、互いの信頼関係がなければ成立しない、愛ある関係なのです。ということは赤字を信じてこのゲームに臨んでいる駒戦人とベアトの間には愛があるということなのでしょうか。その点をドラノールとワルギリアに指摘され、駒戦人は戸惑うのでした。

駒戦人は考えます。全てが手遅れになり、無限の時間がある今だからこそ、ワルギリアが贈ってくれた赤き真実と、ドラノールの貸してくれた十戒を杖に、もう一度考えます。ノックス第1条、犯人は物語当初の登場人物以外を禁ず。ということは、犯人は第一のゲームから登場しているわけです。ならば19人目の誰かという幻想を恐れる必要はありません。犯人は18人の中の誰かです。ノックス第2条、探偵方法に超自然能力の使用を禁ず。探偵は魔法や超能力を使うことは出来ません。そして、これがフェアな戦いであるのなら、犯人も同様です。つまり、このゲームに魔法は存在しません。それが登場した時点で、ミステリーの破綻を疑うのではなく、どうしてそれが描写されてしまうのか、目撃者や観測者を疑うべきなのです。第1のゲームのラストで、この物語がメッセージボトルによって後世に語り継がれていることが明記されています。これは、この物語は全て、メッセージボトルを執筆した人物という観測者による、私見が含まれた世界ということです。ミステリーのお約束、地の文に嘘があってはならない、という前提はこのゲームでは通用しない。メッセージボトルはそれを説明する為のギミックでもあったのです。

ノックス第8条、提示されない手掛かりでの解決を禁ず。ノックス第6条、探偵方法に偶然と第六感の使用を禁ず。これらは逆の意味でも読み取れます。作者は解決出来る手掛かりを用意しなくてはならない。そして、偶然に頼らずに解決出来るようにしなくてはならない。ベアトを信じるならば、これまでのゲームの中で、既にその為の手掛かりが語られているはずです。ミステリーにおいて暴くべき謎は3つあります。1つ目はフーダニット、誰が犯人か。2つ目はハウダニット、どうやって犯行したか。3つ目はホワイダニット、どうして犯行に及んだか。これら全てが解けるように出来ているはずです。というより、ベアトは駒戦人にこれらを解かせたくて、このゲームを始めたのです。駒戦人にはゲーム中における、ベアトの不可解な言動の意味がようやく理解出来た気がしました。駒戦人が挫けそうになるたびに、ベアトは駒戦人を励まし、あるいは焚きつけ、ワルギリアやロノウェなどにサポートさせました。それらは全て、駒戦人に勝つ為ではなく、駒戦人に自分の出題を解かせる為だったのです。駒戦人はベアトの愛を信じ、これまでのゲームをもう一度振り返りました。ゲーム中に語られた様々なエピソードが、走馬灯のように意識に浮かんでは消えていきます。その果てに、とうとう駒戦人は答に辿り着きました。

大聖堂の駒戦人の屍の表情に変化が現われました。死の眠りから醒め、少しずつ痛覚が戻ってきたのです。ふと気がつくと、駒戦人にしな垂れかかり、ベアトが眠っていました。しかし、駒戦人が抱き締めると、ベアトの身体は崩れ落ち、灰の山となります。駒戦人は真実に辿り着きましたが、もう手遅れだったのです。駒戦人の手の中には黄金蝶の羽が1枚だけ残されました。せめて遺灰に触れようと手を伸ばしますが、太刀に貫かれた身ではそれすら叶いません。駒戦人は黄金蝶のカケラを握りこんだ拳を胸に当て、もう二度と真実を失わないことをベアトに誓います。その時、太刀が駒戦人の手首を傷つけ、血を滴らせました。その血が拳の中に染み、黄金のカケラを真実の赤で染めた時、駒戦人はこの物語の全てに至ったのです。

再び魔女たちが大聖堂に戻ってきました。駒戦人の死に様を嘲笑いに来たのです。その目の前で、駒戦人を貫いている赤き太刀が、胸の奥から黄金に輝き出しました。その眩い光は赤き太刀を、黄金に染めていきます。やがて、赤き太刀は完全に黄金に染まり、黄金の太刀となりました。そして、徐々に駒戦人の胸から抜けていきます。その刃から駒戦人を解放した黄金の太刀は、宙を舞ってから駒戦人の前に突き立ちました。駒戦人は黄金の太刀を掴み、再び自らの足で大地を踏みしめます。そして目の前の魔女たちに裁判のやり直しを要求しました。ベルンカステルは裁判が結審したこと、駒戦人が魔女の資格を持たないことなどを理由にそれを撥ねつけようとしますが、ラムダデルタは自らの名において、駒戦人を“無限の魔術師バトラ”として認めました。駒戦人が黄金の太刀を得たことから、全てを理解したことに気がついたのです。ヱリカがシエスタ姉妹に攻撃を促しますが、このカケラの正式な領主として認められたバトラを標的とすることは出来ませんでした。この物語の全てを理解したバトラは領主の地位を得たのです。

魔術師となったバトラは夏妃以外が犯人である推理を構築できる、と宣言しました。バトラの推理とは、犯人は19年前の赤ん坊であり、それは右代宮戦人である、というものです。ヱリカは自分が隣の部屋から様子を伺っていた以上、戦人にはいとこ部屋での犯行は不可能である、とそれを否定します。しかし、バトラは事件発覚後なら殺せる、と反論しました。つまり朝の時点ではいとこ部屋の4人は生きていて、その後に殺したというのです。ヱリカは4人の死体を大勢が確認していること、そして赤字で全ての死体は検視を誤らない、と宣言されていることを根拠にそれを否定しようとします。すると、ロノウェがその前に現われ、ヱリカは死体を確認しておらず、また、死体でないものを死体と呼ぶことを禁じられてはいない、と切り捨てました。混乱するヱリカの前に、今度はガァプが現われ、赤字で金蔵が全てのゲームの開始前に死んでいることを宣言します。ガァプのワープポータルによって大聖堂の上空に送り込まれたヱリカを、待ち受けていたワルギリアの青い神槍が貫きます。夏妃の共犯者である金蔵が存在しない以上、ヱリカの推理は破綻するのです。

ドラノールはノックス第2条により、金蔵の死を赤き真実で示すなら、証拠の提出が必要だと主張しました。それに対し、バトラは金蔵と識別可能な遺体を提示します。するとドラノールはその死体が偽物ではないという証拠が必要だと言う上、この件に関しては赤き真実のみでの反論を無効としました。しかしバトラは黄金の真実により、提示した死体が右代宮金蔵の死体で間違いないことを保証します。この黄金の真実というルールを知らなかったベルンカステルは、思わずラムダデルタに確認しますが、ラムダデルタはゲームマスターにしか使えない物だと説明しました。ドラノールもこのルールを知っていた為、この、赤き真実とは異なる方法によって紡がれる神なる真実であり、その力は赤き真実と同等である黄金の真実を受け入れます。それにより、ヱリカの推理は金蔵の生存を前提とした部分が通用しなくなり、破綻しました。ゲーム盤においてもバトラが宿った戦人の駒は同様の主張を行い、夏妃の名誉を守りました。

この結果を受けて、ゲームマスターであるラムダデルタはバトラの構築した真実を正式に認定しました。敗北が確定したヱリカでしたが、ドラノールはまだ勝負を諦めてはいません。ノックス第7条、探偵が犯人であることを禁ず。探偵は客観視点を義務付けられている為、探偵であるはずの戦人が首を切られた、いとこ達の死体を目撃しているのはルール違反だ、と主張します。これにバトラは探偵はヱリカであり、自分ではないと切り返します。ノックス第9条、観測者は自分の判断・解釈を主張することが許される。これにより、探偵でない戦人は幻想描写を目撃することが出来るのです。すると、ドラノールはノックス第8条、提示されない手掛かりでの解決を禁ず、を持ち出し、これまでのゲームで探偵であった戦人が、今回のゲームでは探偵でないのなら、それを示す証拠が必要だと主張しました。しかし、バトラは今回のゲームで碑文の謎の仕掛けを解いた時、戦人が金蔵を目撃したことで、その視点に客観性がないことはすでに示されていると返します。ドラノールは単なる見間違えの可能性を指摘しましたが、バトラは第4のゲームでベアトが示した赤き真実“全ての人物は右代宮金蔵を見間違わない”を根拠にそれを否定します。この赤き真実により、ベアトのゲームにおいては金蔵に見間違うような一切の現象は絶対に通用しないのです。ということは、戦人が探偵であったなら、客観視点を義務付けられている為、金蔵を目撃することは出来ません。また、見間違うことのない金蔵を目撃したことで、戦人は虚偽の報告をしていることになり、それは公正な観測を義務付けられた探偵には許されない行為なのです。

ドラノールの太刀が床を転がる音が大聖堂に響き渡りました。バトラの一閃がドラノールを打ち破ったのです。戦人の青き軌跡はドラノールの脳天を捉えつつも、紙一重で止められていました。ドラノールは敗北を認め、ぺたりと床にしゃがみ込みます。ヱリカはワルギリアの青い神槍に貫かれたまま、ドラノールを非難しますが、主人であるベルンカステルはヱリカの推理の誤りを認めました。それは敗北宣言を意味します。ヱリカは驚愕と絶望の眼差しでベルンカステルを見上げましたが、ベルンカステルに推理の修正を命じられ、屈辱に顔を歪め、ぼろぼろと涙を零しながら、自らの推理を撤回、修正します。その青き真実は確かに一応、遺体の消失を説明出来てはいましたが、苦し紛れであることは隠せない、みすぼらしいものでした。しかし、バトラは自分の真実も、ヱリカの真実も、同時に存在出来る。ここでは、想像の数だけ真実があっていい、と言いました。また、唯一の真実が存在しない限り、魔女幻想はまだ存在しており、それを暴くことが許されているのは自分だけだと断言します。

この決着を受け、ゲームマスターであるラムダデルタは判決を変更しました。バトラの示した真実によって、ヱリカの真実の唯一性は失われたものの、ヱリカの真実は否定不能であるため、2人の真実は並び立ちます。ゲームはイーブンに戻り、ゲームマスターの座はラムダデルタからバトラに譲渡されました。バトラは新しいゲームマスターとしてヱリカに再戦を持ちかけます。ヱリカもそれを受け入れたため、勝負は第6のゲームに持ち越されることとなりました。バトラは今は亡きベアトに、次のゲームで謎を全て完全に理解したことを証明すると誓うのでした。

 

※ようやくEP5が終了です。正直、ここまで長くなるというのは想定外でした。また、書いている最中にコミック版EP8において、EP5の謎解きが披露され、僕の解釈と違っていたことが明らかになりました(そもそもEP5の謎解きが難しいから、ここまで長くなったというのに…)。しかし、どう考えても穴がある為、僕の解釈のまま行かせて貰います。EP78はこれまでの「右代宮家の物語」で解釈していますので、次のEP6がこの「魔女のベアトの物語」のフィナーレとなります。魔女のベアトが何をしようとしたのかが明らかになるEPですが、それ自体は既にこの物語の冒頭で解説済みです。ここまで長くなってしまうと覚えていない人もいるのではないかと思います。しかし、ここは敢えて読み返さないことをオススメします。その方がEP6を楽しめると思うからです。魔女のベアトが自らの全てを賭けて挑み、そして失敗した“儀式”。それがどのような結末を迎えるのか、ご期待ください。

 

ゲームマスターとなったバトラが6回目のゲームのシナリオに採用したのは、八城十八が書いた最後の偽書『Dawn of the golden witch』でした。バトラにとってベアトへ捧げるゲームのシナリオとして、これほど相応しいものはありません。もう1人の自分である、現実世界の右代宮戦人が関わっている上、物語の中で行われる殺人は全て狂言で、結末においても誰1人死なず、最後はみんなで島を脱出するハッピーエンドです。つまりたとえゲーム盤上のこととはいえ、ベアトに殺人という罪を背負わせなくても良いのです。もっとも、偽書には古戸ヱリカなど登場しませんから、今回の対戦相手であるヱリカの行動しだいではアドリブで色々変更しなければならないでしょうが、ベアトとの戦いで鍛えられたバトラには、それほど難しいことには思えませんでした。

ゲームマスターとなったバトラは、苦心の末、第6のゲームを完成させました。バトラはこんな難しいものをいくつも用意したベアトに感心しますが、源次はベアトも実は大変な苦労を重ねており、常にロジックエラーと戦っていた、と言います。初めて聞く“ロジックエラー”という単語に戸惑うバトラでしたが、源次は物語が矛盾することであり、犯せば即座にゲーム盤が崩壊する、最大最悪のミスだと説明しました。源次曰く、バトラが手ごわくなってからは、ベアトも相当な苦労をしていたとのこと。バトラはベアトでさえ苦労していたのに、初めての自分にきちんとゲームを作れたか自信がなくなり、源次に確認しますが、源次はベアトに見せても恥ずかしくない出来だ、と太鼓判を押してくれました。

その言葉に安心したバトラはベアトの様子を尋ねます。バトラがゲームマスターの力によって蘇らせたものの、眠ったままだったのです。すると源次は既に目を覚ましていたが、バトラがゲームの作成に集中していた為、報告を控えていた、と言います。その知らせを聞いて、バトラはベアトの為に用意した別荘に喜び勇んで向かいました。熊沢に案内され、食堂の扉を勢いよく開けると、大きなテーブルの上に美しく彩られた料理の皿が用意され、シャンパンの瓶が並べられていました。そしてその傍らでベアトが深々と頭を下げてお辞儀をして迎えてくれます。バトラは駆け寄って、ベアトを強く抱き締めました。その感触は彼女の姿が霞でも幻でもないことを確かに伝えてくれています。ベアトはバトラの手によって再び蘇ったのです。

しかし、しばらくベアトと会話したバトラは違和感を覚えました。ベアトはバトラのことを“お父様”と呼び、話し方も以前とはまったく違う上品で丁寧なものです。さらにテーブルの上の料理も、ベアトがバトラの為に手作りしたものだといいます。ベアトがゲームの完成を祝いつつ、シャンパンの瓶のコルクを抜こうとした時、音を立てて瓶の底が抜け、シャンパンは床と彼女のドレスを汚しました。そして同じ音が数度、繰り返され、その度に、テーブルの上の料理の皿が弾けて飛びます。バトラの仕業でした。バトラは激昂して、源次に説明を求めます。これは自分の知るベアトではない、と。しかし源次も熊沢も、これは紛れもなくベアト自身だと言いました。そして、生まれたばかりの雛と同じであるベアトに、いきなりかつてと同じ振る舞いを求めるのは酷である、とも。バトラはその言葉に、ベアトは記憶を失っている、と考えますが、源次と熊沢の説明はそれを否定するものでした。かつてのベアトは千年を経たベアトであり、この雛ベアトは生まれたばかり。故に以前と同じ千年を経れば、かつてと同じベアトになるだろうが、生き方や経験によっては例え千年を経ても、かつてと同じになるとは限らない、というのです。

その後、バトラは自分が知る、かつてのベアトを蘇らせようと様々に試みましたが、いずれも失敗に終わりました。駒としてなら、あのベアトを蘇らせることは容易いことです。しかしそれは、バトラが望んだ通りに動くだけのただの駒でした。会話をしようにも、バトラが聞きたい言葉をただ口にするだけ、これでは独り言を言っているのと同じです。ゲームマスターはどんな駒でも呼び出せ、自由に動かすことの出来る絶対の神として君臨出来ます。しかし、だからこそそれは、信じられないほどに孤独で悲しい、ただの一人遊びに過ぎないのでした。バトラはベアトと同じ立場に立って初めて、その孤独を思い知ります。バトラは雛ベアトを嫌悪しました。それこそ、単なる操り人形でしかない、駒としてのベアト以上に。何故なら、雛ベアトは紛れもなくベアトであるにも関わらず、生き方や経験が違う以上、たとえ千年を経ても、けっして元のベアトにはならないのですから。ベアトと同じでありながら、同時にまったく違う雛ベアトの存在そのものが、もはやベアトは死んでしまったという現実をバトラに突きつけてきます。バトラはゲームマスターの力をもってしても、かつてのベアトを取り戻すことは永遠に叶わないことを、ようやく悟るのでした。

魔女の喫煙室で次のゲームの開始を待ちわびている魔女一同の前に、雛ベアトが姿を現しました。ヱリカは死んで消えたのではなかったか、と、疑問を口にしますが、ベルンカステルは、このベアトはバトラが作った駒だろう、と説明しました。上品なうえ、バトラを“お父様”と呼ぶ雛ベアトに一同は戸惑いますが、ラムダデルタのそういう趣向なのだろう、という言葉に納得するのでした。しかし、雛ベアトと会話を続けるうちに一同の違和感は募り、とうとうラムダデルタが一体誰なのか、と誰何するに至りました。ところが、この言葉に今度は雛ベアト自身が戸惑いを見せます。自分はこれまでのベアトとそれほどまでに違うのか、と。そこにバトラが現われ、雛ベアトに部屋に戻るように、と指示しました。雛ベアトは少しでもお父様のお役に立ちたい、とバトラに懇願しますが、バトラは有無を言わせない口調で再び、部屋に戻るように指示しました。また、雛ベアトに自分をお父様と二度と呼ぶな、とも命令します。雛ベアトは消沈した様子でその姿を蝶に変えて消えるのでした。ヱリカはこの一幕を何かの作戦ではないかと指摘しますが、バトラはゲームには関係ないので忘れるように、と言いました。そして第6のゲームの開始を宣言します。

バトラは今回のゲームの冒頭に紗音と嘉音のやり取りを仕込みました。この場面で嘉音は朱志香への好意を認め、朱志香と結ばれる為に紗音と対決する決意を示します。自分は紗音の為に生まれた存在だから、と朱志香への想いを押し殺し、家具として生きようとしていた嘉音が家具をやめ、紗音と争ってでもニンゲンとして生きようとする。それは、これまでのゲーム盤ではあり得なかった行動であり、また、同時に、現実世界においても嘉音が為しえなかった行動なのでした。決意を固めたことで、嘉音の立ち振る舞いは変わります。本人は自覚していませんでしたが、それは嘉音を嫌う郷田から見ても、好意的に受け止められる変化でした。久しぶりに顔を合わせた親族たちにもその変化は伝わり、口々に褒められたことで、むしろ嘉音自身が戸惑います。自分はそんなに変わったのだろうか、そもそも以前の自分は、そこまで覇気がなかったのだろうか、と。

嘉音は朱志香と2人きりになった時、思わずその疑問を口にしてしまいますが、朱志香曰く、普段と違う嘉音が珍しかったのだろう、とのこと。嘉音は朱志香に新島への同行を求められた時、用事もなかったのに断ったのは、自分が弱かったからだと打ち明けました。そして、これまで朱志香から寄せられる好意を知っていながら、また、自分も朱志香に好意を持っていたにも関わらず、その想いを誤魔化していたことを詫び、朱志香に告白します。朱志香も嘉音の想いを受け入れ、今後、2人きりのときに限り、嘉音は朱志香のことを“お嬢様”ではなく“朱志香”と呼ぶことを、そして朱志香は嘉音のことを、たった今、教えられたばかりの本名“嘉哉”と呼ぶことを約束しました。

その光景を眺めていた雛ベアトは、バトラが“お父様”と呼ばれることを厭うのは、それが名前ではないからだろうか、と考えました。しかし、すぐにそれは間違いであると考え直します。バトラが求めているのは、雛ベアトが知らないかつての自分なのです。バトラの為に生まれてきたのに、何も出来ないことを恨めしく思いつつ、黄昏ていた雛ベアトの元に熊沢がやってきました。熊沢は落ち込む雛ベアトを記憶を失っているだけだ、と励まします。それならば、どうすれば記憶を取り戻せるのか、と尋ねる雛ベアトでしたが、熊沢は困った顔をするばかりでした。雛ベアトはバトラの望む黄金の魔女、ベアトリーチェになりたい、それが自分が生まれてきた意味なのだ、と自らの決意を語ります。この物語を観劇していた“観劇の魔女”フェザリーヌはその姿に感銘を受け、雛ベアトを自分の書庫に招き、自由に閲覧する権利を与えました。フェザリーヌの書庫にはこれまでのベアトのゲームの物語のカケラが、全て書物として収められています。それを読むことで雛ベアトは、かつての自分がどのような存在であったのか知ることが出来るのでした。

一方で、ゲーム盤において六軒島に漂着したヱリカは、前回のような猫かぶりをせず、最初から全開で自らの知識と能力をひけらかし、空気を読まない言動を連発した為、一同の顰蹙を買っていました。そんなヱリカと渡り合える戦人の駒に一同は感心しますが、このゲームにおける戦人の駒のプレイヤーはバトラです。これまでのゲームでは魔女のベアトによって“無能な戦人”として生み出された、駒戦人がプレイヤーを務めていましたので、戦人の駒の能力もそれに準じていました。しかし、今回のゲームにおいてはバトラが“右代宮戦人”としての記憶を取り戻した為、ゲーム盤の戦人の駒も“真の右代宮戦人”の能力を取り戻しているのです。やがて、親族会議の時間となり、子どもたちはゲストハウスに移動することになります。ヱリカは玄関ホールのベアトリーチェの肖像画の前で立ち止まり、あれは誰なのか? と尋ねました。前回のゲームの記憶を持つヱリカはもちろん、肖像画の由来を知っていますが、前回のゲームでは素通りしてしまった為、あえて触れることにしたのです。皆は口々に“魔女ベアトリーチェ”の逸話をヱリカに聞かせますが、ヱリカは真に受けることはせず、単なる怪談話として受け止めた様子でした。やがて、続きはゲストハウスで、という話になり、玄関ホールには誰もいなくなります。

玄関ホールが静寂を取り戻すと、どこからともなく黄金の蝶がふわりと現われ、黄金の飛沫と共に雛ベアトに姿を変えました。雛ベアトは黄金の蝶になって、ヱリカたちの話に耳を傾けていたのです。雛ベアトはフェザリーヌの書庫で、これまでのゲームの物語のカケラを全て読み終えました。しかし、そこに描かれていたベアトリーチェという魔女は、今の雛ベアトとはあまりに掛け離れた存在です。戦人をいたぶり、苦しめる魔女ベアトリーチェと、戦人の為に生まれてきた雛ベアト。自分自身のことなのに、雛ベアトには両者を繋げることが出来ませんでした。先ほどのヱリカへの話でも触れられていましたが、ベアトリーチェはサソリのお守りと蜘蛛の巣が苦手で、触れることさえ出来ないということです。しかし、雛ベアトは別にどちらも、好んで触れたいとは思いませんが、触れたからどうというものではありません。ということは、やはり自分はベアトリーチェではないのか? 雛ベアトは肖像画に描かれたベアトリーチェの瞳が何かを語っているように感じ、肖像画に手を触れます。すると、肖像画の中に飲み込まれてしまいました。

肖像画の中は真っ暗でした。しかし、そこに不気味さはなく、どこか安心感のある闇です。雛ベアトはここが自分の中の世界であることを理解しました。ここはベアトリーチェという魔女を生み出す卵の中なのです。彼女が何も求めない限り、この安らぎの中で永遠に過ごすことが出来るでしょう。しかし、雛ベアトは卵から孵る決意を固めます。バトラの為に生き、そして尽くす為に。雛ベアトが生まれる為の目的と意思を言葉として紡ぐと、暗闇に亀裂が走り、やがて眩しい光が世界を覆いました。雛ベアトは卵の殻を破り、新たな世界に足を踏み出したのです。ところが、卵から生まれたのは雛ベアトだけではありませんでした。同じ卵から、もう1人のベアトリーチェが生まれたのです。

2人のベアトリーチェは互いに、何かが欠けていることを自然に理解しました。そして、2人が1つになった時、本当の黄金の魔女、ベアトリーチェになれることも。雛ベアトは自らをバトラに仕える為に生まれてきた、と自己紹介しました。しかし、もう1人のベアトリーチェは、自分は黄金の魔女であり、六軒島の夜の支配者。右代宮戦人は知っているものの仕えるつもりはない、と言います。また、雛ベアトよりも先に存在していた為、自分は姉だとのこと。この食い違いにこそ、ベアトリーチェに繋がる秘密があると考えた2人は、協力して本当のベアトリーチェを目指すことにします。雛ベアトは玄関ホールに肖像画がないことから、今いる場所が2年以上は前の六軒島であることに気がつきました。姉ベアトは、自らの魔力を取り戻す為に、夜な夜な屋敷を徘徊しているとのこと。雛ベアトは姉ベアトに同行して、その仕事ぶりを見学することにしました。

姉ベアト曰く、ニンゲンは反魔法の毒素を持つ為、魔女がその力を振るうには、その反魔法の毒素を失わせることが何よりも大切とのこと。その為に姉ベアトは深夜、戸締りの確認をして回る使用人たちの後を付け、彼らがちゃんと施錠したはずの鍵を、開けて回ります。雛ベアトはこれのどこにそんな力があるのか、と姉ベアトに問いました。すると姉ベアトの返答は、こうやって小さなイタズラを積み重ねることによって魔女ベアトリーチェの存在をアピールし、使用人たちがその存在を信じることで、反魔法の毒素は失われていく、というものでした。また、姉ベアトは、鍵を開けることを、ニンゲンの毒素による制約からの解放という意味に掛けていることも説明してくれました。

一方でゲーム盤においては、ゲストハウスに移動した子どもたちが、ラウンジでヱリカにベアトリーチェの逸話を聞かせていました。しかし、ヱリカはそれらを誰かのイタズラであると切り捨ててしまいます。ベアトリーチェを尊敬する真里亞はその態度に憤慨し、自分はベアトに会って、実際に魔法を見せてもらった、と主張しました。そしてベアトが見せてくれた、空のカップからキャンディを取り出す魔法の話を、ヱリカに聞かせます。ヱリカはその話を聞き、真里亞の前でその魔法を実演した後、これは手品に過ぎないと、タネあかしをしました。ベアトの魔法を手品だと決め付けられた真里亞は泣き出し、他のいとこ達はヱリカの大人げない振る舞いを非難し、いとこ部屋へ移動してトランプをすることになります。余韻に浸るために1人、ラウンジに残ったヱリカは、入浴の為に席を外していた熊沢が来たことから、熊沢からベアトリーチェの話を聞くことにします。

ベアトリーチェの怪談話を得意げに披露する熊沢でしたが、ヱリカはその内容の矛盾点を指摘しました。サソリの魔法陣は魔除けである為、ベアトリーチェがそれをあしらった金蔵の書斎のドアノブに触れられないのは理解出来る。しかし、蜘蛛の巣を苦手とするのは悪食島の悪霊であって、ベアトリーチェではない、故にベアトリーチェの伝説には悪食島伝説の内容が融合している、と。その話を聞いていた姉ベアトは、魔法で蜘蛛の糸を出し、雛ベアトに触れさせました。しかし、特に変化はありません。代わりに姉ベアトが触れると、指には糸の形に火傷の痕が残りました。今度は金蔵の書斎に移動し、姉ベアトがドアノブを握ると、凄まじい音と共にその手が焼け爛れます。一方で、雛ベアトが触れても、蜘蛛の糸と同じく、特に変化は見られませんでした。これらの結果を受けて、姉ベアトは魔女であり、魔法が使えるが、体を持たぬ自分と、魔女であるが、魔法は使えず、肉の体を持つ雛ベアト、2人が欠け合った部分を埋め合うことで、本当のベアトリーチェになれるのではないだろうか、と言います。2人はためしに互いの手の平を触れ合わせてみますが、1つになることは出来ませんでした。互いをもっと知り合う必要があると考えた2人は、手を合わせたまま、協力して一なる存在に戻ろう、と誓い合います。

雛ベアトがバトラの為に作ったクッキーを差し入れとして書斎に置きに行くと、ちょうどバトラが部屋に帰ってきました。バトラは書斎机の上に置かれた、美しい盛り付けのクッキーの皿と応援のメッセージカードを見て、複雑な表情を浮かべましたが、甘いものは苦手だ、ということで、下げるように命じます。その言葉に雛ベアトはうな垂れながらも、クッキーを片付けて部屋を去りました。すると、1人になったバトラの前にゆっくりと黄金の蝶の群が集い、在りし日のベアトの姿を形作ります。これはバトラが生み出した幻です。自分の考えを整理するだけですが、目の前にベアトの姿があり、そのベアトが語った方が良い、と考えたのです。

幻のベアトは、かつての自分は魔女としての千年によって培われた存在であり、それとまったく同じ千年を経ない限り、雛ベアトが自分と同じ存在になることはない。つまり、バトラが自分を生み出そうと目論む時点で、すでに生い立ちが異なる為、雛ベアトが自分になることはない、と説明しました。バトラはそんなことは承知している、と返しますが、幻のベアトは、そうは言いつつも、奇跡を期待しているのではないか、とからかいます。そんなベアトの態度に、その奇跡を期待していたのが、かつてのお前ではなかったか、とベアトに問うた時、バトラは自分とベアトの関係が入れ替わっていることに気がつきます。ベアトが願った奇跡が叶い、自分がここにいるというのに、肝心のベアトがいなくなってしまっているのです。叶わない奇跡を信じ、ゲームを繰り返す。その心情を幻のベアトに問うバトラでしたが、返事は自分の胸に聞け、というものでした。

ベアトとは別人であると理解しつつも、雛ベアトにその面影を追ってしまうことに悩むバトラに、幻のベアトはアドバイスします。雛ベアトのことは、自分が残した娘であり、忘れ形見だと思うように、と。その言葉にバトラはようやく、雛ベアトとの接し方を考える道標を得ました。雛ベアトへの仕打ちを後悔し、涙を零したバトラは床に白い名刺大のカードが落ちているのに気付きます。雛ベアトはあわててクッキーを片付けた為、クッキーと一緒に飾られていたメッセージカードが床に落ちたことに気付かなかったのでした。 バトラはそれを拾い上げ、添えられたメッセージを読みます。しかし、そのあまりに無垢で、純真な、短い一言は、確かにそれが読めているはずなのに、涙で滲んで見えませんでした。

いとこ部屋に移動した子どもたちは、朱志香に誘われて合流した嘉音と共にトランプで遊んでいました。家具をやめる覚悟を決めた嘉音は、本気で勝負に挑みましたが、こういった遊びに慣れていなかった為、ベテランである戦人や譲治には歯が立ちません。肩を落とす嘉音を朱志香が惜しかった、と慰めますが、嘉音は負けては何の意味もない、と口にします。その言葉に一同は、大切なのは結果ではなく、全力を尽くすことによって得られる爽快感や、そこから何かを得て成長することだ、と説明しました。嘉音は、家具だから何を夢見ても無駄、と全てを諦め、閉じ篭っていたことにより、自分は成長出来なかったことを悟ります。その後、朱志香と2人きりになった時、嘉音は自分が時間を浪費した為、もう時間がないことが残念だ、と後悔していることを伝えました。そして、嘉音がポケットから黄金蝶のブローチの片羽を取り出すと、光と音の洪水が全てを覆い尽くしました。

光と音が収まった時、朱志香と嘉音は見たこともない不思議な部屋にいました。洋風の喫茶室のように見え、調度品のセンスもよく、気品ある人物の部屋に感じられます。そこには譲治と紗音の姿もありました。譲治が言うには、紗音が蝶の羽のようなものを取り出すと、それが眩く輝き、気がつくとここにいた、とのこと。朱志香と譲治には何が起こっているのか、さっぱりでしたが、嘉音と紗音は状況を理解していました。決着をつける時が来たのです。嘉音と紗音が互いのブローチを合わせると、ブローチは砕け散り、2人の悪魔が登場しました。ゼパルとフルフルと名乗る悪魔たちは、この場に家具とニンゲンしかいないことを不審がり、契約の魔女の名を呼びます。すると、雛ベアトと姉ベアトが召喚されました。フルフルはベアトリーチェが2人いることを不思議がりますが、ゼパルは自分たちも2人なのだからおかしくない、と取り成します。

2人の悪魔の発言から、ようやく状況を理解する朱志香でしたが、恋の成就に悪魔の手を借りるつもりはない、と宣言しました。そんな朱志香に姉ベアトと悪魔たちは、魔法の奇跡を得られない限り、嘉音との仲は必ず破綻すると断言します。朱志香が魔法の奇跡を紗音と譲治に譲るなら、2人は結ばれ、島を出る。そして嘉音もまた島を出て、どんなに探しても朱志香が嘉音を見つけることは決して出来ない。一方で、魔法の奇跡を得られたなら、嘉音は島に留まり、いつまでも朱志香の傍にいる。しかし、同時に譲治と嘉音の関係は破綻する、と。どちらか1組しか結ばれえないという悪魔のゲームに憤る朱志香でしたが、姉ベアトは黄金蝶のブローチの力がなければ、そもそもどちらの恋も実らない運命なのだ、と言います。朱志香は自分以外の3人が、この運命を受け入れていることに気がつき、この決闘に参加する決意を徐々に固めていきました。

その様子を他人事のように眺めていた雛ベアトに、姉ベアトは参加資格は雛ベアトにもあるのだ、と説明します。黄金蝶のブローチの奇跡は、雛ベアトのバトラへの好意を認められたいという願いを容易く叶えることが出来る。また、同時にその奇跡なくして、雛ベアトとバトラが結ばれることもない、と。自分が参加しても良いのだろうか、と戸惑いを見せる雛ベアトに、譲治、紗音、嘉音、朱志香はそれぞれ、受けて立つ決意を示しました。その言葉に勇気を得た雛ベアトは、自分もこの決闘に参加することを表明します。

ゼパルとフルフルが恋の試練として提示した条件は“2人の愛を貫くために、1人の命を自らの手で捧げよ”というものでした。譲治は母である絵羽をその手に掛け、自らの覚悟を示しました。それに触発された朱志香が霧江を殺め、嘉音が楼座を、紗音が真里亞を、それぞれ殺めていきました。雛ベアトも夏妃を標的としますが、あと一歩というところで、取り逃がしそうになります。するとそこにバトラが現れ、助力したことで何とか夏妃を仕留めることが出来ました。雛ベアトは勝手に部屋を抜け出したことをバトラに謝罪しますが、バトラは咎めることはせず、むしろ雛ベアトにこれまでの自分の態度を詫びます。そして、自分のことは雛ベアトの好きな呼び方で呼んでくれて構わないと言いました。バトラが試練に参加する意思を示したことで、ゼパルとフルフルは誰を標的にするつもりか、と尋ねますが、バトラ曰く、自分の仕事は既に終わっている、とのこと。恋の試練の参加者6人がそれぞれ1人の命を捧げた為、これで第一の晩は終了です。

深夜、ベッドの上でまどろんでいたヱリカは、扉をノックする音で目を覚まします。訪問者は譲治と朱志香でした。戦人と真里亞の姿が見えない為、ヱリカに部屋にいないか確認しに来た、とのこと。ヱリカは2人にいとこ部屋で待機するように指示すると共に、使用人たちにも、ゲストハウスを出ないように伝えるように、と言い置いてゲストハウスを飛び出します。屋敷の玄関に到着すると、施錠は為されていませんでした。玄関に入ると同時に、客間の扉が荒々しく開き、郷田が狼狽して飛び出してきました。客間の中からは、蔵臼や留弗夫たちが騒ぐ声が聞こます。どうやら第一の現場は客間のようでした。

ヱリカが受けた説明によると、親族会議の小休止が終わっても戻らない人がいた為、探しに客間へ行ったところ、扉が何かにつかえて開かなかった。外に出て窓から中を覗き込むと、楼座が血を流して倒れているのが見えた為、内側から施錠されていた窓のガラスを割って中に侵入。すると、開かなかった扉には帽子掛けがかんぬきとされていた。客間の中には真里亞も血まみれで倒れていた。そのほかにも夏妃が自室、霧江が蔵臼の書斎、絵羽が貴賓室、そして戦人が客間で発見された、とのこと。バトラの標的は自分自身だったのです。

大勢の犠牲者が出て、屋敷は混乱します。秀吉たちは、ゲストハウスの子どもたちを心配してゲストハウスへ向かい、蔵臼と留弗夫たちは、ホールで今後をどうするか話し合っていました。その隙にヱリカは屋敷中を駆け回わり、殺人現場を確認します。親族の証言によると、全ての現場は窓が内側から施錠され、帽子掛けがかんぬきとされていた客間以外はチェーンロックがかかっていたとのこと。その為、それらの部屋は番線カッターによってチェーンロックを切断して侵入しています。ヱリカは全ての部屋で全ての遺体を自分の目で確認しました。その為“遺体などなかった”というトリックは今回は通用しません。

しかし、今回の戦いではヱリカは探偵権限を放棄しています。前回のゲームでは勝って当たり前の勝負で引き分けとなった為、実質的には敗北。その為、今回のゲームで普通に勝ってもイーブンにしかならない。だから探偵権限を放棄することで勝負のレートを上げ、それで勝つことで、完全勝利を目指すというのです。その為、探偵でないヱリカには死んだフリが見抜けません。ただそこに“遺体と思われる肉体がある”そこまでです。現場検証を終えたヱリカはゲストハウスで一同と合流します。巧みな話術でその場の主導権を握ると、蔵臼、源次、郷田を2階に移動するように仕向け、残った留弗夫と秀吉に使用人が怪しい、と吹き込みました。

第一の晩についてのバトラとヱリカの赤と青の攻防が終わり、第二の晩の前の小休止となりました。バトラはかつてニンゲン側であったときは、魔女側が圧倒的に有利だと考えていたが、実際に魔女側に回ってみると、それは間違いだった、といいます。何故なら、ニンゲン側が適当に繰り出した青字のうち、ひとつでも赤字で返せないものがあったら、もうそれで魔女側は敗北なのです。そんなバトラに、雛ベアトは前回のゲームの最後の最後で何に気がついたのか、と尋ねました。それに気がつくことが出来たから、駒でしかなかった駒戦人が魔術師になれました。ならば、自分もそれを知ることで、元のベアトに戻ることが出来るのではないか、そのように考えたのです。

それは不思議な問いでした。それを魔女のベアトがずっと駒戦人に問い続けていたはずなのに、駒戦人がその答に至り、バトラとなった今、今度は雛となったベアトが、逆にそれをバトラに問うています。しかし、バトラは言います。教えるのは容易い、しかし、奇跡を信じたいから、教えたくない、と。もし雛ベアトが教えていないはずのことを自ら思い出したなら、それは元のベアトが蘇ったということです。バトラもかつてのベアトと同じように、叶わない奇跡に希望を託すことにしたのです。

バトラがヱリカ陣営の様子を見に行くと、探偵権限を持たないが故に、不甲斐無い結果しか出せないヱリカをベルンカステルが罵倒していました。バトラは先ほどの戦いでドラノールの出番がなかったことに疑問を呈しますが、ヱリカは赤い太刀のないドラノールに使い道はない為、使わなかったと答えます。バトラはその原因が探偵宣言の放棄によるものであることに気がつき、その指示を出したベルンカステルを非難し、邪魔をするならゲーム盤から追放すると脅しますが、ベルンカステルは、それなら自分は駒であるヱリカも持っていってしまう、と返しました。

対戦相手がいなくなってしまってはゲームを続けられませんから、バトラは仕方なく、ヱリカに3回分、ガムテープの封印を使用する権利を与えます。前回のゲームの反省から、バトラはゲーム盤上から封印に使えるガムテープを取り除いていたのです。また、その権利は第一の晩発覚以前の段階から行使できることとした為、ヱリカはどの場所で事件が起こるか知った状態で、ガムテープの封印を使えることになりました。泣き崩れ、感謝の言葉を述べるヱリカに、バトラは好敵手として厳しくも優しい言葉をかけ、その場を去ります。すると、とたんにヱリカは豹変し、自分に情けをかけたバトラの愚かさを嘲笑いました。これまでの振る舞いはバトラの譲歩を引き出す為の芝居だったです。

ゼパルとフルフルが次の試練として一同に課すのは“寄り添いし2人を引き裂け”というものでした。6人のうち、誰か1人を殺す。パートナーを失ったもう1人は自動的に失格となり、3組のうちの1組が確実に脱落するのです。譲治はゲームマスターのバトラと魔女である雛ベアトが有利ではないのか、と指摘しますが、ゼパルとフルフル曰く、全員の力は互角に設定してあるとのこと。2人の悪魔は方法は自由に決めてかまわないと言いますが、下手に動くと、2つのペアが争っている間にもう1つのペアに漁夫の利をさらわれることになりかねませんので、迂闊なことは出来ません。良い考えが浮かばないまま、時間だけが過ぎていきました。

ゲーム盤のヱリカは書斎に閉じこもったまま連絡のつかない金蔵を除いた全ての生存者が、ゲストハウスの2階で2部屋に分かれて篭城するように誘導しました。一方は、いとこ部屋。在室者は、蔵臼、留弗夫、朱志香、源次、嘉音、郷田の6人。もう一方は、いとこ部屋の隣の部屋(以下、隣部屋)。在室者は秀吉、譲治、紗音、熊沢、南條、ヱリカの6人。隣部屋のヱリカは、捜査の為にいとこ部屋に向かい、安全の為、そのまま朝までいとこ部屋に滞在する、ということで秀吉を納得させ、隣部屋から出ます。

ヱリカは秀吉を押し込むように扉を閉め、そして内側からの施錠の音を聞いた時点で、バトラに復唱要求しました。第一の晩の犠牲者6人の所在は、夏妃は自室、絵羽は貴賓室、霧江は蔵臼の書斎、楼座と真里亞は客間、戦人は客室であること。隣部屋にいるのは秀吉、譲治、紗音、熊沢、南條であること。いずれもバトラは赤字で肯定しました。しかし、次にヱリカが復唱要求した、いとこ部屋に所在するのは、それ以外の全員である(金蔵除く)、という内容に引っ掛かりを覚えます。本来ならば、こちらでも隣部屋と同じように一人ひとりの名前を出すはずでした。その点を指摘するバトラに、ヱリカは第3のゲームにおいてバトラが名前と人数のトリックで苦しめられたことを取り上げ、用心の為だ、と説明します。バトラはヱリカの策略を疑いながらも、それを赤字で肯定しました。

バトラの復唱を受けて、ヱリカは舞台をゲーム盤に移し、いとこ部屋と隣部屋にガムテープの封印を使いました。これにより、この2部屋の密封を根拠とする戦いにおいて、以後、ドラノールは赤き太刀“赤鍵”を使うことが出来るようになります。ヱリカはゲストハウス1階の戸締りを確認し、玄関のチェーンロックを外して外に出ました。すると、片翼の鷲の刻印が入った手紙が、屋外マットに挟まれて置かれていました。中には戦人の死体を預かった、と書いてあります。現時点で全ての生存者は2階の部屋に封じられており、蔵臼たちと戸締りの確認をして回った時に、ここには何もなかったことを、ヱリカ自身が確認しました。ということは、この手紙を置ける人物などいるはずがないのです。

この場面でヱリカはバトラを呼び出し、時間を遡って死体検死時に、戦人の客室を封印していたと告白します。これでヱリカはバトラに与えられたガムテープの封印3回分を全て使い切りました。ヱリカは誰も置けるはずのない手紙が出現したことで、ヱリカによる死体検死の際に戦人は“死んだフリ”をしており、その後、部屋を抜け出してこの手紙を置いたと考えました。その為、時間を遡って戦人の客室を封印したのです。しかし、ヱリカは続けます。ガムテープによる封印の表明が遅れたことで、バトラが予定していたシナリオが狂った可能性がある。その為、この手紙はなかったことにしてもらっても構わない、と。もっともこれは、バトラの負けず嫌いな性格を見越してのヱリカの罠です。自ら水を向けることで、バトラの退路を断とうとしているのです。案の定、ゲーム盤のヱリカが戦人の客室の前に来ると、ガムテープの封印は健在でした。

ヱリカは封印を破って室内に侵入すると、電気をつけようとしますが、その前にバトラに提案しました。もし、この場に戦人の死体がなければロジックエラーを巡る戦いになるが、それには公正な立会人をつけるべきだ、と。バトラがこの提案を受け入れたため、赤字で“ジャッジメントの公平”を誓ったラムダデルタが以後、審判として両者の手の内を見ることになります。果たしてラムダデルタが見た、元々のバトラの手の内は、ヱリカの予想通り、死んだフリをしていた戦人が客室を抜け出して手紙を置いた、というものでした。しかも、この期におよんで、バトラはまだ、それに変わる新たなトリックを構築出来ていないのです。ラムダデルタはそれでも強気の姿勢を崩さないバトラに、呆れると同時に感心しました。最後にヱリカから、以後、この部屋での戦いは時間進行を停止して行なう為、両者の全ての手は同時的であり、最初に出された手であろうと、後から出された手であろうと、同じ意味を持つことが確認され、客室の電気が付けられます。すると、先ほどはベッドの上に確かに存在したはずの、戦人の死体がなくなっていました。

ヱリカは室内の捜索を始める前に、青字で室内に発見不可能な隠し扉があり、その中にいる為、発見不可能である可能性を指摘しますが、バトラはノックス第3条でそれを否定しました。客室内はベッドルームとバスルームの2部屋構造になっており、ヱリカはまずベッドルームを捜索しました。そして、クローゼット以外の全ての場所に誰も存在しないことを確認します。ヱリカがバスルームを確認しようと扉を開けると、全開で熱湯を吐き出すシャワーヘッドが入り口側に向けられており、叩きつける熱湯に堪らずヱリカは後退しました。気を取り直したヱリカはベッドの毛布で身体を包み、再びバスルームに挑みます。何とか中に入り、状況を確認すると非常に厄介な仕掛けが施してありました。シャワーヘッドは針金で固定され、向きを変えることは出来ません。さらにハンドルも同様に針金で固定され、回すことは出来ません。浴槽の中にはニッパーが沈んでいましたが、シャワー同様、針金で固定された蛇口から熱湯が注ぎ込まれ、溢れ出しています。ヱリカは側にあったボディブラシでニッパーを掬い上げ、ハンドルの針金を切断し、何とか熱湯を止めることに成功しました。

結局、バスルームの中にも誰もおらず、ヱリカは青字で戦人はクローゼットの中にいる、と宣言します。しかしバトラは戦人がクローゼットを含む、客室内のどこにもいないことを赤字で宣言しました。ヱリカがベッドルームを捜索している間はクローゼットの中に潜み、ヱリカがバスルームで悪戦苦闘している間にそっと抜け出して部屋を脱出した、このロジックが有効なのです。ところが、ヱリカは赤字で自分は室内に入ったとき、チェーンロックを掛け直した、と宣言しました。郷田が侵入の際に切断したチェーンロックをガムテープの封印で修復し、使えるようにしたのです。ガムテープでくっつけただけですから、千切ろうと思えば簡単に千切れますが、千切ることによって封印を破ったことが発覚します。ヱリカはチェックメイトとしてチェーンロックの封印が維持されていることを復唱要求しました。バトラがこの復唱に応じた上で客室脱出のロジックを組み立てられなければ、ロジックエラーが確定します。雛ベアトはバトラにこの場は撤退することを提案しますが、バトラはここで逃げたら、ヱリカは以後の犯行を“死んだフリをして、実は生きていた戦人の仕業”で説明出来るため、圧倒的に不利になる、と、それを拒否します。そして赤字でチェーンロックの封印が維持されていることを宣言しました。

この宣言を受けてヱリカからロジックエラー動議の申請が為されたことにより、審判であるラムダデルタがバトラの手の内を確認します。そしてバトラの赤字が有効であることを宣言しました。雛ベアトは歓喜し、バトラの胸に飛び込みます。ヱリカは茫然自失となり、感服したドラノールが拍手を始めました。それにガートルードが続き、コーネリアも続きます。そして雛ベアトとラムダデルタも…。実は戦人はヱリカの読みどおり、クローゼットに隠れ、息を潜めていました。そしてヱリカがバスルームで手こずっている間にチェーンロックを外して部屋から脱出したのです。チェーンロックを外から掛け直すことは出来ませんが、部屋の外に待機していた霧江が戦人と入れ替わりで部屋に入り、ヱリカに気づかれないようにチェーンロックを掛け、クローゼットに入りました。戦人同様、霧江以下の5人も死んだフリをしてヱリカの検死を潜り抜けていたのです。バトラが赤字で宣言したのは“戦人が客室内にいない”ことですから、霧江はいても良いのです。

ところが、ドラノールは霧江には戦人と入れ替わることは出来ない、と赤字で宣言しました。ラムダデルタは探偵権限を持たないヱリカの駒であるドラノールが赤字を使えることに疑問を呈しますが、ベルンカステルはこの赤字が有効であることを宣言します。バトラの手の内を知るラムダデルタは、霧江の代わりに夏妃でロジックを再構築しますが、それもドラノールは赤字で斬り捨てます。ラムダデルタが続けて繰り出した絵羽、楼座、真里亞によるロジックもドラノールは退けました。思わず雛ベアトは探偵権限を持たないヱリカが赤字を使えるのはおかしい、と異議申請しますが、ベルンカステルとヱリカは探偵権限のない人間にも使える赤字はある、と言います。更にドラノールが探偵権限を持たないニンゲンにだけ許されたある行為は、圧倒的信頼性をもった真実となりえる、と言い添えたことで、バトラは状況を理解しました。探偵権限を持たないが故に“死んだフリ”を見抜けないヱリカは、探偵ではないが故に許された権利によって5人を殺し、自ら犯人となったのです。

バトラが用意した今回のゲームのシナリオは、第一の晩の犠牲者全員が死んだフリをしていた、というものでした。ベアトのゲームの犯人は“紗音”と決まっていますから、人を殺せるのは紗音の駒だけ。バトラはゲームのこととは言え、紗音を殺人者にはしたくなかったのです。ヴァン・ダインの二十則に“第7則。死体なき事件であることを禁ず”がありますが、ゲーム盤には金蔵の死体がありますから、紗音が誰も殺さなくてもミステリーとして成立します。ところが探偵権限を放棄したヱリカが自ら犯人となり、5人を殺していたことで、バトラの構築したロジックは崩壊し、ロジックエラーに陥りました。バトラは雛ベアトに助けを求めます。かつてのベアトなら必ずこのロジックエラーを覆すことが出来た、と。しかし、今の雛ベアトにはその力はありません。雛ベアトは必ずトリックを思いついて助けに来るから、決して諦めないで、と言い残し、姿を消します。バトラはこうしてロジックエラーの密室に1人、取り残されることになりました。もうバトラが復活することはない、とゲーム盤を出て行こうとする魔女たちでしたが、雛ベアトは絶対に自分が助け出すから、待っていてくれるように、と引き留めます。その言葉に“絶対の魔女”ラムダデルタは置き土産を残しました。かつてのベアトなら、このロジックエラー密室を解決出来る、と。

この展開を受け、ゼパルとフルフルは第二の試練からのバトラ・雛ベアトペアの脱落を宣言しました。しかし、ゼパルとフルフルの提案により、雛ベアトは立会人としてこの場に留まることになります。雛ベアトは姉ベアトにロジックエラー密室の解決方法を尋ねますが、姉ベアトも解らない、とのこと。やはり、2人が一緒にならなければ本当のベアトリーチェではないのです。姉ベアトは不可能を可能にする強大な魔力を持つ、ゼパルとフルフルになら解るのではないか? と、2人の悪魔に助けを求めますが、返事は“愛が足りない”でした。更なるヒントを求める姉ベアトに、ゼパルとフルフルはヒントのヒントとして、これから行われる、譲治・紗音ペアと朱志香・嘉音ペアとの決闘に注目するように、と言います。

4人が相談して決めた決着方法は、紗音と嘉音が決闘する、というものでした。苦しむことなく安らかに、そして、死に至る以外の無用の傷つけあいを避けられる方法が良い、ということで、ゼパルとフルフルは“決闘用拳銃セット”を用意しました。これは単発式のピストルで、要望に沿って体のどこに当たろうとも痛みなく、そして必ず死に至らせる魔法の弾が装填されています。雛ベアトは、この決闘のどこかに隠されているというバトラを救う答を探す為に注視しますが、同時に疑問を呈します。1人の女性を奪い合って2人の男が決闘するのなら、まだ理解出来る。しかし、彼らは2人と2人、争わなければならない理由など何もない、と。ところがゼパルとフルフルは家具は魂が1人に満たないから、こうして決闘をする必要があるのだと言います。紗音も嘉音も、そして雛ベアトも魂が1人分に満たないから人間以下である、と。2人の悪魔は人を愛する資格は1人分の魂を持つことなのだ、と断言しました。

決闘の結果は紗音の勝利に終わりました。決着がついた瞬間、ゲストハウスのいとこ部屋で異変が起こりました。嘉音が突然、何の予兆もなく床に崩れ落ちたのです。額から血が流れていた為、郷田はハンカチで血を拭いましたが、傷口が見当たりません。しかし、それなのに血が溢れ出して来るのです。朱志香が必死に嘉音の名を呼びますが、返事はありません、嘉音は既に絶命していました。ゼパルとフルフルが勝利者である紗音に魂を集めると言い、呪文を天に向かって叫ぶと、嘉音と雛ベアトの身体は砂金のように散り始めました。その光景に姉ベアトは、負けたら消えるとは聞いていなかった、とゼパルとフルフルを非難します。しかし2人の悪魔は言いました。これは公平な結果である、と。同時にいとこ部屋においても、嘉音の死体は消えてしまいました。

雛ベアトは、自分と同じく肉体を失った嘉音にこれからどうするつもりなのか、尋ねました。すると嘉音は、たとえ朱志香に話しかけることは出来なくても、これからも朱志香の側にい続けるつもりだと言います。そして今度は逆に、雛ベアトにどうするつもりなのか、と尋ねました。雛ベアトはバトラを密室から助けたいのだ、と答えますが、その答に嘉音は笑いました。肉体を失った自分たちには、密室など何の妨げにもならないと言うのです。そして、上位世界の雛ベアトには出来ないこともゲーム盤の駒である自分なら出来る為、雛ベアトの代わりにバトラを助け出すことを約束してくれました。気持ちは嬉しいが、ヱリカの封印により、救出どころかいとこ部屋からの脱出さえ出来ない、と落胆する雛ベアトでしたが、嘉音は言います。相手に出された謎に頭を抱えるのは、魔女の相手の仕事であり、魔女はただ、魔法でとびきりの密室を作り、相手を悩ませるだけでよいのだ、と。そして、最悪の密室トリックを無限に使いこなす、無限の魔女ベアトリーチェの本当の恐ろしさを、そろそろ連中も思い出してもいい頃だ、とも。その言葉を聞いた雛ベアトの脳裏に、屋敷の、ゲストハウスの、薔薇庭園の、図面が次々に蘇っていきます。嘉音はそんな雛ベアトに、最後のアドバイスをしました。ベアトの一人称は“妾”でなければ、と。

一方で大聖堂においては、ヱリカとバトラの婚礼が始まろうとしていました。ベルンカステルはバトラに勝利した褒美としてヱリカを魔女へ昇格させ、バトラを娶らせることで、このゲーム盤の領地を与えようとしているのです。その場には花婿側参列者として、ワルギリア、ロノウェ、ガァプの姿がありました。3人がバトラと雛ベアトのことを心配し、バトラを密室から助け出す方法について論議していると、ドラノールが部下と共に現われ、式が始まる前の退屈しのぎに、と現場の再構築を申し出ます。ガァプは再構築されたゲストハウスを確認し、いとこ部屋も隣部屋も密室ではない、と指摘しました。ロジックエラー時にヱリカが示したのは部屋の扉だけで、窓は確認しなかったのです。ガァプは青字でいとこ部屋の嘉音が窓から脱出し、バトラと入れ替わった、と主張しますが、ドラノールは赤字で窓の封印が破られていないことを宣言しました。ガァプは、それなら、隣部屋はどうなのか? と更に追及しますが、ドラノールは余興は終わり、とばかりにその場を去ろうとします。ガァプが尚も喰いつくと、ロジックエラー時に隣部屋の窓の封印が暴かれていたことを理由とする青き真実の使用を禁じる、という赤字を残し、アイゼルネ・ユングフラウの一行は立ち去りました。

いよいよ婚礼が始まりましたが、魂を密室に閉じ込められたままのバトラの目は虚ろで、傍から見れば腕を組んで歩いているように見えましたが、実際には身動きさえままならないバトラをヱリカが引っ立てるように歩いているのでした。愛の誓約も、バトラが口をきけないため、ヱリカが2人を代表して行います。指輪の交換ということで、ゲーム盤の領主であることを示す片翼の鷲の指輪がバトラの指から抜かれ、ヱリカの指に嵌められました。そして、バトラの指には永遠に隷属させ、所有物とすることを刻印する、呪われたダイヤモンドの指輪が嵌められました。婚儀が終了し、披露宴が執り行われている中、突如、ベアトが乱入し、ヱリカの顔に白い手袋を叩きつけ、決闘を挑みます。ヱリカは花嫁でも魔女でもなく、探偵としてその手袋を拾いました。

大聖堂の赤絨毯の上で対峙するベアトとヱリカの手には、ゼパルとフルフルから与えられた決闘用のピストルが握られています。銃に込められる弾は鉛ではなく、赤と青の真実。真実がある限り弾数は無限ですが、一撃でも当たれば即死です。この決闘の立会人となったラムダデルタの手には、片翼の鷲の紋章が入った手紙が握られていました。それはベアトによる物語の修正書です。その内容が有効であった為、ラムダデルタはロジックエラーの回避を宣言します。そして同時に、この決闘がチェーンロックの掛かった密室から、右代宮戦人が失踪したことを論点として行われることを宣言しました。この問題について、ヱリカは青き真実で、ベアトは赤き真実で、決着がつくまで闘います。初手はベアトです。ベアトはいとこ部屋から嘉音が魔法でもって封印を破らずに脱出。客室に行き、魔法で戦人を密室の外へ脱出させた、と主張しました。ドラノールは先ほど、ロジックエラー時に隣部屋の窓の封印が暴かれていたことを理由とする青き真実の使用を禁じる、と赤字で宣言しましたが、そもそもこのゲームのルール上、魔女側であるベアトは“魔法で行った”この主張だけで良かったのです。嘉音による“謎に頭を抱えるのは、魔女の相手の仕事だ”という発言は、このことを示していました。

ヱリカは、ロジックエラー時にいとこ部屋は扉も窓も封印が確認されている為、脱出することは不可能であることを確認しました。つまり、嘉音は封印時に、いとこ部屋以外の場所にいたことになります。一方で隣部屋については、ヱリカ自身が実際に目視で、秀吉、

譲治、熊沢、紗音、南條、以上5人の在室を確認し、バトラによる赤字での復唱を得ています。そして、それ以外の“全員”がいとこ部屋にいると所在確認し、これもバトラによる赤字での復唱を得ています。ならば、嘉音は何らかの形で自分の名前を誤魔化し、隣部屋に所在していたとしか考えられません。ヱリカはそれを青き弾丸としてベアトに放ちますが、同時にベアトも発砲します。2つの銃声が発生し、ヱリカの銃が弾き飛ばされました。ベアトが込めた赤き弾丸は、封印時の隣部屋にいたのは、秀吉、譲治、熊沢、紗音、南條の5人であり、この5つの名に該当する者以外は存在しない。そして、全ての名は本人以外には名乗れない、というものでした。本来的にはこれで決闘は終わりのはずでしたが、ベアトがわざと外したのです。

手加減されたことに憤るヱリカでしたが、ベアトはヱリカの推理を全て打ち砕いて勝利すると宣言しました。そして、ヱリカに説明不要の根拠“X”の使用を許します。これにより、ヱリカは嘉音がどのようにして密室を脱出したか説明出来なくても、以後の推理に嘉音を組み込めるようになりました。しかし、どう考えても、自分がバスルームで悪戦苦闘している間に戦人がクローゼットから出て、チェーンロックを外す。戦人が部屋の外に出て、代わりに嘉音が部屋に入る。嘉音がチェーンロックを掛けて、クローゼットに隠れる。これ以外の答は思いつきません。ならば考えられるのは、赤き真実で語られた言葉や単語の網をすり抜けた“言葉遊び”だけです。ヱリカは青字による復唱要求で、その可能性を徹底的に潰しました。そして詰めに入ろうとしたとき、見落としに気がつきます。ヱリカはバスルームを調べる前にベッドルームを調べました。そして、その後は調べていませんから、ヱリカがバスルームにいる間にクローゼットからベッドルームに移動が可能なのです。

ということは隠れられる場所は2箇所、ベッドの下とクローゼットの中です。もし片方を指して“ここにいる”と宣言すれば、もう片方にいることにされてしまいます。そこでヱリカはまず、ベッドルームに嘉音はいないことを復唱要求することで、ベッドの下という可能性を消しました。これでもう、クローゼット以外に居場所はありえません。勝利を確信したヱリカは、5本もの青き真実の楔をクローゼットに撃ち込みました。縦に真っ直ぐに並んだそれは、第四の晩から第八の晩を象徴しています。中に人間がいればひとたまりもありません。しかし、クローゼットの中には大穴を穿たれた雨ガッパが入っているのみです。すかさずベアトは客室に嘉音は存在せず、クローゼット、ベッドルーム、バスルーム、この全てに嘉音はいないことを赤字で宣言しました。

ベアトの勝利が確定した瞬間、バトラの指に嵌められていたダイヤモンドの指輪は砕け散り、バトラの魂が戻りました。歓喜して飛びついてきたベアトに、バトラは言いました。酷いトリックだ、と。隣部屋には“紗音”と“嘉音”2つの名前を1つの肉体に持つ人物が“紗音”として在室していました。そのため、それ以外の“全員”の中に、そもそも嘉音は入っていなかったのです。そして“嘉音”は隣部屋の窓から脱出し、戦人と入れ替わりで客室に入ったあと、“紗音”になりました。その為、客室の中をどれだけ探しても“嘉音”は見つからないのでした。しかし、ベアトはこれは立派なトリックであり、愛がない人には視えないだけだ、と答えました。ベアトの赤き弾丸を胸に喰らい、致命傷を負ったヱリカでしたが、最後の気力を振り絞って立ち上がり、バトラとベアトに最期の闘いを所望しました。ベアトはその高潔な申し出に敬意を表し、受けて立ちます。双方が銃に込めた弾丸は共に赤。先攻はヱリカ。初めましてのあいさつと共に繰り出した赤は、自分は六軒島の18人目の人間だ、というものでした。それに対し、ベアトとバトラは、ヱリカを迎えても17人だ、と赤で返しました。ヱリカが語ったのは18番目という順番、そしてベアトとバトラが語ったのは17人という人数でしたので、両方とも赤で語ることが出来たのです。しかし、その意味を理解出来ないヱリカは、赤き真実に屈するしかありませんでした。

その後、黄金郷において、領主として蘇ったバトラとベアトの婚儀が始まりました。ベアトは戦人の手を取り、片翼の鷲の紋章の指輪を差し出します。これをバトラに贈ることは領主の地位をバトラに譲ることを意味します。これで良いのか? と尋ねるバトラに、ベアトは頷きました。バトラと一緒になりたくてこの儀式を始めたのだから、これからはバトラに2人の物語を紡いで欲しい、と。バトラはベアトの想いを受け入れました。そして代わりに、領主夫人にのみ許される紋章の指輪をベアトに贈ります。2人は振り返り、満場の来賓たちに向かって互いの指輪を高々と掲げました。万雷の拍手がそれを讃えます。そして、この慶事を記念した叙勲の発表が始まりました。筆頭は嘉音です。バトラを救った功績と、その為の自己犠牲が称えられました。ゲーム盤では敗北し、消え去った嘉音でしたが、ここはベアトが生み出した黄金郷。領主の力を持ってすれば、復活は造作もありません。謹んで叙勲を受ける嘉音に朱志香が飛びつき、嘉音はやさしくその頭を撫で、抱き締めました。次は譲治と紗音です。ゼパルとフルフルの試練において勝利した功績とその絆が称えられました。そして、2人の結婚証明書がバトラの署名にて発行されます。右代宮家一同も、そして使用人一同も、そして参列のあらゆる神霊も悪魔たちも、盛大な拍手で叙勲者たちを讃えました。これにて、黄金の魔女によって紡がれる物語は幕を閉じます。

 

※長くなってしまったので、この物語の概略を書いておきます。現実世界で入水自殺した紗音の未練が“虚無の海”と呼ばれる異世界で“魔女のベアト”として転生しました。魔女のベアトは自らの領地を作り、戦人を生み出そうとしましたが、上手く行かず、戦人復活の為の儀式を行うことにします。それが“ベアトのゲーム”です。ベアトのゲームを続ける中で、ベアトは戦人復活を諦め、消滅してしまいました。ところが、ベアトの消滅と入れ替わるように、ベアトのゲームにおいて“戦人復活の依り代”として配置された駒戦人が、バトラとして復活します。今度はバトラがベアトを蘇らせようとしますが、失敗し、雛ベアトが生まれてしまいました。雛ベアトはバトラの為に尽くすうち、過去の記憶を取り戻し、ベアトとして復活します。雛ベアトとは、バトラが意図せずして生み出した“ベアト復活の依り代”であったのです。こうして虚無の海にベアトとバトラが揃い、めでたしめでたし。こういう話です。

序盤に虚無の海における場面を付け加えたのと、各EPのはじめに構造説明を追加したの以外は、本編のダイジェストと解釈で構成しました。つまり、普通に読めばこの解釈になるはずなのですが、創作説が一般的になってしまったのが不思議です。このあとのEP7はベアトの領地に忍び込んだベルンカステルが、ゲーム盤を勝手に使って行った、謎解きの為のゲーム(自分では答が解らなかった為、あるいは自分の答があっているか、確認したかった為、探偵であるウィルを招いて謎解きをさせた)EP8は現実世界において縁寿が生き延びるカケラがなかったことから、虚無の海のバトラとベアトが縁寿の運命を変える為に行ったゲーム、という解釈です。何か、疑問やツッコミがあれば、いつでもどうぞ。

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