■コラム 第二の『うみねこ』? 『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』

 この作品は5年間続いた“大人気ライトノベル”ですが、最終巻である12巻のAmazon.co.jpにおけるカスタマーレビューがとんでもないことになっています。通常、この手の作品は巻数が進むごとにアンチが振るい落とされ、最後にはファンしか残っていない為、最終巻は高い評価になるのが当たり前です。しかし、この作品は発売日が6月7日で、たった3日しか経っていないのに、6月10日21:30現在でカスタマーレビューの数が335件。普通なら一番レビューが多いはずの1巻が106件ですから、この時点で既に何かおかしいです。こういう事態になるのは2つの場合が考えられます。1つは作品の出来が無茶苦茶良かった場合、もう1つは作品の出来が無茶苦茶悪かった場合(人間、正よりも負の想念の方が圧倒的に大きい為、普通はほぼ後者です)。この作品の場合は明らかに後者です。ファンしか残っていないはずなのに、星1つと星5つがほぼ拮抗しています。しかし、僕にとってこの作品は超名作と言っても過言ではないほど凄い作品で、生涯宝物になるような出来です。何故、その作品の評価がAmazon.co.jpではメタメタなのか、その理由を説明しようと思います(ネタバレになる為、これから読むことになるかもしれない方は、以下は読まないことをオススメします)。ちなみにAmazon.co.jpのカスタマーレビューに書いたものを元にしています。

  2013年6月10日00:30時点までに書かれた、286件のカスタマーレビューを全て確認しました(ダブりもありますけど…)。僕から見て「この人はこの作品をきちんと読めているかも?」と思えた人は以下の7人です。まちばりあかね☆さん、tydn666さん、底辺DDさん、neruygiaraさん、アガットらぶ "よっしー" さん、田瀬智成さん、ろびんさん。ただ、読めていたら僕がこれから指摘する内容に言及しているはずで、案外、誰も読めていないかもしれません(あるいはもったいぶって黙っている?)。正直、この作品は非常に難しい作品だと思います。しかし『うみねこのなく頃に』の考察で鍛えられた僕には、この作品が理解出来ました。とりあえず、多くのレビュアーが誤解している部分を3つ指摘しておきます。まず1つ目、星の多いレビュアーに多いのですが“京介は桐乃を1人の女性として愛している。それはタイトルからも内容からも解る”これは間違いです。京介にとって桐乃は“他の誰よりも大切な妹”であり、それ以上でも以下でもありません。次に2つ目、こっちは逆に星の少ないレビュアーに多いのですが“11巻までの桐乃を妹として愛している京介と12巻の京介が繋がらない”これも間違いです。京介は12巻においてもこれまでと変わらず、桐乃を妹として愛しています。最後に3つ目、“作者の伏見つかささんは描き切る事から逃げた、あるいは編集の圧力に屈した”これも間違いです。伏見つかささんは真正面からこの作品に向き合い、全力で描き切っています。

 何故、多くの人が理解出来なかったこの作品を僕が理解出来たのかと言いますと、理由は簡単です。“京介と作者である伏見つかささんを絶対的に信じていたから”です。『うみねこのなく頃に』のキャッチコピーである“愛がなければ視えない”僕はこの言葉を鍵に『うみねこのなく頃に』を考察し、多くの真実に至りました。その経験があったからこそ、僕にはこの作品が理解出来たのです。もしかすると『うみねこのなく頃に』に出会っていなければ、僕は『僕妹』を理解出来なかったかもしれません。何とも不思議な縁です。僕がこの12巻を手に取る前に、既に200件近いカスタマーレビューが書かれ、僕はその全てに目を通していました。そして、持っていた理解は“京介が他の全員を袖にして、桐乃を選ぶ結末である”ということです。僕は京介を信じていましたから「京介がそんなことをするのには、必ず理由がある」と考えていました。ですから、あらかじめ意識して、その部分を読み落とすことなく読解することを心がけました。しかし、わざわざそんなことをしなくても、親切なことに作品中の重要な部分には、きちんと傍点が打ってありました。メモしておいたので、以下に取り上げます。P218、P236、P240、P241、P256、P350、P352、P359。

 この作品が理解出来なかった人は“京介は桐乃を妹としてとても大切にしていて、そのためならどんなことでもする大馬鹿兄貴である”この前提で、もう一度12巻を読み返してみると良いと思います(上記ページの傍点が打ってある部分は特に注意して)。そうすれば、おそらくこれまでとはまったく違った物語が見えてきます。そして桐乃にその京介の想いが伝わったからこそ出てきたのであろう“卒業まで”という期間限定が付いた約束の意味も理解出来ることでしょう(おそらくこれは桐乃からの提案なのです)。自分は実の兄である京介を1人の男性として愛しているけれども、同時に自分を大切にすることで、不幸になる京介を見たくない、大切な両親を傷つけたくない。そんな桐乃の想いを汲み取ってあげて欲しいです。そして、麻奈実と桐乃の戦いに込められた2人の想いも…。ちなみに京介は終盤、ヘタレっぽく見えるかもしれませんが、あれは桐乃がそう望むからです。もし、桐乃が共に地獄に堕ちることを求めたならば、京介は躊躇うことなくその手を取ったでしょう。

 理解出来ていない人からは不評の、最後の京介からのキスは、この作品を理解出来ている僕にとっては無茶苦茶切ない場面で、もう一度読み返したならば、あの場面でボロボロ泣くと思います。どのキャラクターも無茶苦茶カッコイイですが、京介と桐乃と麻奈実には格別シビレました。はたして僕は死ぬまでにこの作品を超える物語に出会えるのやら…。そして伏見つかささんもこの作品を超える物語を書くことが出来るのやら…。もはや“第二の『うみねこ』”となる運命がほぼ確定しているこの作品、『うみねこ』考察者には是非挑戦してみて欲しいです。

 

■『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』12巻誕生秘話(ケーナ妄想)

僕の脳内設定では伏見つかささんは妙齢の女性で

編集者は中年男性です

 

2013年X月XX日 都内某所のファミリーレストランにて

 

(伏見)「原稿どうでした? 自分では最終巻に相応しい会心の出来だと思ってるんですけど…」(ドキドキ…)

(編集)「素晴らしい出来です。私、不覚にも目から溢れるガマン汁を止めることが出来ませんでした」

(伏見)「そっ、そうですか…それは良かったです」(この人、これがセクハラ発言だって解っているのかしら?)

(伏見)「じゃあ、OKで良いですか?」(持ち上げて落とすのがこの人のやり方だから、期待出来ないけど…)

(編集)「でも、これじゃあ駄目です。書き直してください」(キッパリ)

(伏見)「そんな、さっき素晴らしいって言ってくれたじゃないですか!」(やっぱりー!)

(編集)「確かにこれは、大人の僕の目から見たら、素晴らしい名作です。しかし、この作品はライトノベルなんです。読むのは中学生や高校生です。とても彼らに理解出来る内容ではありません」

(伏見)「自分ではそんなに難しく書いたつもりはないんですけど、例えば中学生ならどう理解すると思いますか?」

(編集)「うーん、そうですね。中学生なら理解出来ないが故に喜んでくれるかもしれません」

(伏見)「はぁ、じゃあ高校生は?」

(編集)「おそらく総スカンですね。本を破り捨てて、盗んだバイクで走り出した上、夜の校舎の窓ガラスを壊して回ると思います」

(伏見)「そっ、そこまで…」

(編集)「編集者としての、長年の勘から予測すると、Amazon.co.jpのカスタマーレビューが発売日の5日後には400件を超えます。そして星5つが大体140件ほど、星1つが130件ほど、あとはそれぞれ40件くらいになるでしょうね」(出任せだけど)

(伏見)「えらい具体的ですね」(どうせ出任せなんでしょ!)

(編集)「何せ、プロですから。そのうち、この作品をきちんと理解出来ているのは3%くらいだと思います」(出任せだけど)

(伏見)「そんなに少ないんですか!」(どうせ出任せだろうけど、ショック!)

(編集)「そもそも、連中は自分が望む結末を見たいだけなんです。作品の完成度なんて二の次です。まったく無知蒙昧な愚民どもが…」

(伏見)「……」(読者のことをここまで悪し様に言えるなんて…恐ろしい子!)

(編集)「断言しますが、これをそのまま出版したらとんでもないことになりますよ。きっと編集部にはカミソリ入りのアンチファンレターが山ほど届くでしょう。私は傷付く伏見先生を見たくありません」(関連商品の売り上げが激減するし、PRモデルの話もどうなることか。そうなると担当編集の私の立場は…)

(伏見)「でも、私はこの結末がベストだと思うんです。それを変えるだなんて…」

(編集)「伏見先生にとってのベストが、読者にとってもベストとは限らないんです」(私にとってもベストとは限らないんです)

 

喧々諤々数時間後

 

(編集)「では、こういうのはどうでしょう?」(ゼーハー、ゼーハー)

(伏見)「何か良い方法があるんですか?」(ゼーハー、ゼーハー)

(編集)「アニメ第二期のBlu-rayの特典小説はもう書きましたか?」

(伏見)「いえ、まだ構想の段階です」

(編集)「どんな内容にする予定ですか?」

(伏見)「京介と桐乃の子どもの頃の話にしようと思っていますが…」

(編集)「それを止めて、12巻の10年後の話を書いてください。それなら12巻はこのままでOKです」

(伏見)「どういうことですか?」

(編集)「無知蒙昧な愚民どもは、12巻でヒロインが決定したと考えているでしょう。しかし10年後、京介の横にいるのはそのヒロインではありません。これをうまく謎解きとして展開出来れば、12巻がこのままでもなんとかなります」(裏目に出ると、とんでもないことになるけど黙っとこ。大丈夫です、伏見先生。いや、つかささん。もしもの時は私が一生あなたを…)

(伏見)「なるほど、解りました。じゃあ特典小説は12巻の10年後の話ということで」(まだ言うか、この男。いつか刺されるな。でも、確かにそれは良いアイディアかも)

(編集)「プロットが出来たらまた連絡してください。じゃあ、今日の打ち合わせはここまでということで、お疲れ様でした」(やれやれだぜ)

(伏見)「解りました、それでは近いうちに連絡します。お疲れ様でした」(やれやれだぜ)

※ちなみに、この予想は外れました。アニメ第二期のBlu-rayの特典小説では、京介が誰と結ばれたのかは解りません。

 

■田村麻奈実の考察

11巻

P130

麻奈実は鞄を抱いて頬を膨らませる。

(麻奈実)「きょうちゃん……最近ずーっと、櫻井さんのことばっかりなんだもん」

(京介)「いや、だってそりゃあ……」

ずっとあとで思い返してみて、ようやく分かったことなのだが。

変わらないやつだと思っていた麻奈実の性格も――

微妙に『このとき』と『今』とでは違っている……気がする。

※この頃は、普通に他の女の子に対して嫉妬しています。ところが、以下のように高校生になると少し様子が違います。

 

11巻

P296297

(麻奈実)「……わたしは、きょうちゃんとお付き合いしたいわけじゃないんだ。……ううん、できればお付き合いしたいんだけど、もっと大事なことがあって」

(加奈子)「それってなに?」

(麻奈実)「きょうちゃんが、幸せになることだよ」

微笑んで答えた。

これはわたしの、心の底からの本心だ。

※自分よりも京介の気持ちを優先するようになっています。もちろん、以下のように京介のことを好きな気持ちは変わらないようですが。

 

11巻

P297298

(加奈子)「師匠はー、京介が別の女と付き合ってても、別にいーってこと?」

(麻奈実)「よくはないよ。悔しいよ」

ごまかすことも考えたが、結局本音を喋ってしまった。ついそうしてしまう雰囲気が、彼女にはある。

(麻奈実)「きょうちゃんはわたしにとって家族と同じくらい大切な人だから、本当に好きな人と一緒になって欲しいだけ」

(加奈子)「一緒になるとかww ババくさw ――それだけ聞くと、最初から諦めてるヤツの負け惜しみ台詞っぽいけど――なんかちょっと違うっすね。師匠、別に全然諦めてないっぽいし」

(麻奈実)「きょうちゃんに好きな人ができて、その人とお付き合いを始めたら、諦めて、応援して、祝福していたと思うよ。でも、ほら、黒猫さんとのことがあったじゃない。――実際に、家族みたいに思っていた幼馴染が自分じゃない人と付き合い始めたら」

(加奈子)「たら?」

さも面白そうに聞いてくる。わたしも半ば笑いながら答えた――

(麻奈実)「すごく悔しかった」

――笑えない台詞を。

(麻奈実)「たぶん桐乃ちゃんと同じ気持ちだったんじゃないかな。……だから、わたしも変わることにしたんだ。きょうちゃんにとって、わたしが……ほ、本当に好きな人になれば……」

さすがに照れくさすぎて、最後まで口にはできなかった。

※作品中にこの心境の変化を説明する内容はありませんでしたが、おそらく三年前に桐乃の想いに釘を刺したことで引け目を感じ、その贖罪として、自分の気持ちは押し殺すようになったと考えられます。

 

11巻

P301

(麻奈実)「きっと黒猫さんは、桐乃ちゃんのこと、きょうちゃんと同じくらい大好きで……だから桐乃ちゃんの気持ちを無視して自分だけ幸せになるのは駄目だって、思ったんじゃないかな」

以前きょうちゃんに告げたのと同じ台詞を、わたしは口にした。

(麻奈実)「そこはね、私も黒猫さんと同じ気持ち。……わたしは、きょうちゃんにも、桐乃ちゃんにも……みんなに幸せになって欲しいんだ」

(加奈子)「はあ? これ、恋愛ごとっすよ? そんなん無理っしょー、ハーレムでも作るつもりっすか?」

けらけらとばかにしたように笑う加奈子ちゃん。

わたしはにっこりと笑って答えた。

(麻奈実)「無理じゃないよ。だって桐乃ちゃんは、妹なんだから。というか、」

 

(麻奈実)「お兄ちゃんに恋する妹なんて、気持ち悪いでしょう?」

 

11巻

P307309

(麻奈実)「いまの桐乃ちゃんなら、もう、ちゃんと分かってると思うんだ。昔、わたしが言ったことの意味。だから、いまなら話し合えば仲直りできるはずだし……わたしがやりたいことにも協力してくれると思う」

(加奈子)「協力って?」

(麻奈実)「みんなが幸せになれるように、協力」

わたしは一旦目をつむり、開き、微笑とともに決意を告げる。

(麻奈実)「安心して、加奈子ちゃん。わたしが卒業までに……桐乃ちゃんがいなくなっちゃう前に――」(※“桐乃ちゃんがいなくなっちゃう前に”に傍点)

 

(麻奈実)「あの二人を『普通の兄妹』にしてみせるから」

 

これはわたしにとって、三年前からの宿題だ。

すっかり忘れていたけれど、やっと思い出した。

(麻奈実)「そうしたら――みんな桐乃ちゃんに気兼ねすることなく、勝負できるよ。加奈子ちゃん、機会があったら、あやせちゃんにそう伝えておいてくれるかな? いまのきょうちゃんに告白しても、絶対にうまくいかないよ――ともね」

(加奈子)「いいっすよ」

加奈子ちゃんは、へらっと軽く請け負って、

(加奈子)「『あたしは京介に告白すっけど、オマエはどーすんの?』って伝えておきます」

(麻奈実)「加奈子ちゃん、わたしの話、ちゃんと聞いてた?」

(加奈子)「もちっすよ! このままだと、あんたがこのめんどくせー状況を何とかしちまうかもしれねーってことっすよね! ならよー、ぜってーその前に動かないとダメじゃねーか。だってそーだろ?」(※“このままだと、あんたがこのめんどくせー状況を何とかしちまうかもしれねーってことっすよね! ならよー、ぜってーその前に動かないとダメじゃねーか”に傍点)

牙を見せつけ笑い、びっと親指で顔を指す。

(加奈子)「桐乃に引導を渡すのは、このあたしだぜ!」

※この使命感もやはり、自分が三年前に桐乃に釘を刺したことにより、結果として京介と桐乃の関係を歪めてしまった罪悪感から来るのでしょう。ちなみに加奈子が“ぜってーその前に動かないとダメじゃねーか”と考えるのは、桐乃に引導を渡した者にこそ、京介と付き合う資格があると考えているか、もしくは大きなアドバンテージを得るからではないかと思います(桐乃よりも自分を優先させられた訳ですから)。以下のように黒猫とあやせも同じ考えのようです。

 

11巻

P336338

(桐乃)「……さっきは『勝手にすれば』なんて言ったけどさ。卒業まで……待ってくんないかな」

俯き、苦しそうな声を漏らす。

(黒猫)「……卒業まで待ったら、何がどうなるというのかしら?」

黒猫さんが、苛立たしさを隠そうともせずに言った。桐乃は黒猫さんを睨み付けて、

(桐乃)「卒業までに、色んなことにケリを付けていくつもり。あたしだって、いまの状況が普通じゃないって、よくないって分かってる。だから――そういうのは、あと数ヶ月だけ、待って」

(黒猫)「駄目ね。待ってあげないわ」

黒猫さんが、冷たい声で即答した。

(黒猫)「私も、口に出して宣言しておきましょう。――あなたが卒業するまでに、私はあの人から告白されてみせる」(※“あなたが卒業するまでに、私はあの人から告白されてみせる”に傍点)

(桐乃)「――っ!」

桐乃は、ぎりりと歯を食いしばる。

(桐乃)「――どうしてそんなこと言うわけ……!? あんたも、あやせも……。言っとくけどね! あいつにいま告白したって、絶対に上手く行くわけないっつーの! どうしようもないシスコンなんだから!」

(黒猫)「そんなことは分かっているわ。私も、彼女も。だからこそいまなの。――ねえ?」(※“だからこそ”に傍点)

黒猫さんがそう振って来たので、こくりと頷く。

(あやせ)「黒猫さんから聞いたけど――桐乃、もう自分の気持ちに嘘を吐くのはやめたんでしょう? なのにいまもまだ、嘘を吐き続けている。それは駄目だよ。ケリを付けるっていうなら、嘘を吐かずにケリを付けて欲しいな」(※“嘘を吐かずにケリを付けて欲しいな”に傍点)

(黒猫)「私たちは、田村先輩ほど優しくはないのよ。妹だからって、特別扱いはしてあげないわ」(※“特別扱い”に傍点)

(あやせ)「桐乃……わたしたちが何を言っているのか――分かるよね?」

 

11巻

P208209

(麻奈実)「高校生になってからも、こうやって一緒にいようね」

(京介)「そーだな。なんだかんだ言って、十年くらいこんな感じだったし――なんかもう一生こんな感じなのかもって思うよ」

(麻奈実)「そうかな? そう思う?」

(京介)「おう」

(麻奈実)「……そっかぁ」

ふんわりと笑う。

(麻奈実)「そういうのも、いいかもね」(※“そういうの”に傍点)

※麻奈実としては何となく二人一緒に年齢を重ねて、いつの間にか結婚しているような関係が理想だったのでしょう。

 

12巻

P354355

(麻奈実)「わたしがっ、ずっと……ずっと……きょうちゃんのことが好きで……いまここで、付き合ってくださいって……告白したら?」

(京介)「!」

(麻奈実)「……そうしたら、わたしのそばにいてくれる?」

彼女の頬を、涙が伝った。

(京介)「――――」

涙ながらの愛の告白――それはあまりにタイミングが悪すぎて。

だから察してしまった。いや、麻奈実にここまで言わせちまって……ようやく気付けた。

俺の幼馴染はいつだって、自分のことは後回しにして、人の心配ばかりして……自ら進んで貧乏くじを引いていく。逆の立場だったら、俺にはとてもできやしない。麻奈実は俺のことを俺よりも分かっている。

ああ、分かってるさ。

だからいま、告白したんだよな。大馬鹿野郎め。最高の幼馴染め。

※この時の麻奈実は非常に難しいです。おそらく京介と桐乃の関係が“卒業までの期間限定”であることは知らないと思いますが、京介が“兄として”桐乃の為に桐乃を選んだことは理解しているでしょう。そこにプレッシャーをかける為に告白したのだと思いますが、標的が京介なのか、桐乃なのか、もしくは両方なのか、どうも解りません。

 

■櫻井秋美の考察

11巻

P182

(京介)「おら、おまえも約束守れよ。学校行くぞ」

(櫻井)「うるさい! てゆーかあたし、今日は最初から行くつもりだったのに!」(※“今日は最初から行くつもりだったのに”に傍点)

 

『最初から学校に行くつもりだった』という櫻井の妄言は、すぐに忘れてしまった。

だってそうだろう? この短い期間で、櫻井が『学校に行きたくなる』ような『超凄いきっかけ』があったなんて、どう考えても思えないっつーの。

※これはやはり京介のことが気に入ったからでしょう。

 

11巻

P224226

(櫻井)「ん……ここからなら、下には聞こえないかな……。えと、高坂、あのさ」

(京介)「おう、なんだ」

 

(櫻井)「――キミって、ほんっとウザい」

 

(京介)「あん?」

期待していたのとは逆の台詞が来たので、びくっとした。

櫻井は、にやけ顔を俺に向けて、

(櫻井)「んー、ひひひ、なぁに? 超いー景色! 感動した! とでも言ってほしかったのん?」(※“超いー景色”“感動した”に傍点)

(京介)「そ、そりゃ……」

そうだよ、決まってんだろ。

とは、言えなかった。

(櫻井)「その熱意はみとめるけどね。君にいろいろしてもらった全員が全員、感謝したり〜、感動したり〜するわけじゃないってことは、覚えておいた方がいーよ。秋美ちゃんからの、これは忠告」(※“全員が全員”に傍点)

櫻井の口調はふざけていたが、彼女が本心で喋っているんだなというのは伝わってきた。(※“本心で喋っている”に傍点)

覚悟はしていたが……いや、ちょっと、かなり、きついぞ。

(京介)「……俺が、おまえにやってきたことは、全部お節介で、余計なお世話だった……のか?」

(櫻井)「!」

櫻井は俺の問いにハッとし、それから、見下げ果てたとばかりに目を細めた。

(櫻井)「ばぁーか」

(京介)「はい?」

なんで俺、いま罵倒されたの!?

わけが分からず瞠目していると、彼女はプイッとそっぽを向いて、

(櫻井)「ばーかばーか。ばかばかばーか。キミって、ウザいだけじゃなくて、すっごいバカ」

(京介)「……くっ……! い、意味わかんねーぞ! 言っとくけど、バカにバカな理由を説明できないやつもバカなんだからなっ!」

ビシッと指を突き付けて、

(京介)「――俺にもわかるように喋れっ!」

いちいち偉そうな、中学三年生の俺であった。

(櫻井)「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

唇をかんでもどかしそうにする櫻井。

(櫻井)「だからぁ! あたしは、」

彼女は勢いよく俺の方を振り向き、何かを言いかけた。(※“何かを言いかけた”に傍点)

※この時、櫻井が言おうとしたことは、以下のようにきちんと説明されます。ちなみに櫻井が“忠告”したのは、自分が感謝したり、感動したりしたのは京介のことが好きになったからであって、京介の熱意が通じたからではない、と言いたかったのでしょう。それと同時に京介が自分以外の女の子に同じように構うことによって、その女の子も京介のことを好きになるのを牽制したかったのもあるでしょう。

 

11巻

P287

(櫻井)「ねぇ、高坂。いまさらだけど、あのとき言えなかったことを、伝えてもいいかな」

「俺もずっと気になってた。おまえ、あのとき――何を言いかけたんだ?」

(櫻井)「うん――」

すると櫻井は、遠い目になった。三年前、山のてっぺんで見た――あの景色を見ているのかもしれない。あの雄大な景観を、俺も、まざまざと思い出した。

やかましいゲーセンの一角が、ここだけ、山頂の岩場へと変わる。音はなく、風がそよぎ、緑の匂いのするあの場所へと、俺たちの心は飛んでいた。

(櫻井)「じゃあ……言うよ」

そして彼女は、三年前と同じように、俺に向かって、

(櫻井)「超いー景色! 感動した! 最っっ高の気分だよ! ぜんぶ、ぜんぶ、キミのおかげっ!」

 

(櫻井)「櫻井秋美は! 高坂京介のことが! だいっ好きだぁぁああああああああああああぁっ!」

 

11巻

P289290

(京介)「三年前でも、いまでも、答えは同じだ」

泣きながら伝えた。

(京介)「ごめん、俺、好きなやつがいるんだ」

 

俺は今度こそ、自分から告白すると決めたんだ。

(櫻井)「……うん、知ってた」

※三年前、京介が好きだったのは麻奈実でしょう。櫻井が“知ってた”のも麻奈実です。ところが12巻では以下のようにそれが変わっています。

 

12巻

P270271

(櫻井)「……この前キミ、あたしに『好きなやつがいる』ってゆったよねえ!」

(京介)「……言いましたね」

(櫻井)「相手、妹かよ!」

(京介)「はははは」

もう笑うしかない。

(櫻井)「あたしはてっきり『あの人』のことだと思ってたよ! 『三年前もいまも答は同じ』なんてゆーからよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜! なに? 三年前から妹のこと好きだったの?」

(京介)「いや、三年前に好きだったやつと今好きなやつは違うよ?」

※櫻井が言う“あの人”はもちろん麻奈実で、今、京介にとっての“好きなやつ”は桐乃です。

 

■高坂桐乃の考察

※僕は10巻までは“桐乃は重度のブラコン”という解釈が出来ると思っていました。しかし、以下のように11巻でそれは崩れました。

 

11巻

P310310

三人で『話し合い』をした夜――。

わたしと桐乃ちゃんが、きょうちゃんのいる前では話さなかったことがある。

もっと正確にいうと、あえて断片的にしか口にしなかった部分がある。

『三年前』――わたしと桐乃ちゃんがした、『仲違いの原因』となった会話のことだ。

 

(麻奈実)『そっか……でもね、桐乃ちゃん』

 

(麻奈実)『そういう風な意味で、お兄ちゃんことが好きだなんて、おかしいと思うな』

 

(麻奈実)『普通じゃないと思う。異常だと思う。たくさんの人が、気持ち悪いって感じると思う』

 

(麻奈実)『当たり前だけど、兄妹では結婚なんてできないし、ご両親だって反対するに決まってるよ』

 

(麻奈実)『桐乃ちゃんの気持ちが本物であればあるほど、大人になっても変わらないものであればあるほど、誰かが不幸になる』

 

(麻奈実)『それはもうどうしようもないことで、誰にだって、たとえきょうちゃんにだって、どうにもならないことなんだよ』

 

(麻奈実)『いまのきょうちゃんじゃなくて――桐乃ちゃんが好きだった頃のきょうちゃんでも、同じ』

 

(麻奈実)『だって、桐乃ちゃんが憧れてた「凄いお兄ちゃん」なんて、最初からいないんだから』

 

(麻奈実)『だからね、桐乃ちゃん』

 

(麻奈実)『その気持ちは、絶対に誰にも言っちゃだめだよ』

 

(麻奈実)『早く忘れて、諦めて、ありのままのお兄ちゃんと仲直りして――』

 

(麻奈実)『普通の兄妹に――――なりなさい』

 

※僕はこの作品において、麻奈実と沙織は絶対的に信じられる存在だと考えています。その麻奈実がこのように言う以上、桐乃は京介を兄ではなく、1人の男として愛しているのです。また、以下のように12巻においても“これでもか!”という勢いで“京介ラブ”の描写が出てきますので、ざっと取り上げます。

 

12巻

P7273

桐乃が、俺に向き直った。

俺もゆっくりと、妹を見る。

兄妹の視線が、ここでようやく交差した。

(京介)「あのさ……桐乃」

(桐乃)「……えっ?」

 

(京介)「俺、好きな人がいるんだ」

 

そうして俺は、決定的な言葉を口にした。

俺の大切な人に、後戻りできない決意を伝える。

俺の好きな人が、誰なのかを。

(桐乃)「………………」

それを妹は、最後まで呆然と聞いていた。驚きすぎて固まっていたのかもしれない。

(京介)「……ごめんな」

話に区切りを付け、まっすぐ彼女の顔を見つめる。桐乃はいまだ表情を変えない。

――――数秒の後。

妹の頬を一筋の涙が伝った。

(桐乃)「っっ!」

踵を返し、駆けていく。

その背中を、俺は呆然と見送った。

※僕はこの時、京介は“桐乃のことを好きである”とまで告げたのかと思っていましたが、その後の描写を見ると、どうも違うようです。

 

12巻

P198199

(桐乃)「……放してよ」

(京介)「お前が途中で逃げるからだろ。もう一度言うから、ちゃんと聞けよ」

俺、好きな人がいるんだ。あのとき言った台詞の続きを、いまこそ――

 

(京介)「――俺はお前が好きだ。だから、どこにも行くな」

 

(桐乃)「――っ」

桐乃は目を見開いて硬直した。真っ赤になって、けれど今にも泣きそうな顔で。

まったくな……まるで妹モノのエロゲのクライマックスシーンだ。

それを――俺たち兄妹が、やるなんてな。

――事実はエロゲーよりも奇なり、ってやつだよ。

高坂京介の迷言が、きょうはたくさん生まれそうだ。

構うか! 辞書一冊分でも気持ちをぶちまけてやるぞ!

(桐乃)「なに……ばかなこと、言ってんの? エロゲーと現実を一緒にすんなっ! 兄妹で付き合えるわけないでしょ! あんたのことを好きな子は、超大好きで待ってる子は……どうすんの!」

※この内容から考えると、前回は“「俺、好きな人がいるんだ」”までしか話していなかったようです。

 

12巻

P201

(京介)「聞いてのとおりだ! ぜんぶ断ってきた! 妹に告白するからってなあ!」

(桐乃)「馬鹿じゃないの!? あんた、自分が何やったか分かってる!?

(京介)「分かってるよ! あやせも、黒猫も、めちゃめちゃ可愛くて、俺のことを好いてくれて、なんとか俺に合わせようとしてくれてて……あああああああああもったいねえぇ――っ! もう俺の人生に二度とこんなモテ期は来ねーよ! まだ胸も触らせてもらってねーのになあ!」

※この場面は12月24日です。京介の行動時系列は以下のようになっていますので。

 

12月?日 あやせに告白され、断る

12月20日 黒猫に桐乃が好きだと伝える

12月24日 桐乃に告白する

12月25日 櫻井に再会し、“お布団デート”に誘われるが、断る

正月過ぎ 加奈子に告白され、断る

卒業式 麻奈実に告白され、断る そして桐乃とただの兄弟に戻る

 

※この時点では、あやせと黒猫の告白を断っています。

 

12巻

P203204

(京介)「どこにも行くな! 俺と、結婚してくれえええええええええええええええええええっ!」

 

それを聞いた妹は、

 

(桐乃)「はい」

 

12巻

P211

(京介)「はぁ……ええっと……だからな。俺は、その……おまえのことが、好きなわけ」

(桐乃)「恋愛的な意味で?」

(京介)「恋愛的な意味で」

いまさら恥ずかしがっても意味がねえ、はっきりと即答した。

(桐乃)「ほ、ほう……へぇ〜……」

(京介)「……うれしそーじゃないか」

(桐乃)「うっさい」

 

12巻

P212213

(京介)「いや、おまえ『はい』って言ったよね? 俺の告白に対してさ」

(桐乃)「言ったケド?」

(京介)「じゃあ、それってつまり……おまえも俺のこと、好き……なんだよな?」

当たり前だけど、すっげー大切な問いである。内心かなりビビりながら聞いた。

桐乃の返答は、

(桐乃)「はあ〜?」

これである。

「きっも! なんでそーゆうことイチイチ聞くワケ? ありえなくない?」

(京介)「いやいや! だってそこは確認しておかないと! このあとどうするか相談するわけじゃないか!」

(桐乃)「だーかーらぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

ぷいっとそっぽを向いて、

(桐乃)「…………………………………………返事、したでしょ」

(京介)「……えーと……『告白の返事を何度も確認したりすんのがロマンチックじゃないからやめてよね! 察してよね!』っていう意味か?」

(桐乃)「いちいち言うなバカ!」

 

12巻

P219220

(桐乃)「一個だけ、はっきりしてることだけ、言っとくね。――嬉しかったから」

(京介)「――――」

意表を衝かれた俺は、両目を見開き固まった。

(桐乃)「あたしを好きになってくれて、ありがと」

 

12巻

P313314

未来のあたし――大好きな人と、結婚できましたか?

それはだめなんだって、言われました。誰にも言っちゃだめなんだって、言われました。

ちょうむかつく。

でも、あの人の言ってることはきっと正しくて……どうしようって、困ってます。

すごく悩んでます。

誰かに相談したいけど、お父さんにも、お母さんにも、一番頼りになる人にも、相談できません。……きっとすぐに元通りに戻ってくれるとは思うけど、それでも言えません。

失敗したら、ぜんぶ台無しだからです。あの人の言ったとおりになってしまいそうで、きっとそのとおりになるって分かるから、怖いです。

チャンスはきっと一度だけ。

そのときは、勇気を出して。

そして、考えてください。ずっとずっと考え続けてください。ヒントを探してください。

どうやったら、だめじゃなくなるのか。

どうすれば、あたしの夢が叶うのか。

どうすれば、あたしのことを好きになってもらえるのか。

どうしたら、ずっと一緒にいられるのか。

いまのあたしには分かりません。

だから、

未来のあたしに相談します。

すごくなったあたし――ううん、

これを聴いているあなたに相談します。

ねぇ――――あたし、どうしたらいいと思う?

 

12巻

P241243

(桐乃)「もしあんたが告白してこなかったら――今日、あたし、あんたに告白するつもりだったんだよね」

(京介)「――え?」

俺は心臓を貫かれたような気分で固まった。

(京介)「ど――どういうことだ?」

(桐乃)「こ、言葉どおりの意味! ま、まぁ……絶対断られるって覚悟してたけどさ。あんたを困らせるだけだって――またキモがられるだけだって……でも、でも……どっかで自分の気持ちにケリ付けないとって……思ってたの」

(京介)「………………」

(桐乃)「そ、それでね? もしも、万が一、絶対ありえないけど――あんたがオッケーしてくれたらどうしようって……その場合のシミュレーションも……してて」

(京介)「『このあと』のことも――考えてあるってことか?」

(桐乃)「――うん」

桐乃は俺の耳にそっと口を寄せ――

 

こっそりと『秘密のお願い』を囁いた。

 

(桐乃)「――どうかな?」

 

まるでいつもの……人生相談のお願いのような言い方だったよ。

色んな意味で――短くて、大切なお願い。

『俺たちの悩み』のすべてが詰まった台詞だった。

※この『秘密のお願い』こそが以下の『約束』なのだと考えられます。

 

12巻

P349350

(麻奈実)「桐乃ちゃん」

(桐乃)「……なに」

(麻奈実)「高校生にもなって、お兄ちゃんと付き合ってるって自慢する妹って、どう思う?」

(桐乃)「………………」

(麻奈実)「このあと二十歳になって、三十歳になって、二人は同じことを言い続けるの? それでいいと思っているの? 親しい人たちに、それをなんて説明するの? えっちなげーむの悪影響でそうなったって責められたとき、否定できるの? 納得してもらえるの?」

(桐乃)「………………」

(麻奈実)「――――答えなさい」

なんだこの、魔王のような説教は。とんでもない生き地獄だぞくそ。

昔櫻井が言ってた比喩が理解できたわ。

これぞアンデットに聖水ぶっかけるような所業。

無神経だった中三の頃の俺だって、ここまで叩き潰さないぞ。

(桐乃)「そ、それは――!」

桐乃は『約束の台詞』を口にしようとしたが、俺はそれを片手で止める。

 

12巻

P359

(桐乃)「兄妹じゃ結婚できないのに! 秘密にしなくちゃいけないのに! 終わっちゃったら……あんたには、何も残らないのに! それに――!」

桐乃は再び――きっとさっき言いかけたのと同じ『約束の台詞』を――口走ろうとしたが、俺はその先を言わせなかった。(※“さっき言いかけたのと同じ”に傍点)

 

12巻

P366

クリスマスの日――俺たちは『約束』を交わした。

 

――卒業まで、二人は期間限定の恋人になる。

――卒業したら、二人は普通の兄妹に戻る。

 

11巻

P144

(麻奈実)「ごめんね、きょうちゃん。……でも、わたしたちが本当に仲直りをするためには――わたしたちに『三年前』何があったのか、何を考えていたのか、全員が知らなくちゃ、だと思う。わたしと桐乃ちゃんが疎遠になっちゃった理由……桐乃ちゃんがきょうちゃんのことを嫌いになっちゃった理由」

……。麻奈実の言う『わたしたち』は『桐乃と麻奈実』のことじゃ、おそらくない。俺たち三人の、こと、らしかった。

※桐乃が三年間、京介を嫌い続けてきた理由、そして麻奈実を避けるようになった理由、この時の京介はそれを以下の内容が原因だと説明されました。

 

11巻

P248

(京介)「麻奈実……俺、どうすりゃいいと思う?」

(麻奈実)「どうにもしなくてもいいよ」

麻奈実は俺を胸に抱いたまま、優しく囁いた。

(麻奈実)「きょうちゃんはいつも、誰かが困っていたりすると――『仕方ない』で済ませずに、はりきって『俺に任せろ』って面倒ごとを請け負ってきたじゃない? 妹さんのために、いつだって『凄いお兄ちゃん』であろうとしていたじゃない? だけどね、きょうちゃんの力が及ばない、きょうちゃんにはどうしようもないようなことにまで、そのやり方を通さなくてもいいんだよ」

 

(麻奈実)「――きょうちゃんは、ごく平凡な男の子なんだから」

 

11巻

P250

(麻奈実)「わたしはありのままのあなたが好きだよ。背伸びしていなくても、凄くなくても、頼りにならなくても、足が速くなくても、勉強ができなくても、特別な人間じゃなくても、そんなことで嫌いになったりしないよ。あなたがいままでずっと一生懸命だったことは、わたしが一番よく知ってるから」

(京介)「で、でもよ……じゃあ、どうにもならねえときは……どうすりゃいいんだ?」

いつしか俺は、さっきと同じ問いを繰り返していた。

すると麻奈実は久しぶりに、俺の悪口を言った――「きょうちゃんはばかだねえ」と。

(麻奈実)「本当にどうしようもないときは、『仕方ない』って言っていいんだよ。辛くても絶対に諦めない、弱音をはかない人は、かっこいいし、凄いけど、そんなのちっとも幸せそうじゃないよ。それにそんな生き方がきちんとできるのは、それこそ特別な人間だけだと思うな。きょうちゃんは違うよね」

 

11巻

P250251

(麻奈実)「無理して人のために背伸びしなくていいよ」

(京介)「ああ」

(麻奈実)「わたしや桐乃ちゃんに、無理していいところを見せようとしなくてもいいよ」

(京介)「ああ」

(麻奈実)「辛いときは、自分のために泣いてください」

(京介)「……っ……う……っ……うあああああああああああっ!」

俺はようやく、泣くことができた。

優しい幼馴染の腕の中で。

※麻奈実によって“自分は平凡な男の子”に過ぎない事実を突きつけられ、京介の心は折れました。このことによって“理想の兄”を失った桐乃は、堕落した兄を嫌い、兄を堕落させた麻奈実を憎むようになった。京介はそのように考えましたが、実際には、桐乃は麻奈実に“実の兄に恋愛感情を持つこと”に釘を刺され、その正しさに打ちのめされ、どうしようもなくなった結果“兄を嫌う”ことで逃避しようとしました。しかし、その想いを昇華させることは出来ず、代償として“妹ゲー”に手を出すようになったと考えられます。もっとも、その後、本当に“妹好き”になってしまったようですが…。

 

■高坂京介の考察

※12巻は時系列が入り組んでいますので、京介の行動を簡単にピックアップすると以下のようになります。

 

12月?日 あやせに告白され、断る

12月20日 黒猫に桐乃が好きだと伝える

12月24日 桐乃に告白する

12月25日 櫻井に再会し、“お布団デート”に誘われるが、断る

正月過ぎ 加奈子に告白され、断る

卒業式 麻奈実に告白され、断る そして桐乃とただの兄弟に戻る

 

12巻

P136

色々あって、別れることになったけれど。

俺はいまも、黒猫のことが好きだ。

恋愛的な意味で、彼女のことが好きだ。

※これは12月20日の描写です。これで桐乃も好きなら二股ですので、京介が“1人の女性”として好きなのは黒猫なのだと考えられます。

 

12巻

P202

それでも、伝えようと決めたのだ。

あんな最悪の振られ方をしたってのに、いまもグレた振りして俺の背中を押し続けている――どこまでもお人よしな誰かさんのように。

(京介)「拒絶されるって分かってても! 受け入れられないかもって不安でも! 振られたら超傷つくって分かってても! 想いってのは、伝えなくちゃならねえんだよ!」

(桐乃)「――」

自分に吐き続けてきた嘘を、嘘だと認めようと決めたのだ。

勇気を出して見本を見せてくれた――かっこいい誰かさんのように。

※これは12月24日の描写ですので、この時点で断っているのは黒猫とあやせです。“どこまでもお人よしな誰かさん”は黒猫で間違いないとして、“かっこいい誰かさん”はあやせでよいのでしょうか? それとも、もっと別の人?

 

12巻

P203204

(桐乃)「キモ……キモ、キモキモキモッ……! マジでキモい……! ほんっとキモい!」

桐乃はそう連呼しながら、何度も何度も罵倒する。

(桐乃)「サイッテー! ほんっとサイッテー! さっさと消えてよ! あんたなんか大っキライ! 大々々っキライ! 大々々々々〜〜〜っキライッ! きょ、兄妹で恋愛なんてエロゲの話でしょ……現実でやったら、そんなの気持ち悪いだけじゃん……!」

(京介)「気持ち悪くない恋愛なんか、エロゲにも現実にもどこにもねえ! よっく聞けよ、桐乃――――!」

親父と対決したあのときよりも、

妹の親友に嘘を吐いたあのときよりも、

ずっとずっとでかい声で、俺は思いの丈を叫んだ。

 

(京介)「どこにも行くな! 俺と、結婚してくれえええええええええええええええええええっ!」

 

それを聞いた妹は、

 

(桐乃)「はい」

※ここでのポイントは“親父と対決したあのとき”も“妹の親友に嘘を吐いたあのとき”も、どちらも“京介が桐乃の為に自分の身を省みず嘘を吐いたとき”です。これらと並列的に並べられるということは、この場面における京介の告白も“京介が桐乃の為に自分の身を省みず吐いた嘘”であると考えられます。

 

12巻

P218

(桐乃)「……こういうあたしって、気持ち悪いって思う?」

(京介)「世間一般とやらでは、そーかもな。でも、俺は絶対、バカにしたりしねーよ」(※“俺は絶対、バカにしたりしねーよ”に傍点)

※この京介の発言は深読みすると「(実の兄を愛する妹のことを)俺は絶対、バカにしたりしねーよ」となります。ということは京介自身は、このことに肯定的な考え方を持っていないことになります。12巻で連続ストップ安クラスの大暴落を起こした京介の株ですが、これは勘違いだと思います。京介は黒猫を愛していたのに、自分を愛する妹の為に、自分の全てを捨てて桐乃に告白したのです。多くの読者にはこのあまりにも常軌を逸した京介の“漢っぷり”が伝わらなかっただけなのではないでしょうか?

 

(京介)「どこにも行くな! 俺と、結婚してくれえええええええええええええええええええっ!」

 

それを聞いた妹は、

 

(桐乃)「はい」

※大事な発言なので、2回使いますが“結婚出来ないのに求婚する”このことによって、桐乃は全てを理解したのではないでしょうか。自分を1人の女性として愛しているわけでもないのに、ここまでしてくれた。これによって桐乃は自分の恋心に結末をつけることが出来たのだと思います。ですから“卒業までの期間限定の恋人”は、桐乃にとって「あなたの時間を卒業までの数ヶ月間、わたしにください。その数ヶ月の間にわたしは一生分、あなたのことを愛します」ということなのだと考えるのは深読みが過ぎるでしょうか?

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