お疲れ様会?“偽書『Land of the golden witch』”

「なぁ、紗音。そろそろ始めよう、あたしゃ、もう待ちくたびれたぜ」

「真里亞も真里亞も! おなかもすいたー、うー」

「わ、解りました…。それでは皆様方、この度は私の我が侭にお付き合いくださり、誠にありがとうございます。恐悦至極に…」

「もぅ、紗音ちゃん。畏まりすぎよ、あなた右代宮家の当主なんでしょ。もっとしっかりしてくれないとお父様も安心できないわよ」

「はははっ、違いねぇ、親父がいたら間違いなく“威厳がまるで備わっておらんわ、馬鹿者!”なんてカミナリが落ちてるぜ」

「そうや、そうや。そんなこっちゃ、うちの姑にはまるっきり敵わんで」

「ほほほほ、秀吉様。まだ、戦人様の負けと決まったわけではございませんよ。まだまだ時間はございます。それに残された誰かが、碑文の謎を解くことも考えられなくはございません。今、ここにいる我々にだってそのチャンスはあるのですよ」

「そうだね、母さんなんて、地下貴賓室に案内されて実物を拝んだことで、俄然、張り切ってるよ」

「絵羽叔母さんはガッツあるなー。あたしなんか、あの黄金の山を見たら気が抜けて、もう今さら碑文に挑戦しようなんて思えねーぜ。大体、2年間も毎日拝んでいて解けなかったわけだしよー」

「うー、お腹すいたー、うー。早くしてー」

「こら、真里亞。大人しくしてなさい」

「で、では皆様方、気を取り直して、乾杯!」

「「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」」

「相変わらず郷田さんの作る飯はうめえなぁ。あの缶詰攻勢には、ほとほと参ったぜ。この島に来る時の唯一の楽しみが台無しだぜ」

「我々は犯人などいないことを知っているわけですからな。年寄りにあれは堪えました」

「過分なお言葉、真にありがとうございます。私も年に一度の晴れ舞台だというのにこんなことになってしまって、残念でなりません」

「それにしても譲治さん。私にはあんたがすんなりこの計画に賛成したことが不思議でなりません。場合によっては最愛の女性を失うことになるのですぞ。それでも構わないとおっしゃるのですかな」

「はい。それは覚悟しています。実は、そもそも、この計画の立案者は僕なんです」

「まことですか譲治様! この郷田には全く理解出来ません」

「今回の親族会議のしばらく前に、紗音から全てを打ち明けられました。その時、僕は思ったんです。これは僕にとってもチャンスなのだと」

「………………」

「僕は戦人君を失った紗音の傷心につけ込んだ、という負い目をずっと感じてきました。このまま紗音と結ばれることになれば、僕はこの負い目を一生背負っていくことになります。そして、紗音の中にも決着しないままの戦人君への恋心が残ってしまう。僕は生涯を共にする伴侶とは、一点の曇りもない愛情で結ばれていたいんです。ですから、この機会に全てを解決しようと思いました。例え、その結果、紗音を失うことになろうとも」

「やれやれ、譲治兄さんにはとても敵わないぜ。あたしと嘉音君ではとても及ばねえ」

「朱志香様、その件に関しましては譲治様ともよく話し合ったのですが、あと2年間、お時間をいただけないでしょうか?」

「2年間? 紗音ちゃん、それはどういうことなんだ?」

「はい。私は義務教育を終えたばかりです。譲治さんと結ばれるとしても、まだまだ身に付けなければならないことがたくさんございます。ですから、このまま使用人として、あと2年はこのお屋敷で働かせていただき、その後に嘉音君と朱志香様の件につきましても、決着を付けたいと思っております」

「うー、延長戦? 延長戦?」

「その話乗ったぜ! あと2年で譲治兄さんと紗音を追い越してやる。ところで紗音、嘉音君に替わるっていうのかな、その、嘉音君と話をしたいんだけど、嘉音君を呼んでもらえる?」

「申し訳ございません。何というか、パッと人格を切り替えるというわけには行かないのです。一旦、化粧を落とし、嘉音君の髪型に変え、嘉音君の服装をする中で、徐々に嘉音君に切り替わって行くという感じで、なんとも説明しづらいのですけれど…。ただ、心の中で話をすることは出来ますので、お嬢様のお言葉は伝えています。嘉音君もお嬢様と同じ気持ちだそうです」

「何とも不思議な話ですねぇ。紗音さんとも嘉音さんとも長いこと一緒に働いておりましたが、お二人が同一人物などとは全く気がつきませんでした」

「ほほほほっ、それはそうでございますとも。私、源次さん、南條先生、存命の折にはお館様まで加わって隠しておりましたから」

「私がシフトを決めていたからな。さほど難しいことでもない」

「私は気が気ではありませんでしたぞ。もう隠す必要がなくなってホッとしております」

「私も全然気がつかなかったわ。秀吉義兄さんは?」

「わしもさっぱりや。嘉音君は男にしては線が細いとは思っとったが…」

「まだまだゲーム終了まで時間はあるようだね。せっかくだから今回のゲームを振り返ってみるかい? 皆、協力はしたものの、自分が何をしているのか良く解っていなかった人もいるんじゃないかな? 僕なんかも第一の晩でリタイアしたから、その後のことはよく知らないし」

「はい、私などは、実はほとんど何も聞かされておりません。ただ皆さんの言われるように行動しただけです」

「それじゃ、まずは第一の晩か。あん時の戦人は傑作だったよな。あたしゃ聞いてて腹筋がブチ切れるんじゃないかと思ったぜ。無駄に熱いよな、あいつ」

「そうね、私も顔に毛布が掛かってなければ、きっとバレてたわね」

「そうかい、実際に脛毛を剃ってストッキングを履いた僕からすれば、恥ずかしいやら、情けないやら、申し訳ないやらで、涙が止まらなかったよ。後で戦人君には土下座して謝らないとね」

「これ面白い、面白い。まるで本当の足みたい。」

「こら、真里亞、振り回すのは止めなさい。その靴は譲治君に返さないといけないんだから、傷を付けちゃ駄目よ。それにしても紗音ちゃん、この袖の始末はきっちりつけてもらうわよ。この服、お気に入りだったんだから」

「はい、皆様、大変ご迷惑をお掛けいたしました。破った袖は責任を持って弁償させていただきます」

「それぞれの袖をちぎって入れ替えて、それを毛布で隠してバラバラ死体を偽装、か。全員が共犯者だからこそ出来る荒業だな。俺達の活躍も忘れないでくれよ。俺と兄貴が戦人を押しとどめたからこそ、こんな無茶なトリックが出来たんだからな。俺1人じゃ、到底止められなかったろう。あんにゃろう、いつの間にかすっかりデカくなりやがって…」

「蔵臼義兄さんの、手紙を落とす手際も見事やったで。後ろで見てて感心したわ」

「蔵臼兄さんはいつも言っていたわ。拳を振り回すだけがボクシングじゃない、クリンチしながら悪さをするのも重要なテクニックだ。なんてね」

「そう言えば、紗音。あの手紙の内容はどういう意味だったのだ? 私には理解出来なかった」

「源次さんもですか、実は私もさっぱりでしてな。ご説明、お願いできますかな?」

「はい。まず“ベアビー”というのは“バービー人形”に掛けてみました。何となく語感が似ていたものですから」

「僕は男だからよく解らないのだけれど“バービー人形”というのは腕と足を取り替えたり出来るのかい?」

「実は、私も実物の“バービー人形”を見たことはないのです。福音の家にあった人形で、男の子達がそんな遊びをしていたものですから…」

「あたしも1つ、気になってんだけど“オンナノコ”ダカラ“チョーイチリューノマジシャン”ってのは何だったんだ?」

「真里亞知ってるー。『ときめきトゥナイト』の終わりの歌。♪女の子は恋をした時から、超一流のマジシャンに早変わり♪」

「ときめき? 何のことやらさっぱりや」

「TVアニメの歌の歌詞に出てくるんです。真里亞が大好きで…」

「ほほほほほっ、まさに紗音さんそのものですね」

「違いねぇ。恋する気持ちが、紗音ちゃんを黄金の魔女ベアトリーチェに変えちまったわけだな」

「さて、そろそろ、皆さんお待ちかねの第二の晩に話を移そうぜ。あたしゃもう、楽しみで楽しみで」

「ほほほほほっ、私もでございます。合流なさった留弗夫様と秀吉様の話を聞いた時の源次さんの顔と来たらもう。長い付き合いですが、あんな顔を見たのは初めてでございます。長生きはするものですねぇ」

「紗音、蔵臼伯父さん達がしたっていう話が、アドリブだったっていうのは本当かい?」

「そうやで、予定では、わしと絵羽が適当に誤魔化して話を進めるはずやった」

「け、計画になかったということは、あれは真実だったのでありますか。私は奥様に怒鳴りつけられてしまいましたが、それでむしろ真実味を増した気がするのですが…」

「いや、私は金蔵さんとも源次さんとも長い付き合いですが、そんな素振りはまったく感じませんでしたぞ」

「これは源次さん自ら説明してもらわなきゃならねえようだな。で、どうなんだい、源次さん」

「はい。旦那様と奥様がおっしゃったことは事実でございます」

「じゃあ、源次さん。あなたは本当にお父様と…」

「いえ、それは全くの濡れ衣です。あれはお館様がご存命であった頃のことです。お館様が階段を登ろうとなさった際、けつまずき、転びかけたのを私がお支えした事がございました。その折、運動不足ではないかと指摘したところ、お館様は大層憤慨なさり、お前はどうなのだとおっしゃいました。私が鍛えているため問題ないと返答いたしましたら、ならば勝負だと、スクワットでの競争を挑まれました。私が使用人頭たるもの、汗にまみれた姿をお屋敷の方々や他の使用人に見せるわけにはいかないと申し上げたら、着替えを用意した上で、お館様の書斎で勝負をし、終わった後はシャワーを浴びて着替えれば良いとのこと。そこまで言われてはお断りもできず、スクワットの競争をしました。それをたまたま旦那様と奥様に聞かれてしまったようです」

「何だよそれー、全然つまらねーよ。乙女心が薔薇色にズッキュンズッキュンしてたのによー。なー紗音」

「い、いえ、私はむしろ安心いたしました」

「紗音、顔が真っ赤ーっ。どうしたの? どうしたの?」

「皆さん、盛り上がっているようですね」

「おぅ、蔵臼義兄さんに夏妃義姉さん。ちょうど、良かったで。源次さんがどうしても知って欲しい話があるそうや」

「ほう、それは何かね。源次から改まった話とは珍しい」

「それはまた後で良いから。そんなことより蔵臼兄さん、状況はどうなの?」

「うむ、計画は順調そのものだ。現在、屋敷の中を絵羽、戦人君、霧江さんが遺体を捜して歩き回っている頃だろう。私と夏妃は屋敷以外を探すということで、こうやって礼拝堂までやってきたわけだ。それにしてもこちらの料理は豪勢だな、屋敷とは大違いだ。夏妃、何か摘まんでいってはどうかね」

「いえ、屋敷の方々は缶詰だけで頑張っているわけですから、私達だけ、というのも気が引けます(グーッ)

「おいおい、夏妃義姉さん。体は正直だぜ、無理すんなって」

「そうですとも、旦那様にも奥様にも、これからもまだまだ頑張ってもらわなくてはなりません。せめて一口でも私の料理を味わっていってくださいませ」

「腹が減っては戦は出来ぬと言いますよ。さあ、私のオススメはこの鯖ジュースです。是非お飲みください」

「えーっ。鯖のジュース? 真里亞も飲んでみたい」

「真里亞ちゃん、あれはただのスープだよ。熊沢さんお得意の鯖ジョークさ」

「ところで話は変わるけどな。お義父さんの件、絵羽は無茶苦茶怒っとんのやで。今は取りあえず考えんようにしてるみたいやけど、これが終わったらきっちり話はさせてもらうよってな」

「それは俺と楼座も同じだぜ。もっとも、姉貴は別格だろうけどよ。何せ、姉貴の生きがいの半分は親父に認めてもらうためにあったようなもんだからな」

「そうね、あとの半分は蔵臼兄さんを見返すことかしら」

「それじゃあ、僕と父さんの分が残りませんよ。せめて半分はこちらに回してほしいな。取りあえず、全てはこのゲームが終わってから、ということにしませんか。僕と紗音と戦人君の人生が掛かっているんです。ここまで来て、全てがご破算ではやり切れません」

「譲治さんの言うとおりです。蔵臼さん、夏妃さん、あまり長居しては戦人君が不審に思いますぞ。そろそろお戻りになったほうがよろしいのではないですかな」

「そうだな。皆、言いたいことがあるのは充分に承知しているし、誤魔化すつもりもない。これが終わったらどのような処分も甘んじて受けるつもりだ。だからこの場はここまでにしてもらいたい」

「はい。全ては私が言い出し、皆に命じたことです。これは私達夫婦の問題、使用人達や南條先生はむしろ被害者です。それだけは理解しておいてください。それではまた」

「ちぇっ、父さんも母さんもあたしには一言もなしかよ。酷いぜ、あたしだけ除け者にしてさ。家族なんだから相談して欲しかった…。それに譲治兄さんはあたしと嘉音君のことをすっかり忘れてるしさ。もうなんだっていいや、続きいこうぜ、ってどこまで話したっけ」

「私とお館様のホモ疑惑が晴れたところまでで御座います」

「そ、そうだったぜ。源次さん、いつもに増して迫力あるな…。祖父さまは一年以上も前にお亡くなりになってて、その遺体と源次さんが第二の晩だったんだよな」

「源次さん、ゆでだこ、ゆでだこ。うー」

「こら、真里亞。いい加減になさい。それにしても源次さんもお疲れ様。大変だったでしょう?」

「皆がいつ来るか、わからんもんな。ずっと浸かっとったら真里亞ちゃんの言うとおり、ほんまにゆでだこや」

「その辺りは、この私がきちんと指導しておきました。半身浴は体に良いといいますからな。適度に間隔を空けながら半身浴をしたことで、むしろ源次さんは健康になったやもしれませんぞ」

「ほう、そうなのですか。私めもこれからは半身浴にします」

「親父には気の毒なことをしたが、死んでからでも紗音ちゃんの為に尽くすことが出来て、案外、本望だったかもしれねえな」

「そうね、私だって私のせいで死んだベアトリーチェが遺した紗音ちゃんの為に尽くせるなら、本望だわ。きっとお父様だって同じよ」

「はい。お館様はベアトリーチェ様のことを、それはそれは深く悔やんでおられました。だからこそ私は、お館様にお仕えし続けたので御座います」

「じゃ、次行こうか。次は留弗夫叔父さんと父さんだね」

「お陰さまで一張羅が台無しさ。なあ、秀吉義兄さん」

「まったくやで。紗音ちゃん、こっちもきちんと弁償してもらうで」

「は、はい…。それはお任せください」

「それにしても出て行ってからが早かったわね。蔵臼兄さんも秀吉義兄さんもちゃんと煙草は吸えたの?」

「あんなスパスパ吸ったのは学生時代のトイレ以来だぜ」

「わしはああいうのははじめてやったなぁ。せっかくの煙草が勿体のうて仕方がなかったわ」

「伯父ちゃんたち、胸が真っ赤。冷たくない?」

「ほほほほほっ、私達は服を汚さずに済んでよかったですこと」

「あれ、もう次行っちゃう? まあ、もう話すこともねーか」

「その次は熊沢さんと郷田さんと南條先生だね」

「私も死んだフリくらいしたかったのですが、出番がなくて残念でした」

「いやいや、この年寄りに死んだフリは堪えますからな。私は助かりましたぞ」

「出番が終われば、あとは預かっていた各部屋の鍵で鍵をかけて礼拝堂に集合。私達は早めに出番が済んだおかげで楽だったわね。お父様の遺体を回収に行くのだけは大変だったけど」

「真里亞はテレビが見たかったー。退屈だった、うー。」

「そうだよな。あたしたちは早めに出番が終わったものの、礼拝堂に缶詰だからな。長かったぜ」

「紗音、そろそろ時間ではないのか?」

「は、はい。あと、数分で24時になります」

「24時になったらどうなるのでございますか?」

「それでゲームは終了。戦人様の敗北、ということになりますねぇ」

「蔵臼伯父さんたちが戦人君に事情を話して、礼拝堂まで連れて来てくれる手はずになっています」

「本当なら、爆弾で皆、吹っ飛ぶっちゅうことになるわけやな。まったくとんでもない仕掛けやで」

「ああ、全く同感だ。親父のヤツ、一体何を考えていたんだか。アンティーク時計のスイッチが入ってたら、もうじきドカンってわけだな。紗音ちゃん、スイッチがどうなってたらオンなんだ?」

「はい。スイッチが右にある時がオンです」

「ねぇ、紗音ちゃん。それ、冗談のつもり? 笑えないわよ」

「どうしたのママ? 怖い顔して」

「真里亞、今は黙ってなさい! ねぇ、紗音ちゃん、もう一度確認するけど、スイッチが右がオンなのよね?」

「はい、間違いありません」

「貴方が私達を地下貴賓室に案内してくれた時、時計に袖を引っ掛けたのを覚えてる?」

「言われてみれば、確か紗音、ズッコけてたよな」

「うん、僕も覚えている。でも、楼座叔母さん、それが今、何の関係があるんですか?」

「私、あの時、スイッチが右に動いた気がしたの。でも、目覚まし時計でスイッチを引っ張ったり、下げたりするのがあるわよね。あれと同じ構造だと思っていたから、気のせいかと思ってたんだけど…」

「そ、それはまことですか? だとすれば間もなく爆発するのでは? 急いで逃げないと!」

「いや、時間がない。もう逃げ出しても間に合わないだろう。それに、もしかすると楼座様の見間違いという可能性もある。ここは慌てず24時が来るのをおとなしく待とう」

「そうですな。今、我々に出来る事は神に祈ることだけです」

「ひーっ、神様、仏様、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏…」

「紗音、手を繋いで貰って良いかな。万が一の時は君と一緒に死にたいんだ」

「し、承知しました」

「あたしだってそうだぜ。紗音、反対側の手はあたしと繋いでよ」

「真里亞、こっちに来なさい」

「ママ、真里亞をギューってしてくれる? 真里亞もママをギューってする。私達、仲良し」

 

そして、24時を告げる鐘が鳴り響く…

 

(あとがき)

“偽書『Land of the golden witch』”如何だったでしょうか? 素人が適当に書いた割には、なかなかうまく出来たのではないかと、自分では思っています。これは僕が『続・最考考』で書いた『うみねこのなく頃に 完全版』のもう1つのエンディングのつもりです。もしかすると、爆弾が爆発する時、絵羽と戦人は碑文の謎を解き、九羽鳥庵に向かっているかもしれません(礼拝堂は念の為、明かりや物音が外部に漏れないようにしてあり、黄金のレリーフ作業の音も台風のために聞こえなかったということにしてください)。そこに霧江や蔵臼、夏妃が入っていないのは謎ですが、絵羽が他の3人には内緒にするように戦人を説得したのかもしれませんし、あるいは絵羽と戦人が別々に碑文の謎を解き、互いにそれを知らず、別々に生き残ったのかもしれません。もしくは地下貴賓室までは全員で辿り付いたものの、地下通路の分かれ道で霧江と戦人、蔵臼と夏妃と絵羽、2組に分かれて歩いている時に爆発が起き、霧江、蔵臼、夏妃が自らの命と引き換えに、絵羽と戦人を生かしたのかもしれません。物語の中で共犯者達は一度、地下貴賓室に案内されたことになっていますが、九羽鳥庵には行っていませんので、地下貴賓室に初めて入った戦人に話を合わせて、探検気分で地下通路を進んだということにしてください。僕がこれを書くとき、一番気を遣ったのは、それぞれのキャラクターの持ち味を最大限に引き出すこと。そして、発言機会が少ない人がいないよう、満遍なく発言させることです。これがなかなか難しく、特に郷田は本当に扱いづらいキャラクターでした。冒頭の真里亞とベアトのやり取りで出てきた金色の糸は、紗音が持っていたソーイングセットに入っていました。紗音が着ている制服に刺繍された片翼の鷲を補修するためのものです。ちなみにこれを『Episode3 Land of the golden witch』に拡張する際は、何らかの理由を設けて、プレイヤーの戦人がゲームに参加するのは10月5日の朝、つまり戦人が目を覚ました時からにします。そうすれば10月4日の時点の戦人は“駒戦人”であるため、紗音と嘉音を同時に目撃することが出来ます。トランプをした時も嘉音が参加していたことにします。ウェルギリアスはどうするか? これは正直、僕にもどうすればよいのかよく解りません。ですから僕には『Episode3 Land of the golden witch』を書くのは無理です。18ページ、約17000文字で生み出す偽書の世界。なかなか面白い体験でしたが、これ以上の作品は僕にはもう、書けないでしょうから、これは僕にとって最初で最後の偽書になりそうです。どうでしょう、皆さんも偽書作家に挑戦してみては? なかなか面白いですよ。ちなみに僕は『蜜のあはれ』が好きなので、この“お疲れ様会?”は『蜜のあはれ』と同じく会話だけで構成してみました。

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